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ことわざ先輩の腹積もり。  作者: 阿寒湖まりも


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12/13

12言め『いとしけりゃこそ、しとと打て』

朝日照る(にぎ)やかな教室の中で、

一文(ひとふみ)安美(あみ)聞耳(ききみみ)(もとむ)が会話をしていた。


「――という次第でして、

 無事に笑子(しょうこ)ちゃんとお友達になれました!」


「ふ〜〜〜〜〜〜ん……、そう。」


安美(あみ)はたいそう嬉しそうに報告したものの、

(もとむ)の反応はなんだか(かんば)しくないものであった。


「……? どうかしたの?」


「ああっ いや…… 良かったね〜。あはは〜。」


「???」


あっぶなぁぁ。顔に出ちゃうところだった!(※出てる)

う〜ん。安美(あみ)っちに友達が増えたのは喜ばしいことだけど、

それはそれとしてなんかモヤっとする……。


まるで 初期から追ってた知名度低めの名作が、

アニメ化を機に大人気になったあの時みたいな、

なんとも名状しがたいこの気持ち……。


「……えっと、もし何か悩んでることがあったら、

 私で良ければ、話聞くよ。いつでも相談乗るからね。」


「う、うん ありがとう、安美(あみ)っち!! 今は大丈夫!」


「・・・・・。」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「う〜ん……」


『今は大丈夫』と言われたら待つしかないけど、

やっぱり(もとむ)ちゃんのことが少し気になる……。


(もとむ)ちゃん、何かモヤモヤしてた気がするんだよなぁ。

何に悩んでるんだろう。本当に大丈夫なのかな?

私に相談しないってことは些細(ささい)なこと?

それとも、私が何かしでかしちゃったのかな……?


