13言め『灰吹から蛇が出る』
一文安美、言業紡久、掛詞笑子は、イタリアンレストラン『ガルデニア』に居たところを正体不明のつらたんたんにより襲撃されてしまった。
「〝バットがばばっと登場!〟」
笑子は金属バットを呼び出し突進する。だがつらたんたんの周囲を渦巻く大量の花びらは、襲い来るバットに散らされるどころか、弾き返した。
「げっ! なんて硬さや! 鉄かいな!?」
「〝頭から火が付く〟」
笑子の攻撃に乗じて、紡久が畳みかけるように唱える。具現された炎が、つらたんたんの頭部を包みこんでいく。
「叫び声1つ上げへんな。効いとらんとちゃうか?」
「いや、効果が無いわけではないはずだ。言霊による攻撃は流石のつらたんたんでも治しづらい。恐らくはあのつらたんたんが司る温度に関する何か。その観念に“喋る”イメージが無かっただけだろう」
「そないなこともあるんやな。知らんかったわ」
「2人とも前! 前!!」
つらたんたんが花びらを一点に凝縮し、3人に向けマシンガンの如く乱れ撃つ。
安美は即座に念じてバリアを展開するが、早くも花びらがバリアに刺さり、罅が入り始める。
「ウソ!?」
「〝快刀乱麻を断つ〟!!」
言業紡久の判断は早かった。バリアが砕けると同時に諺を発動し刀を具現。目にも留まらぬ手さばきで花びらの軌道を逸らした。
「す、すみません! 私のバリアが弱いばかりに――」
「いや、安美のバリアは決して弱い代物ではない。君のバリアは来人兄のそれと同等かそれ以上の強度だ。それを突破せんとするつらたんたんの方が異常なのだ!!」
やがて花びらの連投が止まったかと思えば、つらたんたんの周囲に環が再出現し、高速回転する。
「まずい! また温度が下がるぞ!!」
各々がカイロを強く握り締める中、予想に大きく反し、周囲の気温は急上昇する。
「あッッッッッつ!?!?」
笑子はお手玉のようにカイロを持ち替えながら、地面を踏んでいられないと高速で足踏みする。
「温度を上げるという可能性を見過ごしていた!! クソッ。安美!! 笑子!! 今すぐにカイロを捨て――」
紡久は大きくバランスを崩し、片膝をつく。
「「紡久先輩!?」」
「なんだこれは………急に目眩が……」
この機を逃さんとばかりに、つらたんたんは桜の花びらをばかすかと乱れ撃つ。
「(ま、まずい、避けられない!)」
「〝ホームランで葬らん〟ッ!!」
笑子は咄嗟に紡久を背に庇い、がむしゃらにバットを振り回して花びらの弾幕を退ける。
「笑子……!!」
「別に、ウチとて庇いたくて庇ったわけやないで。安美を守るために、今必要なことをしとるだけや!!」
「素直じゃないなぁ………。」と安美は思った。
「それよりも紡久先輩。ウチ思うねん。冬場に暖房ガンガンに効かせた部屋から、キンキンに冷えた脱衣所行って、アツアツの風呂入ると、たまにクラッと目眩がすることがあるやろ? 今の先輩の状態はそれと同じやないか? 知らんけど!」
俗に言うところの、ヒートショックっちゅーやつや。まあ先輩が知っとるかは分からへんけどな。
「なるほど、ヒートショックか!!」
「って!! 知っとるんかいッ!!」
笑子の鋭いツッコミは追い込まれて尚健在である。
「急激な温度変化に伴う血圧の乱高下。あのつらたんたんは、本能か計算ずくか、それを狙って引き起こした可能性がある」
「………つまり何が言いたいんや?」
笑子はごくりと固唾を飲む。
「あのつらたんたん、恐らく『三寒四温』は、暴食期の中でもかなり知能が高い方だと考えられる。恐らくこの方法で多くの人間を狩ってきたのだろう」
「……そら恐ろしいこっちゃなぁ」
桜の花びらの連射が止まり、つらたんたんの周りに再び環が形作られる。
「まずい! また温度を変えられるで!!」
その時安美の鞄から何かが飛び出し、『三寒四温』のつらたんたんの脳天をぶん殴る。
「満を持して登場! ダミー様だぜ!!」
「「「ダミ!?」」」
ダミーは華麗に着地し、かっこいいポーズを決めた。
「ま、まだ病み上がりだよね!? 大丈夫な!?」
「心配すんなご主人様ァ。たっぷり休んで元気百倍だぜ!」
「そっかぁ。なら良かった!」
