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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第四章 母の故郷は秘密がいっぱいでした

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009 蓮池の真ん中にて

 死色の深淵の谷、そう呼ばれて恐れられる谷の毒に侵された、この夜の山道を泰然(タイラン)様と並んで歩く日が来るなんて、思ってもみなかった。

 月明かりに照らされた山道は、昨晩とは違い、狼の気配も他の動物の気配もしない。


「狼は、あの茸を狙っていたのだろうか」

「そうみたいですね。リウリーもそう言っていました」

「ん? リウリーはそれを知っていて、雪蘭(シュウラン)を行かせたのか?」


 泰然(タイラン)様の目つきが一瞬で怖くなった。

 これは内緒にしておくべきだったかもしれないと思ったけれど、来月も満月の日に採取に行くのだから、知っておいたほうがよいだろう。


「でも、リウリーも一緒でしたし、お友達も呼んでくれて」 

「リウリー自身も怪我をして、雪蘭(シュウラン)にも」

「私は怪我していません。泰然(タイラン)様が守ってくれたので」

「…………」

「結果としては良かったのですよ。やらない選択肢はありませんでした。それに、みんな無事でしたから」

「そうだな。この場に囚われることなく、皆、次の場所へと進んでいける。──池が見えてきたな」


 夜の蓮池は、昼間よりも静かで、月明かりを水面に受け、キラキラと光って見えた。

 だけど、あの光の道はない。

 やはり満月の夜しか現れないのだろう。

 

 蓮池の島へ行くと、水は大分引いていて、大きく膨れ上がっていた茸がまだ残っていた。光っていないと、どれが紫に光る茸なのか、判別がつかなかった。


「次の満月で、また茸は光るのだろうか」

「きっと光ります。今度は、一緒に来たいです」

「しかし、満月の夜は狼が出るだろう。俺一人で行く」

「それは駄目です。狼は群れで動いていました。弓だけでは危険です」


 すると泰然(タイラン)様は腰の剣に手をかけた。


「剣術も得意だ。囲まれても問題ない」

「でも……そうだ、私、弓を覚えます。後方支援をします!」

「……では、弓の課題を出すから、それを全て達成できたら一緒に行こう。それでいいか?」

「はい! そうだ、翡雲(フェイユン)様が作ってくれた包子食べましょうか?」

「そうだな」


 池の真ん中の島の枯れ木の大きな根に腰を下ろし、私と泰然(タイラン)様は、ここで夕食を食べることにした。


 瑠麗(リウリー)翡雲(フェイユン)様も二人で夕食の時間だろうか。


「美味しい。まだ温かいですね」

「そうだな」


 月を見上げながら包子を頬張る泰然(タイラン)様の横顔を見ていたら、私の視線に気付いた泰然(タイラン)様は、少し恥ずかしそうに私を見つめ返した。


雪蘭(シュウラン)……あの日、伝えた言葉は、まだ有効だろうか?」 

「あの日?」

密仙(ミーシェン)国から戻ったら、一緒に都へ来てほしい」 

「……、ほふっ」


 口いっぱいに包子を頬張っていることを忘れていて、頷きながら変な声を出してしまった。

 恥ずかしくて、口を押さえてうつむいて、急いで包子を飲み込もうとする。


「あ、すまない。食べているときに……」


 互いに少し急いで包子を食べ切る。泰然(タイラン)様は、一度深呼吸してから、言葉を発した。


「父に紹介したい。その後は、都の職に就くことになるだろう。ここに秘薬の研究をしに来ることもあるだろうが、拠点は都になると思う。俺と、ずっと一緒にいてくれないか?」

「はい、とても嬉しいです。泰然(タイラン)様の側にずっといられるなんて……ですが、私で……良いのですか?」

「父は隣にいてほしい女性は自分で見つけろと、いつも俺に言っていた。だから、許婚とかも、いないし、俺は、それが雪蘭(シュウラン)だと思っている。多分、君の舞を初めて見た時から、ずっと君のことばかり考えていた。共に過ごす日々が心地よく、愛おしくて、それから先もずっと、一緒に空を見上げ風を感じ、季節の移り変わりを共に過ごしたい」


 泰然(タイラン)様の優しい瞳に見つめられて、胸の奥が熱くなる。嬉しくて涙が溢れそうになるのを我慢して私は泰然(タイラン)様の言葉に答えた。

 

「私も同じ気持ちです。ずっとお側にいさせてください」

「ああ。……気持ちが通じ合うとは、こんなにも嬉しいものなのだな」

「はい」


 耳を真っ赤にしてはにかむ泰然(タイラン)様が、とても愛おしい。その横顔をじっと見ていたら、泰然(タイラン)様もこちらを見て、私の頬に手を伸ばした。

 涼しい夜の空気と、熱い泰然(タイラン)様の指先が対照的で、私の頬にもその熱が移っていく。


雪蘭(シュウラン)


 名前を呼ばれ濃い深緑色の瞳で見つめられる。

 泰然(タイラン)様の瞳には池の水で反射した月明かりが、キラキラと揺らめいていて、とても美しくて魅入ってしまう。


 ゆっくりと顔が近づいてきて、私はそっと目を閉じた。 

 そして、唇に一瞬だけ温かいものが触れると、すぐに離れていった。


 心臓がドキドキして爆発してしまいそうだ。

 そっと瞳を開けると、目の前に泰然(タイラン)様がいて、彼も緊張した様子で顔を赤らめ、そしてもう一度、私に口づけをした。











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