六章3話 リーシア・エスクロ・シルバーブル
三毛猫の掌亭、ここの料理は絶品だな。冒険者協会も無い街で誰が調達しているのか分からないけど、能力値強化の魔物の部位を使った料理も豊富だし、ゴルディリオンに留まっている間にまた来よう。さすが師匠が勧める店なだけある。
「改めて、貴方がゴルディリオンに攫われたリーシア姫?」
食後に注文した飲み物を、これも魔物の能力強化部位で前に俺が狩ったスライムの別種だな。俺が狩ったのは水と変わらない味だったけど、今回注文した物は橙色でみかんとは違う柑橘系の味がする。それをちびちびと飲みながら再開したリーシアとの話に耳だけ傾ける。因みに玲奈は赤色で冬子は黄色だ、そっちも味が気になるな……また来た時に頼もう。
「はい、それは間違い有りません。
それで、貴方たちが異世界人と言うなら教えてください。今のシルバーブルとゴルディリオンはどうなっているのですか?」
この飲み物丁度良い具合に冷えてるな、物を常に冷やしておく冷蔵庫みたいな魔法道具は結構高価で常に魔力を消費するからあまり出回ってないらしいけど、師匠の進める店ともなると用意しているのかな? 魔法のカバンに入れれば持ち運びは可能だから俺も欲しかったけど、値段も効果を維持する魔力も馬鹿にならないから諦めたんだよな……冬子が魔法を覚えてからは必要な時に冷やしてくれていたしな……。
「とりあえず、ブロズ荒野での戦闘は全て終わっているわね。シルバーブルと言うよりも、異世界人の勝利って所かしら?」
ん? 玲奈はこっちの飲み物の味も気になるのか? 一口? まぁいいけど、そっちも一口もらうからな。
「魔王軍が負けたのですか……なら父は……」
「幸いな事にもうこの世に居ねぇな」
おおう、田嶋がいきなり出て来た。いつの間にか空いている席に腰掛けていて田嶋の言葉だけ聞くとおかしな事を言っている。まぁ、豚王が死んでるのは俺たちにとっては幸いな事なんだろうけど、リーシアにとっては自分の父親だ……あれ? でもリーシアはなんかホッとしたような顔しているな……。
「田嶋、急に出てくるなよ……驚くだろうが」
「全然驚いているように見えないんだが?」
そりゃあ、玲奈で慣れてるからな……隠密って能力が有ることは知っているし、田嶋もそれを使えることを知っているから出て来た瞬間は驚いたとしてもすぐに落ち着くだろ? それでも、ナチュラルに隠密使って近付いて来るなとは思うけど……。
「いや~、師匠さんに聞いてここに来たんだがなんかこそこそと面白そうな事話してるじゃないか、俺も混ぜろよ」
別に面白くは無いと思うんだけど……まぁ、勝手に混ざれば良いと思うぞ。俺は傍観してるだけだし。
「てなわけで、本物のリーシア姫さんか。俺はこいつらと同じ異世界人の一人、田嶋颯太だ。俺も話しに混ぜてもらうぞ」
「あ、はい……」
田嶋が突然現れたことで固まっていたリーシアを再起動させる。
「で、なんで姫さんはこんな所で働いているんだ?」
こんな所って、店の人に失礼だろ……言葉のあやだとは思うけど、この国の人たちはおれたち人間に対して印象良くないんだから気をつけた方が良いぞ……。
「私はシルバーブルの城下で魔王軍の人に攫われた後、父がこの国の姫に行った事を聞かされました」
ああ、たしか……手駒を使って攫おうとしたんだったか? 師匠が助けたからその姫には特に被害も無く済んだって言ってたけど……豚王は各国にちょっかいかけすぎだったよな。
「前々から分かっていましたが、父が生きている限りシルバーブルは遠からず滅ぶ事になるでしょう……そこで、私は魔王軍と取引を行いました」
「リリと入れ替わりを許可するから豚を殺してくれって? んな面倒な事しなくてもサクっと殺しちまえば良かったんじゃねぇか?」
「リーシア姫にも立場って言うものがあるんでしょ……」
「それならそうで、こんな場所でウェイトレスなんてやってないで自分で豚殺せば良かったんだ、そうすりゃ俺たちが喚ばれる事も無かったんだろうからな」
「田嶋君、色々聞いてイライラしてるからってリーシア姫に当たらないの」
田嶋が美少女に対して攻撃的だと思ったら八つ当たりか……いや、まぁ、リーシアが選択誤ってるって言うのも有るんだけど……。
「あれでも父ですから……穏便にどうにかしようと動いていたのですが、攫われてしまった後では選択肢が無かったのです……」
選択肢が無かったねぇ……それでも、リリと入れ替わる事で自分に来る悪評を受け入れつつ、最低でも豚王だけは仕留めようって言う事か?
