013 恋をしていた(瑠麗視点)
久しぶりに国に帰ると、大婆様に叱られてしまった。
私は皇族なのだから、国が定めた者に嫁ぐ事が決まっているのに、うつつを抜かすのではないと。
しかし、そんな事を言うのに、心は自由でよいと大婆様は言った。
なんだか矛盾しているけれど、叱られて気付いた。
私は翡雲様に、恋をしていたみたいだ。
そう気付くと、より翡雲様がキラキラと輝いて格好良く見えてしまうのはどうしてだろう。
宴が始まり、私は翡雲様ばかり見てしまっていた。
そんな中、大婆様の話を聞き、私は声を上げて驚いてしまった。
一の姫の珊麗は、たった三日で呪いを解き、二の姫の瑛麗はたった一人で呪いを解いたことを知った。誰も信じず、誰にも頼らず、瑛麗らしいと思った。
宴の間、瑛麗は翡雲様に何度も酒を勧めたり、何かずっと話しかけていたりしていた。
何度かお酒は取り上げたけれど、翡雲様は大丈夫だって言うし、瑛麗の話を笑顔で聞いていて、なんだかモヤモヤする。
こうなったら自棄酒だ。
そう思って杯に口をつけると、翡雲様に名を呼ばれた。
「瑠麗?」
「はい」
「それ、酒だが大丈夫か?」
「えっ? あ、大丈夫です。私、ザルなので」
「そうか、無理はするなよ」
そう言って笑いかけられただけで胸がいっぱいになるのは、やっぱり恋なのだろう。
翡雲様と顔を合わす度に自覚させられる。
宴の最後は珊麗の舞だった。
正直、翡雲様には見せたくなかった。
きっと珊麗に心を奪われてしまうから。
でも、翡雲様が見ていたのは、珊麗ではなかった。
その舞を見て涙を流す雪燕だった。
翡雲様は、雪燕の舞を見て好きになったのではないのだ。
ただ、雪燕が好きだったんだ。
今も、きっとまだ。
今度はモヤモヤするというより、胸がチクッと痛んだ気がした。
でも、今はそうでも、いつか私のことでいっぱいになったらいいな。
明日、もし選ばれなかったらどうしよう。
宴が終わり、不安な気持ちを隠しながら泰然と部屋に戻る翡雲様を見送った。
「辞退してあげようか?」
「えっ?」
瑛麗が隣に立ち私に言った。
「私、やっぱり一人の方が楽だし」
「でも、今逃げても、いつか誰かに嫁ぐのよ」
「そうだけどね。なんか、翡雲様って、優しそうで苦手」
「でも、泰然に色目を使っていたじゃない」
「ああ、あれは趣味が合いそうだったから。それになんかいい匂いがしたし、翡雲様みたいに甘そうな感じじゃなくて、淡白で合理的で落ち着いてそうだし」
「えっ、泰然って、他人にはそんな感じだけど、好きな人には結構甘々よ」
「そうなの? よく知ってるのね」
なんとなく雪燕にはそんな態度だから、とは言えなかった。
「まあね、一応居候させてもらってたから。それから、別に辞退しなくてもいいわ。しきたりだし。まあ、変な薬を翡雲様に盛ろうとしてるんだったら、それはやめてほしいけど」
「なんでわかったの? 辞退しないなら選ばれたい。だから、雪燕に毒でも盛って脅そうと思っていたのに」
「瑛麗! 怒るわよ」
悪びれずにサラッとあくどいことを言う瑛麗につい声を荒げてしまった。
「もう怒ってるじゃない。でも、どっちに怒っているの? 大好きな翡雲様が取られちゃうから? それとも雪燕を傷つけられるのが嫌?」
「どっちも!」
「ふーん。雪燕なんて、国から捨てられた公主でしょ。どうしてそんなに肩入れするの?」
「私たちだって、似たようなものでしょ。呪いが解けなければ一生帰れない。役立たずは、捨てられたまま終わるだけ」
「ああ、そっか。私は帰れる自信があったから、そんなこと思わなかった。瑠麗は奇跡的に呪いを解いてもらえたから帰れたのだものね」
確かに、姉二人は自分の力だけで、呪いを解いている。
私だけ、誰かに助けてもらったから、呪いを解くことができたのだ。
「そうよ。だから、私を助けてくれた人たちに害を与えることは絶対にさせないから」
「ふふふっ、どうせ何もできないくせに」
「瑛麗!」
「見苦しいわよ。二人とも」




