110 突きつけられる真実 みやび視点
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医師による診察も終わり、再び静寂が訪れる。一人暮らしをはじめてからずっと学校にバイトにと追われてきてこんな時間は久しくなかった気がする。
ナギと知り合ってからは、彼と時間が合えばずっと会ってたし。
そう考えると彼に会いたくなってきた。……もっとも「今は待って」と言ったのは私の方だけど。
何か用事があったらナースコールを鳴らしてくれと言われた。
外の空気を吸いたいと思ったけれど、そんな私のわがままに付き合わせるわけにも行かない。かといって、体に色々なものが繋がれているので1人では身動きできない。
ナギが差し入れしてくれていたらしいタブレットで映画を見るくらいしかできない。あとは寝るだけ。
1日中ずっと映画を見ていても飽きるなぁと思っていたら、遠慮がちにノックの音が響いた。看護師さんかなと思って返事をしたら入ってきたのはシオンさんと加賀宮さんだった。
「お邪魔します」
「シオンさん。それに――加賀宮さん」
なんだか2人に会うのはずいぶん久しぶりな気がする。
とはいえ、あの時にナギと一緒に駆け付けてくれたらしいけど。あの時には意識が朦朧としていたからあまりよく覚えてない。
「……具合はどうだ?」
伏し目がちに加賀宮さんが聞いてきた。
「思い出せなかった子供の頃の記憶が戻った事もあり、時折頭痛がします。お医者さんの話では問題ないらしいですけど」
大量に出血したもののその後遺症はないらしい。
この頭痛は出血多量とは関係ないんだとか。目を覚ましてから色々な検査をされたが問題は見られなかった。
「そうか。……ノラネコには記憶操作系異能力者も居るからな。そいつの仕業だろうが」
加賀宮さんは腕を組みながらパイプ椅子に座る。聞きなれない言葉に首をかしげていたら、護国機関と敵対してる組織だと教えられた。とはいえ守秘義務でもあるのかあまり詳しくは教えられなかったけど。
それと関係あるのかわからないけど、ふとお母さんが言っていた言葉を思い出す。
「……月輪」
「うん?」
「はい??」
何気なく呟いた私の言葉に2人が反応した。
「あ、いえ。母が話してたんです。また月輪に記憶を封じてもらわないとって」
それが人名なのかすらわからない。なんとなく、コードネームのような響きを感じる。母とは日常の会話以外はあまり話さなかった、少なくともこれまで「ツキノワ」なんて言葉は聞いたことがなかった。
それはつまり、私には秘密裏にしなければならないものなんだろう。
「ツキノワ……」
加賀宮さんとシオンさんが目配せする。彼らは知っているのだろうか。ポーカーフェイスが巧みで感情が読めない二人だからよくわからない。
月輪という人が私の記憶を封じたというのなら会ったことがあるはずなんだけど、その事は全然思い出せない。そもそもいつ記憶を改ざんされたのかも覚えてないのだけど。
未だ、大事な記憶の部分にはモザイクがかかっているような感覚。いつかは全てを思いだせるのだろうか。
「あの――母は、どう、なりました?」
沈黙が落ちた機を狙い、知りたかったことを聴く。
看護師さんたちにさりげなく聞いても「私からはちょっと――管轄が違いますから」と言葉を濁された。
お母さんはあの後、拘束されているのだろうか。あの時にはかなり様子がおかしかったけど、今はもう落ち着いているのだろうか。
面会できるものなら会いたい。
そう考えていたら、シオンさんが声を落とす。
「――残念ですが」
何? と思ったら間髪入れずに加賀宮さんが「俺が殺した」と呟いた。
ころした?
かがみやさんが?
ころされた?
おかあさんが?