つらたんたんは負けじと花びらで応戦するが、ダミーは的が小さくすばしっこいため、上手く当たらない。
「俺はあくまでお人形だからなぁ!! 恒温動物のご主人様たちとは違って、いくら温度を変えられようと動きに支障が無ェ!! やーいやーい!! 当てれるもんなら当ててみやがれ!!」
つらたんたんは花びらをハンマーのように固め、モグラ叩きのようにダミーを追いかけ回める。
「や、やべッ。調子乗りましたァァァ!! 紡久の姐御ォ!! 笑子ォ!! どっちでもいい!! 悪ィけど とっとと復帰して助けてくれーッ!!!」
ダミーの情けない悲鳴が鳴り響く中、紡久と笑子は呆れたように顔を見合わせる。
「……やって。紡久先輩はどないする?」
「調子が戻って来た。いつでも行けるよ」
笑子は「そか」とだけ呟き、バットを肩に担いだ。
「ほな、ウチは安美を花びらから守ったるから、先輩はあのつらたんたんに一発お見舞いしたってくれ」
「……いいのかい?」
紡久は意外そうに、目を見開いて問いかける。
「何がや」
「つらたんたんを斃したいという気持ちは、君の方が、他の誰よりも強いと思ったのだが……」
紡久が尋ねると、笑子はクスッと笑って答えた。
「なんや、心配してくれとんのか。別にええのに。ウチは今まで全てのつらたんたんを同列に扱っとった。やけど、ウチの我武者羅な生き方を安美が正してくれた。やからこないな時にまで私情を優先したりせえへんよ」
「……随分と変わったんだな」
「せやな。ウチも自分で驚いとるよ。まあ、今はそないなことどうでもええか。とにかく最優先は安美を生きて帰すことわ! 先輩なら、あのデカブツを確実に葬れるやろ?」
「ああ、そうだね」
紡久は数歩前へ出て、どっしりと構えた。
「後輩たちの期待に応えられるよう、死力を尽くそう。さあダミー! 私にありったけの言霊を頼む!!」
「あいよォ!!!」
ダミーが真横を通り過ぎると同時に、紡久の肉体に溢れんばかりの言霊が供給される。
「ありがとう、皆」
紡久は両手で作った四角い窓を通して、眼前に迫る『三寒四温』のつらたんたんを睨みつける。
「〝下手な鉄砲〟」
紡久の周りに光の弾丸が無数に現れるのを見て、つらたんたんは急いで花びらの大盾を形成する。
「〝数撃ちゃ当たる〟」
つらたんたん目掛け、大量の銃弾が飛んでいく。一切の逃走を許さぬ弾幕は、着実に大楯を削っていく。
瞬く間に装填と発射を繰り返し、土煙で最早何も見えなくなるまで、紡久は攻撃を続けた。
「………やったか?」
「ちょっ 先輩!! それは言うたらあかんやつや!!」
やがて視界がクリアになったかと思えば、信じ難いことに、そこには堅牢で巨大な鋼鉄の壁があった。
「な、何なんだこの壁は。いつの間に。まさか、あのつらたんたんは他に能力を……?」
果てしなく続く壁の端はどこかと空を見上げると、空中には不自然な穴がぽかんと開いており、そこから どしんと3人の人間らしきものが降ってきた。
「いやぁ、本当に危ないところだったねぇ。あと少しで『三寒四温』を斃されるところだった」
そう口を開いたのは真ん中、全身が白黒の青年。背中には?の装飾が付いた黒い翼があり、どこからどう見ても人間のそれではなかった。
「ちょっとぉ!! 髪型が崩れたんですけど!! 高い所から飛び降りるなら先に言っといてくれない!!?」
「うるさいなぁ! どうしてか門の座標がズレたんだよ!!」
男に不平不満を垂れているのが、黒紫の髪の若い女。タイトで毒々しいデザインの衣服を着用していて、頭部の赤い結晶状の角がおどろおどろしく光っていた。
「……って、あら? もしかしてあの娘――」
「なんだい、Whammy。顔見知りかい?」
「……さぁね。知らない」
「あっそ。なら別にいいけど」
白黒男と角女が口論している横で我関せずと爪を弄っているのが、ピンク髪の男。黒いタンクトップと青いジーンズを身に着けている。
「………何者だ、君たちは」
紡久が不審に思い問いかけると、白黒の男はウキウキとした様子で答えた。
「おやおやこれは、お初にお目にかかる。俺は『七天罰党』が一人、讃木矯正さ! 君たちが先程戦っていた『三寒四温』のつらたんたん。あれは俺たちが先に目を付けた獲物だったんだよ。突然で大変恐縮だが、お引き取り願えないだろうか?」
