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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第五章 出会いと再会の雲龍国

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017 星空

 瑶琳(ヤオリン)とその友人のご令嬢たちの舞の稽古に、今日から瑠麗(リウリー)も加わった。

 それと、仁峰(レンフォン)お兄様も。

 お兄様は見学しているだけだけれど、私がどんな生活をしているのか、見てみたかったそう。

 

 その日の稽古のあとに、瑶琳(ヤオリン)が友人達に囲まれ、どこのご令息が見学していたのかと質問攻めにあっていた。

 そして、その次の日には、お兄様は令嬢方から香袋や菓子など、たくさん贈り物を渡されていた。

 優しいお兄様は、断れずに全て受け取っていた。


「あらー、モテモテね。仁峰(レンフォン)様って、お相手はいないの?」

「そうね。たぶん」

「へぇー……。そうだ、夜に星を見ながら、お喋りしない?」

「星?」


 夜に星を見ながらお喋りだなんて、とても楽しそう。


 「うん、結構きれいに見えるのよ。夕食の後、庭に出てきてね」

「ええ、分かったわ」


 ****


 瑠麗(リウリー)との約束通り、夜に庭へ出てみたけれど、誰もいなかった。


「少し早かったかしら」


 辺りを見回しながら、瑠麗(リウリー)が寝泊まりしている南東にある家屋へ歩いていくと、どこからか名前を呼ばれた。


雪蘭(シュウラン)、こっちよ!」

瑠麗(リウリー)? どこに……あっ!」


 瑠麗(リウリー)は屋根の上から、こちらへ手を振っていた。その隣にはお兄様もいる。


「早く早く、もう始まってるんだから」


 始まっている、とは何の話だろう。私を迎えに降りてきてくれたお兄様と、私は瑠麗(リウリー)が待つ屋根の上へ登った。


「ほら、ここに寝転がってみて」

「うん」


 瑠麗(リウリー)の隣に寝転がると、私の隣にお兄様も寝転がって、三人で空を見上げた。

 頭上に広がる満天の星を指さして瑠麗(リウリー)は言った。


「ほら、流れ星よ」

「あっ本当だわ。あれ、また流れ星が……」

「流星群というんだ」

「すごい」


 流れる星々に魅入っていると、隣で瑠麗(リウリー)が祈りながら早口で呟いていた。


「何を願ったの?」

「私は翡雲(フェイユン)様がいつまでも健康に過ごせますようにってお願いしたわ」

「お願い……。お兄様はなんて?」

「ん? 平穏無事を祈ろうかな」


 兄らしい願い事だな、と思っていると、隣から瑠麗(リウリー)のため息が漏れた。


「はぁ、渋いわね。素敵な女性と巡り会えますように、とかないの?」

「そうだな……所詮、政略結婚だろうからな」

「うわー。夢のない男ね。今まで許婚とかいなかったの」

「小さい頃はいたけれど、その方は亡くなったんだ。その次に名前が上がった方も、病に倒れて、婚約の話は流れたそうだ。たしかその次も……」

「そ、そんなことがあったのですか?」


 初めて聞いたけれど、いつ頃の話なのだろう。

 そんなことがあったら、私だったら、婚約をすることが怖くなってしまうだろう。

 

「ああ、碧砂(ビーシャ)国の周りの国は砂漠の中にある小国ばかりで、あまり裕福な国ではないのだ。そういうこともあるのだろう」

「ごめんなさい。私、何も知らなかった」

雪蘭(シュウラン)が謝る話ではない。気にするな。お、また星が流れたな。平穏無事、平穏無事……」

「まあ、今まで誰とも結ばれなかったってことは、これからきっと良い出会いがあるのよ。可哀想だから私が祈っといてあげる」

「わ、私も……」


 手を組むと、温かい兄の手が、その上に重なった。


「私のことなら、祈らなくてよいからな。自分の願い事を祈るといい。星は有限なのだから」

「そうよ、どうせ政略結婚なんだし」

「はははっ、それなら祈った意味がないじゃないか」

「そうね。やっぱり、健康第一、健康第一……」


 早口で祈る瑠麗(リウリー)

