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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第三章 元許婚が秘薬作りを理由に住み始めました

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003 知識

 媚薬、それは、性的興奮を高める薬、精力増強薬。 


 それって春燕(チュンエン)翡雲(フェイユン)様に……。間違いかもしれないと思って、他の書物も調べてみようと思った。


 食堂で夕食を作っていた泰然(タイラン)様に部屋で書物を読みたいと伝え、書棚から別の薬の書物を見繕い調べたけれど、やはり同じ事が書かれていた。


 春燕(チュンエン)翡雲(フェイユン)様に好意を持っていて、翡雲(フェイユン)様に薬を盛ろうとした? 


 それとも、碧砂(ビーシャ)国の為に、翡雲(フェイユン)様が他の方と婚約してしまうのを防ごうとした?


 どちらにしても最低だ。袋が破れるまでは香りは別のものだったけれど、翡雲(フェイユン)様に持たせておいて、いつでも使えるようにしようとしたのかしら。


 春燕(チュンエン)がそんなことをするなんて……。


 失望していると、不意にトンと肩を叩かれた。

 驚いて振り向くと翡雲(フェイユン)様が立っていた。


「びっ……くりしました。あっ、」


 これは見せちゃ駄目だ。慌てて頁を閉じようとしたけれど、翡雲(フェイユン)様に止められてしまった。


「何を調べていたのだ? 私に隠したいことなんてことは……」


 翡雲(フェイユン)様は笑顔のまま固まってしまった。


「こ、これは、その……この薬に対処するには、どうしたらよいのか調べていました」

「おお、それは私も知りたいところだな。ははは……」


 乾いた笑いが、なんとも居たたまれない。


「……すみません、まだ調べ始めたばかりで、何もわからなくて」

「そうか、ではこの件は泰然(タイラン)に聞いておく。さてさて、夕食作りの手伝いをしてくる。雪蘭(シュウラン)は続けたまえ」

「はい」


 よかった、なんとか誤魔化せた。

 でも、もっと勉強しなきゃ。

 こんな私の意見でも泰然(タイラン)様は聞いてくれるのだし、もっと知識に基づいて発言できた方がいいはずだ。


雪燕(シュウエン)、ご飯できたって~』


 書物を読み漁っていたら、いつの間にか足元にリウリーがいた。椅子に飛び乗り、それから机の上に飛び、私が見ていた書物に目を通した。


『これ、面白い?』

「面白くはないけれど、もっと薬や毒について知りたくて」

『そんなに焦って詳しくなろうとしなくてもいいんじゃない?』

「どうして?」

『ほら、泰然(タイラン)が言っていたじゃない。雪燕(シュウエン)は今まで気付かなかったことに気付いてくれるって。だから、今のままの雪燕(シュウエン)の意見が欲しいんじゃない?』


 たしかに、それも一理ある。でも、薬の知識があれば、もっとよい意見が出せるかもしれないとも思う。


「そっか、でも色んな薬があることを、もっと知りたい。私だけ無知だから」

『うーん。それなら一番簡単な書物から読んでみる? 私のお勧めは~』


 ****


 それから毎日、充実した日々が過ぎていった。

 朝は早起きして翡雲(フェイユン)様に剣舞を習い、その後、朝食を食べてから、解毒薬作りの為に採血をする。

 そして泰然(タイラン)様とリウリーと三人で秘薬作りの茸を探して山の探索、その間に翡雲(フェイユン)様は昼と夜の食事を作ってくれている。

 最近はリウリーの分も作ってくれるから、リウリーがの機嫌がすこぶるいい。


 午後は主に三人で泰然(タイラン)様の部屋で調合をしている。

 私は、すり鉢で薬草をすったり、煮込んでいる薬の時間を計って管理したり、処方薬の名称を札に書く仕事をしている。

 泰然(タイラン)様は他にも、碧砂(ビーシャ)国の緑淵や雲龍(ユンロン)国に納品する処方薬作りもしていて、翡雲(フェイユン)様は、泰然(タイラン)様が秘薬作りに集中できるよう、他の薬の調合を手伝っていた。


 これを泰然(タイラン)様は一人でこなしていたのだと思うと、凄すぎで言葉にならないほどだ。

 そして、やっと泰然(タイラン)様の許可が出て、リウリーと二人で夜も外に出て、私の身体にどれくらいの毒の耐性があるか、徐々に滞在時間を長くして確かめている。


 そんな日々を過ごし、明日は緑淵に薬を届けに行く日だった。いつも薬を頼むお得意様も多く、私は誰用の薬か、札に名前と薬名を書いていた。

 すると、翡雲(フェイユン)様が、他にも書いてほしいという薬の名が書かれた紙を持ってきた。

 こちらは雲龍(ユンロン)国の都の分だそうだ。


「これも頼む。必要な枚数は横に書いてあるから」

「はい、かしこまりました」

「字が……」

「あ、どこか間違っていますか?」

「いや、薬という字の草冠の部分が少し長い。あと、百の一の部分も」


 指摘された通り、これは私の字の癖であった。

 もう少し気をつけて書かなければ。


「もう少し短く書くように気をつけます」

「いや、何も間違っていないし、読みやすく綺麗な字だ。そのままでいい」


 そう言って翡雲(フェイユン)様は、私の肩を労うようにして叩くと部屋をあとにした。

 どうしたのだろう。怒ってはいなかったと思うけれど、様子が変だったような。



 仕事を終え、明日の荷物の準備は万端だ。

 緑淵には、私と泰然(タイラン)様の二人で行く。

 あとリウリーもついてくると言っていた。


 泰然(タイラン)様が春燕(チュンエン)の香袋の件を翡雲(フェイユン)様の侍衛の方に報告済したことで、翡雲(フェイユン)様は、しばらくの間、碧砂(ビーシャ)国への入国を禁じることと皇帝陛下から命が出たそうだ。

 その命がなくても、翡雲(フェイユン)様は行かない方がいいという意見は三人共一致していた。


 明日はお留守番になり、拗ねてしまった翡雲(フェイユン)様は、珍しく夕食の席で酒を飲んでいた。

といっても、まだ二杯目だけど、それだけでも十分、酔っているのが分かる、というか、目が据わっていた。


「明日は雪蘭(シュウラン)も行かない方がいいのではないか?」

「でも、梓晴(ズーチン)と、舞の練習を一緒にする約束をしています」

「だが、またあの女がいたら危険じゃないか」


 翡雲(フェイユン)様は酔った勢いで、杯を机に叩きつけるように置いて言うと、泰然(タイラン)様は面倒そうに見て尋ねた。


「どうした? あの女とは、舞姫のことか?」

「ああ、あの女は雪燕(シュウエン)が嫌いだったから」


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