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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第五章 出会いと再会の雲龍国

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008 皇太子(泰然視点)


「こ、皇太子?」


 言われてみれば、どことなく雪蘭(シュウラン)に似ている。少し隙がありそうな雰囲気が特に。

 

 しかし、皇太子がなぜ探しに来たのだろう。

 雪燕(シュウエン)を迎えに来たということか? 

 やはり、碧砂(ビーシャ)国の天災は雪燕(シュウエン)にしか止められないということだろうか。

 あれこれと憶測ばかり頭の中を駆け巡る。


「俺に近づく為に、護衛の方々に無理やり食べさせたのですか?」

「はい? あ、いえいえ、本当に迷子になってしまい空腹で、食べ過ぎてしまったのだと思います。私は、雪燕(シュウエン)のことが気がかりで、あまり食事は喉を通らなくて」


 嘘はついていないようだが、皇太子自ら来るということは、それなりの確信があって俺に近づいたのだろうか。

 俺は、なるべく平静を装って口を開いた。

 

「なるほど。失礼ですが、雪燕(シュウエン)という公主は亡くなったのでは? 緑淵では、そう聞きましたよ」

「はい、私もそう思っていました。ですが、春燕(チュンエン)が、全て話したのです。緑淵で雪燕(シュウエン)に似た人に会ったことも、それまで雪燕(シュウエン)にしてきたことも……」


 それは、疫病ではなかったから、雪燕(シュウエン)が生きている可能性が高くなったという意味だろうか。


「なぜ、皇太子殿下が自らいらしたのですか?」

「今、碧砂(ビーシャ)国内は混乱しています。雪燕(シュウエン)がもし生きていたら、この混乱が雪燕(シュウエン)のせいにされてしまうこともあるかもしれません。ですので、他の者に知られないよう、私自身で動きました。会わせていただけないでしょうか。人違いだとしても、会えば諦めがつきます」


 二人を会わせたらどうなるのだろうか。

 もし兄が、国の為に雪燕(シュウエン)を迎えに来たと言ったら、彼女なら国へ戻ってしまうだろう。

 やっと都に慣れ始めたところだったのに、この幸せがすべて崩れそうな感覚に襲われる。


 返答に戸惑っていると、裏口の扉が開いた。


「お兄様~、えっ? 急病の方?」


 瑶琳(ヤオリン)の顔を見てホッとした。

 雪蘭(シュウラン)じゃなくて良かったと。


瑶琳(ヤオリン)、大丈夫。もう治療は終わった。お帰りいただくところだ」

泰然(タイラン)様、まだ話が……」

「今日は帰っていただけますか? 今、父は不在なのです」


 きっと、兄との再会は避けられないことなのかもしれない。それでも、少しでも二人が出会う日を先延ばししたくて、そう言っていた。


「では、慧王殿下が戻られましたら、もう一度訪ねてもよろしいですか?」

「…………」


 父は明日の朝には帰るだろう。

 それから相談して……。

 俺はなんの相談をするつもりなのだろう。

 妹を探す兄を追い払いたいのか。自分が同じ立場だったら、会いたいはずなのに。


「お兄様、どうしてそんな怖い顔をしているの? こちらの方はお困りなのでしょう、父に取り次いだ方がよろしいのでは?」

「明後日、またいらしてください」


 そう告げると、仁峰(レンフォン)様は笑顔で礼を述べた。


「はい。よろしくお願いいたします。治療していただきありがとうございました」


 仁峰(レンフォン)様を見送って、俺はすぐに雪蘭(シュウラン)の姿を探した。

 雪蘭(シュウラン)は、医院の隣の蔵で、調合に必要な道具を出してくれていた。


雪蘭(シュウラン)っ」

泰然(タイラン)様、蔵の奥にもたくさんあって、取り敢えずは……。どうかされましたか?」


 雪蘭(シュウラン)は持っていた道具を下に置くと、心配そうな顔で俺へと駆け寄ってきた。


雪蘭(シュウラン)、都での生活はどうだ? ここへ来てから困ったことはないか?」

「皆様よくしてくださって、困ったことなんて、何もないですよ。それに、瑶琳(ヤオリン)のお友達も素直な子ばかりで、舞を教えるのがとても楽しいです」


 笑顔を向けられると、先ほどの仁峰(レンフォン)様の笑顔が重なって見えた。

 碧砂(ビーシャ)国のことを知ったら、また辛い思いをさせてしまうだろう。

 この笑顔を守りたいのに。

 俺にできることはなんだろうか。


「そうか良かった。雪蘭(シュウラン)、ずっとここにいてほしい。何があっても……俺の隣にいることを選んでほしい」


 雪蘭(シュウラン)は恥ずかしそうに微笑むと、俺の頬に手を伸ばした。


「はい、私もそうしたいと思っています。急にどうされたのですか。こんなに、不安そうな顔をして……」

「そんな顔をしていたか?」

「はい」

「でも不安なんだ。雪蘭(シュウラン)がいなくなってしまうような気がして。約束してほしい。どこへ行くにも、必ず一緒に行くと」

「はい。でも、何があったのでしょうか? 私には、話せないことですか?」


 やはり雪蘭(シュウラン)には隠し事はしたくない。


「……仁峰(レンフォン)様が都に来ている」

仁峰(レンフォン)様……? わ、私の兄の仁峰(レンフォン)ですか?」

「ああ、春燕(チュンエン)から雪蘭(シュウラン)のことを聞いて、その目で確かめに来たそうだ。二日後に、また会う約束をした」

「二日後……」


 戸惑いとともに、少しだけ雪蘭(シュウラン)は嬉しそうな顔をした。兄との関係は良好だったのだろう。


「実は、前回の満月の夜以降、碧砂(ビーシャ)国には雨が振っていないようなんだ」

「雨が……なぜでしょうか。雷鳴は聞こえていたと思うのですが」


 雪蘭(シュウラン)は顔色を変え驚いて声を上げた。


「雷ばかりで雨はなく、落雷で山火事が起きたとの噂も流れている」

「どうしてそんなことに……」

「雨ごいの舞の最中、春燕(チュンエン)は龍神の池に落ちたと聞いただろう? それで龍神様を怒らせたのではないかという話だ。仁峰(レンフォン)様は、春燕(チュンエン)から、雪燕(シュウエン)にしてきたことを聞いたそうだ。そして、俺が雪燕(シュウエン)に似た人と一緒にいたことも」

「兄は天災を治めるために私を探しているのでしょうか?」


 雪蘭(シュウラン)も同じことを考えたようだ。

 やはり、連れ戻しに来たのだろうか。


「分からない。情けない話だが、怖くて聞けなかった。雪燕(シュウエン)を探す理由も、会ってどうするつもりかどうかも」

 

 雪蘭(シュウラン)は俺を安心させるように微笑むと、両手で包み込むように俺の手を握った。

 

「もし、私でしか解決できない問題が起きているのなら、私は碧砂(ビーシャ)国に行かなくてはなりません。大婆様もおっしゃっていました」

「そうだな」

泰然(タイラン)様も、大婆様から聞いていましたか?」

「ああ、信じたくはなかったけれど」


 雪蘭(シュウラン)が頷きながら俺の言葉に微笑むと、門番の男が慌ててこちらへ駆けてくる姿が見えた。


「あの、雪燕(シュウエン)様にお会いしたいという方がいらしています。そのような方はいないと伝えたところ、今は雪蘭(シュウラン)様だった、と言っておられるのですが」


 まさか、仁峰(レンフォン)様が門番に鎌をかけてきたのか。そんなことをする方には見えなかったのに。


「男か?」

「いえ、それが……」



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