五章25話 対ゴーレム(田嶋颯太)
まずった!
見た目が抜けて来た群れのゴーレムとは違うから、ちょっと強力な個体なんだろうなって位に考えていたが、イケ眼鏡が展開する魔法陣を守っていたゴーレムは俺の想像以上の強さだった。というかゴーレムって奴は俺と相性が悪すぎる!
そもそもここに来る前のゴーレム共も隠密でスルーして来たからな! そいつらと戦ってないんだから通常個体よりちょっと位強くても倒せるだろうなんて考えるんじゃなかった!
「GOOOOOO!」
ああぁ! クソ! 動きはそれ程速くないから攻撃は余裕で避けられるんだがこっちの攻撃が全く通らねぇ! 弱点看破の能力で急所は分かってるのに装甲が固すぎる!
イケ眼鏡の奴はゴーレムと戦闘を始める前に地面に埋めといたから邪魔にはならないが、これはキツイ、新見から貰った者で使える物でも有ったかな?
物質系の魔物には俺の作ったのも含めて毒薬類はまず効かないって考えた方が良いだろ、真っ先に験した魔法爆弾も何故か全然効いていなかった。ここのゴーレム共は魔法の効かない個体なんだろうか? 魔法を習得していない俺の魔法攻撃手段があっさりと無効化されるとか、これどうすんだよ!?
「GOOOOOO!」
「GOOOOOO!」
「GOOOOOO?」
だぁ! うるせぇ! 何匹リンクしてんだよ! 攻撃したのは一匹なのに他の奴まで反応しやがった。まぁ、ゲームじゃないんだから仲間が攻撃されれば敵皆で迎撃しに来るか、イケ眼鏡が危なくても助けに来ないで周囲の警戒してるだけだったから1匹ずつ倒して行けるって勘違いしてたぞ、クソ!
ゴーレムたちの動きはおそいものの、絶え間無く攻撃してくる為段々と追い込まれていってしまう。
「ああ! くっそうぜぇ!」
ゴーレムにダメージは無いが、煙幕代わりに魔法爆弾を足元に落として起動させ、一旦ゴーレムとの距離を置く。
イケ眼鏡とは随分離れてしまったけど、濃縮した麻痺薬がまだ効いている、濃縮版の麻痺薬でも効果がいつまで続くか分からないんだよなぁ、効果が切れてイケ眼鏡がゴーレム共に命令しちまう前に終わらせないと、また面倒になるな。
あ、そうだ猿轡かなんかで口塞いでおけばよかったんだ、なんで思いつかなかったんだ!? ゴーレムどもの攻撃を避けるのでいっぱいいっぱいだから今更なんだが、動きの方は麻痺させてる以外に簀巻きにしてるから大丈夫だろうけど、やっぱり失敗したな。
「GOGOGO~」
あ、なんかゴーレムの中の一匹が怪しい動きをし始めた。でも他のゴーレム共が邪魔でそいつを止めに行けない。
おいおい、あれって魔法か? ゴーレムの前に紫色の魔法陣が浮かんでいる、美波が見せてくれた魔法と同じようにだ、これはホント不味いな。
星月に高深用の魔法防御手段は用意してもらっておきながら自分の方の手段が無いとか、笑えねぇ!
「でも、魔法は魔法陣が基点! なら!」
ゴーレムの攻撃を避けながら魔法の発動タイミングを計る。そんで、発動の瞬間を狙って魔法爆弾をぶっ込む!
「GOUUUU!」
よし! 魔法と爆弾の衝撃でゴーレム共が吹っ飛んで行った。魔法によるダメージは入ってないみたいだけど吹っ飛んで行って地面に打ち付けられた衝撃で両足が飛んだ奴が居る。あれならもうこっちには来れないだろう。
俺の周囲の奴や衝撃の弱かった奴はぜんぜん無事だが、とりあえずは何とか一匹殺れたな。
それでも、イケ眼鏡の魔法陣を守っていたゴーレムは10以上居るから敵は多いんだが、倒す手段がなぁ……。
一定以上の衝撃で殺せるのは分かったんだが俺にはそこまで強力な攻撃手段が無い、俺の最大火力は急所を突くことによる能力補正の一撃必殺、それもゴーレムの装甲が抜けず急所に攻撃が届かないから使い様が無い。魔法爆弾もゴーレムの魔法と合わさって何とかダメージを与えられる衝撃が生み出せる程度。これは俺がリミット解除したぐらいじゃ対処できないんじゃないか?
