11言め『後腹が病める』
「――あれ、ここは?」
私・一文安美が目覚めると、
そこは見知った天井――即ち紡久先輩の部屋だった。
「(ああ、また私は気絶したのか……)」
右を向けば、やはりそこには紡久先輩が居る。
言葉高校の生徒会長と同衾しているという支離滅裂な状況の中、私がここまで落ち着けているのは、前にも同じことがあったからなのかもしれない。
「すぅ………すぅ…………」
あの時『仲違い』のつらたんたんから、
命がけで私を救い出してくれたあの紡久先輩は、
今私の目と鼻の先で 穏やかに寝息を立てている。
……前の時は気が動転してそれどころじゃなかったけど、
こうして間近で見てみると 先輩の顔って本当に綺麗だなぁ。
この国宝級の顔に比べたら私の顔なんて平凡そのものだ。
……先輩の爪の垢を煎じて飲みたい。
――って!? いや待て私は何を言ってるんだ落ち着け!!
私は春の嵐の如く荒ぶる思考を落ち着けるべく、
紡久先輩とは真逆の方向へと寝返りを打つ。
しかし、そこには―――。
「むにゃ……んぅ…………。」
「(笑子ちゃぁぁぁぁぁん!??)」
そこには 泥のように眠る掛詞笑子の姿があった。
当初の荒々しく痛々しかった風貌が嘘のように、
今目の前にいる笑子ちゃんは、変な話だが、
あまりにも等身大の女の子のように見えた気がした。
普段黒いヘアゴムで纏められていたあの髪も今宵解かれ、
その黄金色の艶姿が晒け出されていた。
「んぅ……お父さん……お母さん…………」
寝言のように、笑子が呟いた。
そういえば 彼女は両親を、家族をとうに亡くしている。
それからどれほどの間、孤独な夜を過ごしてきたのだろう。
安美は胸が苦しくなり、思わず笑子の頭を撫でる。
すると、みるみる笑子の表情が安らいでいく。
「お母さん………好きぃ……」
彼女が夢現に放った一言は、
私の庇護欲をよりいっそう掻き立てた。
だがちょうどその時、目覚めた笑子と目が合う。
息が止まり、ただただ沈黙の時間が流れていく。
「…………。」
「お、おはようございます……笑子ちゃん。」
掛詞笑子は大きく息を吸う。
「安美が起きたでぇーーーーーッ!!!」
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「もう………本当に心配させて……!! バカ……。」
「ごめんなさい、紡久先輩。」
「謝らないで。無理をさせたのは私だから。
……でももう、無茶なことはしないでくれ。」
「はい……」
紡久先輩は私を強く強く抱き締める。
全身が温もりに包まれていく。なんだか、落ち着く。
「……というか、掛詞笑子。
私の記憶が間違っていなければ、確か、
私と君が代わりばんこに起きながら、
安美が起きるまで見張るという話ではなかったか?」
「せやなぁ!」
「……君、さっき熟睡していなかったかい?」
「してへんでぇ! なあ 安美!」
笑子ちゃんがこちらを向く。
そして、頻りに拙いウインクで合図する。
見苦しいほど必死に私へ何かを訴えかけている。
「いや……がっつり寝てたと思うけど……。」
そう口に出かけた疑問をぐっと飲み込み、
私は仕方なく笑子ちゃんを庇うことにした。
「えぇ。笑子ちゃんは起きていましたよ。」
「……それは本当かい? 私に隠し事は無しだよ?」
「も、もちろんですよ。」
口ごもる私を不審に思ったのか、
紡久先輩はじぃっと私の顔を覗き込んだ。
「先輩。ち、近くないですか……?」
「君は1度、私に隠し事をしているからね。
今回は違うとは言い切れまい。疑り深くもなるさ。」
「そ、その件は本当に悪かったと思ってますって!!」
「本当に?」
「本当にっ!!!」
おろおろとする私を見て、紡久先輩はため息を吐く。
「じゃあ 私に誓ってはくれないか。
『もう二度と私に隠し事はしない』と。」
「……それ、破ったらどうなるんですか。」
「今から誓うことを破る前提で話してどうするんだ。」
「そ、それもそうですね……。すみません。」
「うむ………でも、そうだね。」
