↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
最終章 荒廃した碧砂国を潤すもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/104

014 双燕

「ですが、いつ珊麗(シャンリー)様とそんなお話を?」

「先週、瑠麗(リウリー)を訪ねて、珊麗(シャンリー)様が屋敷にいらしたのだ」

「えっ?」


 先週といえば、瑠麗(リウリー)と瑶琳(ヤオリン)と舞の練習ばかりしていた。全然気付かなかった。


「相談事があったようなのだが、舞の練習に打ち込む瑠麗(リウリー)を見て、相談するのはやめたようだ。あんなに一生懸命頑張っているのに、自分はただの色恋沙汰でこんなところまで来てしまい、恥ずかしくなったと言っていた。それで、代わりに俺と父上が相談相手になったんだ」

「泰然(タイラン)様と慧王殿下が?」


 二人に珊麗(シャンリー)様が相談をしている光景が全く想像できない。

 しかも、相談事は色恋のことだと言っていたような。


「ああ、それが……俺達が碧砂(ビーシャ)国の宮殿を離れたあの後、仁峰(レンフォン)様は、珊麗(シャンリー)様を追いかけたそうなんだ」

「お兄様がですか?」

「ああ、緑淵で珊麗(シャンリー)様と別れただろう。あの時、仁峰(レンフォン)様からの文が届いていて、珊麗(シャンリー)様は緑淵で仁峰(レンフォン)様を待っていたそうだ。そして密仙(ミーシェン)国まで一緒に行き、珊麗(シャンリー)様との婚約を申し出たそうだ」


 珊麗(シャンリー)様とは緑淵で別れたけれど、兄を待つためだったんだ。そういえば、別れ際の珊麗(シャンリー)様は、少し落ち着かない様子だった。


「それで、婚約はできたのですか?」

「ああ、押しかけてきた仁峰(レンフォン)様のことを、大婆様が大層気に入ったらしい。珊麗(シャンリー)様は、剛(ガン)様の魅了を解き、彼は自らの意思で国へ帰ったそうだ。次期女帝は瑛麗(インリー)様になるとか」


 次期女帝をも変えてしまうなんて。

 お兄様は、どうやって皆の心を動かしたのだろう。


「お兄様……そんな大胆な方だったなんて。ですが、お兄様からの手紙には、何も書かれていませんでした」

「きっと、手紙を出した頃は、どうなるのかまだ分からなかったからだろう。珊麗(シャンリー)様は、考えさせて欲しいと言って、一度仁峰(レンフォン)様を碧砂(ビーシャ)国へ帰してから、剛(ガン)様のことや、次期女帝について調整したようだ。先週いらした時も、まだ迷っている様子だった」

「では、まだ兄は珊麗(シャンリー)様が嫁いでくれるか分からない状況なのでしょうか?」

「どうだろうか。大婆様は婚約を認めてくださったから、珊麗(シャンリー)様の気持ちが整うのを待っているのではないだろうか。密仙(ミーシェン)国の姫は一つの国に、一人との約束だが、皇后はもう長くない。今頃、珊麗(シャンリー)様は碧砂(ビーシャ)国に着いた頃だろうから」


 それなら今頃、兄は珊麗(シャンリー)様を迎えているところだろうか。二人とも優しくて真面目で面倒見が良く、お似合いだと思う。


「そうなのですね。あ、でも、そんなおめでたいことなのに、どうして泰然(タイラン)様は私に教えてくださらなかったのですか?」

「珊麗(シャンリー)様から口止めされていた。瑠麗(リウリー)を驚かせたいから黙っていてほしいと。雪蘭(シュウラン)には伝えようと思ったのだが、最近ずっと瑠麗(リウリー)とばかり一緒にいるから……」


 寝るときまで一緒であった。と泰然(タイラン)様は不満そうに呟いた。

 最近は、舞の練習もだけれど、瑠麗(リウリー)がそろそろ国へ戻ってしまうから、昼夜問わずに一緒にいた。

 もしかして……。


「それは……妬いているのですか?」

「そ、そうだな。瑶琳(ヤオリン)と瑠麗(リウリー)にばかり構うから」

「ふふっ」


 恥ずかしそうに言う泰然(タイラン)様が可愛くて、つい笑ってしまった。

 瑠麗(リウリー)が言っていたのだ。

 きっと泰然(タイラン)様は瑠麗(リウリー)に嫉妬しているだろうけれど、ここにいられる間は私を独占して、思う存分に泰然(タイラン)様に嫉妬させてやるつもりだと。

 私自身も、正直なところ瑠麗(リウリー)といると心が落ち着く。あの山の屋敷で、右も左も分からなかった頃、一緒に過ごしたリウリーとは、不思議と心の奥で繋がれているような感覚がある。