どうして、私を頼ってくれないんだろう。


「・・・・・。」


安美(あみ)、ずっと何か悩んどるなぁ。」


「そのようだね。(はし)(まった)く進んでいない。」


眉間(みけん)(しわ)を寄せる安美(あみ)を見て、紡久(つむぐ)笑子(しょうこ)は目を合わせる。


「今日は昨日の続きを話すと言っておいたのに……。」


「まぁまぁ、安美(あみ)にも色々あるんやろ。堪忍(かんにん)したってや。」


「……はぁ。仕方ない。じゃあ続きはまた今度話そう。」


重たくため息を()紡久(つむぐ)を見るや否や、

笑子(しょうこ)はいたずらっぽく笑ってみせる。


紡久(つむぐ)先輩は、ほんまに安美(あみ)が好きなんやなぁ。」


「あぁ。好きだよ?」


「あははっ! 即答って、どんだけゾッコンやねん!」


「むぅ……。あんまりからかわないでくれ。」


紡久(つむぐ)(ほほ)を膨らますと、余計に笑子(しょうこ)が笑う。


「それに、私は安美(あみ)()()()()好いているんだ。」


「あ、そうなん? まあ別にどっちでもええけど。

 先輩が安美(あみ)んこと大切にしとることは確かやからな。」


「……ありがとう。」


紡久(つむぐ)の表情がやや(くも)る。


「――でも、最近はこれでいいのかと不安になるんだ。」


「なんや (やぶ)から棒に。」


「私は安美(あみ)(つら)い思いをして欲しくない。

 だから時にやり過ぎなほどに口を出してしまうんだ。

 良かれと思って安美(あみ)の危険な行動を()めていたはずが、

 かえって安美(あみ)を苦しめているのかもしれない。」


「・・・・・。」


笑子(しょうこ)は焼きそばパンを(ほお)()りながら話を聞いている。


「私は、安美(あみ)に幸せになってほしいんだ。

 普通の女子高生として、学生生活を送ってほしい。

 あの笑顔を守ってやりたいといつも願っている。

 ……でもこれは私のエゴにすぎなかったんだ。

 私は本当に、自分勝手な人間だったんだよ。」


笑子(しょうこ)はパンを完食したかと思うと、途端(とたん)に口を開く。


「先輩は何を当たり前のことを言うとんのや?」

「!?」


紡久(つむぐ)は大きく目を見開く。


「自分の意思が無い人間なんておるわけないやん。

 人間が行動するのにはいつだってエゴが(ともな)う。

 たとえそれが誰かに言われてしたことやとしても、

 はたまたそれが誰かのためにしたことやとしても、

 結局それをやると決めたのは自分なんやからな。」


「そ、そうか………?」


「せやせや。」


笑子(しょうこ)はのべつ幕なしに話を続ける。


「それに先輩が過干渉気味になってまうんは、

 それだけ安美(あみ)んことを大切に思っとるからやろ?

 それを単なるエゴで片付けるんはそれこそエゴやで。」


「い、いや、しかし……」


言い(よど)紡久(つむぐ)に対し、

笑子(しょうこ)(ふところ)から何かを取り出しパスする。


「おっとっと! ………のど(あめ)?」


「ウチのチビ達はそれ()るとゴネるの()めるんや。」


「私は子供ではないんだが……」


「細かいことはええから黙って聞いとき。」


「・・・・・。」


紡久(つむぐ)は赤い飴玉(あめだま)を口に含む。

舌の上に(ほの)かなアセロラの風味が広がる。


「先輩はもうとっくに知っとることやろけど、

 ウチには下に2人、きょうだいがおったんや。

 よくやんちゃするからその度に(しか)ったんやが、

 時折 つい言い過ぎてまうこともあったんよ。」


「……それで?」


紡久(つむぐ)(うなが)すと、笑子(しょうこ)は笑って答える。


紡久(つむぐ)先輩の気持ち、ちっとだけ分かる気すんねん。

 ウチもチビ達のことを大切に想っとったから、

 直さなアカンと思って厳しく(しか)ってしもた。

 それで度々喧嘩(けんか)と仲直りを繰り返してきた。

 やから分かる。今 先輩がすべきことは、

 自分の思っとることをストレートに伝えることや。」


笑子(しょうこ)はビシッと紡久(つむぐ)を指差す。


「……ストレートに?」


「せや。変に言葉を取り(つくろ)う必要はあらへん。

 思うがままにぶつけたらええ。ウチもそうしたで。」


「で、でも、もし本当の気持ちを(さら)け出して、

 安美(あみ)(こば)まれたらどうすれば……。私は……!!」


言葉(ことのは)高校の生徒会長ともあろうモンが

 今更 臆病風に吹かれてどないすんねん!!

 昨日のえげつないオーラはどこ行ったんや!!」


「うう……」


紡久(つむぐ)は決まりが悪そうに指を(いじ)る。

それを見かねた笑子(しょうこ)は思わず頭を(かか)えた。


「(紡久(つむぐ)先輩は心が弱すぎるねん。

 今まで本当に先輩1人で安美(あみ)を守ってたんか!?

 やっぱウチも仲間に加わって良かったわ……。)」


笑子(しょうこ)はため息を()き、紡久(つむぐ)の肩に手を乗せる。


「まあきっと大丈夫や。

 ウチが保証したる。安美(あみ)はそんなヤワな女やない。

 先輩の気持ち、きっと受け()めてくれるはずや。」


掛詞(かけことば)笑子(しょうこ)……」


「……知らんけど。」


掛詞(かけことば)笑子(しょうこ)ォ!?!?」


年上とは思えないほどに慌てふためく紡久(つむぐ)を見て、

笑子(しょうこ)は一切の躊躇(ちゅうちょ)なく大笑いする。


「(や、やっぱり掛詞(かけことば)笑子(しょうこ)安美(あみ)を任せるのは危険だ!!

 こんな適当な人間に安美(あみ)の護衛が務まるわけがない!!

