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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第三章 元許婚が秘薬作りを理由に住み始めました

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018 贈り合い

「あれ、翡雲(フェイユン)は?」


 待ち合わせ場所の橋の真ん中で待っていると、ようやく現れた泰然(タイラン)は辺りを見回しながら尋ねた。

 風呂敷で包まれた何かを小脇に抱え、手には風車や飴が握られている。

 

「リウリーがどこかへ行ってしまって、探しに行ってくれています」

「リウリーが? 翡雲(フェイユン)と遊びたいのだな」

「リウリーが翡雲(フェイユン)様に懐いていること、知っていたのですね」

「ああ、ではこれは、俺が食べるか」

 

 ウサギの形をした飾り飴を見て、泰然(タイラン)様は言った。一つはリウリーの分だったのだろう。


「二つあるのですが……」

「ひとつは雪蘭(シュウラン)に、それと風車もいるか? あまりこういう物は買ったことがなくて、つい」

「ください」


 泰然(タイラン)様は、飴をひとつと、風車を渡すと、私の頭の上を見つめ、手を伸ばした。


「これ、乗っていたぞ」

「えっ……」


 いつの間にか、紅葉の葉が頭の上に乗っていたみたいで、泰然(タイラン)様は私に紅葉を渡した。

 なんだか可笑しくて笑ってしまった。

 だって泰然(タイラン)様の頭の上にも紅葉が乗っているのだから。


 少し背伸びをして、私も泰然(タイラン)様の頭の上の紅葉を取って、それを手渡した。


泰然(タイラン)様も乗ってましたよ」

「えっ、いつの間に……」

「ふふっ、お揃いですね」

「お揃い……か」


 泰然(タイラン)様は欄干にもたれかかりながら、ウサギ飴の頭を咥え、紅葉を指でくるくる回しながら言った。


泰然(タイラン)様も飾り飴を、頭から食べますか?」

「ん? 何も考えずに食べていた」

「そうでしたか、私は食べている途中で目が合うと食べづらいなと思って、頭から食べます」

「ははっ、そうか、面白い考えだな。──俺は薬作り以外のことに関心が薄くて、あまり他のことに興味が湧かないんだ。でも、雪蘭(シュウラン)といると楽しくて、いつも気になって君に目がいってしまう」

「私、そんな変なことばかりしていますか……恥ずかしいですね」


 でも、泰然(タイラン)様が楽しいなら、それでいい。

少し強めの風が吹いて、泰然(タイラン)様は紅葉の木を見上げた。葉が散り落ち、風車がくるくると回る。

 

「ああ、変なことばかりだ。君が現れてから、自分がおかしい。ただ過ぎていく毎日が、色鮮やかで、いつもの空が美しく見えるようになった。君はいつも俺に迷惑をかけるというけれど、そんなこと思ったこともない。むしろもっと頼られたい」


 さっき翡雲(フェイユン)様と町を歩いていた時、本当はこの飴が欲しかった。風車からも目が離せなかった。

 でも、翡雲(フェイユン)様には言えなかった。


「私、頼ってばかりですよ。私が欲しい物も、欲しい言葉も、いつも泰然(タイラン)様がくれるんです。泰然(タイラン)様と一緒にいると、生きていてよかったなって思えるんです」

「そうか、それなら良かった」


 泰然(タイラン)様はふわりと優しく微笑んだ。

 この笑顔をずっと見ていられたらいいのに。


 泰然(タイラン)様は飴を頬張りながら、また紅葉の葉を指でくるくる回している。


 そうだ、この紅葉は互いに贈り合ったことになるのかな。大切にとっておこう。

 そう思って懐に仕舞おうとしたけれど、飾り飴と風車を持っていたから上手く出来なくて、紅葉は指から滑り、水路へと落ちていった。


「あっ」

「どうした?」

「さっき、泰然(タイラン)様がくれた紅葉を落としてしまいました」


 くるくると円を描きながら落ちていった紅葉は、他の紅葉に混ざってわからなくなり、流れていってしまった。


「紅葉が欲しかったのか?」

「いえ。橋の上で、紅葉を互いに贈りあった男女は結ばれるって、翡雲(フェイユン)様が言ってましたよね、だから……」


 言いながら泰然(タイラン)様へと目を向けると、泰然(タイラン)様は流れていく紅葉を見ながら、何度も瞬きをして、唇をキュッと噛んで頬を赤く染めていた。


「あ、えっと……その……」


 私は何を言ってしまったんだろう。

 これじゃあまるで、泰然(タイラン)様と結ばれたいって言っているのと同じだ。

 恥ずかしくて顔を下へ向けると、泰然(タイラン)様が私の頭に微かに触れて言った。


「それはただの迷信だ。──でも、また受け取ってくれるか?」


 真っ直ぐに私を見つめて、真っ赤な紅葉を差し出す泰然(タイラン)様。やっぱり、いつも私がしてほしいことを、泰然(タイラン)様が叶えてくれる。


「ありがとうございます。大切にします」

「俺も持っておこうかな。──さ、さて、そろそろ帰らねばならないな。暗くなってしまう。とりあえず馬車を近くに停めてある。翡雲(フェイユン)の侍衛の一人はそこに待たせてあるから行こう」

「はい」


 泰然(タイラン)様は私の前に手を差し伸べた。


「階段に葉がたくさん落ちている。滑りやすいと思ったのだが……」

「あ、ありがとうございます」


 泰然(タイラン)様と手を取り歩き始めた。

 うれしいのに、なんだか恥ずかしい。

 こんなに手が大きかったんだ、とか、温かいなとか、変に意識してしまう。

 橋の階段が終わると、手が離れてしまった。急に掌が寂しくなる。

 水路沿いの道にも、紅葉の葉がたくさん落ちていて、それを見ながら歩いていると、突然足を止めた泰然(タイラン)様にぶつかってしまった。


「お、すまない」

「ごめんなさい、どうしましたか?」

「馬車がない」

「えっ?」

「ここに間違いないはずなのだが……」


 泰然(タイラン)様は辺りを見回し、私の方を向くと、遠くをじっと睨みつけた。

 

「あっ、泰然(タイラン)様~」


 振り向くと護衛の一人がこちらへ走ってきていた。

 慌てているわけでもなく、ニコニコしていて、普段と変わらない様子だ。


「馬車を移動させたのか?」

「はい、翡雲(フェイユン)様は先に屋敷に帰られました。お二人には紅河の宿をお取りしました」

「宿? なぜそのようなことに?」

泰然(タイラン)様と雪蘭(シュウラン)様に、日頃の疲れを癒してほしいからですよ。こうでもしないと、休みをとらないからと」

「……まあいい、わかった。雪蘭(シュウラン)、泊まることになるが、大丈夫か?」

「はい!」

「では、今からもう少し街を歩いてから宿へ行こう」

「はい」


 泰然(タイラン)様は困っているけれど、私は正直なところ嬉しかった。

 夜の町の雰囲気も楽しみだし、宿に泊まるのも初めてだ。

 それに、まだ二人きりで過ごせるのが嬉しかった。







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