「――っ!!」
その言葉の意味が染み渡った時、思わずひきつった声が出た。
「ちょっと! 加賀宮! 物にはいいようってものがあるでしょう」
珍しくシオンさんが声を荒げた。それに対して悪びれもしない様子で加賀宮さんは言葉を続ける。
「こういうのは隠さない方がいいんだよ」
確かにずるずると誤魔化されるよりは今知らせられた方がいいのかもしれない。それはわかってるのだけど。
――だけど。
「そう……ですか。――うっ」
頭では理解できていても、涙が止まらない。
お母さんは異能力者で、加賀宮さんたちはそれを制圧する側だ。私が意識を失った後に何があったのかわからないけど、私を殺しかけた危険な存在だと認識されたんだろう。
もしかしたら加賀宮さんたちにも敵意を向けたのかもしれない。その正当防衛の結果かもしれない。
でも、だからといって……。
「うっ――あぁ……っ!!」
――おかあさん!
慟哭が止まらない。色々話したいことがあった。なのにもうそれが叶わないだなんて。
すっと加賀宮さんから綺麗に折り目のついたハンカチが差し出された。それを受け取り、とめどなく流れる涙を拭こうとするが追い付かない。
もっと正面から話し合えばよかった。
1人暮らしをしたいと訴えたあの時のように、勇気を出して本心をさらけ出せばよかった。ナギと共に説得し続けたらよかった。
「10分後くらいにまた来る」
泣きじゃくる私に背を向けて、加賀宮さんはそっと部屋を出ていった。
シオンさんもこちらに軽く頭を下げて、その背を追った。
デイルームへと移動する加賀宮とシオン。
「加賀宮、なにもあんな言い方しなくてもよかったじゃないですか」と、咎める声色には批判が込められている。だが、加賀宮は気にかけるそぶりを見せない。
「どうせいつかは知られることだ」
そう言いながら、加賀宮はシオンとは目を合わせないでコーヒーを購入し、手近なイスに腰を掛ける。
その様子を見てため息をつくシオン。確かにみやびにとっては残酷な真実だ。だが、後でナギによって聞かされるのも残酷だろう。ナギとみやび、双方にとっても。
「……あなたが本当に殺したかは疑わしいですが」
シオンの言葉は、他には誰も居ないデイルームに響く。警護隊員には武器の携帯を認められてはいるが、それはあくまでも異能力者によって召喚された木偶など、ヒト以外に用いるものだ。いくら加賀宮が警護隊随一の武闘派とはいえ、これまで意図的に異能力者の命を奪ったことはない。シオンにとっても今回の加賀宮の行動は色々と疑問を抱いていた。
「涼音の遺体は収容されてるだろ。体内からは俺の銃の弾が摘出されたと確認が取れている」
「そういう意味じゃなくて」
「ちっ。しつこいぞ」
これ以上は何も語られないと悟り、シオンはため息をつき話題を変える。
「彼女……これからどうなるんですかね?」
異能力者だと判明したみやびの行く末。基本的に人権尊重の為籠入りか否かは本人の意思を尊重されるが、みやびの場合は特殊だ。
――強大な力を持つ、恐らくは先祖返り。
「わかり切ってることを聞くんじゃねえ。異能力者は保護、籠入りだな」
「だとしたらナギとの番い関係は――」
「解消されるな。異能力者の”婚姻相手”は同じ異能力者限定だと聞く」
異能力者と純粋なヒトとの子供は異能力を持って生まれる確率は低いと言われている。さらには、異能力者は必ずしも子孫が異能力を持って生まれるわけではない。
少しでもその確率を上げる為、そして血統を管理するためにも異能力者同士が”集団見合い”として引き合わされると聞いている。
だが、警護隊とは管轄が違うのせいもあり、その情報はほとんど入ってこない。
異能力者の差配は、籠ノ守部が全面的に行っており会議でも仔細は語られない。せいぜい「婚姻が成立した」「生まれた子供に異能力が確認された」という簡素な報告のみだ。
彼らが言うのは一応「双方同意の元」らしいが、それもどこまで真実かはわからない。
「……初めてこの仕事が嫌になりましたよ」
「俺はハナからこんな仕事嫌いだったがな」
「――じゃあ何故護国機関に入ったんですか」
「事情があんだよ」
時計を一瞥すると、加賀宮は飲み終わった紙コップを無造作に捨て、自販機でオレンジジュースを購入し、それを片手に病室へと戻っていった。