紡久先輩はニヒルに笑ってみせる。
「『絶対に後悔することになる』とだけ言っておくよ。」
「ひぇっ。」
もう紡久先輩を怒らせないようにしよう。
私はそう強く胸に誓った。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「話が一段落ついたところで、本題に入ろうか。」
言業紡久がそう切り出した。
「本題……ですか?」
「ああ。君は、今回どうして気絶したのか。
その理由を、自分できちんと分かっているのかい?」
「……? 疲れたからではないんですか?」
「うむ。強ち間違いでもないが、そうではない。
今回の君は、『仲違い』の時とは全く違う。
結論から言うと、君は『言霊切れ』を起こしたんだ。」
「『言霊切れ』? 先輩、何ですかそれは。」
また聞き慣れない言葉が出てきたな。
「読んで字のごとく、言霊が枯渇することだ。
言霊は一応生命維持に不可欠なエネルギーでね、
枯渇すると疲労困憊で気絶するんだ。
消費された分はしばらくしたら回復するのだが、
1度に膨大な量の言霊を消費してしまうと、
体調に大きく支障を来す。最悪死に至ることも――」
「…でも『言葉贄』は無限に言霊を生み出せますよね。
枯渇しちゃうなんて、そんなことあるんですか?」
私がそう問うと、背後から声がする。
「それに関しちゃァ、俺との契約が関わってる。」
ダミーだ。
「ダミー! 動いて大丈夫なの?」
「到華の姐御が直してくれたからなァ。」
「そっかぁー! 良かった!!」
喜ぶ安美を見て、ダミーは安堵し微笑む。
「それで、問題の契約のことなんだが……。
ご主人様は今のところ、どのくらい理解してんだ?」
「え? うーん………。 そうだねぇ。
少しでもつらたんたんに襲われにくくなるように、
私の余りある言霊を、紡久先輩に分ける。だよね?」
「半分正解だなァ。」
「じゃあ、もう半分ってなんなの?」
「ご主人様は細けェ部分が理解できてねェのよ。
まァ、俺と姐御たちの説明不足でもあるんだが。」
ダミーは耳をパタパタと動かしながら話を進める。
「さっき紡久の姐御が言ってた通り、
言霊は生命活動の上で欠かせない要素だ。
一口に言霊を分け与えるとはいっても、
結局のところ、必要最低限の言霊は残ってる。
言霊の上限が決まってるとも言えるな。
んーっと、ここまでの話は理解できてるか?」
「まあ……。ぼんやりだけど。」
「よしよし。物分かりが早くて助かるぜェ。」
ダミーが頷き、安美の頭を撫でる。
「なら簡単だ。掛詞笑子から聞いたが、
ご主人様は『同調圧力』のつらたんたんとの戦いで、
ありったけの言霊を笑子に注いだ。
その上、例のバリアの展開までやっちまったわけだ。
普通は使いすぎたら死んじまうんだから、
誰もが無意識の内にセーフティを掛けてるんだが、
ご主人様は自分の命を顧みないところがあるからなァ。
まあ、今回は例外的に働かなかったんだろ。
当然 ご主人様の最低限の言霊はすっからかん。
てなわけで ご主人様は言霊切れを起こした。」
「なるほど? ……じゃあ何で私は生きてるの?」
「いい質問だァ!!」
ダミーがビシッと安美を指差す。
「『問い』のつらたんたんの時のことを思い出してみろ。
紡久の姐御に与えすぎた言霊を、
身を守るためにご主人様の身体に戻したことがあったろ?
それと同じことを、掛詞笑子でも行った。」
「つ、つまりダミーは……!?」
「なにしろ一刻を争う事態だったからな。
緊急で笑子とも契約を結ぶことで、
与えすぎた分を返してもらって事なきを得たんだ。」
「そ、そうなんだ……」
つまり今の契約では、
私の生命維持に必要な分を除く言霊をダミーに送り、
その後紡久先輩と笑子ちゃんに分配しているんだ。
それで逆説的に紡久先輩と笑子ちゃんから、
持て余した私の言霊を回収できたのか。
そう 安美が考えを整理している時だった。
「ほんまに! 申し訳ありませんでした!!」
笑子が土下座した。
「ちょ、ちょっと!
