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御厨ナギはいちゃいちゃしたい  作者: 希来里星すぴの


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117/118

117 査問という名の茶番 ナギ視点

noteの方で、裏話、小ネタを掲載していってます

(TOPページ)

https://note.com/kirakiraspino


noteではこちらの前日譚「0話」も公開中

https://note.com/kirakiraspino/n/na36abbadd334

 「先祖返り」であるみやびの処遇について、そして番いが異能力者である事に気づかなかった俺の取り調べとして、査問が行われることになった。

とはいえ当の本人であるみやびは召喚されずに、彼女の番いである俺、そして彼女の兄の加賀宮、上司として杠葉長官が呼び出されただけだ。

 彼女をこんな場に連れてきたくないという俺の願いが通じた。彼女が知らない間にこの問題は解決したい。


その場を仕切るのは俺も姿を見たことが無かった、護国機関の上層部。

いや、入庁式には姿を見せていたな。長ったらしい講話が記憶に残っている。内容としては「護国の為に」を掲げテンプレのような中身のないものだったが。

 加賀宮と共に会議室に入室した時にはすでに揃って座っていた。

 入室した途端、好奇の目が俺たちを捕らえる。腹に一物抱えてそうな熟年、高年の男たち。一様に下劣な笑みを浮かべている。

 唯一違うのは杠葉長官だけだった。


「御厨ナギ、参上しました」

「……加賀宮ジン、参上した」

 頭を下げたくない相手だが、礼として相手に向かって腰を折り曲げる。加賀宮は不本意とばかりに軽く頭を下げただけだ。

 その様を見て、誰かが「ふん」と不愉快そうに鼻を鳴らした。


「さて、早速だけど」と上座に座る男が口を開く。

「御厨くん、君は番いが異能力持ちだとは一切気づいてなかったのかね?」

 やはりそこから攻めて来るか。

「それは護国の人間としてはどうかと思いますなぁ」

「異能力者を追跡、保護する警護隊の隊長としては失格ですよ」

「こうなっては君の進退も考えなくてはね」

「いっそのこと、広報に部署替えしますかな? ハハハ」

「そりゃあいい。白の貴公子、でしたか? そちらで護国機関、ひいては神の信仰の為に専念してもらいましょうか」

「なんでしたかな、確か色々な企業からも案件が来ているとか? もう芸能界デビューでもしてみたらいいんじゃないですかね?」

「わはは、それは面白いですな」

 その言葉には嘲るような声色が聞き取れる。

 わざと挑発しているのだろうが、俺個人への侮蔑なら何を言われても構わない。退職になったとしてもどうでもいい。

 そうしたら彼女を連れて両親の居る国へと向かうだけだ。彼女以外なら何もかも捨てて構わない。

「……不徳の致すところです」


「まぁまぁ、そう彼を責めずとも良いではないでしょうか。彼も健康的な若い男。異能の力によってきっと魅了でもされたんでしょうが」

「ふむ。相手は異能力者ですからな」

「確かに御厨くんの気持ちもわかりますなぁ」

「クロネコの娘ですか……中々そそりますな」

 その笑みには下卑たものを感じる。ニチャリと唇を舐める者すらいる。

 やつらの手元には彼女に関する書類だろうか、数枚の紙がテーブルの上に置かれている。

 そして写真でも添付されてるのかそれを撫でるように厭らしく指が紙を撫でる。写真だろうが彼女に触れて欲しくない。汚らわしい。


「では、この娘の籠入りは決定という事で」

「異能力者は保護をしなければ、ね」

「異論無し」

「っ!」

 予想していたがやはりか。だが、それにしては決定までのスピードも速すぎる。

 この査問は俺の失態をなじる為ではなく、彼女を籠に入れるだけの形式だけのものだったか。とんだ茶番だ。


 その時、上座の男が軽く挙手をしながら思いがけない言葉を投げかけた。

「いや、籠よりも檻でしょう」

 檻……。聞いたことがある。

 かつて異能力者の人権を踏みにじっていた時代、交配の無理強いも行われていたという。

 今は異能力者の”婚姻相手”は同じ異能力者だと定められているが、その時代にはとにかく交配を第一に考えられどんな相手でも構わず強いられていたと聞くが。

 祖父が護国機関に所属していた時代には、人権侵害だと問題視されて撤廃されたと聞いていたが、それを復活させる気なのか?

