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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第五章 出会いと再会の雲龍国

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010 茶屋にて(仁峰視点)

 慧王殿下の屋敷を出て、一息つこうと宿に戻った。

 先ほどの泰然(タイラン)様との会話は、あれで正解だっただろうか。

 それに、また会ってくれるということは、やはり雪燕(シュウエン)のことを何か知っているということだろうか。


 本当に雪燕(シュウエン)が生きているかもしれない。

 

 そう思うと嬉しくて泣きそうになる。

 駄目だ。まだ分からないのに。

 気をしっかり保たなければ。


 しかし、雲龍(ユンロン)国とは豊かな国だ。

 護衛の体調も泰然(タイラン)様のおかげで回復したし、情報を得るために、しばし町を散策することにした。


 都は一日では回りきれないほど広く活気に満ちた場所だった。どこも翡雲(フェイユン)様の婚約の話が囁かれ、碧砂(ビーシャ)国の話など、どこからも聞こえなかった。

 明日は、今日足を伸ばすことができなかった西側を回ることにして、早めに休むことにした。


 そして翌日、まだ朝も早いというのに、外から声が聞こえてくる。朝から活気のある町だと感心する。


 朝食を済ませ、昨日治療していただいた安泰院の前を通ると、華やかな衣を着たご令嬢方が集まっていた。


泰然(タイラン)様が戻られたそうよ」

「お母様の医院を継がれるとか?」

「一目お姿を見られないかしら?」

「でも許婚の方を連れ帰ったと聞いたわ」

「羨ましいわ~」


 泰然(タイラン)様の話で、都のご令嬢方が色めきだっている。薬師としても優秀で、慧王殿下の息子ともなれば、さぞかし人気なのだろう。

 もしあの方が雪燕(シュウエン)の側にいてくれるのなら、安心して任せられるのにな。


仁峰(レンフォン)様か?」


 名前を呼ばれ振り向くと、町人の格好をした見知った男が立っていた。声を聞いて、もしやと思ったが、まさか本当に彼てあったことに驚かされた。


翡雲(フェイユン)様……」


 ****


 郊外の茶屋に誘われ、個室へと通された。

 翡雲(フェイユン)様と向き合って座ると急に緊張してきた。


 出会ったときは笑顔だった翡雲(フェイユン)様だが、慧王殿下の屋敷に用があるのかと聞かれ、そうだと答えてから、雰囲気が変わった。

 やはり翡雲フェイユン様も雪燕(シュウエン)のことを知っているのではないだろうか。


 翡雲(フェイユン)様は何も喋らず、手振りで私に茶を勧めた。


「いただきます」


 温かい。しかし、緊張で味が分からない。

 翡雲(フェイユン)様は笑顔のまま菓子に手を付けるが、目が笑っていない。こんな翡雲(フェイユン)様は初めて見た。


 なんと話し始めたらよいだろうか。

 チラっと翡雲(フェイユン)様を見やると、顔を上げた彼と丁度目が合ってしまった。


「あ、翡雲(フェイユン)様、ご婚約おめでとうございます」

「ん? ああ、ありがとう。婚儀は半年後なのだが、とても可愛らしい娘なんだ。機会があれば紹介させてくれ」

「はい」


 いつもの翡雲(フェイユン)様の笑顔に戻りホッと息をつく。しかし、紹介してくれるということは、雪燕(シュウエン)ではないということだろうか。

 それともその逆か。考えれば考えるほどよく分からなくなってきた。


「それで、どうして慧王の屋敷に?」

「その……、碧砂(ビーシャ)国の噂はお耳に入っておりますか?」

「ああ」

「そのことで、殿下に相談したいことがございまして」


 つい話を濁してしまった。

 雪燕(シュウエン)のことを、翡雲(フェイユン)様がもし何も知らなかった場合、新しい婚約が決まったばかりだというのに、話がややこしくなるだろう。

 それに、もし雪燕(シュウエン)のことを知っているのであれば、翡雲(フェイユン)様なら教えてくれるのではないかという期待があった。


「わざわざ都まで、皇太子である仁峰(レンフォン)様が?」

「はい」


 なんだか空気が重い。

 隠し事をしているから、そう感じてしまうのか。


泰然(タイラン)には会ったか?」

「慧王殿下のご子息ですね。お恥ずかしい話ですが、先ほど護衛の二人が腹を壊しまして」

「は、腹を壊した?」

「はい、医院の掃除をしていた青年が二人の治療をしてくださって、それが泰然(タイラン)様でした」

「はははっ、不思議な巡り合わせだな。では、泰然(タイラン)の許婚にも会ったのか?」

「それは……会わせてもらえませんでした」

「会わせてもらえなかったとは、どういう意味だ?」

「あ、それは……」


 私は都へ来てから、二度目の失敗を犯したのではないだろうか。

 泰然(タイラン)様に、身分を打ち明けずにあの場にいたら、許婚の女性に会えたかもしれない。


 そして今、会ったと言っていれば会話の流れは変わっていたはずだ。泰然(タイラン)様の許婚が、私の知る人物に似ていたと言えば、翡雲(フェイユン)様なら……。


「会わせてもらえなかったということは、仁峰(レンフォン)様から会おうとしたという意味になるのだが、違うか?」

「その……」


 確かに翡雲(フェイユン)様の言う通りだ。

 適当に嘘をついても、見破られるだろう。

 ああ、嘘をつくことなど、私には向いていない。

 正直に話すしか、性に合わないのだ。


雪燕(シュウエン)を探しています。似た人が泰然(タイラン)様と一緒にいたと聞き、会いに来ました」

「ふっ、はははっ、さすが仁峰(レンフォン)様、雪燕(シュウエン)とそっくりの正直者だ」

「へ?」

雪燕(シュウエン)も嘘はつけない性格でしたよね。あ、でもそんなこともないか」


 哀しいことでも思い出したのか、翡雲(フェイユン)様は笑顔のまま瞳を曇らせた。


雪燕(シュウエン)に嘘をつかれたことがあるのですか?」

「ああ、大きな嘘をつかれたことがある。だがもう許した。お互い様なところもあったのでな」

「そうでしたか。二人は仲が良く、喧嘩などしたこともないかと思っていました」

「そうだな。喧嘩くらい、したほうがよかったのかもしれないな……」

翡雲(フェイユン)様……」


 もう二度と会えないから、こうして後悔しているのだろうか。

 それなら、雪燕(シュウエン)はもう……。


「それで、雪燕(シュウエン)探しは上手くいきそうか?」

「いえ、どうでしょうか」

「その様子だと、泰然(タイラン)に正直に身分を明かし……追い返されたか」

「……はい」

「ところで、雪燕(シュウエン)がもし生きていて、そして会うことができたら、どうする気なのだ? わざわざ皇太子が他国の都まで足を伸ばすとは、ただ妹に会いたいというだけではないのだろう?」


 翡雲(フェイユン)様の探るような目に晒される。

 緊張しつつも、私は皇后から頼まれたことを、翡雲(フェイユン)様に話すことにした。








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