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異世界追放業  作者: なきり。


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4件目【はじめてのだんじょん】

「…ここが、ダンジョン」


 周囲を埋め尽くすごつごつとした岩肌に圧倒されるようにサクマが呟く。ダンジョン内は基本鬱屈とした味気のない空間だ、一般人には耐え難い感覚かもしれない。基本的に一本道で進み、複数ある分岐点を間違えればどこに連れて行かれるか分からない中で、ダンジョン内に充満する魔力によって生成される宝箱、そしてモンスター。

 俺たちにとってはこれらが日常だが、それを他人がどう受け取るのか俺たちは知らない、理解しようとしても出来ない。だからこそ、まずは慎重に明るく努めなければ。


迷宮ダンジョン、なんて大層な名前がついちゃいるが、ドニルがいればまず迷うことはない。自前の方向感覚に加えて『探知』のスキルで正しい道を探れるからな。そもそも、どんな道を通ってどこから来たのかさえ覚えておけば迷うことなんかそうないから安心しろ」


「へぇ…。モンスターってのはどんなのが居るんですか?」


「Cランクで代表的なのは…小鬼ゴブリンとか、粘水スライムとかかしら。モンスターは基本的に入ってきた冒険者に無差別に襲いかかってくるから、もし万が一友達になれるかも、と思って近づいたりしないことね」


「ゴブリンにスライム…! おお、聞いたことあるやつばっかり…! この世界最高だ…」


「なぜか粘水と小鬼、あと醜鬼オークあたりの名前出すと喜ぶんだよな異世界人。あっちの世界では人気ある生物なのか?」


「ええまあ、実際にいるわけではないんですけど、みんな知ってるくらいには有名なキャラクターですね」


「実際にいる訳ではない…。神話か伝承の類でしょうか? こんなにこっちの世界にやってくる異世界人がいるのならば、こちらから向こうの世界に行く人間がいて何ら不思議ではないですし、そういった人が向こうに実在の伝承として伝えていった可能性がありますね」


「た、多分そういうんじゃないと思いますけど…」


 そんなことを話しながらダンジョン内を進んでいると、微かに俺たち以外の声が奥から響くのを感じ取る。俺以外の2人もそれに気付いたようで、互いを見合わせながらこくりと頷き、俺はサクマの行く道をスッと手で遮り歩みを止めさせる。「何ですか?」と言っている間にドニルがスキルを使うため魔力を高め、


「『探知』」


 そう呟き、地面に手を着く。何でも『探知』は大地を通して情報を得るらしく、スキルを使っている間はこのように無防備になる。便利なスキルだがその分デメリットもある、一長一短な訳だ。


「サクマくん、この先にモンスターがいます。今僕が『探知』のスキルを使って調べたところ、この先にいるのは小鬼です。それも、複数。魔力消費を抑えるため調べたのは名前だけですが、音からして5、6体はいると見ていい」


「…! と、とうとう出たんですかモンスター…! しかもゴブリン、どんな見た目なんだろう…」


「…なんかワクワクしてるわねアンタ、怖くないの? 一般人なら素手で戦うと勝てないくらいの強さはあるわよ? 私も魔法なしなら余裕で負けれるわ」


「僕1人なら怖いですけど、皆さんが居てくれるので大丈夫です」


「…何よ、随分信頼してくれちゃって。調子狂うわね…」


「俺はラドナと違って素手でも余裕で勝てる」


「聞いてないこと喋る権利ってアンタにやったっけ?」


「いつのまにそんなもの発行されてた? で何でお前が管理してんだよ」


「ギル、ラドナさん、そこら辺で。出ましたよ」


 薄暗いダンジョンの奥に微かに姿を見せるのは、ギギギ、と不快な音を喉から鳴らす小鬼たち。ドニルの言う通り、数は6体。全員が全員、血走った目で恨めしそうにこちらを見ている。

 小鬼は名前の通り小さい体躯に吊り上がった目端と鋭い耳、引き裂かれたように醜く歪む口が特徴のモンスターだ。細い四肢には見た目にそぐわぬ怪力が詰まっており、初心者はその見た目に騙され舐めてかかり、返り討ちにされることも少なくない。それに、小鬼はなぜか集団で生成されることが多い。単身乗り込んだ冒険者が袋叩きにあった、という話も何度も聞いたことがある、正真正銘恐ろしいモンスターだ。

 …が、正直なんてことない相手。そもそも単体の強さで見ればDランクが妥当なところを、集団で群れるという特性が相まってCランクに指定される程度の強さだ。『圧縮』の実験台にちょうどいいだろう。


「ギル、一体だけ吹き飛ばして」


「あいよ」

「ギッ!?」


 ラドナの指示を聞き終わる前に足を撓ませ、力強く地を蹴り弾き出されたように前へ出る。こちらを注意深く見ていた小鬼達も俺の急接近には反応できず、一体が体当たりをモロに食らう。吹き飛んだ小鬼に追い縋り、右腕に抱えて奥へ走る。


「やれラドナ!」


「『ピウザル』!」


 ラドナが唱えるのは水中級魔法『ピウザル』、初級の『ピウラ』と比べ消費魔力が高い分火力が高い。ラドナの魔法なら『ピウラ』で十分な気もするが、万が一仕留め損ない反撃をもらうことを嫌ったのか? なんにせよ威力はもちろん絶大、勢いよく手のひらから射出された水の奔流は途中で枝分かれし、まるで反射するかのように空中を何度もジグザグ動き回り、あらゆる角度から小鬼達を貫く。肉や骨を断ちながら進む水の音と悲鳴がこだまするダンジョン内。