 それはかつてみやびの母が受けた「五行計画」と同じものだ。彼女に母親と同じ人生を歩ませるわけにはいかない。


「檻」と聞いて、幹部たちが沸き立つ。

「ほう。では繁殖の儀が楽しみですな」

 繁殖……つまり彼女が汚される。恐らくこいつらにも。そして彼女をただの道具としか思わない男たちにも。

 彼女の人権と体が踏みにじられ、子孫を残す為だけに行われる行為。

「てめえら」

 横に座る加賀宮が不快そうに感情をあらわにする。

「そういえば加賀宮くんはこの異能の兄、でしたかな? もっとも血は繋がってないようですが」

「お兄ちゃんと呼ばれながらの行為は中々の背徳感でしょうな」

「それは滾りますな。加賀宮君も繁殖のメンバー入り決定ですかな」

 加賀宮の怒りも意に介さないという風に、上層部はさらに煽る。

「ちっ、下衆が」

 吐き捨てるように呟いた加賀宮の言葉は幸か不幸かあいつらには聞こえなかったようだ。


「待ってください!」

 俺との番い関係が解消され、鳥籠に入れられるかもしれないというだけでも耐えられないのに、こんなクズたちに彼女が蹂躙される?

 そんな決定が下るのを黙って見ていられるか。

「ああ、御厨くん、心配しなくても君が一番最初でいいですよ。番い解消のせめてもの最後の慰めです」

「!?」

「聞くところによると、君たちは清い交際だとか」

「ほお? 最初で最後の交合ですか。……早く抱いておけばよかったものを」

「おままごとみたいな交際をしていたばかりに、ねえ」

 その言葉を皮切りに嘲笑の渦が起きる。

 俺たちの想いを汚すな。ギリ、と奥歯が鳴る。

 ここで異を唱えても意味はない、それどころか逆効果だとわかっていても感情がコントロールできない。

「ふざけ――」

「御厨ちゃん。わかりやすい挑発に乗るんじゃないよ」

 杠葉長官の鋭い声が俺を止める。

「しかしっ!」

「さて、ぼくの方からよろしいですかね?」

 杠葉長官が軽く手をあげると、場の下品な笑いは止まった。

「ほお。杠葉くん、君も参戦ですかな? 特別に御厨の次でいいですよ」

「ぼくは妻以外には興味が無いので遠慮します。そもそもがもう『檻』は使われてないでしょう。彼らの人権を尊重し『交配は自由意志の元で行われるべき』お忘れですかな?」

「自由意志とはいえ、異能力者の相手は異能力者。御厨くんは違いただのヒトだ。どちらにしても2人の番いは解消されるべきでしょう

「それに今回は、先祖返り。よりヒトならざるモノに近い存在ですぞ」

「報告によると瀕死状態からの完全治癒。こんな稀有な能力はどんどんと”増やす”べきではないですかな?」

 みやびの母親がエアロキネシスの能力だったように、子孫が同じ能力を持つわけではない。

 そして異能力者の子が必ずしも異能を授かり生まれてくるわけではない。望む能力持ちの子が産まれるまで、彼女に延々と子作りをさせる気か。

 ――下衆どもめ。


「まぁそれは置いておいてとして。先ほどの『何故御厨ちゃんが彼女の異能に気づかなかったか』という件ですが、答えはこれにあります」

 長官は上着の胸ポケットから小袋を取り出した。その袋の中身は、彼女が普段つけていたあの霊石のピアス。

 イヤーカフを外しても、あのピアスだけは寝る時もずっとつけていた。女性の装身具に疎い俺は「そういうものか」と気にもしていなかった。

「ピアス?」

 場が杠葉長官の意図を飲み込めずに困惑している。

「彼女が幼少のころから身に着けていたというこのピアス。これは通称『神殺し』でして、異能の力を封じるものです。これによりシオンちゃんの『感知』も通用しなかった。あのシオンちゃんですらですよ。術師ではない御厨ちゃんが彼女の能力に気づけるはずもないでしょう」

