021 見ていた?(翡雲視点あり)
どうやら、翡雲様は隣の部屋にリウリーと一緒に泊まっていたそうだ。
この宿は元々三部屋分予約していて、本当は、私とリウリー、泰然様と翡雲様、そして侍衛の二人で部屋を分けようとしていたそうだ。
眠いせいか、泰然様はとても怒っていて、二人で隣の部屋で話し合い? をしている。
私はリウリーと二人で翡雲様が泊まっていた部屋で朝食と身支度を済ませた。その間、昨日リウリーと翡雲様が何をしていたのか話を聞いた。
二人は、紅葉の木の下で葉っぱを交換して、高台で夕陽を見て、それから宿で夕食をいただいたそうだ。その後、翡雲様はお酒を一杯だけ飲み、すぐに寝てしまったそうだ。
「リウリー、昨日は楽しかったのね。よかった」
『ええ、でも私が話したこと、なんとなく身に覚えがない?』
「身に覚え?」
『うん、紅葉とか夕陽とかさ』
確かに、私も同じようなことをしたような……。
「実は私も……泰然様とね、紅葉を」
『うん、知ってる』
「え?」
『見てたから、知ってる。翡雲様は、会話までは聞こえてなかったと思うけど。私、耳がいいからさ、全部聞いてたわ』
「……え」
見ていた? じゃあ、ずっとそばにいたってこと?
『翡雲様、二人のことを応援しているっていっていたでしょ。泰然になら、雪蘭を任せられるって言って、ずっと影で見守っていたのだから』
「そう仰っていたけれど、なんだか恥ずかしいわ」
『でもでも、まさか雪燕の方から、赤龍橋の上で、泰然の気持ちを煽るなんて、驚いたわ』
「そ、そんなこと……してしまったかしら?」
『うん。でも、それがあったから、きっと泰然も自分の心に秘めていた気持ちを言えたのではないかしら。うふふ』
「あのね、リウリー。添い遂げてほしいって、私と夫婦になってほしいって意味で合っているかしら?」
『うーん、泰然って、嘘とかいい加減なこととか言わない奴なのよね。あんまり喋らない分、ちゃんと言葉を選んで伝えてくれていると思うの。だから、言葉のままに受けとればいいと思うわ。ぐふふ』
ちょっと語尾が変だけど、そうなのかな。
私の思い違いでも、夢でもなかったって思っていいのかな。
「そっか、ありがとうリウリー。私、夢かもしれない、なんて考えてしまって、ずっとリウリーに相談したかったの」
『相談事ならなんでも私に任せてちょうだい!』
「ふふっ、百歳だものね!」
『それは冗談だってば。あ、でもさ、泰然って都に実家があるんでしょう? 良家の坊っちゃんなら許婚とかいるんじゃない?』
「い、許婚?」
どうして考えなかったんだろう。
慧王殿下の息子なら、許婚だっているに決まってる。
『まあ、何人でも娶れるくらいの坊っちゃんなら心配ないだろうけど、許婚がいるなら前もって知っておきたいわよね。今度、聞いてみれば~?』
今度? 私が聞けるだろうか。
でも、なんて聞けばいいの。
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泰然はとても不機嫌だった。昨日は二人で楽しそうだったから、喜んでくれるかな、と思っていたのだが。
「もしかして、寝てない?」
「……寝たけど? まさか隣の部屋にいるとは。一緒に暮らすのなら勝手な行動は慎んでくれ。秘薬作りに支障が出る」
「たまには息抜きも必要だろ?」
「…………」
そう言ったら、じっと睨まれた。
うーん。やっぱり怒っている?
「いや、悪かったって。二人で過ごしてどうだったか?」
「別に、いつもと変わらない。翡雲はどうなのだ? 雪蘭と仲良くなろうとしていたのではなかったのか?」
恥ずかしそうに目線を逸らしながら尋ねるということは、ずっと気になっていたのだな。
「仲はいいぞ。でも、もうそれ以上は望まない。橋の上で良い雰囲気になったのだが、口づけをしようとして拒絶されてしまった」
「くっ……」
「はははっ、泰然は、まだまだ子供だなあ」
顔を真っ赤にしてたじろぐ泰然の頭をわしゃわしゃと撫でると、手を払いのけられた。
「やめろ、頭をなでるなっ!」
「可愛い奴だな、私が色々と教えてやろうか? 泰然だって雪蘭と──」
「いい、大丈夫だ」
プイッとそっぽを向いて私に背を向けた泰然。なんだかもっとからかいたくなってしまう。
「そうか。で、昨日は仲良く過ごせたか?」
「ああ」
「赤龍橋で紅葉を交換し合い、高台で夕陽をみて、夜の町を散策して、それから二人で宿で……」
「見てたのか?」
呆れて口を開けたまま、泰然はまた顔を赤くし、耳まで赤く染まっていく。
「はははっ、二人で気まずそうだったら、合流しようかな~なんて思っていたのだが、いらぬお節介だったな。やはり二人にとって私は邪魔者だな」
「邪魔、ではない。……都に帰るのか?」
寂しそうな泰然の瞳に一瞬目が奪われた。
今までこんなことはなかったのに、雪蘭が現れてから、だいぶ丸くなったような気がする。
「……ん? いてほしいって顔だな」
「別に」
「密仙国から招待が来るまでは居られるぞ。嬉しいか?」
「……ああ、嬉しい、嬉しい。早く戻ろう、帰ってやりたいことがある。あとは馬車で話そう」
「わかった」




