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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第五章 出会いと再会の雲龍国

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013 兄の言葉

 仁峰(レンフォン)お兄様が、私を抱きしめてくれた。

 奇病と言われてから、遠くから手を振ることしかできなかったのに、こんなに近くでお兄様に触れることができる日が来るなんて、嬉しくてたくさん泣いてしまった。


 お兄様は私の幸せを願ってくれている。

 そしてお義母様が私を愛している。

 兄の言葉が心に響く。


 だからこそ、碧砂(ビーシャ)国へ私を連れ戻すことはないのだと、そう兄は言った。


 兄妹そろって涙でぐちゃぐちゃになってしまったけれど、泰然(タイラン)様が優しい顔で私たちを見守ってくれていた。


 それから兄は、慧王殿下に呼ばれて泰然(タイラン)様の部屋を後にした。泰然(タイラン)様は二人になると、すぐに私の涙を拭い、そして抱きしめてくれた。薬草の香りがして、心が休まる。


「よかった……仁峰(レンフォン)様が、雪燕(シュウエン)を大切に思っていてくれて」

「はい」


 でも、少しだけ不安がある。お義母様は、本当に私を愛してくれているのだろうか。

 私に、歳を取らない呪いをかけたのは誰なのか。

 それだけが胸にひっかかる。


「あの、泰然(タイラン)様?」

「ん?」


 ずっと抱きしめたままなのはなぜだろう。嬉しいけれど、泰然(タイラン)様の顔が見えなくて、少し寂しい。それに、そろそろ誰が来るかもしれない。


「あの、泰然(タイラン)様の……」

「なんだ?」

「お顔が見たいなって」

「えっ?」


 パッと体を離し、顔を上げると恥ずかしそうに顔を赤く染めた泰然(タイラン)様と目が合った。


「あ、えっと、ずっと抱き締めてくれることも嬉しいのですが、お顔が見れないと、少し寂しくて……ごめんなさい。変なことを言ってますよね」

「いや、今日は……雪蘭(シュウラン)が他の者に抱きしめられている姿ばかり目に入ってしまって……つい」


 つい抱きしめてしまったということだろうか。

 そう言えば、さっき翡雲(フェイユン)様にも抱きしめられたような。

 嫉妬、してくれているのかな。

 泰然(タイラン)様、可愛い。目が合うと、泰然(タイラン)様は、また私をギュッと抱きしめて、耳元で言った。


「もう少し、このままで……」

「はい」

 

 泰然(タイラン)様に身を委ねると、窓のほうから声が聞こえた。


「ほら、翡雲(フェイユン)様が雪蘭(シュウラン)のことギュッてするから、泰然(タイラン)がヤキモチ妬いちゃって、いつまで経っても部屋に入りづらいじゃない」

「はははっ、泰然(タイラン)は可愛いだろ、少し待とっ──お、おい、危ないじゃないか!」


 翡雲(フェイユン)様の慌てた声が聞こえて、そちらへと顔を向けると、窓枠に短刀が突き刺さっていた。

 泰然(タイラン)様が、投げたのかな。


 泰然(タイラン)様は窓を睨みつけて言った。


「ああ、翡雲(フェイユン)じゃないか。人の屋敷で盗み見とは、賊かと思ったではないか」

「ははは、酷いなぁ……」

雪蘭(シュウラン)のことが心配だから見てただけなのにね」

「菓子を買ってきたのだが、二人でいただこうか」

「そうね~」


 そうだ。翡雲(フェイユン)様は、菓子を買ってきてくれたと言っていた。どんな菓子なのだろう。


 私がじっと窓の方を眺めていたからか、泰然(タイラン)様は二人を部屋に招き入れてくれた。

 彩り豊かな花の形の点心が机の上に並べられる。

 お茶はいつの間にか泰然(タイラン)様が用意してくれていた。


 翡雲(フェイユン)様は一通り点心の説明をすると、意気揚々と話し始めた。


「本当は泰然(タイラン)雪蘭(シュウラン)を誘って茶屋に行こうと思っていたのだが」

雪蘭(シュウラン)のお兄様に会って二人で行ったのでしょう」

「ああ、仁峰(レンフォン)様にお会いして、先ほどまで二人で茶屋にいた。そして誠に勝手ながら、仁峰(レンフォン)様の話を聞いて、すぐに雪蘭(シュウラン)に会うべきだと思ったのだ」

