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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
六章 異世界人・魔王
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六章4話 影の魔物

「玲奈、自分で走れるな……」

「うん」


 状況が状況だから、あっさりと俺から離れて自分の足で駆け出す玲奈と共に先行する田嶋を追い駆ける。


「ちょっと! なんなの!?」


 やや遅れて付いて来る冬子は何故俺たちが突然走り出したのか分かっていないみたいだ。城のほうから聞こえる悲鳴や叫び声が冬子には聞こえていないのか? 田嶋や玲奈は称号的に聞き耳とかは得意そうだ……俺が聞こえるのは竜化の影響だろうな……。周囲の人たちも犬っぽい獣系の亜人とかはこの悲鳴が聞こえているようで、周囲に呼びかけて警戒したり、俺たちのように城の方向の様子を探りに行ったりしている者が居る。


「よく分からないけど城の方で騒ぎが起こってるみたいだ!」


 田嶋は焦ったように俺たちを置き去りにする勢いで駆けて行く。田嶋の心当たり、魔王勢力の大本命って言ってたけど……何の事だ?

 さっきの話し合いでも適当に話を聞いていた俺が考えた所で答えは出てこないか……とりあえず遅れない様に付いて行こう。


 城が見えたな、ここまで来るともう誰にでも異変に気がつける。城の到る所から聞こえてくる戦闘音、そして今まさに、城の入り口から大量の魔物が溢れ出して来た。


「田嶋が斬りに行った! 殺って良いのか!?」


 せめて何か説明しろ……まぁ、気にせず殺るんだけど! 俺もポーチから適当に剣を取り出して田嶋に続く。


「この全体的に黒い奴等、魔王軍のやつじゃないのか?」

「その筈よ、影の魔物と呼ばれている魔王から漏れ出した魔力によって生み出された魔物よ」


 その影の魔物が暴走しているのか? それとも誰かの指示で暴れ出した? 分からない、何か分かってる田嶋は城から出てくる魔物を次々に斬り裂いて街に向かわないようにするのに精一杯で説明を求めても答えられそうにない。兎に角、魔物たちを放って置いたら拙いのは分かるから、街に魔物たちを出さないようにしてから聞けば良いか……。次々に出てくる魔物を斬り伏せながら魔物の出て来る量と俺たちの殲滅速度が釣り合うのかを考える。


「くそ! 限がねぇ!」


 俺たち4人で魔物が街へ出て行くのは防げているけどそれだけで手が一杯だ。でも、城の方から魔物に加えて亜人の兵士たちも出てきて魔物を攻撃し始める。

 どうやら、魔王軍の方もこの魔物たちの暴走は止めるべき物のようだな、自分たちの陣に誘いこんだ俺たちを亡き者にする作戦という訳ではないようだ。

 異変に気が付き様子を伺いに来ていた街の人たち、主に亜人だが……その中でも戦える人たちが、俺たちに加勢すれば良いのか魔物を助ければ良いのか悩んで様子見をしていた人たちが城の兵士たちが魔物を攻撃し始めたのを見て俺たちに加勢してくれる。

 魔物の出て来る数は変わらないけど、加勢してくれる街人はどんどん増えて行く……この街の人たち、羨ましくなるぐらい緊急時の意思が統一されている。中には人間……俺たちに良い印象を持っていない者も多いのだろうけど……最初の状況をみただけで魔物に加勢したりせず状況を見極めて冷静に動ける……少なくても今ここに集まっている人たちは人間が憎いっていうだけで状況判断を誤るような事はしないようだ。

 これが、現魔王の統治の結果というやつだろう、豚王とは雲泥の差だな。まぁ、シルバーブルの方もリーシアが手を回していたみたいだからそこまで酷い事にはならないと思うけど……。


「これなら俺らが抜けても街は大丈夫そうだな!」

「ああ、けど状況を説明してくれ……田嶋は何か把握しているのか?」


 街の人たちに被害を出さないとか、城の中に居る師匠たちの安否の確認という目的が無かったら俺はこんな大量の魔物は相手にせず逃げていたぞ。


「予想でしかないが、魔王が動き出した」


 今の魔王って寝たきりなんじゃないのか? いや、ベッドの上からでも魔物を操るぐらいは出来るのか……今相手にして居る魔物は魔王の魔力から作られたモノなんだから操るぐらい簡単か?


「俺のはあくまで予想だ、合ってるかどうかはわからねぇんだからな! この場は他の奴等に任せてキリヤたちに状況を聞きに……」


 その時、魔王城の一部が吹き飛んだ。魔王城の端に位置して、一際高くなっている場所の天辺付近が内側から弾け飛んでいる……いや、あれは……ドラゴンか?