急にどうしたの笑子ちゃん。笑子ちゃんは悪くないよ。
あれは私が勝手にしたことであって――」
「いや、そもそもウチがもっと強かったら、
絶対あないなことにはならんかったと思う。
安美を危険に晒したんは、ウチの弱さや。
『同調圧力』に呑まれそうになるくらい弱いから、
ウチは危うく、安美を死なせてまうところやった。
謝っても赦されることやないと分かっとるけど、
それでも言わせてほしい。ほんまに、ごめんなさい。」
その言葉は、心の底から出た純粋な謝罪の言葉だった。
私が倒れたのは、私が勝手に動いたせいだ。自業自得だ。
笑子ちゃんの責任じゃない。伝えなくちゃ。
「あのね、笑子ちゃ――」
「ああ、そうだな。その通りだ。
こうなったのは君のせいだ。掛詞笑子。」
だがその時、言業紡久が会話に割って入る。
「ちょっと紡久先輩!?!?」
信じられないと言わんばかりに見る安美を無視し、
言業紡久は冷静に話を続ける。
「もし少しでも自分に負い目を感じているのなら、
どうだろう。これからは一緒に安美を守らないか?」
「「「!?」」」
そりゃあ、笑子ちゃんが一緒に戦ってくれたら
心強いけど、てっきり紡久先輩は反対すると思ってたし!
「……正気か? 先輩はウチのこと嫌いやろ?」
「うん。安美の心を傷つけるからね。
でも、私は君と組んだ方がいいと考えた。
つらたんたんとの戦闘に長けていて、
尚且つ安美と同学年で都合のいい君だから。」
「……合理的やな。」
紡久の眉が僅かに動く。
「それに、これは君にとってもメリットの大きい話だ。」
「どういう意味や。」
「私たち言業家の歴史は古い。
先祖代々継いできた蔵の中には、
1日では見切れないほどの資料が保管されている。
君が先程探していると言っていた、
『戦争』のつらたんたんの情報もあるかもしれない。
君からすれば、喉から手が出るほど欲しい代物だろう?」
「……交渉が上手いなぁ。断る理由がないやないか。」
「どの道、安美を巻き込んだ以上、
みすみす取り逃がすつもりはないのでな。」
笑子は紡久の顔を見る。
獲物を狙う鷹のように、鋭い眼光をしていた。
「へっ! いいで。その誘い 乗ったるわ。」
「笑子ちゃん……」
安美が笑子ちゃんを心配そうに見つめる。
すると笑子は優しく微笑む。
「実はな、安美が眠っとる間にな、
紡久先輩からもう大体聞いとるんよ。
安美が『言葉贄』だってことも、
そのせいでつらたんたんに襲われやすいってことも。」
安美が紡久の方を見る。
「君の許可なく口外してしまったのはすまない。
互いの目的や情報を摺り合わせるために、
1度話しておく必要があると思ったんだ。
……それで、その、本当にすまない。
君が笑子に言ったことも、全部知ってる。」
「……そうですか。」
下を向いて黙りこくる安美に、
笑子は苦渋の末 漸く口を開いた。
「あんな、安美。
正直何て声掛けたらえぇか分からへんけど、
ウチはな、安美を守りたいって思っとる。
この想いに、ウソは無いとウチは思っとるよ。」
「笑子ちゃん…!」
笑子は安美の頭をぽんぽんと叩き、紡久の方を向く。
「やけどウチだけやなく、紡久先輩もそうや。
先輩が安美に厳しくするのはな、
それだけ安美んことを大切に思っとるからや。
せやから、このことはちゃんと胸にしまっといて。」
「う、うん。」
安美が頷くと、
笑子はにこりと笑って ゆらりと立ち上がる。
「改めて名乗らせてもらうわ。ウチは掛詞笑子。
お互い色々思うところはあるやろうけど、
まあ上手くやってこうや、安美。そして紡久先輩。」
「……ああ。もちろんだ。」
紡久と笑子が握手を交わす。斯くして、
強力な助っ人掛詞笑子を仲間に加える運びとなった。
そのまま私たちは明日一緒に登校することを約束し、
再び深い眠りに就くのであった……。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「ふぁ〜あ。」
翌日、私は早く起きてしまい、
紡久先輩や笑子ちゃん、ダミーを起こさぬよう、
抜き足差し足で音を立てぬよう部屋を脱する。
「おはようございます。」
「あ、家の方ですね。おはようございます!」
紡久先輩の家にはたくさんのお手伝いさんがいる。
いつも忙しなく働いていて、その勤勉さには頭が上がらない。
「こちら、お預かりしていた一文様の制服でございます。」
「ああ!ありがとうございます!すみません!」
「いえいえ、仕事ですのでお気になさらず。
以前と同様大広間にお食事をご用意しております。
準備が整いましたら大広間へお越しくださいませ。」
「はい!ありがとうございます!」
……私のこと 覚えてるのか。
