109 気がかり ナギ視点
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執務室の内線電話が鳴ったが、俺と天方が打ち合わせ中で取れなかった。たまたま近くに居た遊佐が電話を取ったようだと思ったが、すぐさま受話器に耳を当てたまま大声で俺を呼んだ。
何事かと思ったが「隊長!! 番いちゃんが目を覚ましたらしいですよ!!!!」と遊佐が弾んだ声で叫んだ。
それを聴いた隊員たちが歓喜で沸き立つ。口々に「隊長、良かったですね!!」と我がことのように喜んでくれた。彼らにも俺たちの事で、心配をかけた。
良かった。手にしていたタブレットを机に置いてすぐさま部屋を出ていこうとしたら、俺の動きを止めるべく遊佐が慌てて「あ、でも隊長には会いたくないらしいですよ」と付け加えた。
ドアに手をかけようとした状態のまま、硬直し動けなくなってしまった。その言葉の意味がわからない。
「会いたくない」とはどういうことだ……。
自身の母親に起きた事を知り、護国機関に関わる俺とは縁を切りたいとかそういうことなのだろうか。
それとも結局彼女の危機に居合わせられなかった俺に愛想をつかしたのか。
母親に戸籍の事を聞いて、その事を黙っていた俺にショックを受けたのだろうか。
色々な考えがぐるぐると巡る。
愛想をつかされても仕方がない事ばかりだ。
「馬鹿野郎!! 遊佐!! てめえ言葉が足りねえんだよ!!」と、いつの間にか電話を替わっていた天方が怒鳴る。
「落ち着け、ナギ。今はまだ万全の状態じゃないから、面会するのはもう少し落ち着いてからがいいって意味だよ」
そういうことなのか。嫌われたわけじゃないとわかり、安堵から大きく息をつく。
櫻川には「みやびが俺と別れたいと言ったら身を引く」だなんて言ったが、彼女に嫌われたら、失ったらと思うと肝が冷える思いだ。
「お前自然に部屋を出ていこうとしたが、仕事中だからな? 忘れんなよ?」
段々と俺の行動に慣れてきた天方に苦言を呈されてしまった。
みやびは庁舎敷地内の医療施設に居るんだから、顔を見に行く少しくらいなら抜け出しても構わないと思っていたのだが、彼女に「待って欲しい」と言われたら無理強いできないな。
俺が昨晩に見た姿は生体情報モニタなどに繋がれていて意識もなくベッドに寝てただ呼吸をしているだけの弱々しかった姿だ。手を握り、話しかけても何も反応が無かった。それが意識を取り戻し、会話が出来るまで回復したのか。
目を覚ましてくれてよかった、本当に良かった……。
「でもまぁ……安心したな、さっきの電話で聞いた限りでは後遺症も無さそうだし」
肩を軽くたたかれ、労わるように声をかけられた。
ここ数日間は仕事が手につかず、特に天方には世話をかけた。
「そうだな」
早く会いたい。声を聴きたい。
「生きていてくれてありがとう。愛してる」と伝えたい。
あの時、彼女を失っていたらと思うと背筋が凍る。もう二度とみやびと会えないだなんて考えられない。
彼女の居ない世界には未練なんてないから、恐らく俺は後を追おうとしただろう。
結局、みやびが搬送されたあの後、残された母親と加賀宮に何があったのかは知らされなかった。
「エアロキネシスの異能力者が暴走して自分の娘を攻撃していた為、討伐した」と簡素な報告があげられただけだ。あまりにもやる気のない報告だろう、これ。
その報告を受けた時に加賀宮に直接問いただしたが「書いてるのが全てだ」とはぐらかされた。
事実、みやびが被害を受けていた事、その場に同席していたシオンの口添えもあり異能力者である藤原忍を処した加賀宮の行動には問題なしとみなされたが、あいつには色々と確認したいことがある。
だが、その後あいつは俺とは接触を避けているように勤務の時間帯をわざとずらすようになった。
ご丁寧に外泊までしているようで、寮の部屋にも戻ってきていない。
当然ながら携帯電話にも出ないし、弐番隊の執務室に出向いても隊員たちに追い返される。
昼食の時間もずらしているのか、別の場所でとっているのか食堂にも現れない。
理由はわからないが、完璧に避けられてるな。
噂に聞いた限りでは、どうやら加賀宮は頻繁にみやびに面会しに行ってるらしい。
俺はみやびからは面会を断られているので、当時の状況について事情を聴取するのに弐番隊の隊長である加賀宮が行うのには疑問はないのだが、それにしても頻回の面会、かつこちらに内容の情報が一切まわってこない。
しかも、あの面倒くさがりで、仕事を壱番隊に押し付ける程の加賀宮が自ら動くとは。
シオンを問いただしても「……私から言える事はなにもありません。加賀宮に直接聞いてください」と目を逸らされた。
加賀宮ならみやびと2人きりになっても俺が心配するようなことはないだろうが、なにか気になる。
そして、俺ですらまだ面会できていないのにという嫉妬心が渦巻く。
いい加減我慢が出来なくなった頃、みやびからの面会許可が出た。




