013 舞に込められた想い
三人で雨ごいの舞を披露した。
きっと、どこかで見守ってくださっている龍神様に届くようにと、そしてこの先、碧砂国も雲龍国も雨に恵まれますようにと、祈りながら。
とても清々しい気持ちで舞を踊れた。
舞姫として、ただ一人で舞うのではなく、一人の民として国を思い、誰かと共に舞うことが、とても心地よかった。
舞を終えると、瑶琳はその場に崩れ落ちて、原っぱに仰向けで寝転んで叫んだ。
「あーっ! 緊張したぁ!」
「私もっ!」
それを見た瑠麗もそう叫んで一緒に寝転んでしまった。
「覚えたつもりだっだのに、たくさん間違えました。雪蘭様、来月も一緒に舞ってくださいませんか?」
「もちろんよ」
「良かったです。少し疲れてしまったので、灯籠祭りはお兄様と二人で言ってください。瑠麗様は、翡雲様とご一緒されるのですよね?」
「ええ、私も少し寝転がってから行くわ。二人ともいってらっしゃーい」
「ええっ、でも……」
「はははっ。今夜はお開きだ。温かな湯圓と見事な舞を披露してくれてありがとう」
慧王殿下が立ち上がりそう言うと、泰然様の背中を押した。
「っと……。雪蘭、では行こうか」
「はい」
舞の衣装を着がえてから、町へとくり出した。
人がたくさん行き交う町中には、あちこちに灯籠が飾られていて、幻想的で美しい。
泰然様は普段通りの服装なのに、橙色の灯りに照らされて、なんだか別人のように大人っぽく見える。
皆で一緒に夜の町を楽しむと思っていたから、急に二人きりになって、緊張してしまう。
「寒くないか?」
「だ、大丈夫です。とても綺麗でワクワクして、全然寒くないです」
「そうか、良かった。手持ちの灯籠も売っているな」 「本当だわ」
真ん丸の白い紙に兎が描かれた灯籠もある。
中の蝋燭の灯りで丸い月に白兎が描かれているように見えた。
「まるで玉兎のように見えるな。月に住み、不老不死の薬を作るといる兎のことだ」
「薬を作る白兎……」
なんだか、今の私みたいで親近感を覚えた。
私は白兎の舞姫と呼ばれていた。そして今は、泰然様の薬作りを手伝っているから。
「今の雪蘭と似ているな。これを買おう」
「はい」
泰然様も同じことを考えていたみたいだ。
嬉しくて、私は灯籠の取っ手を握りしめた。
さっきまで緊張していたのが嘘みたい。
それから町中を見て周った。
寒くて手を擦り合わせていると、泰然様が手を握って温めてくれた。
そして最後に町の中心部へ来た。町の真ん中を流れる川には灯籠が映り込み、川全体が明るく光っているように見えた。
橋の真ん中まで行くと、泰然様は足を止めた。
「ここからの景色、きれいだな」
「そうですね」
橋の上に立つと、紅河の紅葉を思い出す。
あの時の葉っぱは木箱にしまってある。
あの葉っぱをみたら、あの日の景色が蘇るだろう。
そして今日のこの夜景は、この兎の灯籠を見る度に思い出せるだろう。
橋の欄干に乗せた手に、泰然様の手が重なった。
「雪蘭、今日の舞も美しかった」
「ありがとうございます」
「よく瑶琳をあそこまで舞えるように指導したな」
「瑶琳が頑張ったからです。碧砂国の天災を心配してくれていて、その為に力を尽くしてくれました。純粋に碧砂国の為を思って舞いを披露したいと言った瑶琳に、私も心が洗われました」
「心が洗われる?」
「はい。私は、瑶琳が碧砂国の為に舞を踊りたいと願った時、龍神様が去った今、雨ごいの舞を舞っても、意味がないかもしれないと思い、舞を教えようか、躊躇う気持ちを抱きました。……酷いですよね」
こんなことを言ったら嫌われてしまうだろうか。
でも、そんな不安は泰然様の笑顔で打ち消されていく。
「それでも、瑶琳に舞を教えてくれたじゃないか。今までで一番、今日の雪蘭は、楽しそうに舞っているように見えた」
「はい、楽しかったです。いつも一人だったけれど、誰かと舞う方が、何倍も楽しかったです。それに、幼い頃、ただ美しく舞えば天が喜び雨が降ると思っていたあの頃のように、届くか分からない思いを、純粋に祈りながら舞えた気がします」
「初めて雪蘭の舞を見た時も、君はとても純粋で美しかった。民を思う清らかな心を持った女性だと感じたよ。あんな身体の状態でも、迷うことなく舞ったのだから」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
空を見上げると、灯籠の灯りに負けないくらい輝く月と星々で埋め尽くされている。
龍神様もこの空を見ているのだろうか。
それとも、星々のどれかが龍神様なのだろうか。
泰然様は、空を見上げて言った。
「龍神は碧砂国を去ったかもしれないけれど、きっと雪蘭のことを、どこかで見ているのではないだろうか」
「瑠麗も同じことを言っていました」
「そうか、瑠麗と同じというのは、素直に喜べないな。そう言えば、珊麗様が言っていた。御神木に生えた新芽は、人々の祈りがあれば、きっと強く成長するだろうと」
「そうなのですね。だとしたら、私達の舞は意味のあるものだったのですね」
「ああ、そうだな」
でも、そうだとしたら、碧砂国で雨を祈る全ての人の舞は、御神木に届く。春燕の舞も梓晴舞も、舞に込められた皆の想いで御神木を育てることができるんだ。