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「おはようございます!」
「おはようさん。随分と早いッスね。
まだ6時台なのに起きられるなんて偉いッス。」
「いえ、来人兄様。
高校生たるもの6時台に起きるのは普通のことです。
むしろ連鶴や紡久たちが遅すぎるんです。」
安美が大広間に出ると、来人と謳が食事を取っていた。
「えっと私の席は……」
「どこに座ってもいいッスよ。」
「ではお言葉に甘えて」
安美は来人と謳の正面に座る。
「そういえば聞いたッスか?」
「え?何をですか?」
納豆を混ぜ混ぜしながら話を聞く。
「このあいだ、うちの親父にビンタかました日、
朝ご飯を2回もおかわりしてたじゃないッスか。」
「―――ッ! あ、あの時は、その、
めちゃくちゃお腹が空いてたからでぇ…!」
「おっと! 別に責めたいわけじゃないッス。
うちの料理人たちが喜んでたッスよー、って。」
「……え?」
「料理をおいしそうに食べてくれて、
しかもおかわりまでしてくれて、
『いただきます』も『ごちそうさま』も
『ありがとう』も言ってくれて嬉しかった、と。」
「そ、そんなそんな……、滅相もない…!!」
「なんせうちの父上は挨拶もろくにできない
恩知らず恥知らず怖いもの知らずのクズですしね。」
「謳さん!?」「謳!! 闇が、闇が溢れてるッス!!」
謳さんは無表情の割に感情的な人だ。
「大体、妻が死んだからって、
いつまでもクヨクヨクヨクヨしているから、
私たち実子からも呆れられるんですよ。」
「こらっ 謳!! ホントのことでも、
言っていいことと悪いことがあるッスよ!」
「……はいはい。」
「はいは1回!!!」
「はーい。」
なんか来人さんって保護者みたいだなぁ。
面倒見がいいというか、しっかりしているというか。
「…そうだ。一文安美。
この前郵送で頂いたアレのことなのだけど。」
「アレ? 謳何か安美から貰ったんスか?」
「ええ。Gallan堂のホイップどら焼きを。
しかも私の大大大大大好きなつぶあんバージョンをね。
…私の好物なんていったいどこで知ったのかしら?」
「ああ。謳さんは、
私の足が痺れた時に助けてくれたじゃないですか。
だからそのお礼がしたいなあと思って、
後でこっそり榑依爺さんに聞いたんです。」
「………はぁ。まあそんなとこだろうとは思ったけれど。」
「あれ!? め、迷惑でしたか!? すみません!!」
あたふたする私に、謳はため息を吐く。
「……いえ。とっても嬉しかったわ。
ただ私はそれを好きだということを秘密にしているの。」
「ど、どうしてですか?」
「……私のイメージに、合わないから。」
「……?」
頭上にハテナを浮かべる私を、来人さんがフォローする。
「謳は『ことだマスター』としての実力はもちろんのこと、
実は茶道や華道の才能にも秀でているんスよ。
そっちの世界で名が売れすぎちゃったせいで、
そこで定着したイメージに囚われがちなんス。」
「イメージ……ですか。」
「言うならば、謳はアイドルなんス。
本当は少女漫画が好きだし、洋菓子が好きだし、
サバゲーでキルされたら台パンするッスけど、
『和風』で『お淑やか』なイメージをキープするため、
俺の前以外では控えてしまうんスよ。」
「……それってすごく窮屈じゃないですか?」
安美が問うと、謳はやれやれと首を振った。
「私はプロよ。求められた時に、
求められた通りのパフォーマンスをして、
称賛される。それに何の不満があるというの。」
「で、でもホイップどら焼き好きなんですよね?
少女漫画や洋菓子が大好きなんですよね?
それを我慢するのって苦しいんじゃないかなって…」
「余計なお世話ね。」
謳は語気を強めてはっきり言う。
「1ついいことを教えてあげるわ、安美。
『No pain, no gain』。英語の諺よ。
痛みをなくして得られるものなんて高が知れてるわ。
より良いものを得ようとするのならば、
それ相応の代償を伴うのは当然の理屈よね?
それが我が身1つで賄えるというのなら、
これほど恵まれたことなんて他にないでしょう。」
「た、たしかに……?」
「それに――」
謳の弁舌はまだ止まらない。
「これはあくまで私の想像だけれど、
貴女は言葉高校に入学するために、
マンガやゲームを封じてまで死ぬほど頑張った。
睡眠時間を削り、食生活にまで気を配った。」
「な、なんで知ってるんですか!? エスパー!?」
「知らないわよ、貴女のことなんて。
これはあくまで、私の知っていることから
想像を膨らませて導き出した仮説よ。
でも正しかったのならそれは好都合ね。
そこまでした貴女なら分かるでしょう?