 少し信用してみようかと思った矢先にこのざまだ!!)」


わなわなと(いか)りに(ふる)える紡久(つむぐ)だったが、

笑子(しょうこ)の心からの笑顔を見て、表情が少し(やわ)らかくなった。


「(まあ、今回は大目に見てやろう。

 からかわれたこと自体はめっぽう心外だが、

 彼女と話したことで気が楽になったのは事実だ。)」


紡久(つむぐ)笑子(しょうこ)一瞥(いちべつ)し、ため息を()く。


「(それに、初対面(あの時)とは違う、心からの笑み。

 (ようや)く彼女の素が見れたのだ。それだけでお釣りが来る。)」


紡久(つむぐ)笑子(しょうこ)に向き直り、口を開く。


笑子(しょうこ)。ありがとう。

 君のおかげで自分の考えを整理できた。」


紡久(つむぐ)がぺこりと頭を下げると、

笑子(しょうこ)は気恥ずかしそうに目線を()らした。


「……別に、礼には(およ)ばへんよ。

 ウチはただ冗長な昔話をしただけや。

 そっから先輩が何かを見出そうと先輩の勝手や。」


「ははっ 笑子(しょうこ)らしいな。」


「(()()()ってなんや、らしいって。)」


笑子(しょうこ)は少し(まゆ)(しか)めた。


「では早速安美(あみ)にこの気持ちを伝えてみるよ。」


「そか。ほな終わるまで耳でも(ふさ)いどこか?」


「いいよ。そこでそのまま聞いていてくれ。」


紡久(つむぐ)は大きく深呼吸し、口火を切る。


「考え中のところすまない、安美(あみ)。」


「……! はい、何でしょうか!!」


「君に、伝えたいことがあるんだ。」


安美(あみ)紡久(つむぐ)とばっちり目が合った。

その真剣な表情を見て、安美(あみ)は何かを察したようだった。


「はい。聞かせてください。」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「――それが、先輩の気持ちなんですね。」


「ああ。……私のことが嫌いになったかい?」


「いいえ。先輩が私を大切に思ってくれてるって知れて、

 むしろとっても嬉しいです。ありがとうございます!」


安美(あみ)天真爛漫(てんしんらんまん)に笑いかけてみせると、

紡久(つむぐ)は胸のつかえが取れたように笑い返した。


「……そういえば、さっきは何で悩んでいたんだい?」


思い出したと言わんばかりに紡久(つむぐ)が問う。

すると安美(あみ)は照れくさそうにはにかんで答える。


「今朝 教室で(もとむ)ちゃんと話していたら、

 (もとむ)ちゃんが何か悩んでいる素振(そぶ)りを見せたんです。

 でもすぐには私に相談しようとしてくれなくて……。

 ずっとモヤモヤしてたんですが、やっと気づいたんです。

 これはきっと、自分を頼ってほしいと言ってくれた、

 あの時の先輩と同じ気持ちなんじゃないかって。」


「そ、そうなのか……」


紡久(つむぐ)はその時のことを思い出し少し顔を赤らめた。


「だから先輩、ごめんなさい。」


安美(あみ)は深々と頭を下げる。


「私の勝手な行動で、先輩を傷つけてしまいました。」


安美(あみ)、いいから頭を上げてくれ。

 私だって君に謝らなければならないんだ。

 君を守るはずが、かえって君を追い詰めてしまった。

 もっと良い言い方もあったはずなのに。ごめんなさい。」


「いえいえ。悪いのは私なので……」


「いや、悪いのは私の方だ。」


「いえいえいえ。私が――」


交互に謝り続ける私たちを見て、笑子(しょうこ)が一言。


「いつまで謝っとんねん!! 長いわッ!!」

「「!?」」


2人は一斉に笑子(しょうこ)の方へ振り向く。


「ウチの立場で言えたことやあらへんけど、

 いくらなんでも話し合いに時間()きすぎや!!

 はよ決着つけんと安美(あみ)が昼飯食えへんやろが!!