リミット解除した状態なら攻撃が通るかも知れないけどまだ反動を克服できていないから使うのは躊躇われる。
結局打開策が無いとジリ貧だ、イケ眼鏡の麻痺が治る前に何とかしねぇと……何か無いか?
さっきの魔法と爆発の合わさった衝撃を警戒したのか、ゴーレム共は魔法を使って来ない。学習しやがったか、魔法で作られただけの魔物が随分頭良いんだな、くそが。
ん? さっき足をふっ飛ばしたゴーレムやっぱりまだ生きてるか、腕だけで動こうとしているな、それよりも大事なのは捥げたゴーレムの足だ。あれ、よく見ると中がメカメカしているのが分かる。
こいつら、もしかしてロボットか? イケ眼鏡の魔法陣を守っていたゴーレムは見た目が少し違った。ちょっと強い固体なんだろう位に思っていたが、これは全く別物なんじゃないだろうか?
「メカって事は雷が効くか?」
ゴーレムって地タイプで雷は効かないと思ってたから験してないんだよな。
アイテムボックスの中から雷撃を纏った短剣を取り出す。作った星月はスタンエッジって言っていたけど作ったのは魔剣まで作れる鍛治能力持ちの異世界人、星月だ。スタンなんて生易しいもので済む訳が無い。
そんなスタンエッジを手近なゴーレムに向けて叩き込む。
「GOOOOOOOO!!」
思った通り、見るからにヤバイ電撃放たれ、周囲のゴーレムも巻き込んで行く。念の為に速攻で離れて良かった。
「GOU♪GOU♪」
「GOOOUN♪」
あ、何だこれ、めっちゃゴーレム共のテンション上がってる。
この反応、雷撃は吸収かよ! くそ! 余計な事した!
次の手を模索しながら動きの良くなったゴーレムの攻撃を必死になって避けていると数匹のゴーレムが攻撃を止めて離れていく。
「くそ! もう回復したのか!?」
たぶんイケ眼鏡が回復して拘束を解こうとゴーレム共の一部を操ってやがる! やっぱり拘束した時に猿轡を思いつかなかったのは致命的だったな、くそ!
ゴーレム共の攻撃を避けながらイケ眼鏡を救出に向かったゴーレムを追いかける、攻撃してくるゴーレムを速度に任せて置き去りにしてイケ眼鏡を放置した所へ向かうと、やはりイケ眼鏡が麻痺から復活して、丁度ゴーレムによって拘束を解かれた所のようだった。あ~、ゴーレムを相手に時間をかけ過ぎた。
「チッ、失敗した!」
「ふ、所詮は平和ボケした能力だけの勇者、何もかも甘すぎるんだよ!」
うっせ、こっちは豚王が片付いたから平和的にやってるんだよ、普通なら、俺たちが相手じゃなかったらお前は拘束されずにぶっ殺されてるんだからな!
とりあえずゴーレムは後回しだ。もう一回イケ眼鏡を拘束しねぇと……。
「なに、してるの?」
パリン、と現状不釣合いな聞き覚えの有る音と共にイケ眼鏡の拘束を解きそのまま護衛体制に入っていたゴーレムが砕け散る。
「は?」
「え?」
俺もイケ眼鏡も意味が分からずに間抜けな声を上げて固まってしまう。
「GO! GOUUUUU!」
「GOGOGO! GOUU!」
そして、イケ眼鏡を守っている残りのゴーレムも、俺を追撃しようとしていたゴーレムも恐慌状態になってバラバラに逃げ出した。
「颯太……ピンチ?」
いつの間にか俺たちの側に立っているこの状況を作り出した人物……伊勢は、何もおかしな所は無いといった様子で可愛らしく首をかしげながら聞いて来るが、猿轡をかまされロープで拘束された女の子を引き摺っている為、軽く恐怖を覚える。
「コ……コトネ?」
「むぐ~、きいあひあん」
伊勢が連れて……引き摺って来たのはイケ眼鏡の知り合い、魔王側の奴か? なんか知り合いみたいな反応だしそうなんだろうな。
そう判断していると、伊勢が少女を拘束したロープの端を俺に渡して来る。
「捕虜、颯太に、あげる……もう面倒だしいっか、周りは私が片付けるから」
そして、伊勢の速度から逃れられる筈の無いゴーレムたちは無慈悲に砕け散っていく。
「えっと……捕虜、だが……」
「く! キサマ……」
うわぁ、すげー睨んで来るけど大人しくはなったな、完全に俺が悪者の立ち位置だが、ゴーレムも砕かれて行く中、仲間まで人質にされてればこれ以上抵抗も出来なくなるか。
