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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第四章 母の故郷は秘密がいっぱいでした

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008 私を選んでくれたら(翡雲視点)

「えっ、ちょ……」


 戸惑う瑠麗(リウリー)に目もくれず、泰然(タイラン)は私の肩を叩くと食堂を出ていった。


 夕食に包子を作った後、やはり側室についての話が気になって、都への書簡の返事を書いていた。少し食堂を離れていた間に、まさか二人がそんな話をしているなんて。


瑠麗(リウリー)

「ど、どこから聞いてました?」

「イノシシは飼えるけど、人は飼えない、のあたりから」

「……ほぼ全部じゃないですか」


 瞳を潤ませて、恥ずかしそうに俯く瑠麗(リウリー)。これがあのウリ坊なのか。


「わ、私は、君を飼うつもりはないぞ。そんな理由で困っていたわけではない」

「そんな馬鹿なこと考えるの、泰然(タイラン)くらいだと思います。あの人、私のこと、非常食くらいにしか思ってなかったと思うので」

泰然(タイラン)は、そこまで変な奴では……。しかし、怪我をしたリウリーを初めてここに連れてきた時、食糧か? と聞かれたな」


 懐かしい。

 一年、いや、二年ほど前の話ではないだろうか。


「ですよね。私も覚えています。……私、全部覚えています。翡雲(フェイユン)様が何度も助けてくれたこと、側に置いてくれたことも、一緒に……紅葉を交換したことも」

「私も覚えている。私にとっても大切な思い出だ。あの時の君への気持ちは、瑠麗(リウリー)として、人になった今も変わらない」

「えっ、ほ、本当ですか?」


 顔を上げた瑠麗(リウリー)は、やっと私と目を合わせてくれた。大きな丸い黄色みがかった瞳は、ウリ坊の時とそっくりだ。

 

「ああ、私が君を選べば、私は君と婚約することができるのか?」

「は、はい。男性側が気に入った女性を選ぶというしきたりがあります。その方が、密仙(ミーシェン)国に有利だからです。侍女も二人までなら、密仙(ミーシェン)国の女性を選べます」

「それが、有利と言えるのか?」

「はい、ただ充てがわれるのではなく、自ら選んだ女性のほうが大切にされるからです。私たちは、ただ嫁ぐのではありません。密仙(ミーシェン)国に危険な思想を持つ国ではないかと監視する役目と、そうならないために誘導する役目があります。だから、国と国を繋ぐための道具でもあるのです。ですから」

「私は瑠麗(リウリー)を道具にしたくない」


 そういう役割があることは当たり前で、それは皇族に限ったことではなく、どの家でも同じようなものである。

 だけど、縛りがある中でも、私は少しでも自由に生きたい。

 そして私の側にいてくれる人にも、自由でいてほしい。


「わ、私も翡雲(フェイユン)様を道具にしたくありません。姉のように魅了や薬で傀儡のように扱うことは絶対にしません。ただ側においていただけたら」

「ん? なんか物騒な話が出たような」

「あ、えっと、雲龍(ユンロン)国が、密仙(ミーシェン)国を乗っ取ろうとしたり、危害を加えようとしたときのみの話です」

「…………はあ、まだ若いのに、呪いにかけられ国を放り出され、それでも国のために重責を負っているのだな」


 瑠麗(リウリー)は小首を傾げると、クスっと笑みをこぼした。


「それが私の普通です。翡雲(フェイユン)様も、似たようなものかと思っていました」

「そうかもしれないな」


 私が頷くと瑠麗(リウリー)は満足そうに微笑み、ハッと何か思い出したような表情をすると、うつむき気まずそうに尋ねた。


「あ、あの時、どうして困られたのですか? 私が人間だってわかった時、喜んでもらえなかったことが、少し、というか、かなり悲しかったんです。それも、私がウリ坊の記憶が無いほうが、嬉しい様子だったから……」

「す、すまない。その……君のような美しく可憐な少女を、私は会う度に愛でて、時には一緒に床に入り、そして……紅河の宿では、酔った勢いで一晩中、君を枕にして寝てしまっただろう? なんてことをしていたのだと、思い出すだけでも穴があったら入りたい思いで、瑠麗(リウリー)に顔向けできなかったのだ」

「ま、枕ですか?」


 やっと言えた。言えたけど。

 あれ、この反応は……知らなかったのか?


「あ、そうか。リウリーはずっと寝ていたから気づいていなかったのか」

「ふふふっ、私、枕にされていたのですか?」


 瑠麗(リウリー)は、お腹と口元を手で押さえながら笑っていた。


「怒っていないか?」

「怒っていませんよ。人で表現したら、膝枕ですね」

「それは……いいな」


 じっと私を睨んだあと、瑠麗(リウリー)はまたニコッと笑ってくれた。


「じゃあ、今度膝枕してあげます。でも……私を選んでくれたら、してあげます。絶対に姉を選ばないでくださいね」

「わかった。約束だ」


 小指を出すと、瑠麗(リウリー)の小指を絡めてくれて、約束を交わした。


翡雲(フェイユン)様、お腹が空きました。私、ずっと翡雲(フェイユン)様の手料理を一緒に食べたかったんです」

雪蘭(シュウラン)と話せたのだろう? 言ってくれたら作ったのに」

「フゴフゴしながら食べるの、あんまり見られたくなかったから」


 恥じらう姿が可愛い。

 お腹いっぱいに食べさせてやりたい。

 でも、その前に……。


「頭、撫でてもいいか?」

「えっ、ど、どうぞ」

「では……。あ、なんとなくリウリーっぽいような。癒される」

「あの、人前ではやらないでくださいね。子どもに見られるの嫌なので」

「ん、わかった」








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