 昼休みはあと15分やで!! 15分!! 分かっとんのか!?」


「(そういえばまだ食べてる途中だったな……)」


「(もうそんなに時間が()っていたのか……)」


笑子(しょうこ)茫然(ぼうぜん)としている安美(あみ)紡久(つむぐ)の手を取る。


「はい握手!! 仲直り!! 証明終了(Q.E.D.)!!!」


「「そ、そんな強引な……」」


「見ててじれったいんや 堪忍(かんにん)せぇ!!

 安美(あみ)は何かあったら紡久(つむぐ)先輩に相談!!

 紡久(つむぐ)先輩は日頃から意思疎通をちゃんとする!!

 2人とも悪いとこあったんやからこれでチャラやろ!!」


安美(あみ)紡久(つむぐ)笑子(しょうこ)の勢いに押され、

きょとんとしたまま強制的に仲直りさせられてしまった。


「ほな仲直りも済んだみたいやし、

 ウチはもう教室戻るわ。また明日な〜。」


「あ、待って笑子(しょうこ)ちゃん!!」


「なんや 安美(あみ)。まだ文句あるんか!??」


「い、いや、そういうわけじゃなくて……。」


「……じゃあなんや?」


笑子(しょうこ)気圧(けお)され安美(あみ)がもじもじしだす。


「しょ、笑子(しょうこ)ちゃん!! ……と紡久(つむぐ)先輩!!

 良ければ放課後、どこか一緒に出かけませんか!?」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


――イタリアンレストラン『ガルデニア』にて。


「まさかデートに誘われるとは思わんかったわ。」

「デ、デートじゃないからっ!!」


咄嗟(とっさ)に否定する安美(あみ)の目の前に、

コトッと音を立ててレモネードが置かれる。


「ドリンク取って来たよ。」

「ありがとうございます!」「おおきに。」


レモンの爽やかな酸味が口いっぱいに広がり、

頭の中を涼しい風が通り抜けるような感じがする。


「美味しい。」

「それは良かった。」


紡久(つむぐ)は嬉しそうに微笑(ほほえ)む。


「それにしたって(いき)なことを考えるね、君は。

 掛詞(かけことば)笑子(しょうこ)を仲間に加えたことを祝おうなんて。」


「せやなぁ。着眼点がちゃうんやろなぁ。」


「え、えへへ……」


ちょっと照れくさくなった。


「なんか、2人が仲良さそうで良かったよ。」


「「仲良くはない。」」


「あ、あれ〜!?!?」


てっきりもう仲良くなったものだと思ってたんだけど!?