 全員が命を絶ち、辺りは静けさに包まれる。飛び散った血や肉片にサクマが「うわ…」と呻き声を漏らすが、それらの残骸も全て魔力に還っていき、残ったのは牙や耳といったドロップアイテムだけ。あと俺の腕に捕まえられている小鬼もいるか。


「ギッ、ギギぃッ!」


「おっと暴れんなよ、ちょっと待っとけ。おーいラドナ〜。こっち来てくれ〜」


「はいはい、拘束でしょ」


「そのとおり」


 俺が小鬼の身体を壁に押し付けると、ラドナが土初級魔法『ドウラ』で小鬼の両手足に拘束具を作り出し、壁と一体化させ動けなくする。


「さ、哀れな実験台1号の完成だ。煮るなり焼くなり好きにしろ」


「ま、魔法って思ったより物理的なんですね。なんかこう、HPがあってある程度ダメージを入れたら消えていくものとばかり…」


「何言ってんのよ、相手は魔力の身体とはいえ生物よ? 血も内臓も入ってて、ちゃんと生きてる。そして、殺さなきゃ死なないわ」


「じゃ、サクマくん。小鬼に『圧縮』かけれるかやってみましょう」


「は、はい」


 サクマは少し気分が悪そうに、動かない両手足の先を懸命に動かそうともがくゴブリンに手を向け、『圧縮』を使おうと意識する。

 …少しの沈黙ののち、見事に何も起こらない。小鬼の身体はそのままだし、身体の一部だけ小さくなったとかも無い。正真正銘、何も起こらなかった、


「…ダメだ、やっぱ出来ない」


「生物は無理、ですか。まあ出来たら強すぎますから正直できるとは思ってませんでしたが…少し使い方を考えないといけませんね」


「さっきまで、出来るような気がしたんです。何となくだけど、外で練習した時みたいな感覚が自分の中にあって、それを手放さず発動するだけだって思ってたんですけど…殺される小鬼を見て、出来なくなりました」


「…もしかしてだけど、さっき言ってた意識の問題ってやつなんじゃないの? 服の細かい繊維を個別に意識して圧縮が無理って話してたけど、出来る訳ない、やりたくないって思いが無意識に能力に制限をかけてるんじゃないかしら」


「つまり、空想の存在、生物だと思ってないうちは出来ると思ってたけど、血や内臓が出て、見た目も比較的人間に近い小鬼相手だと倫理観が働いて出来なくなった…って感じか。その理屈でいえば人間相手にも使えなさそうだが、試してみるか?」


「え? あ、危ないですよ。多分出来ない気がしますし試さなくてもいいんじゃ…」


「試すんなら一番何かあっても問題ない人にするべきよね、ねぇギル?」


「分かりました俺が引き受けます」


「待って待って冗談だから。剣振り回すだけのやつなんていらないとか思ってないから、いつも前衛してくれて助かってるから!」

「ラドナさん、ちょっと悪口入ってます」


「まあおふざけ抜きにしても、やるんなら俺にかけるべきだと思う」


「何でよ?」


「一番丈夫な身体だから」

「ガキの自慢大会ですか?」


「ちなみに今やってみようとしましたけどやっぱり無理ですね」


「え!? 今俺『圧縮』試されてたの!? やって良いとは言ったけど心の準備ってものがあるだろ! 断頭台に登る途中で首切らないだろ普通!」


「生物には使用不可、というより人間に近い生物には使用不可という感じですかね。試したい事は試せました、今日はここで引き上げましょうか」


「そうね、ギルドに寄ってから宿に帰りましょ」


「あ、身を挺して実験に協力した俺に労いの言葉とかは無いんだ。へぇ」


「めんどくさ……。サクマ、アンタの宿代は気にしなくて良いわよ。男3人で一部屋だから狭くはなるけど我慢してね」


「あ、はい。ありがとうございます」


 俺たちはそのままダンジョンから抜け出し、小鬼の素材をギルドに買い取ってもらいその金で宿を取った。報酬は金貨一枚、ラドナは1人部屋、俺たち男組は2人用の部屋で夜を明かすことになった。2部屋取るには金が足りなかったので少し財布が軽くはなったが、まあ必要経費だ。そもそも定期的に国から金を貰っているので困ることはない。

 部屋の前でラドナと別れ、扉を開く。今俺たちはいつも通りの態度をとっているが、追放する日が近づくとこうはいかない。冷たく突き放すような態度を取らないと不自然に映ってしまう。俺はそれがどうも慣れない、築いてきた信頼を自ら瓦解させ、相手を傷つける行為を喜んで是とする者などいないとは思うが。

 そんな憂鬱な思いを抱えながら部屋に入る。最後に入ったサクマが扉を閉める音が、やけに大きく聞こえた気がした。

【補足情報】

 魔法には系統魔法と特性魔法という二種類があり、系統魔法は自然現象を再現し操る魔法で、特性魔法はそれ以外の、何らかの特別な事象を発生させる魔法です。

 系統魔法の種類は登場するたび都度書いていきますが一応紹介すると、


火属性 ボウラ ボウザル ボウナルガ

水属性 ピウラ ピウザル ピウナルガ

土属性 ドウラ ドウザル ドウナルガ

風属性 ゴウラ ゴウザル ゴウナルガ


 左から初級、中級、上級の魔法の名前です。統一性があった方が分かりやすい、と昔の偉い人が名付けました。


 ラドナが使った『ピウザル』の使い方は普通ではなく、通常の『ピウザル』は一本のビームみたいに射出されますが、ラドナは魔法の扱いに長けているので作中のような使い方ができます。

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