表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第三章 元許婚が秘薬作りを理由に住み始めました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/100

020 宿の夜(泰然視点あり)

 宿に行けば翡雲(フェイユン)もいるのかと思っていたが、どうやら本当に先に帰ってしまったようだ。

 侍衛の話だと、明日また馬車で迎えに来ると言っていたが、いったい何を考えているのやら。


 それに、部屋が雪蘭(シュウラン)と一緒だとは……。

 

 赤龍橋の迷信を信じている雪蘭(シュウラン)が可愛すぎて、感情を抑えきれず、丘の上であんなことを言ってしまった後なのに……。


 せめて、秘薬が完成するまでは言わないでおこうと思っていた。今はまだ、心の奥に抑えておきたかったのに。


 雪蘭(シュウラン)は、「はい」とだけ答えたあと、何も言わなかったけれど、その後、子どもみたいに瞳を輝かせながら夜の町の灯りを楽しんでいた。

 喜んでくれていると解釈してもいいのだろうか。


 そして食事の後、桂花酒を一杯飲んだだけで、頬を赤く染め、いつもよりにこにこと緩んだ表情をし始めた。

 酒は飲まさないようにしよう。

 翡雲(フェイユン)と似て弱そうな気がする。


 少しでも酔いが覚めるように、窓辺で月を一緒に見た。

 もうすぐ満月だ。


 雪蘭(シュウラン)はまたあの舞を踊るのだろうか。

 あの美しい舞をもう一度見たいけれど、それは無理だろう。新しい舞姫に気を遣い、きっと舞うことはしないだろうから。


 家族の話をすると、雪蘭(シュウラン)は嬉しそうに聞いてくれた。


「ふふっ、いいなあ。みんな仲が良さそうですね」


 確かに、家族の仲は良かったかもしれない。

 両親を尊敬しているし、妹も生意気ではあるが、可愛いと思っている。


「父は周りの反対を無視して、戦場で出会った医者の娘と結婚して……母のことをとても大切にしていた。父と母のような家庭を築くのが、小さい頃の夢だったように思う」


 もう母はいないけれど、きっと母もそれを望んでいるだろう。


「小さい頃の? 今の夢は、秘薬を作ることですか?」

「ああ、そうだな」


 それと雪蘭(シュウラン)とずっと一緒にいたい。

 とは口に出さないけれど、誓いを立てるように心の中で呟いた。


 雪蘭(シュウラン)は酔っているのか、ふわふわと溶けそうな笑みをこぼして口を開いた。


「では、それが叶ったら、次は小さい頃の夢を、一緒に叶えたいですね」


 そう言って、雪蘭(シュウラン)は俺の肩に頭を委ねた。まるで猫のような可愛い甘え方に、緊張で身体が固くなる。


 丘の上での言葉を、ちゃんと受け止めてくれていたのだと思うと、嬉しさがこみ上げてくる。


「一緒に……、そうだな。中秋節では、一緒に月餅を食べよう……雪蘭(シュウラン)? ──なんだ、寝てしまったのか」


 甘えたと思ったのは勘違いだったようだ。

 今日はあちこち連れ回してしまった。

 疲れていたのだろう。

 雪蘭(シュウラン)の脈を診るが、大丈夫そうで安心した。


 さて、寝台に寝かせ、俺は長椅子で休もう。

 雪蘭(シュウラン)を寝かせ掛布をかける。

 この油断しきった寝顔は他の者には見せたくないな。


 しばらくボーッと寝顔を眺めていたが、このまま寝落ちしてしまいそうだと気付いた。向こうで寝よう。

 立ち上がろうとしたら、袖を引かれ体勢を崩した。


「ん? 起きていたのか?」

「え……どこに行かれるのですか?」


 寝ぼけているのか、雪蘭(シュウラン)は目もあまり開けずにそう尋ねた。


「向こうの長椅子で寝るだけだ。何かあったら声をかけてくれ」

「……長椅子? 駄目ですよ。そんなところじゃ風邪を引いてしまいます。……前にも一緒に、寝たじゃないですか」

「それは……」


 前は酔っていたからで、今日は雪蘭(シュウラン)に合わせで一杯だけ口にしただけだ。

 眠気も飛んでいってしまったし、隣で寝るなど絶対にできない。


「じゃあ、背中合わせで寝ましょう。それならいいですよね」


 背中合わせって……なにをどう考えたらそんな可愛いことを思いつくのだ。


「わかった、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


 雪蘭(シュウラン)が向こうを向いて寝て、俺も背中を向けて寝転んだ。

 寝台には暖房機能があって、心地よい暖かさだ。

 が、しかし寝るわけにはいかない。

 背中の方から寝息が聞こえ、俺はそっと寝台から降りて長椅子へ移動した。


「はあ、眠れる気がしない」


 ここからでも寝台で眠る雪蘭(シュウラン)の姿が見えた。

 なぜあんな無防備に眠れるのだろう。信頼されている、と解釈すればいいのだろうが、翡雲(フェイユン)が一緒でも同じことをしそうな気もする。


「はあ……いてっ」


 寝返りを打つと長椅子から落ちてしまった。

 しかし、ここのほうが雪蘭(シュウラン)が見えないから、眠れる気がしてきた。


 はあ、早く朝にならないだろうか。


 ****


 朝目が覚めると泰然(タイラン)様の姿がなかった。


 確か一緒に月を見ていて……その後の記憶が一切ない。

 外は明るい、もしかして、寝過ぎてしまった?


 慌てて支度をしようと着替えを取りに行こうとしたら、長椅子の下で寝ている泰然(タイラン)様を見つけた。


「えっ……どうしてこんなところに。もしかして、長椅子から落ちたのでは……」


 右腕を枕にしてすやすやと気持ちよさそうに眠っている。


泰然(タイラン)様、お怪我はないですか?」


 声をかけても起きない。

 またお酒を飲み過ぎてしまったのだろうか。

 お酒の匂いがするかと思って、顔を近づけ匂いを嗅いでみると、至近距離で泰然(タイラン)様の瞳がパッと開いた。


「あ、おはようございます!」

「な……あ、ああ。おはよう」


 泰然(タイラン)様はサッと体を起こすと、後ろに下がって長椅子に背中をぶつけていた。


「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「大丈夫だ、もう朝か……」 

「すみません、私だけ暖かい寝台で寝てしまって」

「いや、よく眠れたか?」


 泰然(タイラン)様はまだ眠そうに欠伸をしながら尋ねた。

 やっぱりまだ眠そうだ。


「はい、泰然(タイラン)様は、もう少し寝られますか?」

「大丈夫だ。あ、そうか」

「どうしましたか?」

「眠気覚ましに、薬膳茶でも淹れようと思ったんだが、荷物を馬車に置いてきてしまった。まあ大丈夫だ。さて、朝食の準備を宿の者に頼もうか」


 私は、立ち上がり、部屋を出ようとした泰然タイラン様の手を引き止めた。

 

「では、朝食の準備が終わるまで寝ていてください。私が宿の方に伝えてきます」

「しかし……」


 渋る泰然(タイラン)様の背中を押し寝台まで追いやり、私は部屋を出ると、ちょうど隣の部屋の扉も開き、出てきた方と目が合った。


「えっ、翡雲(フェイユン)様!?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