2件目【追放業やってます】
『創生』スキル持ちの冒険者を追放したあと、少し休憩してから俺たちは冒険者が集まる酒場兼冒険者ギルドにやってきた。飲めや食えやで賑わう酒場のスペースと、依頼を受けたり依頼を完了した報告をしたり、討伐したモンスターの素材を買い取ってもらうギルドスペースが併設された施設だ。どちらも冒険者御用達施設なので、当然の如く大量に集まってくる。
俺たちが活動しているのは王が住む王宮のお膝元、王都と呼ばれる栄えた場所だ。他の地域と比べても賑わいがあり、冒険者自体の数が多い。とは言っても、冒険者になるやつなんかそんなに数はいないし、大体が顔見知りだから目新しさは無いんだけどな。
子供のなりたい職業では上位に食い込むんだが、歳を取るにつれて憧れが薄くなるというか、現実を見て冒険者を志すのを辞めてしまうらしい。それで良いと思うけどな。俺だって目の前で何人も死んでいったし、酒場にしばらく来てない奴がいると気付いた時は飲む酒の量が増える。
で、そんな世知辛い職業を志す奴は半分くらいが業務の対象、すなわち追放対象のスキル持ちなのだが…
「…そこの君、もしかして新人か? ちょっと話聞かせてくれよ」
「ひぇっ! は、はい!」
明らかに挙動不審の、新顔の黒髪青年。ギルドが初めてか、もしくはこの世界に来てまだ日が浅く見慣れないものばかりゆえの行動だろう、とにかく話を聞かないことには始まらない。…なるべく怖がられないよう優しく話しかけたつもりだったのだが、やっぱり俺って威圧感あるのか?
「そんなに怖がらないで大丈夫ですよ、この人…ギルはこう見えて結構優しいですから。僕はドニル。サポーターやってます」
「私はラドナ、魔法使い。早速だけどアンタ、職業は?」
「職業ですか? そんなのあるんだ…まだ決めてないです」
「なるほど、職業は自分で名乗るものだからあんま気にしなくて良いぞ。じっくり考えてくれ。パーティ組む時とか、役職が決まってた方が分かりやすいから名乗るだけだ。…ところで、職業を知らないってことは君、もしかして他の世界から転移とかしてこの世界に来た?」
「え!? あ、はい。…この世界では転生者とか転移者って普通に居るんですか?」
「そうだ、多分みんな同じところから来てる。にほん?ってとこから来たんだろ?どうやって来たのかは聞かないが、とりあえず冒険者の常識を教えてやろう。ドニル、頼む」
前に追放したやつに不用意に聞いた時、思ったより重い話が飛んできたからな。前の世界に未練なさそうだったし、志半ばで死んだんじゃなくて、転生ってんだから天寿を全うしたり、やりたいことやって死ねたんだと勝手に思ってたが、まさか轢かれそうな人を助けてとらっく? とか言う金属の塊に跳ね飛ばされたとは…。立派な奴だった。出来ればもっと一緒にパーティしたかった。
「今のギルが教える流れじゃないんだ…承知しました」
近くにあった席に4人が各々座り、ドニルは背負ったリュックから様々紙束を取り出すと、机の上に広げて見せる。俺たちがパーティに入れるメンバーは転生してきた奴が多いので、解説用の紙を作ったらしい。こういう気遣いには本当に頭が上がらない。
「まずこの世界にはモンスター…魔物とも呼びますが、魔力によって体を構成する存在が居ます。僕たち冒険者は、そのモンスターを狩って生計を立てます。倒したモンスターは時間が経つと魔力に戻って消滅しますが、角や翼など、魔力に戻れないモンスター固有の部位は残ります。それと僕が持ってる『魔法流装』。異空間に道具を保管できる装備なんですが、この中に入れたものは消えません。これは持ってた方が良いですね。本来消える部位もここに入れると消えなくなりますが、それで装備を作っても結局一定時間後に消えるので意味はないです。あと、煮るや焼くなどの加工をされた肉は食べれますし、消えなくなります」
「ほぉ…」
絵に描いて図解したものを指でトントンと叩いたり、自分の持ち物を見せながら解説をするドニル。仕方ないことだが、パーティに入れるたびにドニルに説明をさせるのは心苦しいし、正直知ってることを何度も聞くのは面白くないものだ。何か解決策はないものか。
「で、ギルドの依頼の大半がこのモンスターの討伐です。依頼を受けるならあそこの掲示板に貼ってあるものを剥がして受付に持っていけば良いです。依頼にない素材なんかも買い取ってくれるので、色々お世話になりますよ。そして一部例外はありますが、モンスターが出現するのは基本的にダンジョンのみです。なので僕たち冒険者は、日夜ダンジョン攻略に勤しんでるわけですね。ダンジョンは自然に生成されて、モンスターも自然に湧きます。そして、冒険者ランクとダンジョンランクというものがありまして、Dランクから始まりC、B、Aと上がっていき、Sが最高ランク。冒険者ならランクが高いほど強い、ダンジョンなら高い方が難しい、という感じです。基本、冒険者ランクと同じランクのダンジョンに挑むものです。冒険者ランクは依頼をこなして実績を積めばギルドの方で上げてくれます。ランクに見合わない依頼も受けられますが、一つのわかりやすい目安になる、という感じですね。…と、ひとまず区切りをつけましょう。何か聞きたいことはありますか?」
「…あの、なんで僕に親切にしてくれるんですか?皆さん初対面ですし、なんのメリットも無いじゃないですか」
