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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第四章 母の故郷は秘密がいっぱいでした

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69/90

012 祝いの宴

「お義母様が……」

「信じられないか? 皇后が雪燕(シュウエン)を呪うなど」

「……はい」


 今まで一度も考えなかったことではない。

 けれどその度に、そんなことはないのだと、心の中で否定してきた。


 私が邪魔だったのだろうか。私より、春燕(チュンエン)が公主として周りに認められるように、成長を妨げたのだろうか。


「皇后と雪燕(シュウエン)の母は、とても仲が良かった。まるで姉妹のように」

「そうだったのですね」

「だから、母親の忘れ形見である雪燕(シュウエン)を害するとは、私でも考えられない」

「本当ですか?」

「ふっ、嬉しそうだな。きっと雪燕(シュウエン)なら何を信じればいいか、己の目で見極めることができるだろう」


 私の目で見極める。できるだろうか。

 でも大婆様がそう言ってくれるなら、出来る気がした。


「今日はこの後、宴を開く。三人の姫がようやく国へ戻り、女帝の後継者が決まった祝いの席だ。雪燕(シュウエン)も一緒に祝ってやっておくれ」

「はい。あの、翡雲(フェイユン)様の婚約についてはどうなったのですか?」

「ああ、明日の朝、選定の儀を行う。皇子はもう決めていると言っていたが、一晩過ごしてから決めるのがしきたりだ」

「しきたりですか?」

「ああ、この国の女子は不思議な力を持つ。あの子たちを守る為には、しきたりが必要なのだ。そろそろ宴の準備ができた頃だろう。雪燕(シュウエン)も支度をしなさい」

「はい」


 侍女に案内され別室へ移動すると、既に支度を終えた瑠麗(リウリー)が出迎えてくれた。

 髪を結い上げ綺羅びやかな簪を差し、化粧をするとまるで別人みたいで、目が合うまで瑠麗(リウリー)だと分からないほどだった。


瑠麗(リウリー)、とても似合っているわ」

「ありがとう。雪燕(シュウエン)は何色の衣にする? 私のお勧めはね~」


 でも、口を開くといつもの瑠麗(リウリー)で、なんだかホッとして、思わず抱きしめてしまった。


「あら、どうしたの? 大婆様に怒られた?」

「ううん。瑠麗(リウリー)を見たら安心したの。でも、大婆様って怒ることもあるの?」

「うん、私はすっごく怒られたわ。死の谷の秘密を勝手に喋るなとか、帰りが遅いとか、あとは……人に恋するな~とかさ」


 瑠麗(リウリー)は大婆様の声や口調を真似しながら話してくれた。


「えっ、恋しちゃ駄目なの?」

「うん。恋は盲目なりって言うでしょ。愛するより愛されろが鉄則なのよ」

「ふーん」

「まあ、雪燕(シュウエン)は心配ないんじゃない? 私はもっと頑張らなきゃ。ほら、早く選んで着替えましょう? 可愛い格好して、泰然(タイラン)に喜んでもらいましょ!」

 

