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異世界追放業  作者: なきり。


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3/12

3件目【『圧縮』スキルの使い方】

 俺たちがやって来たのはCクラスのダンジョン、俺たちだけならSランクダンジョンに潜って良いんだが、冒険者になりたてでDランクのサクマが万が一にも死なないよう配慮をした結果Cクラスダンジョンになった。


「さて、ダンジョンまで辿り着きましたが、まだ入りません」


「え? なんでですか?」


「サクマ君、貴方のスキル『圧縮』について幾つか試したい事があるので、ダンジョンに入る前にここで試していきましょう」


「試したい事、ですか」


 ドニルはサポーターとして広い視野を持っている。様々な状況に対応できるよう、詰められるところは事前に詰めておくのが癖になっている、とはにかみながら言っていたのを思い出す。スキルの検証を事前に行っておかないと予期せぬ事故は発生しうるし、それで転生冒険者をまた別の世界に送るなんて事があっては目も当てられない。ということで、ドニルには初心者にスキルの使い方を考える場を与えてもらっている。万が一追放してもスキルが覚醒しなかったとしても、ここで教えた事が活きて助かる場面が出てくるかもしれないからな。


「まず、圧縮できる対象について。無機物有機物、生物非生物などの条件があるのか。範囲に関しては半径5m程度らしいですが、詳しい範囲も一緒に調べていきましょう。あと、対象が範囲内にすっぽり収まってなければダメなのか一部だけで良いのか、その場合複数の部品で構成されたものはどういった扱いになるのか…最低でもここまでは確かめましょうか」


「は、はい」


「すまん、もう一回初めから言ってくれ」

「私も」


「2人は覚えなくて良いですからね〜、というか覚える気ないだけでしょ?普通に説明めんどくさいです」


「じゃあ覚えなくていいや。で、その間俺たちは何しとけばいいの?」

「まさか育児放棄なんてしないわよね? ドニルママ」


「うるっさ……。遠く行ってていいですよ。というか行ってください。そーれ!」


「何投げたんだよ…っておい! パーティの財布じゃねーか! おま何してんの!? 共有資産だからお前だけのものじゃねーんだぞ!」


「はい、だからさっさと取りに行ってください」


「クソ、行くぞラドナ!」


「私も? ギルに追いつけるわけないし意味ないと思うんだけど」


「お前がここに居たままだと次なにをされるか分からん! 俺たちはドニルに全てを握られていることを忘れるな!」


「確かに。行きましょ」


「いや余計なことしないなら居てもらって構わないんですけど…足早っ。まあいいや、検証始めますか」


「こんな適当な扱いでいいんですか…? 財布も、見つからなかったら…」


「あの2人はちょっと雑に扱うくらいで良いんです、気を遣われるのが嫌いらしいので。あと財布に関しては完全に僕たちの所有物なので情報的な価値が低く、『探知』で場所を見つけるときに相当遠くまで探せるので大丈夫です。それに、ギルの速度と目なら見失うこともないでしょう。そもそも、ほら」


「…! 財布がもう一つ…。つまりこっちが本物ですか」


「本物というか、複数の財布に少しずつお金を入れてるんです。しばらく生活できる程度の金額を。さっき投げたのはそのうちの一つですね。『魔法流装マジックボックス』の中にも入れてますし、冒険者なんてやってたらどさくさに紛れて他人に取られる機会しょっちゅうですから。なるべく分散してるんです」


「なるほど…だからママって呼ばれてるんですね」


「あれはラドナさんの悪ふざけですので気にせず。さて、手始めにあそこの岩を縮めてみてください。測りがありますので、少しずつ近づいて正確な射程距離を測りましょう」


「は、はい」




ーーーーーーーーーーーーー。





「うい、戻って来たぞ〜。どんなもん?」

「ギル、ご苦労」


「…まさかラドナさんを背中に背負って帰ってくるとは思わなかったです。サクマ君の『圧縮』に関してですが、ひとまず射程距離は5メートルと50センチ程度。大きなものでも小さなものでもこの射程に触れたものは小さくできるらしいので、完全に範囲内に収める必要はないようです。それと圧縮したものは本来の大きさの10分の1程度になり、重量はそのまま…という感じです。あと解除はどんなに離れていても任意のタイミングで可能とか」


「部品だけうんぬんってのは?」


「話聞いてたんじゃないですか。僕のサポートアイテムで試した感じ、サクマ君本人の認識によるらしいです…、あくまで仮説ですが。蓋のついた瓶に対して蓋だけ圧縮、と思えばそうなりました。ですが服に対して、繊維だけ圧縮、縫い糸だけ圧縮を試しても服ごと圧縮されました。それらを別物と捉える事ができないものは個別に圧縮は出来ないのでは、というのが僕の仮説です」


「で、生物非生物関係なく圧縮出来るかって話はどうだったのかしら?」


「アンタも聞いてんのかよ! じゃああのくだり要らなかったじゃねーですか! …今のところ岩や木はいけましたが、生物相手となると…扱いを間違えると死にかねないので、モンスター相手に試してみよう、という話になりました」


