128 意外な助っ人 みやび視点
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「隊長! 間に合ったようで何よりです」
声のする方に顔を向けると、白い制服を着た人たちがぞろぞろと現れた。
「……多いな」
ナギがやってきた隊員たちを見て眉根を寄せる。
「3人でいいと言ったが、この人数はどういうことだ? しかも――」
「固まって動いてんじゃねーよ。こいつを見逃してどうする」
隊員たちがやってきた別方向から、お兄ちゃんの声がした。
しかも、左手で拘束し連れている人に銃を突きつけながら。逃げようとその人は暴れるが、その度に腕をねじられるのか痛みの為呻き声を漏らしてる。
「随分と壱番隊は腑抜けてるじゃねーか、なあ? 隊長さんよ」
「不徳の致すところです」
ナギは軽く頭を下げる。
「ナギ、てめえらの馴れ合いは最近特に目に余るぞ。後日お前ら全員しごいてやるからな、覚悟しとけ」
その言葉を聞いて壱番隊の隊員たちがざわつく。ナギはそれを静かに受け止めた。
「……承知しました」
入隊したのもお兄ちゃんの方が先だったし、立場的にそっちが上なんだろう。もっともナギは自分の命令を隊員たちが聞かなかったというのも問題だと感じてるようだけど。
そういえば研修生も受け入れてるって言ってたな。……育成、うまく行ってないのかな。
「ハチ! なにお前見つかってんだよ」
お兄ちゃんが拘束している子相手にミケネコが声を張り上げる。
「ご、ごめんねミケちゃん。猟犬のお兄さんまでこっちに来るなんて思わなかったんだもん」
言い争いをする2人を尻目に、お兄ちゃんが「ナギも言ってたが、俺たち2人とも仕事の時に、あいつまで急にシフトが入るだなんてあからさますぎだろ。ちったあ頭使え」と、嘲笑うようにハチと呼ばれた子につきつけている銃口をぐりぐりと押し付ける。どっちが悪人だかわからないよ。
「おい、無抵抗の人間に銃突きつけるとか卑怯だぞ」
腕を固められ身動きが出来ないミケネコが負け惜しみのように叫ぶ。
「ふん、女一人攫うのに徒党組む方が卑怯じゃねーのか? ……にしても、ハチ、か。お前がハチワレか? ツラ拝むのは初めてだな」
「あわわわわ、そうです。ぼくがハチワレです。やだやだ怖いよ」
私よりも年下みたいな少年?が大きく声をあげる。
ハチワレと呼ばれたあの子……。
ミケネコの拘束を隊員に任せ、私の傍に駆け寄ってきたナギの制止も聞かず、ハチと呼ばれた子に近づく。間近でじっくりと顔を見る。
私が近づくとハチワレは怖がって「ひっ!」と喉を鳴らす。
前髪はセンター分けでショートボブの小柄な子。まだ中学生くらいの年頃で、中性的な顔立ちだ。ゆったりとしたパーカーを着ているミケネコと違って体にフィットしてるシャツを着用してるんだけど、胸を見ても男か女かわからない。細身の少年にも見えるし、少女にも見える。
この子も性別が分かりにくいな。ノラネコって全員そうなの?
私の探るような視線を受け、気の毒なほどおびえてる。
――でも間違いない。
「こんばんは、あなたあの時店にいた子だよね? ほら、ミケネコを逃がすためにカップを落として私の気を逸らしたじゃない?」
ミケネコと初めて会ったあの日、あの店に居た子だ。
常連客が多かったあの日、目立った1人客でさらにメイドに興味もなさそうなのになんでこんな子がこの店に? と不思議だったので覚えてた。
さらに「ううう……カフェモカで800円。高いよお、この店」と泣きそうな顔で会計していた。
「異能力者って複数能力を持ってるの?」
恐らく私が持つ異能力は治癒能力だけだ。それはなんとなく感覚で”感じる”
先祖返りと称される私でも1つの異能だから他の人が複数持っているとは考えにくいのだけど。
「いや、基本は1つだな。ミケネコでいうと思考盗聴と精神感応の2つの能力を持っているように見えるがミケネコの読心術は相手の突かれたくない弱みを読んで感情を誘導しているだけで完全な精神感応というわけではないのではと推測されている」
ナギの説明を肯定するように、ミケネコは顔をゆがめつつそむけた。
「そう……じゃああなたは何故以前と違う能力を使ってるの?」
ハチワレに向けた私のこの言葉で場が騒然となった。ナギたちもこのハチという子の能力が何であるか把握しきれてなかったのだろうか。お兄ちゃんですら「初めて顔を見た」と言っていたくらいだし、この子は後方支援が主な役割だったのだろうか。
「あわわわわ、やだこのお姉さん怖いよ。なんでわかったの」
「馬鹿! ハチ! 黙れよ!!!」
ミケネコが吠える。
