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ことわざ先輩の腹積もり。  作者: 阿寒湖まりも


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13/15

13言め『灰吹から蛇が出る』

一文(ひとふみ)安美(あみ)、言業(ことわざ)紡久(つむぐ)、掛詞(かけことば)笑子(しょうこ)は、イタリアンレストラン『ガルデニア』に居たところを正体不明のつらたんたんにより襲撃されてしまった。


「〝バットがばばっと登場!〟」


笑子(しょうこ)は金属バットを呼び出し突進する。だがつらたんたんの周囲を渦(うず)巻(ま)く大量の花びらは、襲い来るバットに散らされるどころか、弾(はじ)き返した。


「げっ! なんて硬(かた)さや! 鉄かいな!?」


「〝頭(あたま)から火(ひ)が付(つ)く〟」


笑子(しょうこ)の攻撃に乗(じょう)じて、紡久(つむぐ)が畳(たた)みかけるように唱(とな)える。具現された炎が、つらたんたんの頭部を包みこんでいく。


「叫び声1つ上げへんな。効(き)いとらんとちゃうか?」


「いや、効果が無いわけではないはずだ。言霊(ことだま)による攻撃は流石(さすが)のつらたんたんでも治(なお)しづらい。恐らくはあのつらたんたんが司(つかさど)る温度に関する何か。その観念に“喋(しゃべ)る”イメージが無かっただけだろう」


「そないなこともあるんやな。知らんかったわ」


「2人とも前! 前!!」


つらたんたんが花びらを一点に凝縮し、3人に向けマシンガンの如(ごと)く乱れ撃つ。


安美(あみ)は即座に念じてバリアを展開するが、早くも花びらがバリアに刺さり、罅(ひび)が入り始める。


「ウソ!?」


「〝快刀(かいとう)乱(らん)麻(ま)を断(た)つ〟!!」


言業(ことわざ)紡久(つむぐ)の判断は早かった。バリアが砕けると同時に諺(ことわざ)を発動し刀を具現。目にも留(と)まらぬ手さばきで花びらの軌道を逸(そ)らした。


「す、すみません! 私のバリアが弱いばかりに――」


「いや、安美(あみ)のバリアは決して弱い代物(しろもの)ではない。君のバリアは来人(らいと)兄(にい)のそ(・)れ(・)と同等かそれ以上の強度だ。それを突破せんとするつらたんたんの方が異常なのだ!!」


やがて花びらの連投(れんとう)が止(と)まったかと思えば、つらたんたんの周囲に環(わ)が再出現し、高速回転する。


「まずい! また温度が下がるぞ!!」


各々(おのおの)がカイロを強く握(にぎ)り締める中、予想に大きく反し、周囲の気温は急上昇する。


「あッッッッッつ!?!?」


笑子(しょうこ)はお手玉のようにカイロを持ち替えながら、地面を踏んでいられないと高速で足踏みする。


「温度を上げるという可能性を見過ごしていた!! クソッ。安美(あみ)!! 笑子(しょうこ)!! 今すぐにカイロを捨て――」


紡久(つむぐ)は大きくバランスを崩(くず)し、片膝をつく。


「「紡久(つむぐ)先輩!?」」


「なんだこれは………急に目眩(めまい)が……」


この機(き)を逃(のが)さんとばかりに、つらたんたんは桜の花びらをばかすかと乱れ撃つ。


「(ま、まずい、避(よ)けられない!)」


「〝ホームランで葬(ほうむ)らん〟ッ!!」


笑子(しょうこ)は咄嗟(とっさ)に紡久(つむぐ)を背(せ)に庇(かば)い、がむしゃらにバットを振り回して花びらの弾幕を退(しりぞ)ける。


「笑子(しょうこ)……!!」


「別に、ウチとて庇(かば)いたくて庇(かば)ったわけやないで。安美(あみ)を守るために、今必要なことをしとるだけや!!」


「素直じゃないなぁ………。」と安美(あみ)は思った。


「それよりも紡久(つむぐ)先輩。ウチ思うねん。冬場に暖房ガンガンに効(き)かせた部屋から、キンキンに冷(ひ)えた脱衣所行って、アツアツの風呂入ると、たまにクラッと目眩(めまい)がすることがあるやろ? 今の先輩の状態はそれと同じやないか? 知らんけど!」