どこからどう見ても怪しい。笑子と紡久は困惑しながら視線を交わす。
「な、なんやこいつら。 先輩 知っとる?」
「いや、全く聞いたことがないな」
そういえば、父さんや到華姉が言ってたっけ。最近不審な動きをする者たちが居るとかなんとか。それはこの『七天罰党』とやらのことなのだろうか。
「君はあれを獲物だと言ったな。つまるところ君たちはことだマスターなのか? 返答次第では、こちらも取る対策が変わるのだが」
「……ほう」
紡久の問いかけに、讃木矯正とやらは目を見開く。
「ちょっちょっ。先輩、どういうことや? 仮にことだマスターじゃなかったら何が問題なんや?」
笑子が小声で聞いてくる。
「……不味いんだよ。部外者の立ち入りは。つらたんたんへの接触と駆除が許されているのは、私のように正式にことだマスターとして登録された者、あるいは安美のように許可されている者だけだ。単に一般人が関わるのは危ないというのもあるが――」
紡久は前方の3人を睨む。
「一番は、つらたんたんの悪用を防ぐためだ」
「……悪用やと?」
「つらたんたんは負の感情を得るため、人間を積極的に害そうとする習性があるだろう。それを兵器として利用しようとする者が稀に現れる。無論そんな試み1度たりとも成功した例がないが」
「……アカンやろ、そんなの」
笑子はわなわなと肩を震わせて呟く。
「あれを人を傷つけるために利用する……? 絶対あかん。そんなことあっていいはずがあらへん。そいつらはきっと、何にも分かっとらんのや。襲われる側がどれだけの恐怖を味わわされるのか」
「……ああ、そうだな」
時折夢に見ることがある。冷たくなった母を抱き抱え立ち尽くす父の姿を。涙を堪え、泣く私たちの頭を優しく撫でる誠兄の姿を。
「もしつらたんたんを利用するというのなら、たとえどんな理由があろうとも、許すことはできない」
一歩も引かない紡久の毅然とした様子に、讃木矯正とWhammyはため息を吐く。
「はぁ〜あ。困ったねぇ、こりゃあ。本当のこと言ったら余計に怒りそうだよ」
「面倒くさいわねぇ。もういいじゃない。あっちもそうそう譲る気はさらさらなさそうだし、手っ取り早く実力で黙らせちゃうのはどうかしら」
「駄目だよWhammy。事を強引に進めてしまえば後始末が面倒になる。それに、理由のない加害行為は禁止されているだろう?」
「要はその理由ってのがあればいいわけでしょ?」
Whammyは胸元で拳を握る。
手先はみるみるうちに黒く染まり、炎が灯る。
「アイツらはワタシたちの任務の邪魔。それってもう十分な理由になるんじゃない?」
「Whammyは喧嘩っ早すぎるんだよ!! ったく」
讃木矯正は頭を抱える。
「まあいいや……。dot、仕事の時間だ」
「……なんだ。また戦うのか?」
「ちょっと寝ててもらうだけだよ」
讃木矯正は手で何かを合図したかと思えば、準備する暇も与えず笑子に襲いかかる。笑子は灰色の拳をバットで必死に受け止めるが、その勢いに押され大きく後ろへ後退する。
「お前!? ほんまに人間か!!?」
「これを受け止められるんだ? いいね、面白いよ!!」
安美は咄嗟に笑子に駆け寄ろうとするが、すかさずWhammyが通せんぼし、燃える拳を振りかざす。
「アンタの相手はワタシだよ!!」
「お手々 熱くないの!?」
「ちょっと熱いわ……って何言わせるのよ!!!」
Whammyは大きく拳を振り上げる。
「安美!! 今助けに――」
「余所目するとは余程の余裕があるようだな」
「!?」
時同じくして 安美の元に駆け寄らんとする紡久は、dotによって行く手を阻まれてしまう。
「貴様の相手をしている暇はないんだ!! どこの誰かは知らないが退け!! 怪我したくなくば!!」
紡久の忠告を聞く素振りすら見せず、dotは肩をぶんぶんと回しながら淡々と答える。
「無用な懸念だ。オレは罰党の中でも有数の手練だぞ」
dotの両手がべきべきと音を立てながら肥大化し、大量の出血と共に破裂したかと思えば、中からピンク色の拳銃が2丁出現した。
「なッ――!?」
「眠れ。さすれば仲間の安全は保証する」