「私たちは一口に仲間とは言えど、

 その実は利害関係の一致で協力しているに過ぎない。

 確かに掛詞(かけことば)笑子(しょうこ)の戦闘力とユーモアは(ぐん)を抜くが、

 『戦争』のつらたんたんへの復讐(ふくしゅう)を目的としている以上、

 それに安美(あみ)を巻き込みかねない危うさは看過(かんか)できまい。」


紡久(つむぐ)先輩!?!?」


紡久(つむぐ)がきっぱりと言い切ると、

笑子(しょうこ)は触発されたように言い返した。


「そないなこと言うんやったらこっちからも願い下げや。

 そらぁ先輩は頼りがいあるし戦闘経験も豊富やけど、

 ちぃ〜っと厳しすぎて柔軟性に欠けとんねん。

 (くら)ん中見せてくれるっちゅー約束無かったら、

 わざわざ組もうなんて思わんわ。仲良くはできひん。」


笑子(しょうこ)ちゃんまで!?!?」


先程までの(なご)やかな雰囲気はどこへやら、

今や一触(いっしょく)即発(そくはつ)の大変冷え込んだ空気になっていた。


「な、なんで!? 誘わない方が良かった?」


「「それはない。」」


「そこは意見一致するんだ……。

 ならせめて今日だけでも仲良くしてよ。」


「断る。」「嫌や。」


「なんでなのもぉぉぉぉ!!!」


安美(あみ)が涙目で(うった)えかけるが特に効果は無い。


「(だってそれは――)」「(そらぁ先輩は――)」

「「(安美(あみ)にとって悪影響になるからだ(悪影響になるからや))」」


安美(あみ)は知る(よし)も無い、最悪の意見一致であった。


「(兄さんや姉さんたちは年中大忙しだし、

 安美(あみ)を万全に守るためには人手が足りない。

 強力な助っ人だと踏んで協力を取り付けてみたが、

 笑子(しょうこ)のせいで安美(あみ)が苦しむ姿は見たくない。)」


「(『戦争』のつらたんたんに近づける上に、

 安美(あみ)まで守れるんなら一石二鳥や思ったんやが、

 やっぱしこの堅物生徒会長とは気が合わんわ。

 今の安美(あみ)はいろんなモンに縛られすぎや。

 先輩がすべきは縛ることやなく、支えることやろが。)」


「(どうしよう……、どうしよう……、

 やっぱりここは私が何とかしないとだよね!?)」


三者三様に思い(わずら)う中、

突然 周囲の景色がぐにゃりと(ゆが)み始める。


「つらたんたんが()おったか。()が悪いなぁ。」


「まだご飯が来ていないというのに……。」


「「!」」


紡久(つむぐ)の一言で、安美(あみ)笑子(しょうこ)は目を見合わせる。


「ああっ 私のミートソースパスタがぁっ!!!」

「ウチのティラミスゥゥゥッ!!!!」


食いしん(ぼう)2名の号哭(ごうこく)をものともせず、

言業(ことわざ)紡久(つむぐ)は静かに体勢を整えた。


「巻き込まれてしまった以上 仕方あるまい。

 観念世界内では、(ぬし)のつらたんたんにもよるが、

 時間の流れがゆっくりになっている場合が(ほとん)ど。

 速攻で片付ければいいだけのことだ。切り替えろ。」


「……言われんでも分かっとるっちゅーねん!!

 どんなつらたんたんが来ても返り()ちにしたるわ!!」


「……期待しているよ。」


見渡す限り、一定間隔で桜が置かれた平原だ。

近くには小川が流れていて、花筏(はないかだ)が形成されている。


上空に鎮座(ちんざ)するつらたんたんは綿雲のような見た目で、

周りを土星の()のように桜の花びらが周回していた。


「・・・・・。」


サラサラサラと花びらが高速回転したかと思えば、

途端(とたん)にまるで真冬の夜のように肌寒くなる。


「さッッッむ!!! なんやこれ!?」

「あばばばばば震えが()まらなくなってきた……」


何だこれは。気温操作の(たぐい)か?

指先の感覚が無くなっている。頭も痛い。ともかく……


安美(あみ)!! 笑子(しょうこ)!! これを使うんだ!!」


紡久(つむぐ)が制服のポケットから何かを投げる。


「カイロだぁーーー!!!」

「……おおきに。恩に着るわ。」


(かじか)んだ手先がじんわりと温められていく。


「あのつらたんたんの()が回転すると気温が下がった。

 何らかの温度に(まつ)わる観念を(つかさど)っているのだろう。」


「んなことは見れば分かるっちゅーねん。」


「………!」


紡久(つむぐ)は「上出来だ」と小さく(つぶや)いた。


「なら後は簡単だな。」


「ああ、せやなぁ。」


「え? え? ど、どうするつもりなの?」


「決まっているだろう。」「決まっとるやろ。」


返事がシンクロした紡久(つむぐ)笑子(しょうこ)

話の先が見えず困惑する安美(あみ)だったが、

その答えは至極シンプルなものであった。


「また気温を操作される前に、」「速攻で(つぶ)したる!」


「脳筋戦法!?!?」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


一方 同時刻、言葉(ことのは)駅前広場にて。


「ごめん、ちょっと遅れた。」

「ちょっとぉ!?? 約20分もの遅れがちょっとぉ!??」


ぺこぺこ謝る黒紫色の髪の女に対し、

全身の色が()()の男は(まゆ)を吊り上げて怒る。


「宇宙スケールで見たら20分なんて誤差でしょ。」


「それは『誤差(ごさ)』じゃなくて『誤算(ごさん)』だよ!!