努力こそが、成功への架け橋なんだって。」
「……確かに、それは正しいです。」
ぐうの音も出ない正論だ。
私はここまでストイックな人は見たことがない。
「……でも、本当につらいときは言ってくださいね?
私じゃなくてもいいので、ご兄弟の方とかに……。」
「…! ええ。分かったわ。ありがとう!」
「!」
その時、初めて謳さんの柔らかい表情を見た気がした。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
而して私・一文安美は、
遅れて起きてきた紡久先輩と笑子ちゃんと一緒に、
縦一列に並んで学校へ向かうのでした。
「なんだか小学校の頃の集団登校を思い出しますね」
「そういえばそんなものもあったなぁ……」
「あー。ウチの小学校にもあったわ。」
小学校の頃は当たり前に皆で登校していたが、
中学・高校と進学するにつれて、
次第に1人で登校することに慣れてしまった。
でもこうして いざ3人で登校してみると、
「私は独りじゃないんだ」って実感できる。
2人の存在が、とても心強く感じる。
「安美。これからは掛詞笑子と2人掛かりで君を守る。
これから如何なるつらたんたんが襲い来ようと、
私たちが命に代えても君を守ってみせるよ。
だから安美は安心して高校生活を送っておくれ。」
「せやでー。このウチが付いとるんやから、
安美は心配せず毎日を楽しんだらええよ。」
「――うん!ありがとう!!」
心強い仲間に恵まれた。
私は今、この上なく幸せだ。
幸せ……なんだけど。
本当にこれで良かったのかな……?
私って、2人の好意に返せるものがあるのかな……。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
朝8時。電話がけたたましく鳴り響く。
ワタシは舌打ち混じりにそれを手に取る。
「もしもしぃ!? 今忙しいんだけど!!」
「おっと お取り込み中だったか。ごめんね。
昨夜ボスからメールが届いてるはずなんだけど、見た?」
「はぁ!? メールですって!!?」
電話先の男がそう問うので、
ワタシは急いでメールの着信を確認する。
「夜中の21時!? バッカじゃないの!?
ワタシはもうとっくに寝てる時間だっての!!
睡眠不足はお肌の敵だってなんで分からないのかしら!?」
「はいはい。苦情はウツロに直接お願いしまーす。」
電話先の男の軽薄な態度に、女は怒りを覚える。
「チッ。……それでこのメールが何?」
「表題の通りさ。今日の午後4時半を目安に、
『三寒四温』のつらたんたんを狩りに行く。」
「戦闘ってこと? 髪が崩れるから嫌なんだけど。」
「じゃあなんでウチに所属しちゃったのさ……」
「なんでアンタにそんなこと言わなきゃいけないわけ?」
スマホ越しにため息の音が聞こえる。
「まあいいや。詳しいことはメールに書いてあるから!
また後で合流しよう! またねー、Whammy!」
「あ!まだ話は――。っもう!!!」
Whammyはスマホをベッドに叩きつけ、
黒紫色の長い髪をわしゃわしゃと掻き毟る。
「あ゛ーー、もう!!! サイアクな気分だわ!!
どうしてこうもワタシの精神を逆撫でするのかしら!!
もう絶ッ対に許さない!! 許さないんだから!!
つらたんたんだろうがなんだろうが、
ワタシがこの手で全部ひれ伏させてやるんだから!!!」
4月22日。今日この日、私たちはまた1つ、
大きな試練に出くわすことになるのだった。
☆オマケ
このコーナーでは、作中で使われた諺の意味や『使われ方』について解説を行います。
①後腹が病める
『事が終わった後に、予想外の出費やトラブルが発生して苦しむこと』を喩えた諺。「後腹」とは、「出産後の腹痛」と、「後妻が産んだ子」を掛けた言葉とされている。
②爪の垢を煎じて飲む
『優秀な人間を見習い、その人に近づこうと努力すること』を意味する諺。現代では衛生的にちょっと心配になるが、昔は優れた能力や高い徳を持つ人間の爪垢や毛髪を煎じて飲むことで、その才能にあやかれると信じれれていたとか、そうでないとか。
③No pain, no gain
英語の諺。直訳はそのまま『痛み無くして得るもの無し』で、『何らかの大きな成功のためには、それ相応の努力や困難が伴う』という意味を持つ。