俗(ぞく)に言うところの、ヒートショックっちゅーやつや。まあ先輩が知っとるかは分からへんけどな。


「なるほど、ヒートショックか!!」


「って!! 知っとるんかいッ!!」


笑子(しょうこ)の鋭いツッコミは追い込まれて尚(なお)健在である。


「急激な温度変化に伴(ともな)う血圧の乱高下。あのつらたんたんは、本能か計算ずくか、それを狙(ねら)って引き起こした可能性がある」


「………つまり何が言いたいんや?」


笑子(しょうこ)はごくりと固唾(かたず)を飲む。


「あのつらたんたん、恐らく『三寒四温』は、暴食期の中でもかなり知能が高い方だと考えられる。恐らくこの方法で多くの人間を狩ってきたのだろう」


「……そら恐ろしいこっちゃなぁ」


桜の花びらの連射が止(と)まり、つらたんたんの周りに再び環(わ)が形作られる。


「まずい! また温度を変えられるで!!」


その時安美(あみ)の鞄(かばん)から何かが飛び出し、『三寒四温』のつらたんたんの脳天をぶん殴(なぐ)る。


「満(まん)を持(じ)して登場! ダミー様だぜ!!」


「「「ダミ!?」」」


ダミーは華麗に着地し、かっこいいポーズを決めた。


「ま、まだ病み上がりだよね!? 大丈夫な!?」


「心配すんなご主人様ァ。たっぷり休んで元気百倍だぜ!」


「そっかぁ。なら良かった!」


つらたんたんは負けじと花びらで応戦するが、ダミーは的(まと)が小さくすばしっこいため、上手く当たらない。


「俺はあくまでお人形(にんぎょう)だからなぁ!! 恒温動物のご主人様たちとは違って、いくら温度を変えられようと動きに支障(ししょう)が無(ね)ェ!! やーいやーい!! 当てれるもんなら当ててみやがれ!!」


つらたんたんは花びらをハンマーのように固め、モグラ叩きのようにダミーを追いかけ回める。


「や、やべッ。調子乗りましたァァァ!! 紡久(つむぐ)の姐御(あねご)ォ!! 笑子(しょうこ)ォ!! どっちでもいい!! 悪(わり)ィけど とっとと復帰して助けてくれーッ!!!」


ダミーの情けない悲鳴が鳴り響く中、紡久(つむぐ)と笑子(しょうこ)は呆(あき)れたように顔を見合わせる。


「……やって。紡久(つむぐ)先輩はどないする?」


「調子が戻って来た。いつでも行けるよ」


笑子(しょうこ)は「そか」とだけ呟(つぶや)き、バットを肩に担(かつ)いだ。


「ほな、ウチは安美(あみ)を花びらから守ったるから、先輩はあのつらたんたんに一発お見舞(みま)いしたってくれ」


「……いいのかい?」


紡久(つむぐ)は意外そうに、目を見開いて問いかける。


「何がや」


「つらたんたんを斃(たお)したいという気持ちは、君の方が、他の誰よりも強いと思ったのだが……」


紡久(つむぐ)が尋(たず)ねると、笑子(しょうこ)はクスッと笑って答えた。


「なんや、心配してくれとんのか。別にええのに。ウチは今まで全てのつらたんたんを同列に扱(あつか)っとった。やけど、ウチの我武者羅(がむしゃら)な生き方を安美(あみ)が正してくれた。やからこないな時にまで私情を優先したりせえへんよ」


「……随分(ずいぶん)と変わったんだな」


「せやな。ウチも自分で驚いとるよ。まあ、今はそないなことどうでもええか。とにかく最優先は安美(あみ)を生きて帰すことわ! 先輩なら、あのデカブツを確実に葬(ほうむ)れるやろ?」


