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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第五章 出会いと再会の雲龍国

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007 遠路(仁峰視点)


 皇后は春燕(チュンエン)まで真っ直ぐに歩み寄ると、春燕(チュンエン)の頬を平手で叩いた。


「失望した。春燕(チュンエン)、お前を禁足とする。とする。そして、その卑しい口を二度と開くでない。仁峰(レンフォン)、ついて来なさい」


 無言のまま歩く皇后へついていく。

 あの場から逃れる事が出来てホッとした自分に気付く。

 情けなくて涙が出そうだ。


 そして皇后の部屋へ着くと、皇后は泣きながらその場に崩れ落ち、私の涙は引っ込んでしまった。


「義母上っ」


 嗚咽を漏らし泣き続ける皇后の背を擦り、しばらくして落ち着くと皇后は私に言った。


仁峰(レンフォン)雪燕(シュウエン)が疫病でなかったのなら、私が……私が殺してしまったも同じではないか?」

「そんなことはありません。それに、春燕(チュンエン)が似た者を見たと言っていましたが、本当なのでしょうか?」


 皇后は涙を拭うと、瞳に光を矢として言った。


「分からない。雪燕(シュウエン)は本当に生きているのだろうか。春燕(チュンエン)がただ、自分の責から逃れるために言った言葉だろうか?」

「……私にも分かりません」

「もし生きているのなら、あの娘は満月の夜に舞を踊るだろう。先日はそれがなかった。だから、やはりあの娘は……」


 春燕(チュンエン)が池に落ちた日、光らなかった龍神の池を見て、皇后は雪燕(シュウエン)の死を確信して気を落としていたようだ。


「私が雲龍(ユンロン)国へ参ります。慧王殿下の息子と一緒にいたと春燕(チュンエン)は言っていました。私がこの目で確かめてきます」

「本当か?」

春燕(チュンエン)の言うことにも一理あります。それに、もし雪燕(シュウエン)にこの天の怒りを鎮めることができるなら、私が必ず雪燕(シュウエン)を連れて帰ります」


 皇后は私の言葉を聞き、安堵の笑みを浮かべたあと、いつもの厳しい顔つきに戻り口を開いた。


仁峰(レンフォン)、一つ頼みを聞いてくれるか?」


 ****


 あれから馬を飛ばしたものの、慣れない道に十日ほどかかり、私はやっと雲龍(ユンロン)国の都に着いた。


 慧王殿下の居所は非常に分かりやすく、探し当てるのは簡単ではあったが、いきなり訪ねてもよいものだろうかと、屋敷を前に頭を抱えていた。


 緑淵で聞いたところ、蘇泰然(タイラン)は薬師として町に貢献してくれていたが、春燕(チュンエン)とのことがあり、町を去ったという。


 町の者達からの評判も良く、特に町医者からの信頼が厚く、腕のいい薬師のようだ。


 雪燕(シュウエン)が疫病ではなく、ただの爛れであったのなら、彼なら治せるのかもしれない。そんな期待を抱きつつ、ここまで来たのだが、いざ屋敷を目の前にすると足が前に出ない。


 まずは屋敷の周りを歩き、都の人々の話を聞いてみよう。

 ここに蘇泰然(タイラン)がいるのかも分からないし、忙しい慧王殿下は屋敷を空けているかもしれないのだから。

 それに、護衛を二人連れているのだが、ここ二日はろくな物を食べていない。

 とりあえず近くの宿に入り情報を得ることにした。


 馬を預け、腹ごしらえをしながら得た情報は、翡雲(フェイユン)様の話ばかりだった。新しい許婚が決まり、半年後に婚儀を控えているという。

 その相手は密仙(ミーシェン)国の若く美しい姫だとか。ただ、その中にひとつ気になる話があった。


 その美しい姫は病に侵されていたが、慧王殿下の息子の泰然(タイラン)様が治療したと言うのだ。そしてその泰然(タイラン)様も、密仙(ミーシェン)国に招かれた際、美しい舞を踊る密仙(ミーシェン)国の女性を褒美に賜ったという。


 もし、雪燕(シュウエン)が生きていたとしたら、どっちなのだ?


 元々翡雲(フェイユン)様の許婚だったのだ。泰然(タイラン)様に治療してもらった姫と言うのが雪燕(シュウエン)である可能性もあるのではないだろうか。 

 それとも、泰然(タイラン)様が賜ったという女性がそうなのか。

 ただ私がそう思いたいだけで、見当違いの話なのか。


 どこか店に入って情報を得よう。

 そう思って慧王殿下の屋敷の周りを歩いていると、塀の途中に東側の門が見えてきた。


 そこには安泰堂と書かれた額が飾られた医院があり、開店準備でもしているのか、一人の青年が店の掃除をしていた。


 紫色の髪の青年は、どこか慧王殿下ににている気がする。彼が泰然(タイラン)様ではないだろうか。


 しかし、一人息子の泰然(タイラン)様が掃除をしているはずがないか。

 声をかけようかと迷っていると、青年がこちらの視線に気付き、声をかけてきた。


「大丈夫ですか?」

「わ、私ですか?」

「いえ、後ろのお連れの方です」


 振り返ると、護衛の二人の顔色が真っ青だった。


「店はまだ閉めたままなのですが、少し休んでいかれませんか?」

「いいのですか? でも、勝手に入れてしまって、怒られませんか?」

「ん? あ、ここの家の者ですので、大丈夫ですよ」


 ここの家の者、ということは、やはり本人かもしれない。取り敢えず、護衛の二人の治療をお願いすることになった。



「食べ過ぎですね」

「あ、ありがとうございます。二日ほど道に迷ってしまい、あまり食べていなくて、向かいの宿の食事がおいしくて食べ過ぎてしまったようです」

「ああ、あそこの料理は美味しくて、つい食べすぎてしまいますよね。針で治療しますね」


 そう言うと、青年は手際よく二人に針を打ち、飲み薬もくれた。

 針の腕もよく、そして物腰が柔らかく、緑淵で聞いた通りの方だ。やはり彼が蘇泰然(タイラン)様で間違いないのだろう。


「あの、代金は」

「結構ですよ。まだ医院も開いてませんし。雲龍(ユンロン)国に来るのは初めてですか?」

「いえ、久しぶりで」

碧砂(ビーシャ)国、からですか?」

「は、はい」


 自然な流れで尋ねられたが、碧砂(ビーシャ)国と言う名を聞いて、つい声が強張ってしまった。

 これは私が誰か知っているのか。それとも……。


碧砂(ビーシャ)国には、何度も訪れたことがあるんです。ただ、最近は天災続きだと聞いて」

「慧王殿下からお聞きしたのですか? あの、失礼ですが、蘇泰然(タイラン)様ですよね?」

「えっ? あ、はい」


 反応からして、私のことは知らないようだ。

 返答にも優しく丁寧で素直そうな方だ。この方なら、本当のことを話せば聞いてくれるかもしれない。


「実は、人を探しています。似た人と、泰然(タイラン)様が一緒にいるところを見たという人がいて」

「俺と、一緒に?」


 泰然(タイラン)様の瞳から、一瞬で光が消えた。さっきまでの朗らかな空気は消え去り、緊張が走る。

 これは確実に警戒されている。


「あ、違います。いや、違くはないのですが」 

「お前は、誰で、誰を探している?」


 重い空気の中、私は彼に信頼されるべく、嘘は付かず、本当の名を明かすことにした。

 

「私は、碧砂(ビーシャ)国の皇太子、仁峰(レンフォン)と申します。妹を、妹の雪燕(シュウエン)を探しています」




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