「今あなたが使ってる能力とやらはハッキリとはわからないけど、以前は恐らくあの店に居た人間の認識をゆがめる系統じゃない? だから店長たちは私とそこの子が長時間話し込んでるのにも気づかなかった」
いつもなら私たちメイドにお客さんが過度に接触すると、すぐに店長や男性スタッフが私たちを守るために割り込んでくる。なのにあの時にはそれが無かった。
「おい、お前の能力はなんだ?」
「あわわわわ、や、やめてください。頭に銃を突きつけられるの怖いんですよ」
「そうか」と口角をあげながら、撃鉄を起こす。もはやどちらが悪人かわからない。
「こ、コピーですぅ!! でもぼくの能力は正規の能力よりも断然弱いただの劣化コピーなんです!! 今はクーンちゃんの能力”強化”を使ってミケちゃんの精神感応を強化して式神への意思伝達を強固なものにしてます。本来単純な行動しかできない式神をミケちゃんの思うように迅速に動くことを可能にしてます。でもぼく自身の能力は全然大したものじゃないし、一度上書きしたら前のコピーした物は使えなくなるくらい弱いんですよ。だから許して、逃がして、帰りたいいいいいい」と、涙目になってわめき散らしてる。
ちょっと可哀そうになってきた。
「ハチ!! お前なに仲間の能力まで話してんだよ」
「だってだって、ミケちゃん女の人を勧誘するだけだって言ってたじゃない。式神はぼくたちの力を見せつけるだけだって! お姉さんを傷つけるようなことはしないって言ってたじゃない! こんなことになるのならぼくついてこなかったよ。やだぁ、去勢やだああああ」
拘束されている左手を解こうと暴れるが、いかんせん体格差がありすぎてビクともしない。それどころか暴れるたびにさらに拘束がきつくなるようでハチワレは呻き声を漏らす。
……去勢? ちらりとお兄ちゃんに「どういう事するの」と批判めいた視線を送る。
ため息交じりに「そんな目で見るな。護国機関の協力を拒み、危険だと判断された異能力者たちの能力を封じるだけだ」と説明してくれる。
さっき、ミケネコが言っていた「異能力を剥奪する」というやつか。
「うわぁああんん。やだよ、怖いよ~。ガルじゃ~ん!! 助けに来てよ」
本格的に号泣し始めた。ちょっと可哀そうになってきた。ガルちゃんという言葉を聴いてミケネコの表情が変わる。
「まさかお前ベンガルに話したんじゃないだろうな?」
「い、言ってないよおお。こんな事してるの知ったらガルちゃん怒るじゃんか」
ベンガルと呼ばれる人間はまともな倫理観を持ち合わせてるようだ。
尚もミケネコとハチワレは互いに何かを叫びあってる。空き地に誘導してよかった。住宅街だと完全な近所迷惑だ。
「ちっ。やかましいな」と、お兄ちゃんは心底不快そうにハチワレを睨みつける。
「おい、壱番。とっととこいつらを連行しろ。腕輪念珠の結界もぼちぼち効果が切れる。いつ通行人に認知されるかわからん」
「は、はい!!」
言われ、名前を知らない隊員がハチワレの拘束を代わる。
抵抗しても無駄だと諦めきっているハチワレはともかくミケネコは激しかったが、多勢に無勢ということもあり手錠のようなものを嵌められミケネコたちは隊員たちに連れていかれた。
あれが異能力を封じるための物なのだろうか。確かに私が着けていた霊石とは比べ物にならないくらい仰々しい。
異能力封じと身体自体の拘束を兼ねてるだけかもしれないけど。
「おい、俺は一足先に戻るが、ナギお前はこいつの家に行って荷物を取って庁舎の”宿舎”に連れてこい」
「宿舎に?」
「ミケネコが単独で動いたとはいうがどこまで信用できるかわからん。こいつが今晩またあいつらの仲間に襲われる可能性も無いとは言い切れん」
さっきの話ではミケネコはハチワレとだけ組んでるだけみたいだけど、クーンちゃんの力を借りたと言っていたからどこまで信じていいのかわからない。
それにしても、クーン? ……メインクーンだろうか。どこまで猫縛りのネーミングなんだろうか。
「そうだな……その方が安心か」
「うん?」
事の成り行きを呆然と見守っていたら、どんどんと話が決められていく。
「そこまでして貰わなくてもいいかな」なんて思うのだけど、確かに警戒しておかないといけないかも。
特にうちは集合住宅だから、隣や近隣に人も住んでいる。私だけの問題ではない。もしまた襲撃されて他の住人に危害を及ばすわけにも行かない
「……わかった、そうさせてもらうね」
ナギと共に戻った家で明日の学校の準備と着替えを簡単に見繕う。
あまり食欲もなかったが「出来るだけ何か食べて欲しい」というナギの懇願に負け軽く食事をした。
タクシーを呼び、護国機関の敷地内にあるという異能力者の緊急避難用として使われるという宿舎のとある一室へと案内された。




