百二十六話
ネコショウとセッショウとのバトル。俺とユウ先輩は追い詰められていた。このままでは勝てない。殺られると思っていたら、ユウ先輩が俺を逃がした。
ユウ先輩が一人で二人を相手にすると!通路を塞いで逃がしたのだ!頭では理解しているが気持ちが追いつかない!
「ちょ!早くノリ先輩!通路を通れるようにして下さいっす!このままだとユウ先輩殺られるっすよ!」
「ダイ!落ち着きなさい!何があったのですか!」
「そんなのどうでもいいっす!早く戻らないと!」
俺がそう言っていたら、ノリ先輩に頬を思いっきり叩かれた!
俺が茫然としていたらノリ先輩が俺の目を見ながら話かけてきた。
「落ち着きなさい!何があったのかをゆっくりと話しなさい」
「り、了解っす」
俺はあの部屋での出来事を話し初めた。ノリ先輩達が去った後、男こと野衾との対決をした事。野衾が自爆しそうな時にネコショウとセッショウが現れた事。その二人に殺られそうな時にユウ先輩が俺を逃がしてくれた事。このままだとユウ先輩が危ない事。
俺は話している途中で涙が出てきた。そんな俺の話しを皆は黙って聞いていてくれた。
俺の話を聞き終わるとノリ先輩は少し考えた後、皆に語りかけた。
「撤退しましょう。怪我人がいる状態でアイツ等の相手は無理です。今の内に逃げましょう」
ノリ先輩の話を聞いて俺は耳を疑った!ノリ先輩が、ユウ先輩を置いていくと言ったのだ!
「な、何言ってるっすか?ユウ先輩がこの先でまだ戦ってるっすよ!早く助けにいかないと!」
「今の私達が行っても無駄死になります。そんな事ユウ先輩は望んではいません」
「で、でも!」
「それにユウ先輩のさっきの言葉聞こえたでしょう。私達に日本に還れと!そう言ってたじゃないですか!だから私達はここを出て必ず還ります!それがユウ先輩との約束です!」
そう言うノリ先輩を俺は睨んだ!まだ助かるかも知れないのに!見捨てるなんて!ノリ先輩はユウ先輩が嫌いなのか!そう思っていたが、よく見るとノリ先輩の握っている掌から血が垂れている。唇からも!
俺は改めてノリ先輩の顔を見た。生まれて初めて見た。こんなに悔しそうに、悲しそうにしている顔を!
そうだよな。悲しくない訳ないんだ。ユウ先輩が命懸けで俺達を生かしてくれた。そんな俺達が無駄死にする訳にはいかない。ノリ先輩は冷静に考えているんだな。
「す、すいませんっす。ノリ先輩。俺、冷静じゃ無かったっす」
「分かっています。さあ、逃げましょう!ここも、
もう持ちそうにありませんから」
ノリ先輩が天井を見ると少しづつ壊れている。
「えっ、ノリ師匠、ダイ師匠!ユウ師匠はどうするのですか!大丈夫なのですか!」
マシロが俺とノリ先輩を交互に見ながら泣きそうな顔をしている。どうしようかと考えていたらモイラさんがマシロを気絶させた。そしてマシロを抱えた。
「モイラさんすみませんね。嫌な役をしてもらって」
「気にしないで下さい。マシロを頼むとユウに言われましたから」
そう言ったモイラさんも悲しそうな笑顔をしていた。
皆、もう覚悟しているのか。俺も覚悟を決めないといけないのか?