「ああ、そうだね」


紡久(つむぐ)は数歩前へ出て、どっしりと構えた。


「後輩たちの期待に応えられるよう、死力を尽くそう。さあダミー!  私にありったけの言霊(ことだま)を頼む!!」


「あいよォ!!!」


ダミーが真横を通り過ぎると同時に、紡久(つむぐ)の肉体に溢(あふ)れんばかりの言霊(ことだま)が供給される。


「ありがとう、皆」


紡久(つむぐ)は両手で作った四角い窓(まど)を通して、眼前に迫る『三寒四温』のつらたんたんを睨(にら)みつける。


「〝下手(へた)な鉄砲(てっぽう)〟」


紡久(つむぐ)の周りに光の弾丸が無数に現れるのを見て、つらたんたんは急いで花びらの大盾(おおたて)を形成する。


「〝数(かず)撃(う)ちゃ当(あ)たる〟」


つらたんたん目掛(めが)け、大量の銃弾が飛んでいく。一切の逃走を許さぬ弾幕は、着実に大楯(おおたて)を削(けず)っていく。


瞬(またた)く間(ま)に装填(そうてん)と発射を繰り返し、土煙(つちけむり)で最早何も見えなくなるまで、紡久(つむぐ)は攻撃を続けた。


「………やったか?」


「ちょっ 先輩!! それは言うたらあかんやつや!!」


やがて視界がクリアになったかと思えば、信じ難いことに、そこには堅牢(けんろう)で巨大な鋼鉄の壁があった。


「な、何なんだこの壁は。いつの間(ま)に。まさか、あのつらたんたんは他に能力を……?」


果てしなく続く壁の端(はし)はどこかと空を見上げると、空中には不自然な穴(・)がぽかんと開(あ)いており、そこから どしんと3人の人間らしきものが降ってきた。


「いやぁ、本当に危ないところだったねぇ。あと少しで『三寒四温』を斃(たお)されるところだった」


そう口を開いたのは真ん中、全身が白黒の青年。背中には?(クエスチョンマーク)の装飾が付いた黒い翼(つばさ)があり、どこからどう見ても人間のそれではなかった。


「ちょっとぉ!! 髪型が崩(くず)れたんですけど!! 高い所から飛び降りるなら先に言っといてくれない!!?」


「うるさいなぁ! どうしてか門(ゲート)の座標がズレたんだよ!!」


男に不平不満を垂れているのが、黒紫の髪の若い女。タイトで毒々しいデザインの衣服を着用していて、頭部の赤い結晶状の角(つの)がおどろおどろしく光っていた。


「……って、あら? もしかしてあの娘(こ)――」


「なんだい、Whammy(ワミー)。顔見知りかい?」


「……さぁね。知らない」


「あっそ。なら別にいいけど」


白黒男と角(つの)女が口論している横で我関せずと爪(つめ)を弄(いじ)っているのが、ピンク髪の男。黒いタンクトップと青いジーンズを身に着けている。


「………何者だ、君たちは」


紡久(つむぐ)が不審に思い問いかけると、白黒の男はウキウキとした様子で答えた。


「おやおやこれは、お初にお目にかかる。俺は『七天罰党(しちてんばっとう)』が一人、讃木(さぬき)矯正(きょうせい)さ! 君たちが先程戦っていた『三寒四温』のつらたんたん。あれは俺たちが先に目を付けた獲(・)物(・)だったんだよ。突然で大変恐縮だが、お引き取り願えないだろうか?」


どこからどう見ても怪しい。笑子(しょうこ)と紡久(つむぐ)は困惑しながら視線を交わす。


「な、なんやこいつら。 先輩 知っとる?」


「いや、全(まった)く聞いたことがないな」


そういえば、父さんや到華(とうか)姉(ねえ)が言ってたっけ。最近不審な動きをする者たちが居るとかなんとか。それはこの『七天罰党(しちてんばっとう)』とやらのことなのだろうか。


