↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
最終章 荒廃した碧砂国を潤すもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/104

最終話

 数年後──。


 私は泰然(タイラン)様と、碧砂(ビーシャ)国の緑淵を訪れていた。


 緑淵は、新しい皇帝により、碧砂(ビーシャ)国と雲龍(ユンロン)国を結ぶ商いの町として大きく発展していた。

 紅河からの商人が多く立ち寄り、人で賑わっている。


 二つの町を行き来するには、死の谷を通らなければならないが、密仙(ミーシェン)国の女帝となった瑛麗(インリー)様のお陰で誰でも通れるようになったのだ。

 瑛麗(インリー)様は毒草を取り払い谷を解放した。しかし、密仙(ミーシェン)国へ、誰もが行けるようになったわけではない。

 山には毒草を食し根絶やしにした、毒牙を持つ狼が住むと噂を流し、誰も近づけなくさせたのだ。それから、密仙(ミーシェン)国内の不安を取り除くため、夜は睡眠効果のある霧を国の周りに散布しているという。

 瑛麗(インリー)様が狼を餌付けし、国の近くの林に囲い、夜の狼の徘徊はなくなり、山の猪たちも平穏に暮らしているそうだ。


 碧砂(ビーシャ)国と雲龍(ユンロン)国を結ぶ山道は、双方が協力し整備され、山の屋敷があった場所の近くには雲龍(ユンロン)国の関所が設けられた。


 泰然(タイラン)様は、春からその関所の監督官となり、山の屋敷を改装し、私達はそこに暮らすことになり、戻ってから数ヶ月が過ぎた。 

 都で、泰然(タイラン)様が継いだ安泰堂は、今は瑶琳(ヤオリン)に任せている。瑶琳(ヤオリン)は、泰然(タイラン)様が医院を再開し、そこを手伝う内に医療に興味を持ち、医術を身に着けていった。さすが泰然(タイラン)様の妹君、筋がよく、針の腕は泰然(タイラン)様を超えたと自負するまでに成長した。


「雪蘭(シュウラン)様。いかがでしたか?」


 沈家の屋敷の庭に、梓晴(ズーチン)の元気な声が響いた。


「とても素敵だったわ」


 私よりも背が高くなった梓晴《ズーチン》は、私と泰然(タイラン)様に雨ごいの舞を披露してくれていた。


 兄は即位した後、御神木が焼失し、龍神様の加護がなくなったこと、そして前皇后によって新たな御神木が芽吹いたことを国中に知らせた。

 そして新しく皇后となった珊麗(シャンリー)様が、新たな御神木の芽は、人々の祈りがあれば、強く成長するだろうと民に訴えかけ、自ら雨ごいの舞を披露し、皆で満月の夜に雨ごいの舞を踊ろうと呼びかけたのだ。

 そして春燕(チュンエン)は、また町々を巡り、子供達に舞を教えて回ったという。数年経った今、満月の晩は町娘達が雨ごいの舞を舞う習わしとなっていた。

 半年ほど前までは、泰然(タイラン)様についていき、私も緑淵へ行き、梓晴(ズーチン)と一緒に舞いを踊りに来ていた。


「そうか? まだまた雪蘭(シュウラン)の足元にも及ばないな」


 私の隣で、饅頭を頬張りつつ舞を眺めていた泰然(タイラン)様がそう言うと、梓晴(ズーチン)は溜息混じりに彼へ目を向けた。


「はいはい。泰然(タイラン)様から観たら、私の舞なんて、そんなものですよね。──雪蘭(シュウラン)様、今日の雨ごいの舞は、見ていかれるんですよね」

「ええ、もちろん。楽しみにしているわね」

「はい! 雪蘭(シュウラン)様の分まで頑張ります」



 夜になると満月の下、碧砂(ビーシャ)国のあちこちで町娘達が雨乞いの舞を披露する。それぞれが好きな衣を身に纏い、碧砂(ビーシャ)国の雨を、そして豊作を祈って舞い踊る。

