百十八話
ユウ先輩が争いの気配がすると言ったので、俺とユウ先輩で見に行くと、そこでは盗賊団をたった一人の男が滅ぼしている。その男の周りには死屍累々、多くの死体が転がっていた。あの男、一人で殺ったのか。そう思っていたら男の視線がコチラをとらえた。ヤバイと思った時には男の姿が消えていた。
「えっ!」
次の瞬間、男の拳とユウ先輩の手が俺の目の前にあった。男の放った拳をユウ先輩が受け止めたみたいだ。
男の拳を受け止めたままユウ先輩が男に話しかける。
「おいおい、いきなり攻撃かよ!しかもこの攻撃、一撃で決める気かよ!」
「・・・俺の攻撃を受け止めたか。盗賊にしてはやるな」
「誰が盗賊だ。俺達はただの一般人だよ」
「俺の攻撃をいとも容易く受け止める。そんな一般人などいない。何者だ」
「人の名前を知りたきゃ自分から名乗れよな」
「・・・別に今から死ぬ奴等の名前などどうでもいい。死ね」
男が凄い勢いでユウ先輩に攻撃してくる。しかし、ユウ先輩はその全てを弾いたり避けたりして当たらない。二人共スゲー攻防だな。けど、ユウ先輩は攻撃してないんだよな。
何度かの攻防を繰り返した後、男とユウ先輩は距離を取った。すると男がユウ先輩に話しかける。
「貴様、何故受けるだけで攻撃してこない」
「お前が勘違いしたまま、倒したら悪いだろ。もっかい言うぞ。俺達は盗賊団じゃない」
「ならば何故こんな時間にこんな所にいるのだ」
「俺達は冒険者だ。ザナレッドに向かう為にこの近くで野宿をしていたら、争いの気配がしたから確かめに来たんだよ」
「・・・冒険者か。なら戦う理由は無いか」
男はそう言うと構えを解いた。それを見てユウ先輩が男に話しかける。
「それでアンタは何で盗賊団を壊滅させてんだ?」
「俺はこの近くの村からお願いされたのだ。盗賊団がいて村を襲うからやっつけてくれと」
「なんだ、アンタの村なのか?」
「いや、俺は旅をしていて食料が尽きた時、そこの村人が助けてくれたのだ。食料のお礼に困っている事を聞いたら、盗賊団に襲われていると言うから片付けに来ただけだ」
「ふーん。義理堅いな。とりあえず俺達は帰る。いいよな?」
「勿論だ。盗賊団で無いなら俺は興味無い。それに・・・」
「それに?」
「盗賊団を相手にするより、お前を相手にした方がしんどそうだ」
「しんどいですむかな?アンタ負けるぜ」
「・・・それは楽しみだ。しかし、今はこの盗賊団を壊滅する方が先だ。貴様とは、いずれ決着をつけたいな」
「俺は面倒事は嫌いだ。ダイ、戻るぞ」
「り、了解っす!」
俺とユウ先輩は男から離れて、家に戻ろうとした。その道中で俺はユウ先輩に疑問をぶつけた。
「ユウ先輩、えらくあっさり引き下がったっすね?良かったっすか?」
「あー、別にアイツに怨みはないしな。それに・・・」
「それに?」
「いや、何でもない」
ユウ先輩はそう言いながら道端にある拳大の石を拾った。そしてそれをあらぬ方向に投げた。凄い勢いで!
「ゆ、ユウ先輩?何やってるっすか?」
「んー?何でもねーよ。じゃあ、帰ろうぜ」
ユウ先輩が何事も無かった様に歩き出した。この人、何がしたかったんだろ?