「皇太子なのだし、碧砂(ビーシャ)国を長く開けるべきではないわよね」


 翡雲(フェイユン)様が話すと、瑠麗(リウリー)が言葉を重ねる。二人の息がぴったりで、私が言葉を挟む隙すらない。瑠麗(リウリー)が自分らしく話せている様子で、なんだか嬉しくなる。


「いつも宮殿を留守にしてばかりの皇子が目の前にいるけどな」


 泰然(タイラン)様がそう言って翡雲(フェイユン)様に目を向けると、瑠麗(リウリー)が納得いかないといった表情で泰然(タイラン)様を横目で見て言った。


泰然(タイラン)こそ、何年も家出していたじゃない」

「ああ、そうか、似たようなものか」


 その二人の会話に自然と入っていくことができる泰然(タイラン)様はすごいな、と思った。


「ところで瑠麗(リウリー)は花嫁修行と言っていたが、何をするのだ?」

「うーん、雲龍(ユンロン)国に慣れることと、ほら、ああやって新婚気分の二人がどういちゃいちゃするのか勉強しにきたのよ」

「なるほど、それは面白そうだ」


 翡雲(フェイユン)様も瑠麗(リウリー)の言葉に同意すると、泰然(タイラン)様は溜息混じりに二人に冷たい視線を向けていた。

 

「冗談よ、睨まないでよ。他にも理由はあるけど、教えてあげなーい」

「そうだったの?」

「まあね。それより、次の満月はどうするの? 山の屋敷に戻るの?」


 尋ねたけれど、瑠麗(リウリー)にサラッと話を流されてしまった。

 泰然(タイラン)様は私の方に目をやると、瑠麗(リウリー)に返答した。


「そのことだが、父上とも話したのだが、碧砂(ビーシャ)国が落ち着くまで都から離れるのは止めようと思っている」


 私を碧砂(ビーシャ)国に近づけない方がいいからだろうか。でも、それでは秘薬作りが先延ばしになってしまう。


「いいのですか?」

「ああ。これから寒くなるし。いや、それだけではない。国境付近の町には碧砂(ビーシャ)国の者が少なからず流れてきている」

「しばらくは、町の治安が乱れそうね」

「その辺りのことは雲龍(ユンロン)国の皇帝に任せておけば大事ない。だが、都に残ると聞いて安心した。私もそのほうが良いと考えていた。仁峰(レンフォン)様がどう考えていようと、もしも雪燕(シュウエン)のことが分かれば放っておかない奴もいるだろう」

春燕(チュンエン)とか?」


 瑠麗(リウリー)の言葉に、翡雲(フェイユン)様は首を横に振って答えた。


「いや、春燕(チュンエン)は禁足中らしい。きっとどこかへ嫁ぐまでそのままだろう。皇后は春燕(チュンエン)のことも考えていたと仁峰(レンフォン)様は言っていた。あの子は幼い頃より小国へ嫁ぐ事が陛下に決められていたから、学をつけ妻として重宝されるように育てていたそうだ」

「じゃあ、皇后が雪燕(シュウエン)に呪いの薬を飲ませていたってことでは、ないってこと? 雪燕(シュウエン)の成長を止めて、春燕(チュンエン)を代わりに嫁がせるって考えは無いってことよね。じゃあ何でなんだろう。仁峰(レンフォン)様には聞いてみたの?」


翡雲(フェイユン)様は私は聞いてないと答えたので、瑠麗(リウリー)は私の方を見た。


「私も聞いていないわ。でも、後で聞いてみようと思う」


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