↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
最終章 荒廃した碧砂国を潤すもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/104

007 奥の手?

「仁峰(レンフォン)様が、密仙(ミーシェン)国の姫君と緑淵を通ったことが、陛下にも伝わっていたようで、都への帰還を僅かに早めたそうなのです」


 侍衛の者がそう伝えると、不安そうな顔で兄は私を見た。


「そうか……もう戻られてしまったか。今晩の舞はどうすべきか、もう一度考え直そう。雪燕(シュウエン)を父上に会わせてはならない」


 当初の予定だと、珊麗(シャンリー)様が皇宮の人々の目を引きつけている間に、私は泰然(タイラン)様と瑠麗(リウリー)と龍神の池で舞う予定でいた。


 珊麗(シャンリー)様の話だと、満月の夜に龍神の池で舞姫が舞えば、龍神様の怒りも落ち着くだろうとの話だったからだ。

 目的は皇后の見舞うことであるけれど、せっかく碧砂(ビーシャ)国へ行くのなら、憂いを全て晴らしてしまえ、と言ってくれたのだ。


 しかし、まさかお義母様が、お父様から私を守ろうとしていたなんて、考えもしなかった。


 本当は、お父様には本当のことを話すつもりでいた。

 お父様の協力があれば、問題も起こらないと思っていたのに。

 今の私は、髪色は違えど、母にそっくりだ。


「それならば、私にお任せください」


 少し遅れて侍衛の後ろから現れたのは、珊麗(シャンリー)様と剛(ガン)様だった。


「珊麗(シャンリー)様」

「今晩、私が皇帝陛下に舞を披露しましょう。病で、そして天災によって空へと旅立たれた方々の魂を鎮めるため、そして、荒れ狂う龍神のために。その間に、雪燕(シュウエン)様が龍神の池の前で、雨ごいの舞を踊ってくださいませ」

「ありがとうございます。ただ、父は密仙(ミーシェン)国の姫君がいらした事で帰還を早めたようです。もしかしたらですが……」

「私と仁峰(レンフォン)様の婚約のお話が進められてしまうのでは、とご心配ですか?」

「はい」

「ふふっ、仁峰(レンフォン)様は、雪燕(シュウエン)様と同じね。とても素直な方ですわ。でずか、ご安心ください。それは想定していたことですので。私には、この剛(ガン)様がついておりますし、奥の手もございますから」

「奥の手……ですか?」

「ええ、ほら」


 珊麗(シャンリー)は、そう言うと、大きな黄色みががった瞳で兄の目をじっと見つめた。

 徐々に兄の頬が赤く染まっていく。

 もしかして、これが瑠麗(リウリー)の言っていた魅了の術なのかもしれない。


「わかりましたでしょ?」

「えっ? えっと、申し訳ないのですが、よく分かりませんでした」


 照れた様子で兄は苦笑いで答え、珊麗(シャンリー)様は、黄色い瞳を瞬きさせ、動揺している様子だ。

 瑠麗(リウリー)は兄と珊麗(シャンリー)様を交互に見て驚いて声を上げた。


「もしかして、お姉様の魅了が効かないの?」

「魅了?」


 兄がそう言って、説明をしてほしそうな目を私へ向けた。ここへ来るまで、私と珊麗(シャンリー)様と瑠麗(リウリー)、そして泰然(タイラン)様は、馬車で作戦を練っていたけれど、仁峰(レンフォン)お兄様は馬で移動していた。

 だから、珊麗(シャンリー)様について、瑠麗(リウリー)の姉で皇族の方ということくらいしか説明していなかった。


 珊麗(シャンリー)様は、不思議そうに兄の瞳を覗き込んだ。


「麓(ルー)妃の息子よね?」

「は、はい」

「親族とは言えないし、密仙(ミーシェン)国の女性から生まれた男児の特性なのかしら……ふーん」


 珊麗(シャンリー)様に見つめられて、緊張していた兄だけれど、ハッとなにかに気づくと、私達に尋ねた。


「こ、これが奥の手ですか? 私のように他にも術が効かない者かいたら、どうされるのですか?」

「あ、奥の手はもう一つありますのでご心配なさらず。では、支度してまいりますので、皇帝陛下にお伝えください。今宵、碧砂(ビーシャ)国の繁栄を願い、舞を披露させてくださいませ、と」


 珊麗(シャンリー)様はそう自信満々に宣言すると行ってしまった。

 兄は不安そうにその背中を見送った。


「大丈夫だろうか」

「お姉様が大丈夫といえば、大丈夫よ」

「そうか……そろそろ日が落ちる。雪燕(シュウエン)も支度をしなさい。春燕(チュンエン)は疫病の疑いがあったそうだから、ここに父上も、他の者も早々足を踏み入れないはずだ。皇后の側にいてやってくれ」

「はい、お兄様」

「父上は私が引き留める。ただ、もしも何か問題が起こった時には、自分のことを優先してくれ」

「碧砂(ビーシャ)国の皇太子が、そんな事を言っていいの?」


 兄がまだ不安そうだから、瑠麗(リウリー)が場を和ますように言ったけれど、兄は真剣な顔で私達へ向き直った。


「だからこそだ。本来なら、私自身の力でどうにかしなくてはならない問題なのだ。雪燕(シュウエン)が背負うことではない。泰然(タイラン)様、雪燕(シュウエン)を頼みます」

「はい、あ、それと、珊麗(シャンリー)様が言っていた奥の手ですが──」


 泰然(タイラン)様が、兄に奥の手について説明していると、瑠麗(リウリー)が私の袖を引いた。


「雪蘭(シュウラン)、そろそろ着替えましょう。なるべく早く済ませたほうがいいわ」

「うん、そうね。ありがとう、瑠麗(リウリー)」


 奥の部屋で、私は春燕(チュンエン)の侍女に手を借りて、舞姫の衣に着替えた。緑淵で春燕(チュンエン)が来ていた薄碧色の衣だ。

 また、ここで舞う日が来るなんて、思ってもいなかった。


「支度はできたか?」


 後ろから、聞き慣れた声で尋ねられ、私は驚き、慌てて振り返った。


 泰然(タイラン)様の手を借り、艶やかな赤い衣に身を包み、凛と立っていたのは、お義母様だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。