 ****


 瑠麗(リウリー)と共に、宴の会場へと向かうと、華やかな楽器の演奏が聞こえてきた。

 中央に舞台があって、女性たちの舞が披露されている。

 それを囲むようにして、各々に膳が用意され泰然(タイラン)様と翡雲(フェイユン)様、そして瑛麗(インリー)様はもう席についていた。


 私は髪色に合わせて紫の衣を選んだのだけれど、泰然(タイラン)様も同じ色の衣だった。そういえば、谷の毒に侵されてから、泰然(タイラン)様の髪も紫色だ。

 なんだかお揃いみたいで嬉しい。


 私は泰然(タイラン)様の隣の席に案内され、翡雲(フェイユン)様は瑛麗(インリー)様と瑠麗(リウリー)に挟まれ、舞台の向こう側の席だった。


 近くで見ると、泰然(タイラン)様も普段と違い髪を結い、正装されていて、なんだか胸がドキドキした。


 可愛い格好をして、泰然(タイラン)様を喜ばせようと瑠麗(リウリー)は言っていたけれど、そんなことで喜ぶものかと不思議だった。

 でも、普段と違う装いは胸を高鳴らせるものなのかもしれない。


 隣に座ると、泰然(タイラン)様は私と目が合うと、軽く会釈し視線を戻したけれど、すぐにもう一度私に目を向けた。


雪蘭(シュウラン)?」

「はい」

「よ、よく似合っている」

「ありがとうございます。泰然(タイラン)様もお似合いです」


 頬を赤く染めながら、泰然(タイラン)様が微笑むと、丁度曲が終わり、舞を披露していた女性たちが下がっていった。


 大婆様を先頭に、珊麗(シャンリー)様と、大柄な男性が、中央を通り、舞台の真ん中で足を止めた。

 大婆様は一礼すると、大きく口を開いた。


「皆、よくぞ無事に国へ帰った。瑠麗(リウリー)は、死の谷の薬師、泰然(タイラン)殿の秘薬によって呪いを解いた。瑛麗(インリー)は鍾乳洞の奥深くにて、神水の水滴を浴び続け身を清め、呪いを解いた」

「ひ、一人で?」

「そうよ」


 瑠麗(リウリー)が驚いて声を上げると、瑛麗(インリー)様は得意げに言葉を返していた。

 でも、呪いを一人で解くなんて、凄いことだと思う。


「二人ともよくやった。しかし、次期女帝は、たった三日で国へ戻った珊麗(シャンリー)だ」

「み、三日で!?」


 またまた瑠麗(リウリー)が叫ぶと、珊麗(シャンリー)様はたおやかに微笑み、口元に人差し指を当て、瑠麗(リウリー)に静かにするようにと優しく忠告していた。


珊麗(シャンリー)は、北方の部族長の息子である(ガン)殿に魅了の秘術をかけ結ばれ、愛の力で呪いを解いた」

「な、何それ!? そんな解き方もあるの!?」

瑠麗(リウリー)、少しは黙って聞きなさい」


 結局、黙っていられなかった瑠麗(リウリー)は、大婆様に怒られているけれど、驚く気持ちはよくわかる。

 瑠麗(リウリー)は二年くらいかけて解いたのに、たったの三日でそれを成し遂げたのだから。


「ごめんなさい。でも、三者三様の解き方で驚いたのよ」

「そうだ。皆それぞれ自分の力で解いた。私はとても誇らしい。今日は楽しんでおくれ。これからは皆、それぞれ別の道へ進む。顔を合わす最後の宴となるだろう」

 

 豪華な膳が運ばれ、また楽曲と共に舞が披露される。

 お酒も振る舞われたけれど、いただこうか考えているうちに泰然(タイラン)様に没収されてしまった。


「宴を最後まで楽しめなくなるぞ」

「……はい」


 紅河では一杯だけいただいて、そのまま寝てしまった。

 多分私も翡雲(フェイユン)様くらい弱いのだろう。

 向かいの席では、瑠麗(リウリー)翡雲(フェイユン)様のお酒を取り上げていた。


 そして宴の最後を飾るのは珊麗(シャンリー)様の舞だった。


 銀色の髪を靡かせ、白い絹の衣を振り、その黄色い瞳で見つめられると、心が奪われてしまいそうになる。

 懐かしい母の舞を見ているようで、自然と涙がこぼれていた。


 向かいに座る翡雲(フェイユン)様と目が合うと、彼は優しく微笑んでくれた。翡雲(フェイユン)様も、私の母の舞を思い出しているのかもしれない。


 隣に座る泰然(タイラン)様は、ポツリと呟いた。


「似ているな」

「え?」

雪蘭(シュウラン)の舞に、雰囲気が似ている。祖国が同じだと、似るものなのだろうか」

「私と……」


 泰然(タイラン)様には、そんな風に見えるんだ。嬉しいけれど、私はこんなに優美に舞えているのだろうか。


「どうした?」

「いえ、私は珊麗(シャンリー)様の舞を見て、母を思い出して」

「そうか、母の舞に似ているのか。雪蘭(シュウラン)の舞の中に、君の母は生きているのだな」

「私の舞に母が……嬉しい」


 宴は珊麗(シャンリー)様の舞を最後にお開きとなった。


 いつの間にか瑛麗(インリー)様にお酒を勧められていた翡雲(フェイユン)様は、また酔って寝てしまうのかと思ったけれど、外では気を張っている様子で、泰然(タイラン)様に付き添われながらも自分の足で部屋へと戻っていった。



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