 そろそろ離れなくてはいけないと思うと、寂しいのだ。

 だから、今だけは……。


「後少し……瑠麗(リウリー)が滞在している間は、あいつを優先してやってくれ。そうしたいのだろう?」

「……はい。ありがとうございます」


 どうしていつも分かってくれるのだろう。

 泰然(タイラン)様は少し悔しそうに笑って、私の頬に手を当てた。その指先は冷たくて、手のひらは温かい。


「その後はずっと、俺が雪蘭(シュウラン)を独り占めするから。──そろそろ婚儀の日取りを決めよう」

「えっ? それって……」 

「ああ、俺たち二人の婚儀だ」

「は、はい」


 落ち着いたら、と言ってくれていたけれど、ついに、そうなんだ。

 嬉しい。

 でも、婚儀をした後と今では、何が変わるのだろう。

 

「それから、これを雪蘭(シュウラン)に」


 泰然(タイラン)様が差し出したのは銀の簪だった。

 翡翠の大きな玉を銀の蓮の花で包み、振ると揺れる二本の鎖の先には、それぞれ銀色の羽の鳥が付いている。何の鳥だろうか。


「綺麗な鳥ですね」

「それは燕だ。仲睦まじく飛び交う二羽の燕は、夫婦の絆を象徴するという」

「夫婦の絆……」


 それに私の名前の鳥だ。鳥の瞳は赤い宝石と、翠色の宝石で、まるで私と泰然(タイラン)様みたいだ。


「つけてもいいか?」

「はい」


 泰然(タイラン)様は、イチョウの簪を髪から抜き取り、燕の簪を髪に刺してくれた。


「この簪、よくつけているな」

「はい、簪はあまり持っていないので。それにこれは……大事な思い出が詰まったお土産なんです」

「翡雲(フェイユン)がくれたのだろう? 実は瑠麗(リウリー)から聞いたのだ。もっと早く贈れば良かった。いつも気が利かなくてすまない」


 泰然(タイラン)様は申し訳なさそうに言うと、苦笑いでイチョウの簪を指でくるくると回している。

 気が利かないなんてこと、これっぽっちもないのに。


「いえ、そんなことはありません。泰然(タイラン)様からは、いつもたくさんいただいています」

「いつも?」

「はい、今日だって湯圓(タンユエン)を一緒に作ったり、こうしてお祭りを楽しんだり。舞の稽古が終わるのを待っていてくれたり、お腹が空いている時に、お夜食を持ってきてくれたり。そして、ただこうして隣にいて、泰然(タイラン)様と目が合うだけで、声をかけてくださるだけで、いつも胸がいっぱいになります。それなのに私の方こそ、いただいてばかりで何もできなくて……舞姫でもない、公主でもない、本当の名前すら言えない私が……泰然(タイラン)様の側にいてもいいのか──」


 いつも不安になる。そう言葉にする前に、泰然(タイラン)様に抱きしめられていた。耳元に熱い吐息がかかる。


「いてくれないと困る。これからもずっと。──俺の夢を一緒に叶えてくれるのだろう? 秘薬作りも雪蘭(シュウラン)が叶えてくれた。両親のような家庭を築くことも、君とじゃないと叶えられない」

「私も、泰然(タイラン)様の夢を一緒に叶えたいです」


 言葉を返すと、泰然(タイラン)様は少し体を離して、私の瞳をじっと見つめる。出会った時と変わらない、意志の強そうな濃い深緑色の瞳は熱を帯び、恥ずかしくて視線を外してしまいたくなるのに、吸い込まれるように見つめ返してしまう。


「目が泳いでる。……なんでそんなに可愛いの?」

「えっ?」


 頬に添えられた泰然(タイラン)の手は、さっきよりも熱く、親指でそっと唇をなぞられる。そして優しく微笑み、泰然(タイラン)様は口を開いた。


「雪蘭(シュウラン)……我愛你(ウォーアイニー)」

「私も……」


 言い終わる前に唇を泰然(タイラン)様のそれで塞がれた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。