「……!」

 長官が全員に見えるように、とその袋をかざすと場がざわつき始めた。

「ほう、神殺しをご存じの方も数名いらっしゃるようですな。神の眷属の力を封じる封具。魔族からもたらされるという逸話のものです。さて何故彼女がこれを持っていたか」

「……」

 杠葉長官が仕切り、場の雰囲気が変わった。


「かつてとある場所で護国期間が庇護すべき予定だった異能力者たちがとある場所にて監禁されて、非人道的な扱いを受けてましてね。それの主導者から取られた通称『五行計画』先ほど話題に出た『檻』と酷似してますねえ」

 みやびの母親、九条涼音もその被害者だった。

 本来保護対象だった異能力者たちが別の施設に送られそこで凌辱の限りを尽くされたという忌まわしい計画。

「数年後、それを嗅ぎつけたノラネコたちによって施設が襲われ、通報を受け駆け付けた我々によって幾人かの異能力者を保護出来ましたが、その時に保護された異能力者が付けられていたモノと酷似していますね。何故五行家がこんなものを持っていたのか、禁じられている魔族との直接な交渉でもあったのではと」

 一般人が通常魔族と遭遇することはない。それは護国機関と魔族の長側との古来からの取り決めでもあるらしい。

 現に、護国機関に所属している俺も実際に会った事はない。

 噂によると、魔界に繋がる「ゲート」は護国機関が管理してる地で厳重に結界を敷かれ守られているとは聞くが――。


「そうだ。五行と言えば4年前に当時の当主が惨殺される事件がありましたな。ヒトでは実行不可能と言われ、異能力者が絡んでると睨まれていた今も未解決な事件が。そしてそれは五行以外の資産家も被害に遭っている」

「それはノラネコたちの仕業でしょう」

「犯人は、この先祖返りの娘の母親であるクロネコだと結論づいているはず」

「ええ。ですが何故ノラネコたちがその凶行に至ったか。彼らの理念は『異能力者の自由と尊厳を守れ』それを犯され激高したのでしょう。25年前の異能力者監禁事件における繁殖計画、殺された五行家当主、魔族から提供を受けたと思しき『神殺し』なにやら怪しいつながりが見えてきたと思いませんか?」

「杠葉くん。推測はやめたまえ」

「それでは君は我々護国の人間が異能力者を資産家どもに横流しし、魔族と取引をし得た”神殺し”とやらで非人道的な行為をしたというつもりかね?」

 鋭い声が飛び交う。当の杠葉長官は投げかけられる暴言も受け流している。


「ぼくはもう二度とあんな悲劇を繰り返したくないだけです。異能力者は自由意志によって交配相手を選ぶべき、それでいいじゃないですか。それが同じ異能力者だろうが異能を持たない血筋の人間だろうが」


「しかし、希少な先祖返りをみすみす野に放てと?」

「血統のコントロールは重要だ! 異能力者は異能力者からでないと生まれない。そしてこれ以上血を薄めるべきではない。つまり異能力者をの血統を管理するのが我ら護国機関の責務!」

「他国に先んじる為にも強力な異能力者は必要。それは杠葉くんもわかっているでしょう」

「ただでさえ異能力者は生殖能力が低いと言われている。この娘の血を引き継ぐ存在を生み出すのは我々の責務なのでは?」

「いわば繁殖はこの国の為」

「国の防衛や国民の安全を第一とするのが我々護国機関」

 口々に勝手な事を叫ぶ。彼女を犠牲にするくらいならこんな国、滅んでしまえばいいというどす暗い思いが俺の心に広がる。


 その時、まるで俺の心の中の陰鬱とした気持ちを払拭するがごとく、清らかな声が会議室に響いた。

 それはまるで聞き覚えのない少女の声だった。

挿絵(By みてみん)

※AI生成イラストです

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