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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第四章 母の故郷は秘密がいっぱいでした

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011 大婆様

 先日、都から翡雲(フェイユン)様宛に届いた書簡には、死色の谷へ迎えを遣わす旨も書かれていたそうだ。

 まさかこんなに早く来るとは思っていなかったそうだけれど、翡雲(フェイユン)様は二つ返事で密仙(ミーシェン)国への案内を瑛麗(インリー)様に申し出た。


 ということで、今から密仙(ミーシェン)国へ向かうことになった。屋敷の前には馬車が二台停められていて、御者はどちらも女性の方だった。

 瑛麗(インリー)様は前の馬車に乗り、私たちは四人で後ろの馬車に乗った。


「これで、みんな目隠しをして」


 瑠麗(リウリー)は黒い帯を一人ずつに配った。


「行き方は秘密だから」

「ここまでするなら招かなければいいのに」

「うーん、まあ、しきたりだから。皇族に嫁ぐ場合は、大婆様が相手の男性の人となりを見るの」

「その大婆様のお眼鏡に叶わなかった場合、どうなるのだ?」

「ろくでもないやつだった場合は、奴隷にしちゃうかな」


 翡雲(フェイユン)様が面白半分で尋ねると、瑠麗(リウリー)はサラッと答え、翡雲(フェイユン)様の顔が凍りついた。


「えっ?」

翡雲(フェイユン)様は大丈夫ですよ! 多分」

「えっ……」

「もし駄目でも、私の奴隷にしてあげますから」

「…………」

「冗談ですよ。前例は大昔にしかありませんし」


 瑠麗(リウリー)翡雲(フェイユン)様の反応を楽しんでいるみたいだけど、どこからどこまでが冗談なのだろう。


「あるのだな……」

「出発するので、皆さん、目隠しを」


 翡雲(フェイユン)様が落ち込んでいる中、皆がそれぞれ黒い帯で目を隠すと、瑠麗(リウリー)は言った。


「では、次に目を覚ました時は、密仙(ミーシェン)国です。それまで、おやすみなさい」


 おやすみ? どういう意味だろう。

 嗅いだことのない花のような甘い香りが鼻をかすめた瞬間、フッと意識が消えていった。


 ****


「お目覚めください」


 凛とした女性の声で目が覚めた。

 目を開けようとして、目隠しをつけていたことを思い出す。


 まだ馬車の中だろうか。

 座ったまま眠らされていたようだ。

 目隠しを外すと、目の前に女性が座っていた。


 瑛麗(インリー)様に似ているが、髪は銀色で瞳は黄色い。おそらく、魅了の術を持ち、蛇のように地を這い毒牙を持つ女性が、この方だろう。


「ご察しの通り、一の姫の珊麗(シャンリー)にございます。雪燕(シュウエン)様ですね?」

「はい。あの、他の方たちは?」

「お一人ずつ、大婆様とお話をしていただいています。雪燕(シュウエン)様の番ですので、一緒にいらしていただけますか?」

「はい」


 馬車を降りると、そこはもう屋敷の中で、奥へ奥へと案内されていくと、泰然(タイラン)様が大きな扉の部屋から出てくるところだった。


泰然(タイラン)様」

雪蘭(シュウラン)?」


 何故か苦笑いの泰然(タイラン)様をみたら、緊張していた身体が少しだけ解れた気がした。


「入りなさい」


 部屋の奥から老婆の声がした。扉が中から開かれ、私だけ進むようにと、珊麗(シャンリー)様が手で指し示した。


 大婆様は部屋の奥の椅子に腰掛け、私を隣の椅子へ座るようにと手招きしていた。


雪燕(シュウエン)、待っていたよ」

「大婆様、雪燕(シュウエン)がご挨拶いたします」

「おお、本当に母親にそっくりだね。早く座りなさい」

「はい」


 優しい笑顔に安心して、私は隣に座った。

 雰囲気が、義母である皇后に似ている気がする。


「よく来たね。雪燕(シュウエン)は自分の力でここへ来た。お前には、ここに住む資格がある。そのつもりはないことは分かっているが、まず伝えておく」

「はい」

「そうだ、雪燕(シュウエン)のことを占ってやろう」


 大婆様は色や形の違う石を五つ手に取ると、手の中で混ぜ机の上に投げて転がした。赤い石だけ床に落ち、他の石はまばらに散っている。


「身近な人との別れがある。しかし、周りの者たちは雪燕(シュウエン)を支えてくれる。遠くから見守る者もいれば、共に歩いてくれる者もいるだろう」

「…………」

「だが、あの者とは離れた方がよい」

「あの者とは、どなたのことですか?」

「先ほどこの部屋から出てきただろう。あの、泰然(タイラン)という若者だ」


 大婆様は、笑顔のまま淡々とそう述べた。


「どうしてですか?」

「破滅。そう出ている。よい時もあるが、そうでない日も必ず訪れる。そして、いずれ身を滅ぼし、別れるときが来るだろう。よいのか?」


 破滅だなんて驚いたけれど、いずれ身体は滅びるものだ。私と一緒にいることで、泰然(タイラン)様が身を滅ぼすと言うのなら、それは避けなければならないけれど、そうではないのなら……。


「はい。私の身体が滅びるまで泰然(タイラン)様と一緒にいられるなら、それは幸せなことです」

「はははっ、そうか、そうか、あの者と同じことを言うのだな」

「えっ?」

泰然(タイラン)雪燕(シュウエン)と同じことを言っていた」

「そうなのですか……」


 嬉しくて、自然と口元が緩んでしまう。

 だから、さっき泰然(タイラン)様は苦笑いをされていたのかな。


「きっと幸せになれるだろう。ただし、信じるべき人を間違えないように」

「信じるべき人?」

雪燕(シュウエン)碧砂(ビーシャ)国との縁はまだ切れてはいない。遠からず、また碧砂(ビーシャ)国の地を踏む日が来るだろう。その時、誤った者を信じれば、泰然(タイラン)とは永遠に別れることとなるだろう」

「そんな……」

泰然(タイラン)に聞かれたぞ。雪燕(シュウエン)を呪ったのは誰であろうかと」

「ご存じなのですか?」

「どうだろうか。ただ、密仙(ミーシェン)国からあの薬を作り誰かに渡した記録はない。そして、国の外にいる者で、あの薬を作れるものは一人しかいない。知りたいか?」


 それが分かれば、薬の入手先が判明する。 

 知りたいかと聞かれたら、はいと答えるしかない。


「知りたいです」

「そうか……。あの薬を作れるのは、雪燕(シュウエン)もよく知る人物だ。それは、義母である碧砂(ビーシャ)国の皇后だ」




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