 緑淵では、大きな橋の上で舞が披露される。


 以前、春燕(チュンエン)の舞を見た場所で、泰然(タイラン)様と二人、並んで舞を眺めた。


「自分も舞いたいって顔だな」

「そう見えましたか?」

「ああ、だが、今は駄目だぞ?」


 後ろからギュッと抱きしめられる。

 泰然(タイラン)様は、山の屋敷に着いてから、ちょっと過保護な気がする。


「分かっています」

「それなら良い。御神木の話は聞いたか?」

「はい、瑠麗(リウリー)から珊麗(シャンリー)様のお話を聞きました。御神木の新芽は、お兄様の背丈の倍くらいにまで成長したそうですね。これも民のお陰です」

「ああ、国を潤す力となるのは、この国の全ての民であろう」


 お義母様は、今の碧砂(ビーシャ)国を空から見ているだろうか。

 私とお兄様がそれぞれ婚儀を執り行った後、春燕(チュンエン)の嫁ぎ先が決まると、お義母様はこの世を去った。

 お父様と一緒に。


 お義母様は、死の間際、密仙(ミーシェン)国へ帰りたいと父に願い出たそうだ。

 しかし、父はそれを拒否した。

 そうすれば、密仙(ミーシェン)国との契約の元、自分がどうなるのか、分かっていただろうに。


「さて、そろそろ屋敷へ戻ろう」


 この時期の蓮池には、桃色の蓮が池じゅうに広がっている。

 ここへ戻って来てから、池の真ん中の島へ行くための小舟を作った。

 今日は、小舟に二人で乗り込み、満月によって真っ白に光る茸の道を横目に島を目指した。


 私達は婚儀の後、蓮の咲く季節に秘薬作りを再開した。

 その時も池には蓮の花が咲いていた。


 蓮と光の道が美しくて、蓮が一面に咲く蓮池の真ん中で毎年二人で月を眺めようと、約束していた。

 いつもは光の道を二人で歩いていたけれど、今日は小舟で。


 島へ着くと、泰然(タイラン)様は枯れた巨木の空洞の中を調べた。


「ありましたか?」

「ああ、また今年も一つ、光る茸が生えている。それとこちらも順調だな」


 枯れた巨木の空洞の真ん中には、新しい樹木が生えている。これは、この巨木の新しい芽から育ったものだ。


 秘薬を与え、芽吹いた命。


 碧砂(ビーシャ)国の御神木のように、この巨木もかつては神を宿す御神木だったという。

 秘薬の元となる茸が生えるということは、まだ微かに御神木としての力が残っているのではないかと、珊麗(シャンリー)様から教えていただき、秘薬を試したところ、数ヶ月後、新しい芽が生えてきたのだ。


 それから数年、まだ私の背丈もないくらいだけど、精一杯、空へと枝を伸ばしている。

 あと千年もすれば、秘薬のもととなる茸をいくつも生やす霊樹となるそうだ。


「千年後か……」

「きっと俺たちの子孫が、この木を守ってくれるだろう。そうだろう?」


 泰然(タイラン)様は、そう言って私のお腹に手を当てた。その温かな手を、ポコっとお腹の中から蹴り上げられる。


「夜はいつも元気だな」

「そうね。来年はこの子も一緒に蓮を見られるのね」


 私に宿った命は、今日も元気に父の手の温もりに応えてくれた。


「そうだな。……そうだ、明日には瑠麗(リウリー)が来ると聞いたぞ。しばらく屋敷に滞在するそうだ」

「でも、まだ麗花(リーファ)は小さいのに」


 翡雲(フェイユン)様と瑠麗(リウリー)の間には娘が生まれ、今はまだ二歳くらいだったはずだ。


「今、翡雲(フェイユン)は仁峰(レンフォン)様の所へ使節として行っているだろう? 瑠麗(リウリー)は、麗花(リーファ)を連れて数日前に都を立ち、二人とも、ここで落ち合うつもりらしい」

「それって……」


 お腹の子が生まれるのはあと二週間後くらいと言われている。世話をしてくれる人は慧王殿下の屋敷から来てくれているけれど。


「翡雲(フェイユン)はひと月ほど、滞在すると言っていた。瑠麗(リウリー)は何も言わないから、当分居座るつもりだろう。雪蘭(シュウラン)は初産だから、みんな心配しているのだ。俺も、その方が安心だが……」

「ふふっ、昔みたいに、またここが賑やかになりそうですね」

「そうだな。ここが死の谷という名だったことが、遠い昔のようだな」


 懐かしい。

 生きることすら失しかけていた私は、泰然(タイラン)様と出会い、命を繋ぎ止めてもらい、自分で新しい自分として生きることを選んだ。

 選ぶことができたのは、瑠麗(リウリー)や翡雲(フェイユン)様、そして泰然(タイラン)様がいたから。

 私は、私らしく生きることができたんだ。


「泰然(タイラン)様、私は今、とても幸せです」

「俺もだ」

「あ、今、星が流れました」

「ん? 本当だ。──母子ともに健康でありますように」

「母子だけですか? 泰然(タイラン)様も、健康てありますように」

 

 そして、各国の平穏が、そしてこの幸せが、これからも末永く続きますように。



 おわり



 

最後までお読みいただきありがとうございました!

評価☆☆☆☆☆などしていただけると励みになります。

またどこかでお会いできたら嬉しいです。


春乃紅葉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。