018 贈り合い
「あれ、翡雲は?」
待ち合わせ場所の橋の真ん中で待っていると、ようやく現れた泰然は辺りを見回しながら尋ねた。
風呂敷で包まれた何かを小脇に抱え、手には風車や飴が握られている。
「リウリーがどこかへ行ってしまって、探しに行ってくれています」
「リウリーが? 翡雲と遊びたいのだな」
「リウリーが翡雲様に懐いていること、知っていたのですね」
「ああ、ではこれは、俺が食べるか」
ウサギの形をした飾り飴を見て、泰然様は言った。一つはリウリーの分だったのだろう。
「二つあるのですが……」
「ひとつは雪蘭に、それと風車もいるか? あまりこういう物は買ったことがなくて、つい」
「ください」
泰然様は、飴をひとつと、風車を渡すと、私の頭の上を見つめ、手を伸ばした。
「これ、乗っていたぞ」
「えっ……」
いつの間にか、紅葉の葉が頭の上に乗っていたみたいで、泰然様は私に紅葉を渡した。
なんだか可笑しくて笑ってしまった。
だって泰然様の頭の上にも紅葉が乗っているのだから。
少し背伸びをして、私も泰然様の頭の上の紅葉を取って、それを手渡した。
「泰然様も乗ってましたよ」
「えっ、いつの間に……」
「ふふっ、お揃いですね」
「お揃い……か」
泰然様は欄干にもたれかかりながら、ウサギ飴の頭を咥え、紅葉を指でくるくる回しながら言った。
「泰然様も飾り飴を、頭から食べますか?」
「ん? 何も考えずに食べていた」
「そうでしたか、私は食べている途中で目が合うと食べづらいなと思って、頭から食べます」
「ははっ、そうか、面白い考えだな。──俺は薬作り以外のことに関心が薄くて、あまり他のことに興味が湧かないんだ。でも、雪蘭といると楽しくて、いつも気になって君に目がいってしまう」
「私、そんな変なことばかりしていますか……恥ずかしいですね」
でも、泰然様が楽しいなら、それでいい。
少し強めの風が吹いて、泰然様は紅葉の木を見上げた。葉が散り落ち、風車がくるくると回る。
「ああ、変なことばかりだ。君が現れてから、自分がおかしい。ただ過ぎていく毎日が、色鮮やかで、いつもの空が美しく見えるようになった。君はいつも俺に迷惑をかけるというけれど、そんなこと思ったこともない。むしろもっと頼られたい」
さっき翡雲様と町を歩いていた時、本当はこの飴が欲しかった。風車からも目が離せなかった。
でも、翡雲様には言えなかった。
「私、頼ってばかりですよ。私が欲しい物も、欲しい言葉も、いつも泰然様がくれるんです。泰然様と一緒にいると、生きていてよかったなって思えるんです」
「そうか、それなら良かった」
泰然様はふわりと優しく微笑んだ。
この笑顔をずっと見ていられたらいいのに。
泰然様は飴を頬張りながら、また紅葉の葉を指でくるくる回している。
そうだ、この紅葉は互いに贈り合ったことになるのかな。大切にとっておこう。
そう思って懐に仕舞おうとしたけれど、飾り飴と風車を持っていたから上手く出来なくて、紅葉は指から滑り、水路へと落ちていった。
「あっ」
「どうした?」
「さっき、泰然様がくれた紅葉を落としてしまいました」
くるくると円を描きながら落ちていった紅葉は、他の紅葉に混ざってわからなくなり、流れていってしまった。
「紅葉が欲しかったのか?」
「いえ。橋の上で、紅葉を互いに贈りあった男女は結ばれるって、翡雲様が言ってましたよね、だから……」
言いながら泰然様へと目を向けると、泰然様は流れていく紅葉を見ながら、何度も瞬きをして、唇をキュッと噛んで頬を赤く染めていた。
「あ、えっと……その……」
私は何を言ってしまったんだろう。
これじゃあまるで、泰然様と結ばれたいって言っているのと同じだ。
恥ずかしくて顔を下へ向けると、泰然様が私の頭に微かに触れて言った。
「それはただの迷信だ。──でも、また受け取ってくれるか?」
真っ直ぐに私を見つめて、真っ赤な紅葉を差し出す泰然様。やっぱり、いつも私がしてほしいことを、泰然様が叶えてくれる。
「ありがとうございます。大切にします」
「俺も持っておこうかな。──さ、さて、そろそろ帰らねばならないな。暗くなってしまう。とりあえず馬車を近くに停めてある。翡雲の侍衛の一人はそこに待たせてあるから行こう」
「はい」
泰然様は私の前に手を差し伸べた。
「階段に葉がたくさん落ちている。滑りやすいと思ったのだが……」
「あ、ありがとうございます」
泰然様と手を取り歩き始めた。
うれしいのに、なんだか恥ずかしい。
こんなに手が大きかったんだ、とか、温かいなとか、変に意識してしまう。
橋の階段が終わると、手が離れてしまった。急に掌が寂しくなる。
水路沿いの道にも、紅葉の葉がたくさん落ちていて、それを見ながら歩いていると、突然足を止めた泰然様にぶつかってしまった。
「お、すまない」
「ごめんなさい、どうしましたか?」
「馬車がない」
「えっ?」
「ここに間違いないはずなのだが……」
泰然様は辺りを見回し、私の方を向くと、遠くをじっと睨みつけた。
「あっ、泰然様~」
振り向くと護衛の一人がこちらへ走ってきていた。
慌てているわけでもなく、ニコニコしていて、普段と変わらない様子だ。
「馬車を移動させたのか?」
「はい、翡雲様は先に屋敷に帰られました。お二人には紅河の宿をお取りしました」
「宿? なぜそのようなことに?」
「泰然様と雪蘭様に、日頃の疲れを癒してほしいからですよ。こうでもしないと、休みをとらないからと」
「……まあいい、わかった。雪蘭、泊まることになるが、大丈夫か?」
「はい!」
「では、今からもう少し街を歩いてから宿へ行こう」
「はい」
泰然様は困っているけれど、私は正直なところ嬉しかった。
夜の町の雰囲気も楽しみだし、宿に泊まるのも初めてだ。
それに、まだ二人きりで過ごせるのが嬉しかった。