 いつの間にか兄とも仲良くなっている。


「あら? 瑠麗(リウリー)、お兄様と瑶琳(ヤオリン)には、丁寧な言葉遣いで話すのではなかったの?」

「うーん。練習のためにはそうすべきなんだけどね。面倒だし、仲良くなったら素でいこうかなって。嫁いでからもそうするわ」

「そっか」


 仲良くなったらか……。とても瑠麗(リウリー)らしい気がする。


「ねえ、雪蘭(シュウラン)は何をお願いしたの?」

「私は……」


 泰然(タイラン)様の健康をお祈りしようと思っている。

 でも、兄と目が合い、ふと気づく。

 こうして兄に会えるのはこれが最後なのではないかと。


碧砂(ビーシャ)国へ戻れば、もうお兄様とは一生、会えなくなってしまいますね」

「確かに、国を離れることはできないだろうな。だが、一生とは、言い過ぎではないか?」

「そうですか?」

「何年も先の話になるだろうが、私が父の跡を継ぎ、雪蘭(シュウラン)の憂いが全て無くなれば、いつでも来れるようになるだろう。泰然(タイラン)様と一緒に」


 そんな日が本当に来るのだろうか。

 どれくらいの月日が経てば、そうなるのだろう。


 見えない未来に想いを馳せていると、お兄様は身体を起こして言った。


「そういえば、泰然(タイラン)様は来ないのか?」

「うん、いつも雪蘭(シュウラン)を独り占めしてるから、誘わなかったわ」

「それなら、私が呼んでこよう」

「行かなくていいわよ。ほら」


 兄が屋根から降りようとすると、瑠麗(リウリー)が止め、庭の方を指差した。

 その先には泰然(タイラン)様がいた。


瑠麗(リウリー)、やっぱりお前か」

「何で外にいるの?」

雪蘭(シュウラン)の部屋に行っても、誰もいなかったからだ」

「夜這いですって、仁峰(レンフォン)お兄様、いいんですか!?」


 瑠麗(リウリー)はわざとらしく兄に詰め寄って言った。


「え、いや……そ、そうだ、泰然(タイラン)様、一緒に流星群を見ませんか?」

「流星群? あ、それで屋根の上にいるのですね」


 泰然(タイラン)様がひょいっと屋根に上がると、仁峰(レンフォン)お兄様は私の隣を空けてくれた。


雪蘭(シュウラン)、手が冷たいぞ。これを」

「ありがとうございます」


 泰然(タイラン)様は私に香炉を渡してくれて、礼を伝えると、瑠麗(リウリー)が身を乗り出してきた。


「え、私の分は?」

「ない」

「うわぁ、仁峰(レンフォン)様、聞きました? 泰然(タイラン)の無慈悲な言葉の返し方を。それに、もうこんなに暗いのに、香炉を言い訳に雪蘭(シュウラン)の部屋を尋ねる男なんですよ」


 瑠麗(リウリー)は兄に告げ口するかのように言うけれど、泰然(タイラン)様はいつも私を気にかけ、二人の時間を作ろうとしてくれている。そういった時間があったから、今日まで私は、何不自由なく、ここで暮らせてこれたのだろう。

 兄は、顔を赤くしため息をつく泰然(タイラン)様を見ると、笑っていた。


「はははっ。それほど、雪蘭(シュウラン)に会いたいということなのだう? これからも雪蘭(シュウラン)をよろしくお願いします」

「はい。もちろんです」

「ちぇ、兄公認か……。あら? 伝書鳩だわ」


 不満そうに寝転んで空を見上げた瑠麗(リウリー)は、西の空から飛んできた鳩を見つけた。


「父上にだな。夜に来るのは珍しい。急報だろうか」


 何の知らせだろう。鳩が飛んできた方角が、ちょうど碧砂(ビーシャ)国の方で、なぜだか胸騒ぎがした。


 ****


雪蘭(シュウラン)、起きてー」


 瑠麗(リウリー)に体を揺すられて、私は目を覚ました。朝日が眩しくて、眠い目を擦る。

 昨日は、流星群に興奮して、普段より寝るのが遅くなってしまった。

 でも、寝る前にそれぞれの部屋へ戻っていったのに、どうして瑠麗(リウリー)が部屋にいるのだろう。


瑠麗(リウリー)、どうしてここに?」

「今日中に仁峰(レンフォン)様はここを出て碧砂(ビーシャ)国へ帰ることになったの」

碧砂(ビーシャ)国で何か起きたの?」

「うん。慧王殿下が、今、雲龍(ユンロン)国の皇帝のところに行って、指示を仰いでいるわ」


 瑠麗(リウリー)は暗い表情でそう言った。



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