「君はあれを獲物だと言ったな。つまるところ君たちはことだマスターなのか? 返答次第では、こちらも取る対策が変わるのだが」


「……ほう」


紡久(つむぐ)の問いかけに、讃木(さぬき)矯正(きょうせい)とやらは目を見開く。


「ちょっちょっ。先輩、どういうことや? 仮にことだマスターじゃなかったら何が問題なんや?」


笑子(しょうこ)が小声で聞いてくる。


「……不味(まず)いんだよ。部外者の立ち入りは。つらたんたんへの接触と駆除が許されているのは、私のように正式にことだマスターとして登録された者、あるいは安美(あみ)のように許可されている者だけだ。単に一般人が関わるのは危(あぶ)ないというのもあるが――」


紡久(つむぐ)は前方の3人を睨(にら)む。


「一番は、つらたんたんの悪用を防ぐためだ」


「……悪用やと?」


「つらたんたんは負の感情を得るため、人間を積極的に害そうとする習性があるだろう。それを兵器として利用しようとする者が稀(まれ)に現れる。無論そんな試(こころ)み1度たりとも成功した例(ためし)がないが」


「……アカンやろ、そんなの」


笑子(しょうこ)はわなわなと肩を震(ふる)わせて呟(つぶや)く。


「あ(・)れ(・)を人を傷つけるために利用する……? 絶対あかん。そんなことあっていいはずがあらへん。そいつらはきっと、何にも分かっとらんのや。襲(おそ)われる側(がわ)がどれだけの恐怖を味わわされるのか」


「……ああ、そうだな」


時折夢に見ることがある。冷たくなった母を抱(だ)き抱(かか)え立ち尽くす父の姿を。涙を堪(こら)え、泣く私たちの頭を優しく撫(な)でる誠(まこと)兄(にい)の姿を。


「もしつらたんたんを利用するというのなら、たとえどんな理由があろうとも、許すことはできない」


一歩も引かない紡久(つむぐ)の毅然(きぜん)とした様子に、讃木(さぬき)矯正(きょうせい)とWhammy(ワミー)はため息を吐(つ)く。


「はぁ〜あ。困ったねぇ、こりゃあ。本当のこと言ったら余計に怒りそうだよ」


「面倒くさいわねぇ。もういいじゃない。あっちもそうそう譲(ゆず)る気はさらさらなさそうだし、手(て)っ取(と)り早(ばや)く実力で黙(だま)らせちゃうのはどうかしら」


「駄目(だめ)だよWhammy(ワミー)。事を強引に進めてしまえば後始末が面倒になる。それに、理由のない加害行為は禁止されているだろう?」


「要はその理由ってのがあればいいわけでしょ?」


Whammy(ワミー)は胸元(むなもと)で拳(こぶし)を握(にぎ)る。

手先はみるみるうちに黒く染(そ)まり、炎(ほのお)が灯(とも)る。


「アイツらはワタシたちの任務の邪魔。それってもう十分な理由になるんじゃない?」


「Whammy(ワミー)は喧嘩(けんか)っ早(ぱや)すぎるんだよ!! ったく」


讃木(さぬき)矯正(きょうせい)は頭を抱(かか)える。


「まあいいや……。dot(ドット)、仕事の時間だ」


「……なんだ。また戦(たたか)うのか?」


「ちょっと寝ててもらうだけだよ」


讃木(さぬき)矯正(きょうせい)は手で何かを合図したかと思えば、準備する暇(いとま)も与えず笑子(しょうこ)に襲いかかる。笑子(しょうこ)は灰色の拳(こぶし)をバットで必死に受け止(と)めるが、その勢いに押され大きく後ろへ後退する。


