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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第四章 母の故郷は秘密がいっぱいでした

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006 仲直りしたいなら……(泰然視点)

「うわっ、危なっ」 


 翡雲(フェイユン)が部屋にいなかったので、食堂へ行こうとしたら、瑠麗(リウリー)雪蘭(シュウラン)の部屋へ真っしぐらに走っていくところだった。

 避けなければぶつかっていただろう。

 まさに猪突猛進だな。


 食堂では翡雲(フェイユン)が食器を片付けていた。


「お、泰然(タイラン)

「話があったんだろ」

「あー、その前に、お腹すいた」

「じゃあ、作りながら聞こうか?」

「おお、そうだな」


 翡雲(フェイユン)は野菜を手に取り、水で洗い、いつものように包丁で切り、


「痛っ」


 指まで切っていた。翡雲(フェイユン)らしくない。


「はあ、もう座っていろ」

「ん、でも身体は平気なのか?」

「死にかけた割には元気だ。秘薬の力かな」


 野菜を切り鍋に入れる。

 みんなお腹が空いているだろうし、昼は麺料理にするか。


「そうか、秘薬というか、愛の力だな」

「…………」 


 冗談は健在らしい。

 無言で包丁を握る手に力を込めると、翡雲(フェイユン)は苦笑いで後ずさった。


泰然(タイラン)、冗談だって、ははは」

「で、さっき部屋に来たけど、瑠麗(リウリー)のことか?」

「ああ、そうなんだ。私は瑠麗(リウリー)がウリ坊の時になかなかなことをしていなかったか?」 

「なかなか?」

「会えば抱きしめ撫で回していたし、頬を擦り寄せ可愛がっていた。布でくるんで背中に背負ったり、紅河の宿では、酔った勢いであんなことまで……」

「あんなこと? ウリ坊を相手に何をしたんだ?」


 今までの自分の行動を振り返り、色々と思うところがあったということか。

 まあ、確かに猫可愛がりしていた動物が、もし雪蘭(シュウラン)だったら、気まずい。

  

「私は、酔ったらすぐ寝てしまうだろう?」

「ああ、で?」

「一人で酔うのも寂しく、ウリ坊にも酒を振る舞い、机の上で寝てしまったんだ。しかし朝起きたら、ウリ坊を……枕にして寝てしまっていたみたいなんだ!」 

「えっ……枕に?」


 何を言うのかと思えば、馬鹿馬鹿しい。

 そんなことで、ずっとウジウジしていたのか? 

 それって、瑠麗(リウリー)のことが、大切だからってことだよな。


瑠麗(リウリー)は私にだけ様をつけて呼ぶし、どこか余所余所しいのは、あのことで怒らせてしまったからかと思ったのだ。しかし、ウリ坊の頃の記憶は曖昧だそうで、覚えていないと言う」

「ん? そうか?」

「やはり、私を気遣い嘘をつかせてしまったのか。それとも、私と関わりたくないから、そう言わせてしまったのか……。様子がおかしかった。申し訳ないことをしてしまったな」

「ふーん」


 適当に相槌を打ちながら、小麦粉を手で千切って沸騰した鍋に入れていく。

 翡雲(フェイユン)はため息交じりに言葉を続けた。


密仙(ミーシェン)国からの知らせが来たら、ウリ坊と一緒に都へ帰ろうと思っていた」

「へぇー、ん?」

「リウリーと約束したのだ。いつも、あのウリ坊には助けられていた。泰然(タイラン)には雪蘭(シュウラン)がいるし、私もウリ坊も、この屋敷で過ごすべき時を終えるときが来たのだと思った。だから、ウリ坊を都へ連れて行こうと思った。これからはずっと一緒にいようと、そう思ったんだ」


 ウリ坊とそんな約束までしていたのか。

 それなら話は単純だ。


「だったら、瑠麗(リウリー)と婚約すればいいのではないか?」

「こ、婚約!?」

「婚約相手は翡雲(フェイユン)が選ぶと言っていたと思うが」

「そ、そうなのか……」


 そう呟いて微かに微笑む翡雲(フェイユン)

 なんだ、嬉しそうじゃないか。


「今朝、瑠麗(リウリー)が話していたじゃないか。聞いていなかったか?」


 俺は翡雲(フェイユン)に、瑠麗(リウリー)が話した内容を伝えた。


 瑠麗(リウリー)は王位継承権争いのため、呪いをかけられていたこと。そして、あの噂通り、一の姫は蛇にされ、二の姫は蝙蝠に、そして三の姫であった瑠麗(リウリー)は猪に姿を変えられ、野に放たれたこと。

 婚約を結ぶ相手は、男性側が気に入るかどうかが重要視されており、他国の皇族に嫁ぐ場合、国へ呼び、姫を選んでもらう、しきたりだということを伝えた。


「仲直りしたいのなら、とりあえず、枕にしたことを謝ってみたらどうだ?」

「しかし、蒸し返されたくない話なのかもしれぬ」

「そうか、なら、このままだな」

「このまま?」

「互いに会話を避け、瑠麗(リウリー)は国へ帰り、翡雲(フェイユン)も都へ戻る。婚約者として選ばなければ、その後はもう会うこともない。それでいいのだな」

「それは……嫌だ。嫌だな」


 しょんぼりと肩を落とす翡雲(フェイユン)

 さっさと仲直りしてくればいいのに。


「できたぞ、食べるか?」

「おお」

「二人も呼んでくるけど……、ちょうど来たようだな」


 四人で円卓を囲み食事をするがなんだか皆、ぎこちなく箸を進めている。


「美味しいです。ね、瑠麗(リウリー)

「うん」

翡雲(フェイユン)様が作ってくださったんですか?」

「それが、包丁で指を切ってしまって、すべて泰然(タイラン)が作ったのだ」


 雪蘭(シュウラン)が尋ねると、指先を見せながら翡雲(フェイユン)は苦笑いで言った。


「さ、流石泰然(タイラン)様です。今度、瑠麗(リウリー)も一緒に作ってみましょう?」

「うん」


 会話が終了した。

 そして皆、黙々と食べ進めていると、外から馬の嘶きが聞こえた。おそらく翡雲(フェイユン)の侍衛が来たのだ。

 伝書鳩ではなく、侍衛自ら来るのは珍しい。

 窓からひょこっと顔を出した侍衛は、翡雲(フェイユン)に書簡を手渡した。


「都からの知らせです。密仙(ミーシェン)国との話が進み始めたようです。大臣の中には、正室ではなく側室でよいのではとの話が出ています」

「側室だと?」

「はい、密仙(ミーシェン)国の姫は化け物との噂もあり、あまりにも翡雲(フェイユン)様がお可哀想だという話が……」


 ダンっと椅子が倒れる音が響いた。

 侍衛の話の途中で瑠麗(リウリー)が勢いよく立ち上がり、椅子を倒したのだ。


 瑠麗(リウリー)はまだ食べかけの麺を残したまま、目に涙を浮かべ食堂を飛び出していった。















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