「出会ってそうそう武器を突きつける者の言うことを、俄かに『はいそうですか』と受け入れられると思うか!!」
「そ、それもそうだな。すまん」
いつの間にかdotの消し飛んだ手先は再生し、両手に拳銃をぎゅっと強く握り締めていた。
「まあでも、忠告は行ったからな。後からお前がどれだけ文句を垂れようと突っぱねるぞ」
dotが引き金を引いた時、すでに紡久は動き始めていた。
「〝愛 の 二丁拳銃〟」
銃弾をすんでのところで見切りった紡久は、dotの側頭部に鋭いキックを浴びせる。だがその手応えは明らかに人間のそれでは無かった。
「ま、まさかとは思うが、貴様!?」
「早くも勘づくか……。油断はご法度だな。このdot。全力でお前を封殺させてもらう」
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「〝悋気Ofen〟」
Whammyなる女の両掌から炎が放たれる。
「ご主人様ァ!! 早くバリア!!」
「あっぶな!!」
安美はバリアを展開してなんとか難を逃れる。
「ちょっと!! 何よその力ぁ!! ズルいじゃない!!」
「掌から火を出すびっくり人間には言われたくないです!!」
「誰がびっくり面白人間ですって!??」
「そこまでは言ってないですよ!!!」
安美はダミーと共に全力で逃げ回るが、Whammyは後方から破竹の勢いで猛追する。
「チッ ちょこまかと……狙いづらいわねぇ! 痛くないよう気絶させてあげるから!! 止まりなさい!!」
「嫌です怖いです絶対に止まりません!!」
安美はさらに加速し、どんどんと遠ざかっていく。
「ワタシから逃げ切ろうってワケね? なるほど、なかなかいい度胸してるじゃないの!!」
Whammyが力強く踏み込んだかと思うと、地面に亀裂が走り、切れ目から火柱が上がり始める。
「〝祟ら火打足〟」
激しい爆発と衝撃波を背に凄まじい勢いで加速し、Whammyは瞬く間に安美に追いついた。
「ウソでしょぉ!?!?」
「ワタシから逃げ切ろうだなんて100年早いわ! 本気出せばこの程度の距離ちょちょいのちょいよ!!」
「もう嫌だ〜〜!!」
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「〝前髪が邪魔で前が見えん〟」
笑子が駄洒落を唱えると、讃木矯正の前髪がありえないほど伸びる。
「へぇー! 実に面白い能力だ!! 君は言霊で駄洒落を具現化するんだねえ!! どこまでできるの!? どこまでやれるの!? 教えて教えて!!」
「うっさい!! 敵さんに教えることなんて何もないわ!!」
讃木矯正の腕がナイフ状に変形したかと思えば、自身の視界を遮る前髪を一瞬にして切断する。それだけならまだしも、彼は腕を櫛に変えて、髪型を元通りに直すほどの余裕さえ見せてみせた。
「ならいっそ仲間になろうよ!! 好待遇は約束するからさ!!」
「お断りや」
笑子のバットが讃木矯正の胴に当たる。灰色の肉体がプリンのように弾け飛んだかと思えば、瞬く間に元の形へと戻っていった。
「チッ」
「危ない危ない。俺じゃなかったら死んでたかも。そんなに強いなら尚更うちに入ってほしいなぁ。君なら、ウツロにだって勝てるかもしれない!!」
「………誰やねんそいつ」
笑子が疑問を呈すると、讃木矯正はさぞ嬉しそうに目を輝かせる。
「気になる!? 気になるよねぇ!! いいよ教えてあげるよ、これも出会った誼さ!!」
「いやウチは別に――」
待て。これは敵情を知るチャンスかもしれへん。ここはこの白黒男に話を合わせた方がええ。
「――どうせなら聞かせてもらおか。お前ん組織と、“ウツロ”とかいうやつについて」
「そうこなくっちゃ。この世は『知る』者が全てを『領る』んだから」
讃木矯正は攻撃の手を緩めぬまま、生き生きと語り出す。
「俺の所属している『七天罰党』はね、ウツロが組織したんだ。まあ事実上のボスだよ」
「そのウツロっちゅーんは、何のためにそないなもん作ったんや」
「この歪んだ世界を破壊するためさ。そのために仲間を募った。7人の優秀なメンバーを」
「7人!?!?」
コイツレベルがあの男と女を差し引いてもあと4人もおるんか!? 笑えん冗談は止めてほしいわ!!
