127 空き地の攻防 みやび視点
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じりじりと式神は私への距離を詰めてくる。
1体ですらキツかったのに、さらに思考が読まれてる。この子の思考と式神がどうリンクしているのかわからないけど、行動が式神に通じると厄介だな。
「あはははは。だから思考がだだ洩れだってば。……どうせ君の能力でもって治癒できるんだから手足折って連れていってやってもいいんだけど、面倒だから大人しくしてくれたら手間が省けて助かるなあ」
先ほどまでの天使の笑顔から一転して、邪悪な笑みをたたえてる。こちらの方が本性に近いんだろうなあ。
楽し気に、ミケネコが左隣に立っていた式神に対して顎をしゃくる。それが合図のようにその式神が命を吹き込まれたように顔を上げ、まっすぐに私に狙いを済まして向かってくる。
振り上げられたその手が私に触れるかという時――。
「あなたについていく気ないんだけど、私も……そしてナギもね」
私の言葉と同時に、白い影がミケネコの後方から駆け寄り私に対して突進してきた式神を一文字に切り裂いた。そしてそれは音もなく爆ぜ、元の紙切れに戻っていく。ぱらぱらと元の白い紙になり空中で散らばる。それは紙吹雪のように舞った。
「え……なんで? なんでだよおおお!??」
ミケネコは見たことが無いくらいに狼狽している。
正直スカっとする。目の前の私に集中していたせいか接近者に気が付かなかったようだ。
「遅くなった。すまない」
微かに怒気を孕んだ声が闇夜に響く。ナギだ。ミケネコの後方から颯爽と駆けつけ式神を斬りつけ、そのまま私を背に庇うように半歩前に立つ。
彼が持つ霊刀はまっすぐとミケネコと式神に対して構えられる。
スマホで「つけられてる」というメッセージと共にここに誘導すると座標を報せたけれど、すぐさま駆けつけてくれたようだ。
お兄ちゃんに「位置情報共有アプリを入れておけ」と言われ、実行してて良かった。
仕事中のナギに連絡をするのはどうかと思ったけど、私自身も異能力者であることから警護隊の「異能力者の保護」の職務として呼んだ。
これなら公私混同として責められることもないだろう。
どういう手段を使ったのかは知らないけれど、ナギはその知らせを受けてすぐにここに来てくれた。
ミケネコの注意が私に向けられてる時に一気に距離を詰め、居合でもって一撃でその式神を切り裂いたというわけだ。残るは1体とミケネコだけ。
さっきは完全に式神、そしてそれを操るミケネコも意識外だったから不意を付けたから一閃できたけれど、今は向こうも完全に警戒している。
「お前がミケネコか。……この間は色々と世話になったな」と、式神を斬り捨てたその日本刀の切っ先をまっすぐにミケネコへと向ける。
ナギの爽やかな笑顔が逆に怖い。
武器を向けられたミケネコは射殺す目でナギを見ている。軽口を言う余裕さえ無い様子だ。
この子自身に攻撃系異能は備わってないみたいだけど、いまだ姿を見せない、おそらく居るであろう第三者の動きが気になる。見渡せるところには人影はない。
でも何か、ちりちりとしたものを感じる。監視されているような居心地の悪さ。
「ねえ、忠犬のお兄さん。大好きな恋人の前で僕を傷つけるの? 君はそういうことはしないよね。その物騒なものを突き付けるのやめてよ」
「……」
ナギはそれには答えず、左手に装着されてる腕輪のように装着してる数珠にそっと手を置こうとした。
「腕輪念珠で対抗しようというわけ? ホント、めんどくさいね、あんたたち」
その言葉と同時に、残っていた式神がナギの脇をすり抜けて私に直進してきた。腕を掴まれたかと思ったら体が宙に浮いた。
投げ飛ばされた先に見えたのは、振り返るナギの顔。咄嗟にナギは刀を手放し、一歩前に出て投げ捨てられようとしてる私をしっかりと抱きとめてくれた。
一瞬、体がぶつかる衝撃が伝わった。ナギは身を呈して私を受け止めてくれたけど、その隙を縫ってミケネコと式神は私たちから距離を取る。
くっ……油断、した。ナギと抱き合う形になりそっと呟く。
「ゴメン……」
「いや、問題ない。みやびの方は怪我はないか?」
こんな時だというのに私の後頭部に手をやり、そっと髪を撫でる。
「ナギが受け止めてくれたから大丈夫」
治癒能力があるから本当は受け止めずに避けてくれても良かったのだけど、あえて受けてくれたナギの気持ちは嬉しい。
だけど、そのせいで距離を取られてしまった。ミケネコを狙うにしても式神が立ちふさがるだろう。あいつは頑強なだけじゃなく、動きも素早い。
それに……。ダメだ、考えるな、読まれる。
「ちょっと分が悪いから僕は帰らせてもらおうかな。子猫ちゃんの思考はともかく、忠犬のお兄さんは心が読みづらいし」
遊びに飽きた子供のように不貞腐れた声を出すミケネコ。
「この好機を逃がすと思うか?」
ナギは私からそっと体を離し、立ち上がる。
瞬間。ミケネコへと疾走し、流れるような動きであいつの右手を一瞬にして掴み、やつの右肩を自分の右手で固定し、さらに左腕で肘を挟む。
ナギの右手はミケネコの首へと移動し、右腕をホールドしたまま自身の右ひじであいつの肩甲骨を突き、そのまま地面へと組み伏せてしまった。
早い――。その動きに一切の無駄もない。ミケネコが思考を読む前に行動を起こしたようで容易くミケネコを捕縛できた。
式神へ命令を下す前にミケネコの動きを封じられたのはいいのだけど、ナギもミケネコを拘束してるせいで両手が使えない。
「動きが読まれるくらいで後れを取ると思ったか?」
「くそっ……。でもこの後どうする気? 僕を拘束しても式神は止まらないよ」
ナギがちらりと式神を一瞥する。
ミケネコの念波を受けたのか、式神が不気味にナギへと向きを変えその手を天に掲げる。身動きの取れないナギを攻撃するつもり? と思った瞬間。
式神にボウガンの矢が次々に突き刺さり、音もなく消滅した。元は護符だった紙切れがこっぱみじんになり、風に乗って飛んで行った。
それを見届けたナギは「今日は弐番隊の加賀宮も夜廻り当番だしな。さらにはみやびも緊急でバイトが入った。明らかに彼女が狙われてると推測出来たのに、俺が単身で来ると思うか?」とミケネコに告げる。
当のミケネコは式神という武器を失い、呆然としている。人の思考は読めてもこの結果は見えなかったようだ。
さらに精神攻撃系の異能力者で攻撃の手段を持たないのなら、ナギの拘束から逃れる手段もないだろう。




