六章1話 封印の魔王
俺たちは案内されたゴルディリオンの城の落ち着いた雰囲気の大部屋でリリが用意した茶を振舞われていた。
「変なもの入れてないだろうな?」
「ソウタ様になら入れて欲しい!」
相変わらずなリリは置いておき、魔王軍側の話が始まる……この状況って、俺たちがシルバーブルに戻って来た時の話し合いに似ているな、だったら俺はまたここから離れても……。
「今回は駄目だからな」
田嶋に先手を打たれた。なんで俺の考えていることを読む、俺そんなに分かりやすいか? まぁ、この場に居ろと言うなら居るけど……俺は本当に聞いているだけだぞ。と言うか、飯本たちが暴走気味に相田に話しかけたり出された茶請けを食べさせようとしたりしているけど、相田はあれで話が聞けるのか?
「お前も人のこと言えねぇよ……」
田嶋が、俺の隣にぴったりと椅子を寄せて俺の方に身を預ける様にしている玲奈を見て言う。
だからなんで俺の考えている事が分かるんだよ……。
「視線と表情」
そうか……まぁいいや。
「え~、そろそろ良いか?」
あ~どうぞどうぞ、馬鹿共の事は放って置いて進めちゃってくださいな。
「もうどうせ読まれるって思って話す気も無くしたか、それと、馬鹿共に俺は含んでないよな?」
五月蝿い馬鹿、話が進まないだろうが、ちょっとは黙ってろ、俺のように……。
「…………」
馬鹿が黙ったので話を進めてもらおうか……。
「それでは、まず何から話すかな……」
キリヤが俺の考えを読んだ訳ではないだろうけど、ようやく話し始める。
「とりあえずこれで終戦って事で進めても良いんだよな?」
やはりと言うか、話し合いになると俺の出番は無い、相田たち、というか藤田と田中以外の取り巻き連中は話を聞いているようで聞いていないし、今居るメンバーだと田嶋や冬子が話を進めるのが確実か? 冬子の方はまだ魔力が回復しきっていないのか、少し顔色が悪い。ここは田嶋に任せるに限る。
「そうだな、僕たちが負けたんだから仕方ない……」
一応の勝ちは拾えたんだろうが、俺としては師匠に負けているようなものだからなんとも言えないんだよな……それに、魔王が出て来ていない事が不安なんだけど……。
「なら良いが、魔王が出て来ねぇのはどういうことだ?」
お、召喚された時と変わらず田嶋が俺の聞きたいことを聞いてくれるな。なんか、田嶋が自分で聞けって顔でこっちを見てるけど……俺が聞かなくてもお前が聞くだろう?
「爺さんなら寝てるんじゃないか?」
「はい、最近一度目が覚めて居られたらしいので、魔王様が次に目覚めるには前よりも時間がかかる筈です」
「爺さんは隠居してる身だからなぁ」
魔王って師匠の爺さんなのか……師匠が魔王の系譜だとか言ってたとは思うけど、そんなに近かったのか……。なら弟って言ってたエルフの方も……ん? 魔王とドラゴンの血筋の師匠とエルフの弟? なんかおかしくないか? 師匠と弟のエルフは兄弟じゃなくって親戚ってとこか?