「お前!? ほんまに人間か!!?」


「これを受け止(と)められるんだ? いいね、面白いよ!!」


安美(あみ)は咄嗟(とっさ)に笑子(しょうこ)に駆け寄ろうとするが、すかさずWhammy(ワミー)が通せんぼし、燃(も)える拳(こぶし)を振りかざす。


「アンタの相手はワタシだよ!!」


「お手々(てて) 熱くないの!?」


「ちょっと熱いわ……って何言わせるのよ!!!」


Whammy(ワミー)は大きく拳(こぶし)を振り上げる。


「安美(あみ)!! 今助けに――」


「余所目(よそめ)するとは余程(よほど)の余裕(よゆう)があるようだな」


「!?」


時同じくして 安美(あみ)の元に駆け寄らんとする紡久(つむぐ)は、dot(ドット)によって行(ゆ)く手(て)を阻(はば)まれてしまう。


「貴様の相手をしている暇(ひま)はないんだ!! どこの誰かは知らないが退(ど)け!! 怪我(けが)したくなくば!!」


紡久(つむぐ)の忠告を聞く素振(そぶ)りすら見せず、dot(ドット)は肩をぶんぶんと回しながら淡々と答える。


「無用(むよう)な懸念(けねん)だ。オレは罰党(ばっとう)の中でも有数(ゆうすう)の手練(てだれ)だぞ」


dot(ドット)の両手がべきべきと音を立てながら肥大化し、大量の出血と共に破裂(はれつ)したかと思えば、中からピンク色の拳銃が2丁出現した。


「なッ――!?」


「眠(ねむ)れ。さすれば仲間(なかま)の安全(あんぜん)は保証(ほしょう)する」


「出会ってそうそう武器を突きつける者の言うことを、俄(にわ)かに『はいそうですか』と受け入れられると思うか!!」


「そ、それもそうだな。すまん」


いつの間(ま)にかdot(ドット)の消し飛んだ手先は再生し、両手に拳銃をぎゅっと強く握(にぎ)り締(し)めていた。


「まあでも、忠告(ちゅうこく)は行(おこな)ったからな。後からお前がどれだけ文句(もんく)を垂(た)れようと突(つ)っぱねるぞ」


dot(ドット)が引(ひ)き金(がね)を引いた時、すでに紡久(つむぐ)は動き始めていた。


「〝愛(Love) の(Call) 二丁拳銃(Duo-Bang)〟」


銃弾をすんでのところで見切りった紡久(つむぐ)は、dot(ドット)の側頭部に鋭いキックを浴(あ)びせる。だがその手(て)応(ごた)えは明らかに人間のそれでは無かった。


「ま、まさかとは思うが、貴様!?」


「早(はや)くも勘(かん)づくか……。油断(ゆだん)はご法度(はっと)だな。このdot(ドット)。全力でお前を封殺(ふうさつ)させてもらう」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「〝悋気(りんき)Ofen(オーフェン)〟」


Whammy(ワミー)なる女の両掌(りょうてのひら)から炎が放たれる。


「ご主人様ァ!! 早くバリア!!」


「あっぶな!!」


安美(あみ)はバリアを展開してなんとか難(なん)を逃(のが)れる。


「ちょっと!! 何よその力ぁ!! ズルいじゃない!!」


「掌(てのひら)から火を出すびっくり人間には言われたくないです!!」


「誰がびっくり面(・)白(・)人間ですって!??」


「そこまでは言ってないですよ!!!」


安美(あみ)はダミーと共に全力で逃げ回るが、Whammy(ワミー)は後方から破竹(はちく)の勢(いきお)いで猛追(もうつい)する。


「チッ ちょこまかと……狙(ねら)いづらいわねぇ! 痛くないよう気絶させてあげるから!! 止(と)まりなさい!!」


「嫌です怖いです絶対に止(と)まりません!!」


安美(あみ)はさらに加速し、どんどんと遠ざかっていく。


「ワタシから逃げ切ろうってワケね? なるほど、なかなかいい度胸(どきょう)してるじゃないの!!」


Whammy(ワミー)が力強く踏み込んだかと思うと、地面に亀裂(きれつ)が走り、切れ目から火柱(ひばしら)が上がり始める。


「〝祟(たた)ら火(び)打(だ)足(そく)〟」


激しい爆発と衝撃波を背(せ)に凄(すさ)まじい勢(いきお)いで加速し、Whammy(ワミー)は瞬(またた)く間(ま)に安美(あみ)に追いついた。


「ウソでしょぉ!?!?」


「ワタシから逃げ切ろうだなんて100年早いわ! 本気出せばこの程度の距離ちょちょいのちょいよ!!」


「もう嫌だ〜〜!!」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「〝前髪(まえがみ)が邪魔で前(まえ)が見(み)えん〟」


