表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第三章 元許婚が秘薬作りを理由に住み始めました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/48

009 幸せな未来?

 沈家から出ると、急いでこの町から立つと言って、泰然(タイラン)様は馬車を走らせた。

 馬車に揺られながら、私はリウリーに尋ねた。


泰然(タイラン)様のお父様って、偉い方なのかしら?」

『ん? 知らないわ』

「そう……私のせいで泰然(タイラン)様が碧砂(ビーシャ)国から罪人として追われてしまうかもしれない」

『あー、そういうこと? でも、死の谷にいれば大丈夫よ。碧砂(ビーシャ)国の人で解毒薬を持っている人はいないから、無法地帯よ』


 確かに、あの谷に近づける者は居ないだろう。

 私を谷へ捨てた御者の男の反応から見ても、それは確かだ。


雲龍(ユンロン)国での立場が悪くなるとか……そういうことはないのかしら」

『さあ? あ、馬車が止まった。屋敷はまだだけど死の谷に入ったから、もう誰も追いかけられないし……心配なことは本人に聞いたら?』


 リウリーの言葉通り、泰然(タイラン)様は心配そうな顔で簾をめくると、馬車の後ろから中へと入ってきた。


泰然(タイラン)様……」

「馬車の中の声は、よく聞こえているんだ。俺の立場が悪くなるとか、雲龍(ユンロン)国で、君が心配するようなことは一切ない」

「本当ですか? でも、碧砂(ビーシャ)国では違いますよね。私のせいで」

「別に構わない。君が無事なら、俺は罪人にでも何にでもなっていい」

「えっ……」


 私の膝の上で休んでいたリウリーは腕をすり抜け馬車を降りていった。

 泰然(タイラン)様はさらに言葉を続けた。


雪燕(シュウエン)の悪評を聞く度に、それは違うと叫んでしまいたくなる。君が辛ければ俺も辛い。傷つく姿は見たくないし、君を傷つける奴を見ると、我を忘れてしまうほど、怒りでおかしくなる」


 奥歯を噛み締め、拳を震わせ、泰然(タイラン)様は悔しそうにそう言った。泰然(タイラン)様には、いつも笑っていてほしいのに。


「私のことで、心を痛めないでください。私は大丈夫です。泰然(タイラン)様が、そう思ってくださるだけで、十分なんです」

「本当に俺だけでいいのか?」

「えっ?」


 泰然(タイラン)様以外、とは誰のことだろう。

 リウリー、それとも……。


「君が雪燕(シュウエン)に戻らないことはわかっている。君が戻れば、新しい舞姫の立場を奪いかねない。君は優しいから、あの女に申し訳ないとも思ってしまうのだろう?」

「それは……はい」


 やはり泰然(タイラン)様には見透かされている。

 どうして心の内を分かってくれるのだろう。


「ただ似ているということだけで、今日のようなことになったのだ。君の命が危険にさらされることは間違いない。だから、公主であることを捨て、碧砂(ビーシャ)国と縁を切るべきではあると思う。だが……翡雲(フェイユン)とは、本当にこのままでいいのか? 昨日のあいつの言葉を君も聞いただろう?」

「はい、私も、心苦しいときがあります」


 泰然(タイラン)様の言う通りだ。

 翡雲(フェイユン)様には打ち明けたほうがいい。

 春燕(チュンエン)のように、彼も雪燕(シュウエン)の影に縛られ続けている。

 今まで嘘をついていた分も、全て謝って、そして、雪燕(シュウエン)を忘れてほしい。

 そして、幸せになってほしいから。


「あいつなら、君に新しい戸籍を作ることもできる。密仙(ミーシェン)国との婚姻は避けられないだろうが、側室として翡雲(フェイユン)の側にいることもできるはずだ」


 泰然(タイラン)様は、今なんと言ったのか、一瞬で頭の中が真っ白になった。


 側室? 翡雲(フェイユン)様の側に?

 そんなこと、私は望んでいない。

 公主という立場を捨てたのに、そこに居座ることはするべきではないし、私には翡雲(フェイユン)様との未来は見えないのだから。


 これは、泰然(タイラン)様がそうしてほしい、ということだろうか。


「それは…………これ以上、泰然(タイラン)様のそばに、いないほうがいいということですか?」

「それは違う。君の笑った顔を見れば心が安まるし、舞う姿は美しくて魅入ってしまう。それに、君の発言にはいつも助けられている。そんな、ただ普通の毎日を君とずっと一緒に過ごしていきたい」


 泰然(タイラン)様は私を見つめて早口でそう言ったあと、瞳を泳がし、徐々に顔を赤らめていった。


「ずっと?」

「ち、違う。違くはないのだが、俺が言いたがったのは、君は翡雲(フェイユン)と……幸せになる未来があると伝えたかった。ただ、それだけだ。──今日は辛いことがあったのに、困らせてばかりで申し訳ない。気持ちが落ち着いてから、ゆっくり考えてくれ」


 泰然(タイラン)様は、礼をするといそいそと御者の席に戻っていった。


 幸せになる未来。私のためを思って考えてくれたんだ。

 よかった、嫌われたんじゃない。

 そうか、私は泰然(タイラン)様に嫌われたくない。

 でも、嫌われたくないだけじゃない。


 ずっと一緒に過ごしていきたい。


 その言葉が何度も頭の中をぐるぐるしている。

 嬉しかった。私もそうしたいと、心の中から言葉が溢れてしまいそうになった。

 でも、今はその言葉を口にしてはいけない。

 泰然(タイラン)様が言ってくれたように、ゆっくりと考えなければならない。


 馬車が走り出すと同時に、リウリーが乗り込んできた。


『なになに? 告白でもされた~?』

「違うわ。もう、どうせ聞いていたのでしょう?」

『え? 何も知らないわよ~。ただ、泰然(タイラン)がスモモみたいな真っ赤な顔をしていたのは見たわよ~。雪燕(シュウエン)も、だけどね!』

「もう、からかわないで」


 上機嫌のリウリーの言葉を流しつつ、屋敷に戻るまでに火照った顔を冷ますことに専念した。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