お、予想外の反応。大体はスキルのことを聞いて来たり、俺たちの強さとか、そもそも冒険者って稼げるのか、とかそういう系統の質問が多いんだが。確かに気になるか、気になるわな。自分の力で生きていくのが当たり前の世界…コイツが元居た世界も一緒からわからんが、みんなが困った人に手を差し伸べてくれるようなことはないだろう。そんな中、特に理由もなしに親切にされたら警戒心も湧くか、なんならこれが一般的な反応だな。
「私たち、Sランク冒険者なの。…あんまり大声で言えないけどパーティを組んでてね、あと1人メンバーが欲しいと思ってるのよ。だから新人に声を掛けて、優秀そうならパーティに入れたいと思ってるの。だから無条件な優しさとかじゃないわ、パーティに入れるかもしれない相手に最低限の知識を教えてるだけ。…で、アナタのスキルはなに?」
嘘だけどな。君しか居ない! とか言ったら追放した時に違和感出るし、しゃーなし入れてやるよって感じだと追放されてもまあそりゃそうかとしかならないから、優秀かと思ったら雑魚だったわ、ケッ! どっか行けよ! って感じにしたい故の建前だ。
「スキルって他人に簡単に教えて良いものなんですか? すみません、何も分からない状態で教えるが怖くて…」
「あーそりゃそうね。別に言っても問題はないけど、信用できる相手にしか言いたくないのは分かる。…信用出来る理由になるか分からないけど、私のは『魔力強化』。魔力の濃度が上がって、少ない魔力で魔法を使えるスキル。ほら、次ドニル」
「え? はい、僕のスキルは『探知』、任意で特定範囲内の探りたい情報をキャッチできるスキルです。足音とか姿形とか、弱点なんかも探れますが、価値が高い情報ほど探れる範囲も縮まります。…まあ情報の価値の高さの基準がわからないものもありますが。この間も醜鬼の内臓の位置を把握するために使ったら思ったより広範囲に広がって、大量の内臓の情報が…」
「おっとその話は新人にはキツいかもしれないぞ〜ドニルくーん? …ごほん、俺のスキルは『剣聖』。ちゃんと説明したいんだが正直、ただ剣を振るのがめっちゃ強い! くらいしか言えない。あと、剣を振るのに必要な身体能力が向上してるから力持ち。…すまん、マジでそれだけだ」
「何度聞いても心優しい怪物みたいな説明の仕方ね。…で、アナタのスキル、教える気になった?」
俺たち3人のスキルを説明することで安心させ、スキルってそんなに隠すもんじゃないんだ。と思わせる作戦。実際そんなに必死に隠すもんじゃないんだが、奥の手は人に言うものじゃない。俺たちも奥の手言ってないし、なんならラドナとドニルが俺に言ってないのもあるだろう。…なんか、ちょっと寂しさがあるな。俺はコイツらには包み隠さず言ってるけど、コイツらはそうじゃないかもしれないのか。
「…僕のスキルは『圧縮』、です。物を小さくできるスキル、圧縮しても重量は変わりません。圧縮出来る範囲は半径5メートルくらい、ただ、それだけです…」
自信なさげに呟く青年。『圧縮』、聞いたことないスキルだし性能的にはハズレ寄り、恐らく追放することで覚醒するスキルと見て良さそうだ。使い方によってはやりようがありそうな能力だが、本人的には使えないスキルだと思っているのだろうか。大丈夫だ、追放されれば強くなるからな。
「そうか。君、名前は?」
「『サクマ』です」
「そうかサクマ、とりあえず俺たちと一緒に来てみないか? 転生してすぐってことは行く宛もないし金もないだろ? ちょうど今からダンジョンに行くんだ、報酬も分けるから。どうだ?」
「…い、良いんですか? その、僕のスキルって正直弱いですし、皆さんの役に立てるとは思えないんですが…」
「俺はそのスキルに未来を感じたよ。とりあえず実戦で見てみたい。ついて来てくれるか?」
「は、はい!もちろん、行かせてもらいます!」
よしよし、良い流れだ。このままパーティに入れてしばらく行動を共にして、失望した感じの反応を織り交ぜていけば追放に違和感も無くなるだろう。
「よし、じゃあ早速ダンジョンに向けて出発だ!行くぞみんな!」
「了解です」
「はいはい」
「…そうか、この人たちは…」
返事をする2人の声にかき消されながらサクマがぶつぶつ何か言っている気がするが、まあいきなり知らない世界に来て知らない奴らに強引に同行させられたら怖いか。人身売買だと思われている可能性もある、なるべく優しく接してやろう。…いや、逆効果か?
そんなことを考えながら俺たちは、ダンジョンへ向かい歩き始めた。
【補足情報】
ドニルは基本的にパーティの財政管理や食事、身の回りの世話など大体のことをしてます。戦闘時のサポートももちろんしてますが、ギルとラドナは普段から生活面でドニルに甘えっぱなしです。
あとギルとラドナは1人の時はある程度真面目でしたが、甘えられる存在が出来たことでおふざけをするようになりました。本来は全員ツッコミ気質でしたが、いつの間にかドニルがえぐい苦労人兼ツッコミ役に落ち着きました。
スキルに関して、『誘発型』と『常在型』があります。誘発型は魔力を消費して任意で発動する特殊な魔法で、常在型は魔力を消費せず常に発動しているスキルのことです。
例えばこの世界の一般スキルである『危機察知』というものがあるのですがこれには二種類あり、魔力を消費して好きなタイミングで周囲の危機を察知するものと、常に辺り一体の危機を察知できるものがあります。魔力を消費するほうが範囲が広いです。なんで同じスキルが二種類あるのかと言えばこの世界の女神がクソ適当だからです。
長々説明しましたが、分かりづらいので誘発型、常在型という名前はあまり出さないと思います。ここ読んでなかったら何言ってんのか分からないし。