「おっと、『七天罰党』とは銘打ってはいるが、メンバーの追加加入は大歓迎だから遠慮は要らないよ!! なんなら『八天罰党』に変更したっていい」
「そこはあんま気にしてへんわ!!」
……自分で聞いといてなんやけど、なんでコイツはこんなベラベラベラベラと内部事情喋っとんねん。秘密がダダ漏れやないか。ブラフか? はたまた何か別の目的があるんか……?
「まあええわ。お前んとこのことは大体分かった」
「……!! そうか! じゃあ君も俺の仲間に――」
「ちゃう。まだ肝心なことが聞けてへん。お前、ウチに何か隠しとることがあるやろ」
「………何のことかな?」
しらばっくれる讃木矯正に痺れを切らし、笑子は高圧的に問いかけた。
「お前んその力、言霊だけやないよなあ? それだけじゃあ説明つかないほどの力を持っとる。単刀直入に聞くわ。お前、つらたんたんやろ?」
「……へぇ。気づいちゃうんだ?」
讃木矯正は大きく目を見開く。
「野生の勘や。ウチはつらたんたんが嫌い。見掛けたらぶっ殺したくなるほどに、や。その衝動が何故かお前にも適用されとる。ちゅーことは、お前もつらたんたんってことや!!」
笑子の理論を聞き、讃木矯正は思わず笑い出す。
「あっはははははは!!! 面白いッ! 面白いよ君ッ!! 俺は今、人間の可能性というものを垣間見たよ!! すごいね!! 『勘』なんて非現実的なもので気づくなんて!! 文字通り君は『甚』だしい『力』をお持ちなようだ!!」
「最悪のビンゴやわ……!」
笑子は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そうさ。お察しの通り俺はつらたんたん。いや、正確にはつらたんたんと同化した人間さ」
「頭どうかしとんのか!?!?」
「『同化』だけにって?」
「うっさいわ!! 茶化すんやない!!」
讃木矯正は子供のように笑う。そして少し寂しそうな顔をする。
「ごめんね。本当はもっとお話したかったけど、そろそろ片付けないと怒られちゃう。だからまたね」
讃木矯正は両手から、『爆』の字を2つ出現させる。
「(なんやこれ、文字?)」
「ばく」
讃木矯正が漢字の読みを唱えると文字が消失し、大爆発が引き起こされる。
「――あっぶな!! 死ぬかと思たわ! ありがとう安美!」
安美が咄嗟の判断で笑子にバリアを張ったおかげで、笑子はなんとか無傷で済んだ。
「どういたしまし――」
「余所見してんじゃあないわよ!!」
だが安美は自らを守ることができず、腹部側面に強烈なパンチを食らわされる。
「「安美!!」」
安美は地に倒れ激しく咳込む。「ダミーは!?」と笑子が辺りを見渡すと、Whammyの左手に力強く握り締められていた。
「ご主人様ァ…………! すまねェ……!」
ダミーが力なく呟く。
「……うっ…あ………」
痛い。痛い。上手く息ができない。怖い。涙出そう……。逃げたい……。
Whammyはダミーをほいと放り投げ、力強く足音を鳴らしながら地に伏した安美に接近する。
「なぁに? もう終わりってわけ? はぁ……。本ッ当につまらないわね、アンタ。今ので完全に興冷めしちゃったわ。アンタみたいな雑魚が何でこんな場所にいるの?」
……そうだ。本当は最初から分かってたんだ。私は紡久先輩にとって、笑子ちゃんにとって、ずっとただの足手まといでしかなかったんだって。