笑子(しょうこ)が駄洒落(だじゃれ)を唱(とな)えると、讃木(さぬき)矯正(きょうせい)の前髪(まえがみ)がありえないほど伸びる。


「へぇー! 実に面白い能力だ!! 君は言霊(ことだま)で駄洒落(だじゃれ)を具現化するんだねえ!! どこまでできるの!? どこまでやれるの!? 教えて教えて!!」


「うっさい!! 敵さんに教えることなんて何もないわ!!」


讃木(さぬき)矯正(きょうせい)の腕がナイフ状に変形したかと思えば、自身の視界を遮(さえぎ)る前髪を一瞬にして切断する。それだけならまだしも、彼は腕を櫛(くし)に変えて、髪型を元通りに直すほどの余裕さえ見せてみせた。


「ならいっそ仲間になろうよ!! 好待遇は約束するからさ!!」


「お断りや」


笑子(しょうこ)のバットが讃木(さぬき)矯正(きょうせい)の胴(どう)に当たる。灰色の肉体がプリンのように弾(はじ)け飛んだかと思えば、瞬(またた)く間(ま)に元の形へと戻っていった。


「チッ」


「危ない危ない。俺じゃなかったら死んでたかも。そんなに強いなら尚更(なおさら)うちに入ってほしいなぁ。君なら、ウツロにだって勝てるかもしれない!!」


「………誰やねんそいつ」


笑子(しょうこ)が疑問を呈(てい)すると、讃木(さぬき)矯正(きょうせい)はさぞ嬉しそうに目を輝かせる。


「気になる!? 気になるよねぇ!! いいよ教えてあげるよ、これも出会った誼(よしみ)さ!!」


「いやウチは別に――」


待て。これは敵情を知るチャンスかもしれへん。ここはこの白黒男に話を合わせた方がええ。


「――どうせなら聞かせてもらおか。お前ん組織と、“ウツロ”とかいうやつについて」


「そうこなくっちゃ。この世は『知(し)る』者が全てを『領(し)る』んだから」


讃木(さぬき)矯正(きょうせい)は攻撃の手を緩(ゆる)めぬまま、生き生きと語り出す。


「俺の所属している『七天罰党(しちてんばっとう)』はね、ウツロが組織したんだ。まあ事実上のボスだよ」


「そのウツロっちゅーんは、何のためにそないなもん作ったんや」


「この歪(ゆが)んだ世界を破壊するためさ。そのために仲間を募(つの)った。7人の優秀なメンバーを」


「7人!?!?」


コイツレベルがあの男と女を差し引いてもあと4人もおるんか!? 笑えん冗談は止(や)めてほしいわ!!


「おっと、『七(・)天罰党』とは銘(めい)打ってはいるが、メンバーの追加加入は大歓迎だから遠慮は要らないよ!! なんなら『八(・)天罰党』に変更したっていい」


「そこはあんま気にしてへんわ!!」


……自分で聞いといてなんやけど、なんでコイツはこんなベラベラベラベラと内部事情喋(しゃべ)っとんねん。秘密がダダ漏(も)れやないか。ブラフか? はたまた何か別の目的があるんか……?


「まあええわ。お前んとこのことは大体分かった」


「……!! そうか! じゃあ君も俺の仲間に――」


「ちゃう。まだ肝心なことが聞けてへん。お前、ウチに何か隠しとることがあるやろ」


「………何のことかな?」


しらばっくれる讃木(さぬき)矯正(きょうせい)に痺(しび)れを切らし、笑子(しょうこ)は高圧的に問いかけた。


「お前んその力、言霊(ことだま)だけやないよなあ? それだけじゃあ説明つかないほどの力を持っとる。単刀直入に聞くわ。お前、つ(・)ら(・)た(・)ん(・)た(・)ん(・)やろ?」