なんか、リリを捕らえてからちょっと思ってたけど、魔王軍の奴らって身内に甘くないか? 戦場に出ているのは魔物やこのイケ眼鏡の作ったゴーレムばっかりだろ? 人が少なすぎる、なんかそんな感じがする。
「……僕の事は好きにして良い、だからコトネは助けてくれ」
まぁ、そうなるか、捕虜も取られて周囲の護衛ゴーレムもどんどん破壊し尽くされてるんだから魔法使いっぽいイケ眼鏡一人じゃこれ以上俺たちと戦うのは無理っぽいよな。
「まぁ、降伏してくれるなら悪いようにはしねぇよ」
一応警戒はしなきゃならないから拘束は残して伊勢が持って来た少女の猿轡だけは外してやる。
「あ~、キリちゃんごめんね~負けちゃった~」
「仕方ない、あの女もこいつも戦場報告には居なかった奴等だ、予測よりも城に残っていた温存戦力が大きかったって事だ。変異した豚を消し飛ばす奴が居る事は分かっていたんだがな……
さて、もう良いだろう? これ以上抵抗はしないからあの女を止めてくれ、苦労して作った僕の魔法兵器をこれ以上壊さないでくれないか?」
もう殆んど伊勢がぶっ壊しているんだけどな、あれって砦で高深がやっていたのと同じだよな? なんで伊勢が同じことができるのか分からないが、このイケ眼鏡の護衛をしていたゴーレム、中身メカっぽかったし魔法兵器のゴーレムなんだな。高深と同じ事ができるなら魔法兵器は敵じゃなくなる、便利だよな、俺も習得できるか?
「伊勢~、降参だってよ、それぐらいで戻って来い」
「ん……」
声をかけた直後に戻って来やがった。こいつの動き、たまに追えないんだよな。リミット解除していたら余裕なんだが、伊勢……もしかしてリミット解除の反動克服済みか? 見た所反動は全く出ていないみたいだしな。
「ありがとな、来てくれて助かった」
「ん……」
「まぁ、降伏したなら戦場のゴーレム群を止めてくれ」
「ん、あれは魔法兵器じゃないから倒すのが面倒……」
魔法兵器なら余裕で破壊できるって訳だな……。って、伊勢の話し方が変わってる、なんかさっき面倒とか言ってたが、前の話し方は態とか? そう言えば俺の事も普通に名前で呼んでたな。
「ってか、伊勢、この周りのゴーレムが魔法兵器の方だってよく分かったな」
「マギナサフィアで見たのと似てた。後、あそこの足の無いゴーレム見れば分かる」
以前に遭遇したのに似てたのと足の捥げたゴーレムの中を見てか、俺もあれ見て魔法で作られたゴーレムと違うって気が付いたからな。まぁ、あの一匹の足捥いだだけだが、俺の戦闘も無駄じゃ無かったって思っておこう。
「悪いが、周囲の魔法ゴーレムは最初の命令以外は受け付けない、何とかしたいなら破壊するか、勇者共を殲滅するしかないな」
止める方法は壊すか、命令完遂かか。また面倒な物を大量に呼び出したな。
「チッ、まぁ、これ以上増えないなら何とかできるだろう」
「面倒」
俺もそう思うけど言うなよ、気が滅入って来るから。
「とりあえず付いて来いよ、リリも居るから変な気は起こすなよ」
「敗者は従うのみか……僕たちもリリみたいにするのか?」
リリみたいにって何だ?
「アタシにもエロい事する気~?」
いや、しねぇから! リリにもしてねぇよ!
「捕虜は颯太の管轄、任せたから精々堕すと良い」
伊勢の中で俺ってどんなイメージなんだ!? で、さらっと面倒事押し付けやがったな!?
「そうか……お前がソウタか……」
「あ? なんだ?」
「いや、リリからの報告であったからな、リリのご主人様になったんだろう? リリは諜報部隊の隊長だ、これほど簡単に寝返るとは……正直、何やったのか想像が付かん」
「いや、変な事はやってないから! リリが変態だったってだけだから!」
「それに付き合ってる颯太も……」
こら伊勢、俺も変態だって言いたいのか!? 違うからな! リリがしつこいから仕方なくぶっ飛ばしてるだけだからな!
「お疲れ……」
そう思うならからかうな……。
なんか、砦に戻ってリリに会うのが不安になって来た……。




