六章2話 三毛猫の掌亭
自分たちが召喚された理由の理不尽さ、意味の無さに上がっていたボルテージが突如もたらされた元の世界へ帰る方法で別方向に突き抜ける。
一旦落ち着く為に、と言うか田嶋や相田から発せられる師匠たちに対する敵意を落ち着ける為に少し休憩を挟む事になった。
「城下を見て回るのは構わないが、揉め事は起こすなよ。亡き豚のせいもあって、この国の人間に対する印象は良くないからな」
それでも、話を聞く限り現魔王は実に良くこの国を治めてきたみたいだ。この国の人と接してみるのは相田たちを落ち着かせるには良いかもしれない。少なくとも、田嶋の言ったように国ごと(此処に暮らす亜人たちごと)滅ぼすなんて考えは無くなるだろう、それをやってしまうと俺たちが突然の召喚でやられた事(理不尽)と一緒になってしまうからな。まぁ、やられたからやり返せって案も有るとは思うけど……。
ともかく、相変わらず離れようとしない玲奈を左腕にぶら下げてゴルディリオンの街の探索に出かける。
「冒険者協会は……無いか……」
魔王の国という性質上他の国との連携を取る必要のある冒険者協会は無いと思って良いのだろうか? 何の神様を信仰しているのか知らないけど教会っぽい建物は有るんだよな……。
「どうやら冒険者協会は無いようね、この国で冒険者のような仕事を請け負っているのは旅人かなんでも屋って呼ばれる人たちみたいね」
俺と玲奈だけだと心配だと思われたのか、一緒について来ていた冬子が周囲の精霊に話を聞いて情報を集める。便利だなおい、玲奈も伝書犬が居るし俺にもなんか無いのか? 無いよな、分かっているよ……。初期値クラス内最低の俺にそんな都合の良いものが有るとは思えないか。能力値的には追いついた筈なんだけどな……世知辛い。
「冬子、剣を扱っている店はないか?」
予備の物は大量に有るんだけど、師匠との戦闘で壊れた愛用の剣の代わりが欲しい。物としては星月の作った剣は質が良いんだけど俺の手に馴染まない。もともと俺用に作っていないから仕方ないんだけど……普通1つぐらい合うのがあってもいいんじゃないだろうか? 星月があれなのか俺の運が無いだけなのか分からないけど……まぁ、今のこの状況では星月とかに作ってもらう事もできないし、最初から手に馴染む物を自分で探すほうがいいな。冒険者協会があれば溜まった討伐報酬なんかで購入資金を増やせたんだけど……無いものは仕方ないか。
で、俺の運が無いのか何か変な力でも働いているのか、冬子に調べて貰って向った武器屋は定休日だったり俺に合う物でも星月の適当に作った物を使っている方がマシな品質の物だったりと不発だった。仕方なく鍛冶屋にも行ったけど鍛冶職人って言うのは頑固って言うか融通が利かない奴が多いのだろうか? 俺に剣を売ってくれる奴が居ない、エバーラルドではレーヴェン商会の奥さんの紹介が有っても速攻で追い返されたしな……話しすら聞いてくれない奴ばかりだ。
「この国の人が人間に良い印象を持っていないのも影響しているのか? 仕方ない、暫くは予備の物で何とかするか……」
師匠たち曰くだけど、元の世界に帰る方法も見つかったんだからもう必要ないのかもな。
「適当に何か食って戻るか……」
「うん」
「蒼也君の奢りよね?」
ん~まぁ良いけど……。
で、ここが師匠が飯食うなら行ってみろって言っていた店か……。
「みけねこの……しょう、てい?」
冬子が掲げられた看板の店名を読み上げる、俺は相変わらずこの世界の文字は読めないが……それは元の世界に帰れる方法が見つかった今ならもう急いで憶える必要も無いことだな。
みけねこのしょうてい、掌底? 肉球パンチか? 飲食店につける名前としてはどうなんだ?
「もしかして手の平で掌? 三毛猫の掌亭?」
冬子が何やらブツブツ考え出したけど、店の名前の意味なんて考えても俺たちの役に立つとは思えないから気にしなくて良いだろう。それにこの世界とは違う漢字で考えても……って、今の魔王が異世界人だったな、多少この街に異世界の要素が混じっていても不思議じゃないな。
「いらっしゃいませ~」
店名の事は置いておいて、店に入った俺たちを黒髪で猫耳尻尾の猫系の亜人が出迎える。ここのウェイトレスのようだけどかなりの美少女だと思う。師匠がここを薦めた理由ってかわいいウェイトレスが居るからとか言う馬鹿な理由じゃないよな?
師匠、俺がそんなことで喜んでたら玲奈に何されるか分からないぞ……。まぁ、これだけ分かり易いんだから師匠が察してない訳無いだろう、普通に食事の美味い店を紹介したんだろうな。
厨房から顔を覗かせた店主らしき男とその店主から料理を受け取り給仕する女性も猫系の亜人だ、店の名前はそこからきているんだろう。
でも店員が全員猫系亜人というわけではないようで、金の長髪をポニーテールに束ねた人間の少女も忙しなく働いている。彼女も普通に美少女だし他の猫系亜人の給仕さんたちも可愛いや綺麗と言った類に入ってくる者ばかりだ……この店美少女美女率高いな。
師匠、本当に下世話な理由でこの店紹介したんじゃないですよね?