「田嶋、お前が落ち着いて動き回ってくれたから俺たち異世界人の人的被害は無いんだ。面倒な事はあっても結局お前も異世界を楽しんでただろ?」
「まぁ、そうなんだが……俺だって何も無けりゃチートで異世界冒険ヒャッハーって言ってのんきに遊んでたさ。でもな、実際色々有る所に召喚されると面倒すぎるんだよ! 創作物の予備知識有っても予想外な事が起こるからやってられねぇぞ!」
それでよく皆無事に済ませたよな、そこは田嶋の頑張りが有ったのを認めよう……江ノ塚関連でちょっとあれになってる奴が居るのはまぁ無視して良いだろう、自業自得を田嶋にどうにかしてもらうのは無理だろう。
「はぁ、俺だってリーシアに当たっても意味無いことぐらい分かってるんだよ。まぁいいや、で、なんで攫われた体のあんたがウェイトレスなんてやってるんだ?」
「その……暇だったので……」
…………?
「最初は攫われた立場上大人しく部屋に篭っていたんです。魔王軍の方も丁寧に持て成して下さいました。でも、早々になにもしないで良くして貰っているだけと言う状況に耐えられなくなったんです」
いや、姫さんなんだから持て成されてろよ……。
「どうしても落ち着かないので魔王軍の方に相談した所、ここの仕事を紹介して戴きました」
この姫さん仕事中毒か? 姫さんにウェイトレスの仕事を紹介する方もどうかと思うけど、まぁ、他国の姫に城のメイドの仕事とかならともかく内政関係の仕事なんか任せれないか。
攫われたと言っても取引をして話はついているからリーシアが逃げる事も無い、キリヤたちからすれば城の外で働いてもらっていた方が鬱陶しくないって感じか?
「なんと言うか……師匠たちも魔王軍とは思えない温さだよな……」
戦闘が終わってしまった今なら、普通に想像できる魔王軍のイメージなんて師匠たちには全く当てはまらない気がする……。
「いや、俺らが居なかったらゴルディリオンを落せる国ってそう無いぞ、ゴーレム軍団とか異常だし、クロトは異常な強さだし、なんか羽切の剣技を一瞬で真似た女剣士も居たんだよな? リリの変身魔法は諜報にも内部から切り崩すにも便利過ぎるし自由に操れる魔物も大量に居る、他国の簡単に攫える姫程度に余裕の対応なのには別におかしくねぇよ」
「そういうものか? 師匠の様子を見ていると、余裕じゃなくてただ甘いだけに思えるんだけど……」
まぁいいか、師匠の居る国だしな……。
「そう、ですね……この国は甘い、いえ、平和と言った方が良いでしょうか……魔王の力で国内の魔物は人を襲わないようにされているようですし、手を出されない限り他国を攻めようという動きも無い、シルバーブル方面との国交は断絶していますが他の方面の隣国とは良好な関係を保っています」
魔王や師匠たちの人柄が国に現れているか……シルバーブルは城内は豚王の影響を受けた奴も居るみたいだけど、街の方はそうでも無かったよな……攫われる前のリーシアの尽力か。田嶋から聞く限りシルバーブルの城内、宝物庫とかはボロボロだったみたいだからな……。
「まぁ、魔王の国って言っても、今の魔王は異世界人だしな、豚が統治するよりはまともになるだろう」