「まぁ、魔王様は自らの能力で使い捨て可能な影の魔物を量産してくれてるんだけどな」
「いや、あれは使われてない魔王の魔力が勝手に溢れ出して爺さんの能力に合わせて魔物の形を取っているだけだ。個々に意思は持っていないが、魔王に血を引いている俺たちの命令は聞くから、本当に使い潰せる駒だな」
戦争の始まりも豚王のちょっかいだし、それに対して報復を始めたのは師匠たち……結局魔王は寝ていてその判断には関わっておらず、何もしていないと言う事か。まぁ、どうでも良いんだけど……。
「戦場に出ていた魔物はみんなその影の魔物って奴か、ってことは魔王軍に被害らしい被害って無いに等しいんじゃないか?」
「消えたのは失っても構わない影の魔物の戦力だけだな、そうでもなければあんな闘い方はしない」
まぁ、こっちが攻勢に出るまで、と言うか攻勢に出ても最後のゴーレム軍以外は全く攻勢に出ないなんてやり方普通やらないよな。俺は居なかったから知らないけど、今回以前に一度クロトとやりあった時にいた魔物は影の魔物じゃなかったらしい。相田が聖剣本体を手にしておらず、田嶋や江ノ塚も戦場に居ない状態でクロトに暴れられたら、本来ならそこで終わっていたんだろうな……。
「こっちが遊ばれていたに等しいのは分かった……」
田嶋が苦々しく言うけど、それで結局負けているんだからなんとも言えないな。
「でもなんでそんな方法で戦っていたのかって事が疑問なんだよなぁ、そこん所どうなんだ?」
まぁ、そうだな……豚王への報復ならさっさとシルバーブルを滅ぼすだけの力が魔王側には有る、態々リリに変身魔法を使わせ潜入させて異世界人―勇者―を呼ぶ必要なんて無い。
「生粋の異世界人が必要だったんだ」
とだけ言われても何がなんだか……もうちょっと詳しく話せよ。
「今の魔王様はもう五百年程生きているんだが、眠っている時間が長くなっている事から想像できる通りもう限界が近い」
寿命……。魔王とか言っても寿命には勝てないってことか……。
「まぁそれで、次の魔王は適正的に俺って事になるんだが、俺よりも異世界人の方が魔王としての適正が高い」
師匠が次期魔王……俺って旅に出て速攻でとんでもない人と出会っていたんだな。
「いや、他人の異世界人の方が魔王として向いてるとか意味分かんねぇ、お前らの言う魔王って何だよ?」
「僕らにとって魔王とは楔、死して尚強大な力を振るい続けた初代の魔王を封印する者の事だ」
魔王と言っても、この国を治めている訳じゃないって事か。場所によっては封印の巫女とか呼ばれていても不思議じゃない立ち位置かな?
「おいおい、初代の魔王ってのの封印に異世界人の方が適正が高いって、もしかしなくても初代の魔王って異世界人か!?」
「よく分かるな……そうだ。初代の魔王は異世界人で、殺した者の能力を奪い取る力を持っていたと伝わっている」
「げ、強奪能力持ちかよ、そりゃ魔王とも呼ばれるようになるはずだ」
要は過去の異世界人がなんかやらかしたって事だな?
「まさかとは思うが、今初代を封印している魔王がその強奪能力を使えたりしないだろうな?」
「それは無い、魔王様は封印の楔で初代の能力を封印する者であってその力を操れる訳じゃない。今の魔王様は適正が最高だから魔力や生命力なんかは初代の影響を受けて跳ね上がっているけど」
「チッ、その現魔王も異世界人かよ、適正が最高って事はそういう事だよな?」
「ああ、その通りだ」
異世界人多いな、セントコーラルの聖女の婆さんも異世界人だし……結構な頻度で事故や召喚されたりでこの世界に来ているのか?
「よく有る話でなんだが、自分が遭遇すると厄介だな」
田嶋でも面倒な案件か? テンプレ乙とか言って対策案を出したらどうだ?
「俺が思いつく対策は俺らの世界の創作もんから引っ張って来た方法だ、その初代の力も強奪って以外分かってねぇ状態でぴったし当て嵌る対策なんてそう都合良く出て来るかよ」
まぁそうか、でも封印が機能していれば問題無いんだろ?
「お前完全に話す気無くなってるな?」
「そんな事は無い……」
「まぁいいか。で、イケ眼鏡も言ってただろ、今の魔王は寿命が近いって、これ確実に封印が解けて初代が暴れるフラグだぞ」
うわ……要らない所はフラグとか言って確信持っているのかよ。
「封印が解ける前に適正の高い異世界人を確保したかったんだけどな……」
「まぁ心配するな、異世界人が居なくても適正的には半分以下だが俺が居る」
「師匠さんのそれもフラグだ……」
田嶋、全部創作やらに当て嵌めていたら限が無いから大丈夫な方向で考えないか?