多少師匠への疑いを持ちながら席に座り軽い食事を注文する。まぁ、俺はメニューが読めないから玲奈に任せたけど……俺、玲奈たちが合流するまでよくこの世界でやって来れたな。今更ながら、文字が読めないってかなり不便に感じるんだけど……。
「グリーンサラダとシルカドレッシング、サンドワームの冷製スープ、コングラビのももから揚げのセットお待たせしました」
たいして待たされもせずに注文した品が届く、驚いた事にサラダ以外の2品は能力値を上げる効果のある魔物の部位を適切に調理したものだった。
いや、そんな事よりも!
「お前、何やってるんだ?」
注文した品を運んで来た金髪のウェイトレス、さっきは遠目だったし髪型がポニーテールになっているからか気が付かなかったけど……こいつリリじゃないか。最近ずっと変身魔法なんて使わないで田嶋にくっついてたけど……。
「え……なんでしょう?」
あれ? なんか警戒心を孕んだ怯えた目で見られてるんだけど……まるで強引なナンパにでも合った様な……。
「蒼也、浮気は駄目」
浮気じゃないから! それに玲奈とはまだそんな関係じゃないからな!
「いや、それよりこいつリリじゃないのか?」
「あら、本当ね、髪形は違うけどリリの変身魔法で化けていた姿にそっくり」
そうだろ!? リリがどうしてまた変身魔法を使っているのか……
「普通に考えたら変身魔法で化けていた元の人、リーシア?」
あ……そうだった。玲奈の言う通りリリが変身魔法で化けていたのはシルバーブルのリーシア姫だった。おまけにそのリーシア姫本人は攫われてゴルディリオンに居るんだったな……まさか違和感無くウェイトレスとして働いてるとは思わなかったけど……。
「!! どうしてその名を!?」
あぁ、こっちにリーシアがシルバーブルの姫だと気が付く奴はいないだろうけど、一応偽名を使ってるんだろうな。そして、本名を出した俺たちは凄く警戒されている。ナンパかと勘違いされていた時以上だ。
「シア? どうかしたの?」
ちょっと騒ぎになってきた為だろうか、黒髪の猫亜人ウェイトレスがフォーローにやって来てしまった。
「いえ……その……」
「騒がせてしまったようね、暫く合っていなかった知り合いにこんな所で出会えるとは思っていなかったものだから、失礼したわ」
俺たちのこともよく分かっていない状況では説明なんてしできないだろうと冬子が適当に言訳すると、リーシアもこの場は話を合わせてくれた。リーシアがどういった経緯でここで働いているのかは分からないけど店の人を心配させたり迷惑をかけたりはしたくないようだな。
「あら、そうなの? だったらシアは先に休憩に入っても構わないわよ」
あっさりとこちらの言い訳を信じて気をきかせてくれる。
「すみません、それではお言葉に甘えます」
リーシアとしては俺たちを放置しておく事もできないようで、黒猫ウェイトレスの言葉を受け入れて俺たちと話すことにしたようだ。変に騒ぐよりまずは話してみた方が良いって考えたか……。
とりあえず、会話が周囲に聞かれないような店の奥の方の席に移動する事になった。
「まずは、あなたはリーシア姫で間違いないのよね?」
相変わらずと言うか俺に成長が無いためか、ほぼ確信してリーシアだろう娘との会話は冬子が口火を切る。
「そう言う貴方たちは何者ですか?」
警戒されているからか冬子の質問に対する答えは無いけど、最初の時点で誤魔化さなかったのだから答えなくても変わらない。
「私たちはシルバーブルの勇者召喚で呼び出された異世界人よ」
おいおい、そんなにあっさり言っても良いのか? 別にいいな……何かあっても今なら大抵の事は力でねじ伏せらることができる。
「異世界人……その異世界人がここに居るという事は、戦争は終わったのですか?」
「蒼也君、あれは終わったって言って良いの?」
「終わっただろ、ゴルディリオンの主力は片付いたし問題の魔王は死にかけで今は戦後会談って状況だろ?」
俺としては師匠一人で異世界人皆相手にできる気がするんだけど……まぁ、そこはおいておこう。
「そんな事よりも先に、飯食って良いか?」
席を移動するのにも時間を使ったからリーシアが運んで来た食事はもう若干冷めかかっている。
「あ、すみません、どうぞお召し上がり下さい」
それじゃあ、いただきます……。冷め始めても十分に美味しい料理を堪能する。この世界に来てからは、大抵自分で用意した適当な料理ばかり食べているからこういった機会にはきっちりと味わっておかないとな。
「はぁ、結構重要な話が始まりそうな流れだったのよ……」
うん、そっちは冬子に任せた。料理(を味わうの)は俺に任せろ!
「締まらないわね……」
冬子の口からは再度溜息が漏れた。
まぁ、頑張れ。