けど、俺は心の底では信じているんだよ!あのユウ先輩なら助かるんじゃないかと。もう少ししたらひょっこりと現れて、あー死ぬかと思ったわー。とか言いながら飄々と来るんじゃないかと思ってしまう。
しかし、現実は非情だ。天井が崩れて来たため、俺達は逃げ出した。マシロをモイラさんが、ガーターさんをマンバさんが、俺がヒバカリさんを、ノリ先輩がビーグルさんを抱えてダンジョンを走った。
この世界に来て初めてかも。こんなにも不安なダンジョンは!ああ、ユウ先輩がいないだけで、こんなにも不安なのか。
「ノリ先輩、怪我は大丈夫っすか?なんなら俺がビーグルさんも抱えるっすよ」
「大丈夫ですよ。これくらいで出来ないなんて言ったらユウ先輩に怒られますから」
「・・・ノリ先輩、俺、生まれて初めて、ここまで自分に腹が立ちました。もっと俺が強かったらユウ先輩は・・・」
「反省は後にしましょう。今は無事に街に帰りましょう」
「了解っす」
俺達は無事にダンジョンを出て街に戻った。宿屋に着く頃にはヒバカリさんとビーグルさんも目を覚ました。二人共凄く謝ってくる。まあ、操られてたからしょうがないよな。二人を休ませた後、俺とノリ先輩、そしてヨルムンガンドのメンバーで今後の話し合いをする事にした。
重苦しい空気の中、モイラさんが話し初めた。
「それでノリとダイ。貴方達はこれからどうするのですか?」
「・・・私達の目標は変わりません。この街のダンジョンの岩石大亀を倒して日本に還る為のアイテムをゲットします」
「それがユウ先輩との約束っすから」
「そうですか。なら私達ヨルムンガンドは全力で貴方達をサポートします」
「えっ?けどヒバカリさんはもう見つかりましたよ。貴方達は国に帰った方がいいんじゃないですか?」
「おいおい、ここまで世話になったのに、何も御返しをしないほど、俺達は薄情じゃないぜ」
「そうですよ。私達が生きているのはユウとダイ、貴方達のお陰です」
「私もこうして再びヒバカリと会えました。貴方達には返しきれない恩があるのです。手伝わせて下さい」
そう言ってヨルムンガンドのメンバーは俺達に頭を下げた。此処までされては断れない。
「頭を上げて下さい。コチラこそよろしくお願いします」
そう言って俺とノリ先輩は頭を下げた。そうやって話し合いをしていると俺達に女性が声をかけてきた。ヒバカリさんだ。
「私も手伝わ。こんなにお世話になったのにやれる事は全てやるわよ」
「ひ、ヒバカリ!もう大丈夫なのか?」
「ええ、ガーター。心配かけたわね。もう大丈夫よ。魔力も大分回復したから動けるわ」
「し、しかし!」
「四の五の言わないの!私達の命の恩人がいるチームよ!助けて上げなきゃ!」
「わ、分かっていますよ」
「モイラとマンバもきちんとやるのよ!」
「勿論ですよ。ガーター、ヒバカリに彼等の事を詳しく話してあげなさい」
「そうね。ガーター、あっちで話して!詳しくよ!」
「わ、分かっていますから!落ち着いて下さい」
そう言ってヒバカリさんとガーターさんは別のテーブルに行った。
「ヒバカリさんって、姉さん女房だったんすね」
「ええ、昔馴染みですが、ガーターは常に尻に敷かれてましたよ」
「意外ですね」
「そうかー?・・・ところでお前等大丈夫か?」
マンバさんの急な質問に俺とノリ先輩はすぐには答えられなかった。
「・・・正直に言うとまだ心の整理が出来ていません」
「俺もっす。あのユウ先輩がって!そのうち宿屋の入口から帰ってくるかもって考えてるっす。笑顔で、ヤベー死ぬ所だったわって言いながら・・・」
「・・・そうですか。今日はもう休みましょう。明日また話し合いをしましょう」
俺達はモイラさんの提案を受けて、それぞれ部屋に戻った。
俺はベットに寝転がって考える。本当にユウ先輩は死んでしまったのか。まだ死体を見た訳では無い。分かっている。希望なんて持たない方がいいって!あの状況から助かるなんて無理だって!けど、ユウ先輩なら!色々な事を考えていたら涙が出てきた。胸が苦しい!あの船でユウ先輩が言っていた言葉。まさか本当になるなんて!
クソッ!必ず還ります!ユウ先輩!




