003 姉妹
瑠麗が何度も泰然様に失礼な態度を取るから、流石の泰然様にも苛立ちが見られ、朝の薪割りをしていないからと、一人で外へ行ってしまった。
食堂で二人になると、瑠麗は、今の心境を話してくれた。
「なんか、思ってたのと違うの」
「翡雲様が、瑠麗を選ぶか心配しているの?」
「そうね、それもあるわ。だって、姉はすごい綺麗な人なんだもの。でも綺麗なだけじゃないわ。一人目の姉は才色兼備で雪燕と見た目が似てるの。銀色の髪に黄色い瞳、舞が得意で魅了の術を心得ているの」
「み、魅了?」
それは、妖術の類のものだろうか。
瑠麗は更に言葉を続けた。
「二人目の姉はね、肌が白く艷やかな黒髪で、木炭のように黒く美しい瞳を持ち、薬作りが得意なの。きっと翡雲様を薬漬けにして傀儡にするわ」
「……く、傀儡? 内容が怖いのだけれど、本当なの? それなら、そのことを翡雲様に伝えておけばよいのではないかしら」
「そ、それじゃあ、私を選んでって言っているみたいで恥ずかしいじゃない!? 雪燕なら言える? 春燕は腹黒いから、私を選べって!?」
「……言えないかも、でも、次元が違うというか」
でも、春燕だって毒を盛っていたのだから、同じようなことだろうか。
「私なんかじゃ、絶対に姉に勝てない。しかも翡雲様に気持ち悪がられている気がするのよね」
「そ、そんなことないわ。それに、瑠麗にもたくさんいいところがあるもの」
「例えば?」
「も、物知りなところとか、あとは優しいところとか」
「私、物覚えは良いのよ。一度聞いたことは全部覚えられるの。でも手先がとても不器用なの。調合とか苛々するし」
私も、そんなに手先が器用ということはない。
でも、舞なら得意だ。
「そうだ、舞を教えましょうか?」
「舞? でも、扇をすぐに落としてしまって苛々するのよね」
「そう……扇なんてなくてもいいと思うのだけれど。……あ、鞠を使うのはどう? 瑠麗、鞠なら得意でしょ?」
「そうね。足技なら得意かも! でも……」
「一緒にやってみましょう? 暗い顔をしていてもいいことなんてないわ。ね!」
なんだか、ウリ坊の時と逆になったみたい。
ずっと助けてくれた瑠麗。
今度は私が力になりたい。
「うん。じゃあ、久しぶりに人間だし、一緒に鞠で遊びましょう」
「ん? 練習じゃなくて、遊びたいの?」
「人間なのは久しぶりだから、体を動かす勘を取り戻したいの」
「そっか、ねえ、瑠麗っていくつなの?」
「私は、もうすぐ十五歳よ」
「えっ、年下だったの!? じゃあ、何歳の時に猪に?」
「十二の頃ね」
「まだ子供の頃じゃない」
「別に、普通よ。私にとっては」
寂しそうに笑う瑠麗に私は居ても立ってもいられなくて抱きしめてしまった。
まだ大人になる前から、大人でいなければならなかったのだろう。
「あら、雪燕は甘えんぼうね。きっと、甘えさせてくれる人がいたのね。それはいいことよ」
「えっ、甘えてもらおうと思って抱きしめたのに」
「そうなの!? 甘えてきたのかと思ったわ」
「瑠麗はずっと一人で頑張ってきたんだね。私、もっと瑠麗のこと知りたい。たくさん教えてね」
「ふふっ、その前に鞠で遊びましょう? あら、でも鞠は無理そうだわ」
「えっ?」
瑠麗は外へ目を向けて言った。
「外が荒れているわ。碧砂国の方ね」
「あ、昨日は満月だったから、春燕が雨ごいの舞を踊ったはずだわ。雨雲が呼べたのね」
「そうかしら? あーあ、荒れるなら碧砂国だけにしてほしいわね」
「どういう意味?」
遠くから雷鳴の轟く音がする。
紫色の光が、空を這う姿が、まるで龍のように見えた。
「雪燕は気にしなくていいのよ。晴れた日にまた遊びましょう。はあ、久々の人間は疲れたなあ~。ちょっと部屋で休むわ。お昼ご飯できたら起こしてね」
「ええ、わかったわ」
瑠麗は大きな欠伸をして部屋へ戻っていった。
さて、私はどうしよう。
泰然様は何をしているだろう。
昨夜のお礼を伝えたい。部屋に行ってみよう。




