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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第四章 母の故郷は秘密がいっぱいでした

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015 都へ

 密仙(ミーシェン)国からの帰りの馬車には、私と泰然(タイラン)様と翡雲(フェイユン)様の三人で乗った。来たときと同様に眠らされ、気づいた時には、いつもの山の屋敷にいた。


 目覚めた頃は夕方で、もう遅いので、翡雲(フェイユン)様は明日の朝、密仙(ミーシェン)国との誓約書を持って都に戻ることになった。


「ここで過ごす夜も最後か。まだ半年先とはいえ、妻を迎える身、そこらでフラフラしてはいられぬな」


 翡雲(フェイユン)様は寂しげにそう言った。

 瑠麗(リウリー)は姫の中でもまだ若く、花嫁修行をしてから婚儀が行われることになったそうだ。よって半年後まで会えないのだとか。


「二人も一緒に都へ行くか?」

「そうだな。来月の満月にはここに戻りたいのだが、まだ日がある。五日ほどかけていくつかの町を見物しながら進もうと思う」

「そうだな。私は急ぐので先に行く。これを渡しておこう」


 翡雲(フェイユン)様は懐から銀で出来た魚符を机に置いた。


「俺も持っているぞ」

雪蘭(シュウラン)の分だ。雲龍(ユンロン)国は広い。もし泰然(タイラン)とはぐれてしまっても、それを持っていれば大丈夫だ」

「はぐれたりなんてするものか」


 泰然(タイラン)様はそう言ったけれど、翡雲(フェイユン)様はもしもの時のためにと、魚符を私に握らせた。


「そうか? あ、そうだ。紅河で見た旅の一座は、今は小さな村を回っているそうだぞ。それから次は碧砂(ビーシャ)国へ行くそうだ。新しい舞姫の誕生で賑わっているからだとか」

「旅の一座を観ていくなら、ここから一番近い村に寄れば出会えそうだが、都へは遠回りになるな」

「それはまたの機会にいたしましょう」

「うん、そうしよう」


 旅の一座も楽しいけれど、町を見るだけでも楽しみなのだ。今度は雲龍(ユンロン)国を知るためにも、普段の町の様子をよく見ていきたい。

 

 今後の話がまとまると、翡雲(フェイユン)様は戸棚から酒瓶と杯をご機嫌な様子で持ってきた。


「よし、昨日はほとんど飲めなかった。今日は飲むぞ!」

「あ、飲んでなかったのですね」

「少しは飲んだぞ、少しだけどな!」

「外では大抵、袖の中に酒を捨てているんだ」

泰然(タイラン)、それは秘密にしておくべきだろう?」


 だから自分の足で歩けていたのだ。

 外では気合いで乗り切っているのかと思ったけれど、違ったようだ。


「別に格好つけなくてもいいだろ」

「まあ、そうだな。では乾杯!」


 ちゃっかり人数分の杯を用意して、乾杯してすぐ一気に酒を飲み干した翡雲(フェイユン)様は、そのままゆっくりと机に頭を預け、なにかモゴモゴと話すと静かになった。

 

「寝るの早いですね」

「だな」

泰然(タイラン)様は、眠くないのですか?」

「大丈夫だ。ああ、そうか。移動の馬車で眠らされていたから、寝不足ではないぞ」


 実は、朝目が覚めた時、部屋に泰然(タイラン)様がいたのだ。もしかしたら、瑛麗(インリー)様が私に毒を盛るかもしれないから見張っていてほしいと、瑠麗(リウリー)に頼まれたそうだ。

 そして、朝方、瑠麗(リウリー)が部屋に来るまでずっと、一睡もせず部屋にいてくれたのだ。


「そうですか。私も起こしてくださったらよかったのに」

「気持ちよさそうに寝ていたから。寝顔が可愛くてずっと見ていられたぞ」

「……なっ、泰然(タイラン)様も酔ってますか?」

「そうかもな。さて、明日から長旅になる。早く休もう。私は翡雲(フェイユン)を部屋へ運んでから休む」

「はい」


 ああ、瑠麗(リウリー)がいないと部屋が寂しい。

 明日から雲龍(ユンロン)国を泰然(タイラン)様と二人で巡るんだ。

 楽しみだな。

 紅河で過ごした夢みたいなあの時間を、また二人で。


 でも、心に一つ引っかかる言葉がある。

 大婆様が、遠からず碧砂(ビーシャ)国の地を踏むこととなると言っていたことだ。

 私は自らの足で碧砂(ビーシャ)国へ行くのか、そうではないのか。


 もし前者だとしたら、碧砂(ビーシャ)国で何か悪いことが起こるとでも言うのだろうか。

 後者だとした場合、この山の屋敷は毒に覆われ安全だと言えるだろう。

 危険かもしれないのは、都までの道中か。


 何かあっても、身分が証明できるように、翡雲(フェイユン)様は魚符を渡してくれたのかもしれない。


 遠くに雷鳴が聞こえる。最近多い。

 新しい舞姫の誕生を、龍神様も喜んでいるということだろうか。そうであるといいのだけれど。


 ****


 翌朝早くに、翡雲(フェイユン)様は都へと出発した。

 瑠麗(リウリー)との婚儀を見に来てくれと言っていたので、次に会えるのは半年後だろうか。


 私と泰然(タイラン)様は、しばらく屋敷を留守にするので、部屋を片付けてから支度をし、昼頃には屋敷を出発した。


 そして、一人で馬車に乗るのは寂しかったため、泰然(タイラン)様の隣に、御者の席に一緒に座った。

 翡雲(フェイユン)様が町で侍衛と合流するようにと言っていたので、それまで二人で手綱を握る予定だ。


 初めに寄った町に侍衛が二人待っていて、そこからは泰然(タイラン)様と二人で馬車に乗っての移動だ。

 密仙(ミーシェン)国の大婆様の占いの話や、これから寄る町の話、それと互いの家族の話をしている内に、宿を取る予定の町まで着いた。


 紅河よりも大きな町で西龍というそうだ。

 雲龍(ユンロン)国の西側に位置する中で最も大きく、古くから機織りで栄えている町だそうだ。


 宿に馬車を停め、外へ出ると、泰然(タイラン)様はその場で立ち止まり、辺りを見回した。


「どうかされましたか?」

雪蘭(シュウラン)、急で申し訳ないが、君を父に紹介することになりそうだ」

「えっ?」


 隣に停められた馬車を見て泰然(タイラン)様はそう言った。

 私もこの馬車には見覚えがある。

 碧砂(ビーシャ)国で、何度も目にした。


「おお! 泰然(タイラン)じゃないか!」


 心の準備を始める前に、懐かしい声が響いた。



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