「しかし兄さんの適性で封印になると生命力が削られる。僕も一応適正持ちではあるが論外な適正値だ」
「ドラゴンの血を舐めるなよ、多少削られても人と変わらない寿命ぐらいは持つ」
「計算的にはそうなんだけどね……」
師匠たちじゃ封印としての適正が落ちるから異世界人を召喚させたてことで良いのか?
「それならさっさと豚王始末して俺らに頼めば早かったんじゃないのか? 誰か一人ぐらいこの世界に残って封印になって良いって奴が居るんじゃないか」
江ノ塚とかな、あいつなら元の世界に帰るよりこの世界の方が過ごし易いんじゃないか?
「異世界人なら誰でも良い訳じゃない、封印になる者の魂は純粋であってはならない、穢れを知らない魂は容易に魔王の力に取り込まれてしまう、せめて同族殺しぐらいはやってもらわないと」
同族殺し、俺たちの場合はクラスメイトを殺すって事か……江ノ塚なら可能性が有るな、口には出さないけど……。
「ああ~、それで魅了魔法やこの国では存在も禁止されている隷属の首輪まで使う指示を出したんですね~」
実行犯が計画をちゃんと理解してないのはどうなんだ?
「異世界人に魅了魔法や隷属の首輪が効かないとは思わなかった」
「魅了魔法は知らないが、隷属の首輪なんて過去の異世界人の作った物なんだろ? 自分に使われないようにするのは当たり前じゃないか?」
「まぁ、そう言う事だろうね、それでもあれだけ人数が居れば勝手に争う奴も居ると思ったんだけど……誰かが上手く異世界人同士で争わないように立ち回っていたらしくてね」
そう言ってキリヤが田嶋の方を意味有り気に見る。まぁその立ち回っていたのは確実に田嶋だろうからな。
「纏めると?」
「異世界人としての血が濃ければ濃いほど魔王の封印としての適正が高い、一つ前の魔王様は異世界人の血が薄く初代の意思が暴走しかけていたが、現魔王様が生粋の異世界人で同族(異世界人)の魂を5つ(殺して)取り込んでいるため、魔王の力を完全に制御し強大な魔力と生命力を得て長い時を生きて来たが、それももう限界が近い」
「それで俺たちの誰かに仲間を数人殺して封印になってくれと?」
そんな事嬉々としてできるのは江ノ塚ぐらいか? そして殺られるのは白山たちだろうな。
「いや、もう少しでその必要も無くなる、元々は俺が次の魔王だしな」
「異世界人の召喚は唯の保険だから」
おいおい、確実に初代の魔王を封印する為に俺たちが喚ばれたとかなら分かるけど……まぁ、納得はしないけど、ただの保険とか言われたら、ふざけんなとしか言えない。
「兄さんに異世界人の誰かを娶らせて兄さんの次の魔王の確保も視野には入れていたけど」
「それ、俺は聞いてないぞ」
「言ってないから」
師匠たち、身内で揉めそうになってる場合じゃないぞ……。
「だったら俺たちを呼ぶ必要なかったんじゃないのか!」
取り巻き共に絡まれて大人しかった相田が声を荒げる。
「落ち着け相田。だが、俺も同意見だ。唯の保険で日常を奪われた俺たちは、この国を魔王ごと滅ぼしても文句は言われないよな?」
田嶋も静かにキレているな……。
「俺は勇者ごっこは止めておけと言ったぞ……」
師匠、油注がないで下さい! そしてそれって何時のことですか? 召喚した事とも関係無いですよね?
「君たちが欲する元の世界への帰還方法なんだが、この国にはそれが有る。初代の魔王を滅ぼしてくれるならこっちとしては有り難いが、その帰還方法ごとこの国を滅ぼす気か?」
今、なんて言った? 元の世界へ帰る方法がこの国には有る……そう言ったのか?
「生粋の異世界人だった現魔王様が五百年間この国を発展させてきただけだとでも思ったか?」
俺たちの探していた元の世界へ帰る方法がこの国に有る、魔王を倒せば元の世界へ帰る方法が分かるという豚王の虚言が現実に近いものになった。
これがキリヤのブラフでなければ……だけどな。