「……へぇ。気づいちゃうんだ?」


讃木(さぬき)矯正(きょうせい)は大きく目を見開く。


「野生の勘(かん)や。ウチはつらたんたんが嫌い。見掛けたらぶっ殺したくなるほどに、や。その衝動が何故かお前にも適用されとる。ちゅーことは、お前もつらたんたんってことや!!」


笑子(しょうこ)の理論を聞き、讃木(さぬき)矯正(きょうせい)は思わず笑い出す。


「あっはははははは!!! 面白いッ! 面白いよ君ッ!! 俺は今、人間の可能性というものを垣間見(かいまみ)たよ!! すごいね!! 『勘(かん)』なんて非現実的なもので気づくなんて!! 文字通り君は『甚(はなは)』だしい『力(ちから)』をお持ちなようだ!!」


「最悪のビンゴやわ……!」


笑子(しょうこ)は苦虫(にがむし)を噛(か)み潰(つぶ)したような顔をする。


「そうさ。お察しの通り俺はつらたんたん。いや、正確にはつらたんたんと同(・)化(・)した人間さ」


「頭どうかしとんのか!?!?」


「『同(・)化(・)』だけにって?」


「うっさいわ!! 茶化すんやない!!」


讃木(さぬき)矯正(きょうせい)は子供のように笑う。そして少し寂しそうな顔をする。


「ごめんね。本当はもっとお話したかったけど、そろそろ片付けないと怒られちゃう。だからまたね」


讃木(さぬき)矯正(きょうせい)は両手から、『爆(ばく)』の字を2つ出現させる。


「(なんやこれ、文字?)」


「ば(・)く(・)」


讃木(さぬき)矯正(きょうせい)が漢字の読(・)み(・)を唱(とな)えると文字が消失し、大爆発が引き起こされる。


「――あっぶな!! 死ぬかと思(おも)たわ! ありがとう安美(あみ)!」


安美(あみ)が咄嗟(とっさ)の判断で笑子(しょうこ)にバリアを張ったおかげで、笑子(しょうこ)はなんとか無傷で済んだ。


「どういたしまし――」


「余所見(よそみ)してんじゃあないわよ!!」


だが安美(あみ)は自らを守ることができず、腹部側面に強烈なパンチを食らわされる。


「「安美(あみ)!!」」


安美(あみ)は地に倒れ激しく咳(せき)込む。「ダミーは!?」と笑子(しょうこ)が辺りを見渡すと、Whammy(ワミー)の左手に力強く握(にぎ)り締められていた。


「ご主人様ァ…………! すまねェ……!」


ダミーが力なく呟(つぶや)く。


「……うっ…あ………」


痛い。痛い。上手く息ができない。怖い。涙出そう……。逃げたい……。


Whammy(ワミー)はダミーをほいと放り投げ、力強く足音を鳴らしながら地に伏(ふ)した安美(あみ)に接近する。


「なぁに? もう終わりってわけ? はぁ……。本ッ当につまらないわね、アンタ。今ので完全に興(きょう)冷(ざ)めしちゃったわ。アンタみたいな雑魚(ザコ)が何でこんな場所にいるの?」


……そうだ。本当は最初から分かってたんだ。私は紡久(つむぐ)先輩にとって、笑子(しょうこ)ちゃんにとって、ずっとただの足手まといでしかなかったんだって。


『不合格』の時も、『仲違い』の時も、『問い』の時も、『同調圧力』の時だって、いつも守られてばかりだった。いつも守られてばかりの役立たずだった。


ダミーは迷惑を掛けるのは『権利』だって言ってくれた。でも私は、皆の迷惑を引き受ける、そんな簡単な『義務』さえ果たせそうにない。


私なんて、このまま生きていたところで――、


「歯向かう気力も無い、か……」


Whammy(ワミー)は一度振り上げた拳(こぶし)を下(お)ろす。


「もういいわ。そのまま蹲(うずくま)ってなさい。ア(・)ン(・)タ(・)は(・)ど(・)う(・)せ(・)何(・)も(・)で(・)き(・)な(・)い(・)で(・)し(・)ょ(・)う(・)し(・)。……そうね。次はどちらに加勢しようかしら。あのムカつくほど容姿の整った優等生の方か。それともあの強そうな関西弁の転校生の方にするか」


駄目だ。そんなの絶対駄目だ! このままだと、このWhammy(ワミー)とかいう女は、紡久(つむぐ)先輩や笑子(しょうこ)ちゃんの戦いに乱入する。そんなことになれば、2人の命が余計危(あや)うくなる!!