シルバーブルの姫であるリーシアが目の前に居るんだからあんまりズバズバ言ってやるなよ……。まぁ、リーシアも豚王の支配じゃ国がつぶれるからどうにかしようと魔王軍の提案に乗ったようだから大丈夫だろうけどな。
「でも、父の事は片がついたのですね……では、ここでの生活も終わりですね」
「そうだな、今は今回喚ばれた異世界人の中の1人が王の代理をやってるけど、姫さんが居るならさっさと戻って代わってやってくれ」
江ノ塚を王の代理にして忙しさで白山たちへの殺意を反らすって言うのはどうした? まぁ、そんな意図で江ノ塚を王の代理にしていても長くは持たないか……リーシアが王の代理を代わっても江ノ塚の行動は変わらないのかも知れない、あいつは放っておいてもいつか爆発して暴れるかもな。
「はい、数日中に皆さんと話をしてシルバーブルに帰れるようにします」
へぇ、あっさり帰れるんだな……まぁ、魔王軍と取引したと言っていたから、シルバーブルとゴルディリオンの争いが終われば自由の身で、豚王の居なくなったシルバーブルにリーシアが戻って国を立て直すって形が最初から決まっていたんだろうな……。
その中で犠牲になった兵士や侍従たちのことは……それは俺が気にする事じゃないか。
「どこに居るのか気になっていた姫さんのことはそれで良いだろ、まさか城で居場所を聞いたらここを紹介されるとは思ってなかったけどな」
あれ? 田嶋はここに飯食いに来ただけじゃないのか? それに随分落ち着いているようだし……こいつ、魔王軍との戦いが落ち着いて帰る方法も有るっぽいからって遊んでいるんじゃないか? 城でキレて見せたのもここでリーシアに当たったのも演技っぽいな……意外と冷静か?
「まぁ、高深の作った魔物料理とは違って店の料理も美味かったし、ちょっと気になっていた姫さんの無事も確認できたからもう城に戻るか。あぁ、姫さんシルバーブルに帰るときは教えてくれ、俺たちもどうせ一度は帰らないといけねぇだろうから護衛ぐらい引き受けるぞ」
「田嶋、もういい。お前、なんだか信用できないって目で見られてるから余計な事するんじゃない」
帰路についてはキリヤたちが責任持ってくれるだろう。
リーシアは仕事に戻り俺たちも会計を済ませる。
「まぁいいか、んじゃ、戻って話の続きといくか」
「随分とのんびりしちゃったからね、急いだ方が良いかも知れないわ」
なんか俺にとってはどうでもいい話だったな……玲奈なんか話が退屈過ぎて眠っている。
「起きろ玲奈、戻るぞ……」
…………。
起きない玲奈を抱き上げて店を出る……多分起きているけどこの方が早い。
「玲奈よくやるわね……」
「あれはもう1つの完成形だ、生暖かく見守っていれば良いだろ」
田嶋と冬子が何か言っているけど気にしたらやってられない。
2人の事は気にせずに歩き出たのだけど、周囲に妙な違和感を覚える。
「悲鳴?」
玲奈が目を開き周囲を見回す。やっぱり起きていたか……。
そして、俺の耳にも城の方から複数の悲鳴が聞こえてくる。
「チッ! フラグ回収早過ぎねぇか!?」
田嶋が慌てて城に向かって駆け出し、俺たちも遅れないように続きながら田嶋に問いかける。
「田嶋! なんか心当たり有るのか!?」
「まだ残ってるだろ! 魔王勢力の大本命がよ!」