 チンピラドラゴンが人の姿に変わったりドラゴンの姿になったりしているのを見ているから予想できたけど……そこには、ドラゴンの姿に戻る事で城の一部を内側から破壊した黒いドラゴンが、師匠のブレスソードとよく似たブレスを放っていた。


「ブレスの先……人か?」


 竜化の影響で強化されている視力が、黒いドラゴンの放つブレスの先に魔法陣による障壁を展開した人が居るのを捕らえる……。

 障壁を張る人物はブレスを防でいるが、そのブレスの威力で吹飛ばされて行く。

 50メートルぐらいか? 防がれている事を分かった上で放たれていたブレスが急に途絶える。

 ドラゴンの方を見ると翼を広げたドラゴンが展開され黒い魔法陣を潜り抜ける所だった。

 色や形はチンピラドラゴンが使った物とは違うけど、あれも飛行補助の竜魔法か……魔法陣を潜り抜けたドラゴンは銃弾が射出されるように勢いよく飛び立ち、吹飛ばした人物に迫る。中空で自由の利かないその人物を飛び立った勢いのままで顎に咥えブロズ荒野の方へと飛び去って行った。


「おいおい、どうなってる? ドラゴンだ? 魔王じゃないのか?」


 黒いドラゴン……ブラックドラゴンと言えば……。


「師匠?」


 あのドラゴンが師匠じゃないかと少し考えた所で、ドラゴンが飛び立った事で更に崩れる魔王城から師匠が飛び降りて来た。俺も人のことは言えないけど、さすがの丈夫さだ。


「俺じゃねぇよ、あれは俺の婆さんだ」


 そして師匠に続くように青白い階段が崩れる魔王城から伸びて来る、そこから相田たちとキリヤ、リリが急いで下りて来る。

 あの階段、飯本の結界か?形が自由に変えられるならああいう使い方も出来るのか……。


「師匠、今いったいどうなってるんですか?」

「ちょっと持ってくれ……」


 そう言って師匠は魔物たちと戦っている周囲の兵士や街の人に呼びかける。師匠たちが指揮する訳じゃなく、彼らにこの場を任せるようだ。


「で、何が起こってるかだったな、簡単に言えば初代の封印が解けた。婆さんが場所を移して押さえつけてるから今の内に何とかしないといけないんだが……あの状況じゃ次代に封印を引き継ぐって方法が使えねぇんだよな」


 封印が解けてるからな……そうなると封印の解けた初代の魔王をどうにかしないといけないのか?


「チッ、大方予想と違ってねぇな……師匠さん何とかできるのか?」

「今ならまだ、魔王の身体が枷になって初代本来の力は使えないが、変わりにこの状況だ」

「楔の魔王の本来持っている力を使っているって訳かよ」


 初代の力が殺した者の力を奪うだったか? 今の封印の魔王の力が魔物を操る?


「まぁ、魔王から離れれば規模も小さくなるだろう、その為に婆さんが魔王を連れて行ったんだが……」


 だったら今、ブロズ荒野は酷い事になってそうだな……。


「急がないとやばいな」

「田嶋君! 高深君!」


 相田が手近な魔物を聖剣で斬り払いながら近付いて来た。因みに俺たちも会話しながら近付いて来る魔物を倒している。まぁ、殆んどは兵士たちが相手にして居るんだけどな。


「相田の聖剣で何とかならないのか?」


 仮にもって、仮じゃないか……聖剣だろ? 魔王ぐらいちゃちゃっと殺れないのか?

 無事に合流した相田たち。そして、キリヤが俺の質問に答えを出す。


「無理だ、いや、彼1人じゃ無理だ……。初代の魔王は当時の英雄たちによって一度倒されているんだが、倒すのにすら当時の英雄数人がかりだ。そのうえ、倒した初代魔王は魂だけになっても暴れ続けた……その魂を封印するのにも聖剣使いが何人も必要だったって話だ。今の封印の魔王の肉体に縛られた状態なら、倒すのに足りない英雄の分は異世界人の力が有れば何とかなるだろう、だが……初代の魂を傷つける方法が無いんじゃ肉体を滅ぼしても意味がない。兄さん、こういう事態を想定して用意していた切り札もまだ完全に完成していないんだよな? 異世界人、お前たちに何か良い手は無いか?」

「俺の聖剣の記憶にもその初代魔王のことは無いよ……」


 聖剣の力を完全解放しても相田は相田か……もっと勇者してくれても一向に構わないんだけどな。


「キリヤ、師匠さん、もっと詳しく初代の事を聞かせてくれ」


 田嶋なら何か思いつくか?


「キリヤ、そっちは頼む。俺は何とかして魔剣の方を完成させる……で、聖剣使いは婆さんの方を頼めないか? あっちもそう長くは持たないだろうからな。でも、対抗策が無い以上封印の魔王の肉体の枷を残したまま戦って欲しい、要は時間稼ぎになるんだが……」

「わかり……ました」


 相田も師匠たちと一緒の所から出て来たって事は初代と対峙していたのか? 何か思う所があるのか文句も言わずに街の外に向けて駆け出した。

 俺も、時間稼ぎぐらいなら出来るか……いざって言う時にダメージを受けるのは俺の方が都合が良いだろうしな……。ちょっと出遅れてるけど今なら追いつけるか?


「ソウヤは俺を手伝ってくれ……」


 師匠? 魔剣を完成させるって言ってたけど俺に鍛治能力なんて無いですよ。


「いいから付いて来い」


 何か考えがあるんだろうか? 師匠の方にも手が必要だというなら……まぁ、俺が手伝うか。


「じゃあ、玲奈は……」

「一緒に行く」


 まぁ、そうだよな。それじゃ……。


「冬子は田嶋のフォローを頼む、おかしな事しそうになったら引っ叩いてくれ」

「任されたわ、そっちも、何するか分からないけどしっかりやってよね」


 俺と玲奈は師匠について街の外へ向かっていく、そんな俺たちの背後から……。


「マジか! それ、師匠さんの魔剣が完成すれば良いだけじゃねぇか!」


 田嶋の叫び声が聞こえて来た。どうやら師匠が完成させようとしている手は田嶋からしても初代魔王に対して決定打となる物のようだ……これは、俺も気合を入れてかからないといけないかな……。


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