この時の俺は気づいて無かったが、ユウ先輩の投げた石はある男に向かって投げられていた。
その男はユウ先輩が投げた石を何事も無いように受け止めた。
「ほう、俺の位置に気づいていたか。・・・やるな。アイツ!」
男は受け止めた石を握り潰しながら呟いていた。
そんなやりとりがされているとは夢にも思わない俺はゆっくりと皆が待っている家に帰った。
家に着いたらユウ先輩が皆に今回の出来事を話し初めた。
「成程、そんな強い男がいたのですね。名前は分からなかったのですか?」
「あー、名前聞いてなかったな。なんせ、急に攻撃仕掛けてきたからな」
「もしかして・・・」
「何か知ってるっすか?ビーグルさん?」
「ええっと、噂で聞いた程度なのですが、一人旅をしている強い人がいると。しかも武器などを使わない人らしいです」
「ああ、そいつで間違い無い。武器も使ってなかったしな」
「そうですか。では私は街に戻ったら少し情報収集しときます!」
「いいのか?」
「はい!それにダンジョンで岩石大亀を探すのも手伝います!少しでもお礼をしたいので!」
「そりゃあ、いいっすね!レアモンスターは探すまでが大変っすから」
「まあ、それはヒバカリさんを助けてからだな」
「ええ、無事にヒバカリを助けて頂いたら私達も手伝います。ねえ、マンバ」
「勿論だ。俺達はこの旅でアンタ等に助けてもらっている。少しでも恩を返したいからな」
「あれ?そう言えば、ヨルムンガンドのリーダーのモイラさんはどうしたのですか?」
「ああ、アイツはヴィサスブルーで特訓中なんだ。そろそろ合流しても可怪しくないんだがな」
「確かピグミーさんと一緒に特訓しているんですよね?何の特訓かは教えてくれませんでしたけど」
「まあ、帰ってきたら酒でも飲みながら聞けばいいだろ。さて、今日はもう遅い。そろそろ寝ようぜ」
ユウ先輩が話しを終わらせ部屋に向かって歩き出した。俺も休もうとしたらノリ先輩が俺の手を引いて止めてきた。
「えっと、ノリ先輩?俺もそろそろ休みたいっすけど?」
「ダイ、今日あった男の顔を忘れないで下さい。そして、また会うことがあれば私に教えて下さい」
「別にいいっすけど、どうしたっすかノリ先輩?何か、少し怖いっすよ」
「・・・私が集めた情報によると、男の正体が予想出来ます。おそらくですが」
「えっ!じゃあ何でさっき言わなかったっすか?」
「もし、ユウ先輩に教えたら今からでも突撃してしまうかもしれませんからね。いえ、必ず突撃するでしょうから黙っておきました」
「ユウ先輩がそんなに怨んでるっすか?一体誰っすか?」
「・・・私達がこの世界に来る原因となった国、ベアルリングの十ニ守護獣、ハツカの可能性が高いのですよ」
その答えを聞いた瞬間、俺の身体に緊張がはしる。
その状態を確認したノリ先輩は話し続ける。
「あの国が異世界召喚を行ったのは国が滅ぶ危険があったから。その原因はネコショウでしたが、そもそもあの国の十ニ守護獣が国王と争い、あの国を出でしまい、自分達で守れなくなったから異世界召喚を行ったみたいなものですからね」
「つまり、間接的にアイツにも責任があるって事っすか?」
「まあ、そう考えてもおかしくはありません」
「・・・そうっすか。まあ、確かにユウ先輩にはまだ言わない方がいいっすね。俺ですら今から突撃して文句を言いたいっすから」
「正直言うと私もです。ただ、今はヒバカリさんの方を優先したいので我慢しました。ダイ、貴方も我慢して下さいよ」
「・・・了解っす。ただ、次にあったら先ずは名前の確認をしてもしハツカだったら・・・」
「だったらどうします?」
「八つ当たりさせてもらうっすね。まあ、アイツには理不尽でしょうけど、それくらいはさせて欲しいっす」
「ですね。まあ、今日はもう休みましょう。明日の為にね」
そう言ってノリ先輩は部屋に向かった。
俺も今日はもう寝るか。しかし、アイツがハツカか。確かに強かったが、ある意味俺達がこの世界に来る原因になった男。顔は覚えた。次にあったら名前を必ず確認しよう。
とりあえず今はヒバカリさんの救出する事に全力を出そう。
そして還る為のアイテムをゲットして、日本に還るぞ!