 上皿天秤(うわざらてんびん)(あり)の体重を(はか)るやつがあるか!!!

 見ろよdot(ドット)を!! 待ち疲れて寝ちまったじゃんか!!!」


目線の先には、ピンク髪で筋肉質の男が、

ベンチの上に座ったまんま深い眠りに()いていた。


「………で?」


「『で?』じゃないんだよWhammy(ワミー)!!

 君は俺たちの貴重な20分間を無駄にしたんだ!!」

「たかが20分で文句言うなんて根性無しよ。

 男なら女が1時間遅れて来ても笑って許しなさい。」


Whammy(ワミー)のとんでも理論にはもう()()きだよ!!

 今のご時世でよくもまあそんなこと言えたもんだ!!

 堂々とジェンダー差別しやがって!! こんの我儘姫(わがままひめ)が!!」


売り言葉に買い言葉でヒートアップする両者とは対照的に、

その男は()の抜けた欠伸(あくび)とともに目覚めた。


「ふあぁ〜あ。おはよう。Whammy(ワミー)、きょー(くん)。」


「おはようdot(ドット)Whammy(ワミー)が来たよ。」


「……そうか。じゃあ向かうか?」


「うん。予定より大分遅くなっちゃったけど、

 その分早く倒せればタイムロスも帳消しになるさ。」


「ん、分かった。」


dot(ドット)は重い腰を上げる。


「で、どこに行けばいいのよ。」


「ショッピングモール・コトノハ2階のガルデニアさ。

 そこに『三寒四温』のつらたんたんの(ゲート)がある。」


「そんなとこに本当に居るわけ? ガセじゃない?」


Whammy(ワミー)(いぶか)しげに(たず)ねると、

“きょー(くん)”とやらはニカッと笑って答えた。


「大丈夫。ウツロの目に狂いは無いよ。

 それよりほら、早く行こう。つらたんたん狩りに!」

☆オマケ

このコーナーでは、作中で使われた(ことわざ)の意味や『使われ方』について解説を行います。


①いとしけりゃこそ、しとと打て

今回のサブタイ。『大事に思う相手が過ちを犯したのならば、甘やかさずにきちんと叱らなければならない』という(いまし)めの(ことわざ)


(やぶ)から棒

『急に(やぶ)から棒が飛び出たら驚いてしまうのと同じように、唐突で思いがけぬこと』を意味する(ことわざ)。『(やぶ)をつついて(へび)を出す』とは意味が全く異なるので要注意。


③臆病風に吹かれる

『恐怖が生じること』という意味の(ことわざ)。ここでの“風”は『先輩風を吹かせる』の“風”と同じように、特定の感情や雰囲気(今回の場合恐怖)が舞い込む姿を風に(たと)えたものなのだとか。


④一石二鳥

『一つの行動で同時に二つの利益や成果を得ること』を意味する四字熟語。元ネタは19世紀イギリスの(ことわざ)『Kill two birds with one stone』とされている。中国の故事由来ではない。


⑤三者三様

『3人居れば3つの様子があることから、人の数だけ特徴や考え方があるということ』を意味する四字熟語。今回であれば一文(ひとふみ)安美(あみ)言業(ことわざ)紡久(つむぐ)掛詞(かけことば)笑子(しょうこ)の3人がそれぞれ思い(わずら)う姿を(たと)えている。


⑥売り言葉に買い言葉

『言われたことに対してすぐに言い返すこと』を表す(ことわざ)。今回は“きょー(くん)”と“Whammy(ワミー)”の(くち)喧嘩(げんか)に対して用いられた。この人たちは一体何者………?

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