私はいつまで足を引っ張り続けるんだ?

変わるんだろ? 自分を変えたいって願ったんだろ?


動け! 動け!! 動けよ!!!

どれだけ惨(みじ)めでも、どれだけダサくても食らいつけ!!

1秒でも長くWhammy(この女)を引き止(と)めろ!!


「ん゛っ!!!」


「はぁ!? ちょっ…止(や)め……っ!! 何よ急に!! 誰の許可取ってワタシの足にしがみついてるわけ!? 離しなさい!! もうアンタには興味も何もないんだから!!」


突然の安美(あみ)の抵抗に、Whammy(ワミー)はかなり動揺したようだ。

そんな彼女に対し、安美(あみ)は強がって笑ってみせた。


「じゃあまたすぐに私に夢中にさせてみせるよ。それとも私と戦うのが怖い? Whammy(ワミー)さん!」


「〜〜〜ッ!! ムッッッカつくわねぇ!!!」

☆オマケ

このコーナーでは、作中で使われた諺(ことわざ)の意味や『使われ方』について解説を行います。


①灰吹(はいふき)から蛇(へび)が出る

今回のサブタイ。『思いがけないことが起こること』を意味する諺(ことわざ)。灰吹(はいふき)とは、主にキセルの吸(す)い殻(がら)を落とすための喫煙具のこと。


②頭(あたま)から火(ひ)が付(つ)く

『危険や災難がすぐ目の前まで迫(せま)っていること』を喩(たと)えた諺(ことわざ)。今回の場合、紡久(つむぐ)は文字通りの意味で受け取り、『三寒四温』のつらたんたんの頭部を発火させたようだ。


③快刀(かいとう)乱(らん)麻(ま)を断(た)つ

『鋭い刀が縺(もつ)れた麻布を両断するように、複雑な問題を手際よく鮮(あざ)やかに解決すること』を喩(たと)えた諺(ことわざ)。単に『快刀(かいとう)乱(らん)麻(ま)』と用いる場合もある。今回の場合、紡久(つむぐ)は『三寒四温』のつらたんたんの猛攻撃(もうこうげき)を『解決すべき問題』として捉(とら)え、言霊(ことだま)で生成した刀で物理的に解決したものだと考えられる。


④下手(へた)な鉄砲(てっぽう)数(かず)撃(う)ちゃ当(あ)たる

『たとえ技術が未熟でも、何度も根気強く取り組めば、まぐれで成功することもあること』を喩(たと)えた諺(ことわざ)。今回の場合、紡久(つむぐ)はこの諺(ことわざ)を言葉通りに解釈し、物理的に膨大な量の銃弾を形成し放った。


⑤破竹(はちく)の勢(いきお)い

『竹は1度縦(たて)に切れ目が入ると、その部分から一気に割れてしまうことから、留まることなく、猛烈(もうれつ)な勢(いきお)いで物事が進んでいく状態』を表す諺(ことわざ)。今回の場合は、Whammy(ワミー)の加速度合を表すのに使われた。


⑥苦虫(にがむし)を噛(か)み潰(つぶ)す

『嫌なことに対して思わず顔を顰(しか)める様子』を喩(たと)えた慣用句。今回の場合は、讃木(さぬき)矯正(きょうせい)の正体を知った笑子(しょうこ)の反応を表すのに使われた。ちなみにここでの『苦虫(にがむし)』とは、噛(か)んだらさぞ苦いだろうと想像できるような虫のことを指すとか。元ネタは式亭(しきてい)三馬(さんば)の滑稽本(こっけいぼん)『浮世風呂』らしいが、まだ読んだことが無いため未確認。いつか図書館で借りようと思う。

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