「ほーん。で、さっきから会話に入ってこず地面に突っ伏してるサクマは大丈夫なのか?」


「うわほんとだ、今度は何させたのよ」


「僕が前にもやらかしたことあるみたいな物言いやめてくれます? 普通に検証中に魔力切れ起こしかけて倒れてるだけですよ、『元魔剤がんまざい』飲ませたので暫く経てば動けるようになるはずです」


「あー魔力使うタイプのスキルだもんね。私とギルは身体に備わるタイプだから魔力使わないけど、ドニルもスキルで魔力切れすることあるし。私は私で普通に魔法使いすぎて切れかけることしょっちゅうあるし。嫌な感覚よね」


「俺普段から魔力使わないから感覚わかんねぇわ。ごめんな」


「何も思ってなかったのに謝罪されたからイラついたわ、謝りなさい」


「これ謝ったら一生繰り返す運命に入る気がするから謝んねー」


「相変わらず子供みたいな会話ですね…パーティ組んでなかった時どうやって生きてきたのか気になってきました」


「案外なんとかなる」


「剣振るだけでSランクになった奴が言うと説得力が違うわね」


「…んぅ、うぅ………。あれ…? なんか、急に楽に…」


「あ、起きたわよ」


 目を擦りながら、まだ少し辛そうにハルトが起き上がってくる。魔力切れで倒れてたらしいが、どんな感覚なんだろうか。普通に疲れた時と同じなのか病気でぶっ倒れた時みたいな感覚なのか、後者ならまだ休んでて欲しいものだが。


「騒がしくて悪いな、もう少し寝てても良いぞ」


「ああいえ、なんか極限まで身体が気怠かったのが飛んでいったのでもう大丈夫です。ドニルさん、さっき飲ませてくれたアレ何だったんですか? 毒を飲まされてもう死ぬんだと思ってたんですけど」


「さっきのは『元魔剤』っていう、魔力を経口補給するための薬です。ところでとてつもなく心外な評価を抱かれてるんですが、2人とも僕が気付かぬ間に変なこと吹き込みました?」


「マジで何も言ってない」

「人を疑う前に自分の立ち振る舞いを見返してくれる?」


「なんで僕を罵倒する時だけ息揃うんですか?」


「いやドニルさんだからとかではなく、この世界だと隙を見せたら死ぬと思ってたので…今死んでないからもう、疑いません。というか疑えません」


「お、信じてくれたか?いつまでも怯えたままでいられるとこっちとしても心に来るものがあったからな、嬉しいぜ」


 まあ最後には絶対信頼を裏切ることになるんだけどな。俺たちに依存するほど信頼させると追放した時にめっちゃ心痛くなるし、かと言ってパーティ組んでる間そっけなく接してたら追放した時の悔しさとか理不尽に対する怒りとかが無くなって、スキルが覚醒しない可能性がある…これはまだ見たことないケースだから本当か分からんけど。ともかく、絶妙なバランス感覚が求められるから難しい。


「じゃあ信頼してくれたところで、そろそろ動けるか? ダンジョンに入って実践といこうじゃないか」


「は、はい! …あの、本当に大丈夫なんですかね? ダンジョンのことどころか、この世界のことほとんど何にも知らないんですけど…」


「大丈夫よ、私たちが絶対守るから」

「今日はお試しで入ってみるだけなのでそんなに身構えず」

「細けぇ話は入ってからだ、行くぞ」


 ぽん、と一歩を踏み出すのを躊躇うサクマの背中を押し、歩みを始めさせる。緊張がこちらにも伝播するほどの、目に見えてガチガチの動きに頬が緩むが、当人はもちろん俺たちも気を引き締めなければいけないと頭を振って気合いを入れる。

 Cクラスダンジョンとはいえ、気を抜けば人は死ぬ。俺たちだってそうだ、絶対に死なない保証なんてどこにもない。ましてやこの世界に来たばかりの、どんな行動を起こすか、どんなことを考えているかも碌に分からない他人で新人のハルトなんてちょっと目を離した隙に死んでいて何ら不思議はないのだ。

 人の命を預かる、預けてくれる信頼に応える義務がある俺たちは気を抜いちゃいけない。その思いを胸に、ダンジョンへ一歩踏み込んだ。


【補足情報】

 『元魔剤』は魔力の元となる元魔がんまという成分を補給できる薬剤で、分解して魔力が体に巡るまで時間がかかるため効果が出るまでにラグがあります。元魔周りの設定は後々ちゃんと出てきます。

余談ですが、元々『元魔薬』にしようとしてたんですが、魔薬って響きヤバくね?と思って変えました。

 『魔法流装マジックボックス』は異空間に物を収納できるアイテムで、麻袋の様な見た目をしています。中に入れたものは時間が止まるので、食材などを入れると鮮度そのままとれたて新鮮の状態で保管できます。大きさによって収納できる容量も変わり、その分値段も結構張ります。

 ちなみに『魔法流装』を作れるのはとあるスキル持ちの異世界人なのですが、彼がいなくなると『魔法流装』を作れる人がいなくなるのでギルドが保護しています。販売しているのはギルドのみで、利益の何十%かをその異世界人に渡してます。今後出てくる予定がないのでここに書きましたが、出てくることがあったらすみません。

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