『不合格』の時も、『仲違い』の時も、『問い』の時も、『同調圧力』の時だって、いつも守られてばかりだった。いつも守られてばかりの役立たずだった。
ダミーは迷惑を掛けるのは『権利』だって言ってくれた。でも私は、皆の迷惑を引き受ける、そんな簡単な『義務』さえ果たせそうにない。
私なんて、このまま生きていたところで――、
「歯向かう気力も無い、か……」
Whammyは一度振り上げた拳を下ろす。
「もういいわ。そのまま蹲ってなさい。アンタはどうせ何もできないでしょうし。……そうね。次はどちらに加勢しようかしら。あのムカつくほど容姿の整った優等生の方か。それともあの強そうな関西弁の転校生の方にするか」
駄目だ。そんなの絶対駄目だ! このままだと、このWhammyとかいう女は、紡久先輩や笑子ちゃんの戦いに乱入する。そんなことになれば、2人の命が余計危うくなる!!
私はいつまで足を引っ張り続けるんだ?
変わるんだろ? 自分を変えたいって願ったんだろ?
動け! 動け!! 動けよ!!!
どれだけ惨めでも、どれだけダサくても食らいつけ!!
1秒でも長くWhammyを引き止めろ!!
「ん゛っ!!!」
「はぁ!? ちょっ…止め……っ!! 何よ急に!! 誰の許可取ってワタシの足にしがみついてるわけ!? 離しなさい!! もうアンタには興味も何もないんだから!!」
突然の安美の抵抗に、Whammyはかなり動揺したようだ。
そんな彼女に対し、安美は強がって笑ってみせた。
「じゃあまたすぐに私に夢中にさせてみせるよ。それとも私と戦うのが怖い? Whammyさん!」
「〜〜〜ッ!! ムッッッカつくわねぇ!!!」
☆オマケ
このコーナーでは、作中で使われた諺の意味や『使われ方』について解説を行います。
①灰吹から蛇が出る
今回のサブタイ。『思いがけないことが起こること』を意味する諺。灰吹とは、主にキセルの吸い殻を落とすための喫煙具のこと。
②頭から火が付く
『危険や災難がすぐ目の前まで迫っていること』を喩えた諺。今回の場合、紡久は文字通りの意味で受け取り、『三寒四温』のつらたんたんの頭部を発火させたようだ。
③快刀乱麻を断つ
『鋭い刀が縺れた麻布を両断するように、複雑な問題を手際よく鮮やかに解決すること』を喩えた諺。単に『快刀乱麻』と用いる場合もある。今回の場合、紡久は『三寒四温』のつらたんたんの猛攻撃を『解決すべき問題』として捉え、言霊で生成した刀で物理的に解決したものだと考えられる。
④下手な鉄砲数撃ちゃ当たる
『たとえ技術が未熟でも、何度も根気強く取り組めば、まぐれで成功することもあること』を喩えた諺。今回の場合、紡久はこの諺を言葉通りに解釈し、物理的に膨大な量の銃弾を形成し放った。
⑤破竹の勢い
『竹は1度縦に切れ目が入ると、その部分から一気に割れてしまうことから、留まることなく、猛烈な勢いで物事が進んでいく状態』を表す諺。今回の場合は、Whammyの加速度合を表すのに使われた。
⑥苦虫を噛み潰す
『嫌なことに対して思わず顔を顰める様子』を喩えた慣用句。今回の場合は、讃木矯正の正体を知った笑子の反応を表すのに使われた。ちなみにここでの『苦虫』とは、噛んだらさぞ苦いだろうと想像できるような虫のことを指すとか。元ネタは式亭三馬の滑稽本『浮世風呂』らしいが、まだ読んだことが無いため未確認。いつか図書館で借りようと思う。




