五章20話 クロト 第二ラウンド(相田宗佑)
崩れた観客席、その瓦礫の中から額や腕や腹、様々な場所から血を流すクロトが立ち上がる。が、血みどろの見た目通りに、その足下は覚束ない。
クロトが直前まで展開していた地の腕や鎧の魔法も解除され、重傷だという事が一目で分かる。
「それでも立ち上がって来るんだから凄いよね」
「いや、それより何が起こった?」
闘技場の壁が外側から破壊されて、その破壊した何かにクロトが吹き飛ばされた様に見えたけど……。残念ながら明人の疑問には俺も答えられない。
「おお~、この中、闘技場になってたのかよ……」
闘技場の壁の破壊された穴から誰かが歩み出て来る。おそらく今のをやった人物だろうけど……敵か、味方か、クロトを警戒しながら確認する。
「居た居た、相田~無事だったみたいだな……あと藤田も」
俺たちと同じ黒髪黒目、日本人風の顔立ちで俺たちのことを知っている、最後に見たのはもう何ヶ月か前になるけど忘れる筈が無い、田嶋君は心配する必要は無いって言っていたけど、ずっと気には留めていたクラスメイト。
「俺はついでか? 別に良いけどな」
「いやいや、藤田も無事でよかった。相田の居る場所はセリアが教えてくれたけど、藤田の居る場所は分からなかったからな……ホント無事で良かったな」
今の、外側から壁を壊してなおクロトを吹き飛ばした攻撃が明人を襲っていたかもしれないって言うのはシャレにならないよ。
「怖いなオイ!」
「まぁまぁ、当たらなかったんだから良いじゃないか……な、相田」
「え、まぁ、うん」
当たらなかったんだし良いのかな? まぁ、良いのか。
「高深君、おかえり……よく帰って来てくれたね」
「ただいま、で良いのか? まぁ良いか、それより相田、迷子のお届けだ」
高深君が腰のポーチから一本の剣を取り出す。剣はポーチに入る大きさじゃないけど、この世界には魔法道具って便利な不思議アイテムが有るからそれなんだろうね。それよりも、高深君が取り出した剣は、今俺が持っている剣と見た目がそっくりだった。
高深君がその剣を手に近付いて来ると、俺の持つ剣が急に普通の剣に戻る。聖剣の憑依召喚が解除された?
「取り合えず、渡したからな」
「え、ああ、うん。ありがとう?」
「ソウスケ! 無事でしたか!? 大事な時に側に居られずに申し訳有りません!」
高深君から剣を受け取った瞬間、俺の目の前にセリアが現れ謝りだした。
「あいつがクロトか……よし、藤田……セリアが言うには今から相田は暫く動けないらしいから、あれは俺たちで止めないといけないが、大丈夫か?」
応答の無かったセリアが無事だったのは良いけど、高深君が俺たちの前に出てクロトと対峙しようとする。
「ああ、このまま続投ってだけだろ?」
明人もそれに倣う感じで前に出る。
「お、俺も!」
「ソウスケは待って下さい!」
三人がかりになるけど俺も前に出ようとするのをセリアに止められる。
「やっと聖剣本体がソウスケノ手に渡ったのです。力を完全解放しますから暫く待って下さい」
高深君から受け取った剣がセリアの、聖剣の本体って事は応答の無くなっていたセリアが出てきた時点で予想はついた。でも力の解放って……いや、高深君の攻撃でダメージを負っているクロトだけど、対抗するには必要か。
「強者との戦いは望む所よ……」
傷だらけの身体でこれまでに無い笑み漏らしながらそう言うクロト。高深君の参戦に不満は無いみたいだ。
「なんだ? 随分追い詰めてるみたいだけど……俺が加わる必要無いんじゃないか?」
「いや、あれやったの殆んどお前だからな! 俺たちだけじゃ正直厳しかったぞ!」
高深君が呆けた事を言っているけど大丈夫だろうか?
『救世の聖剣エクセリア、正式にアイダソウスケを主として登録します』
いつの間にかセリアの姿が消えている。頭に声が響いて来るって事は、今は俺の中に居るのかな?
「そんなボロボロで大丈夫か?」
「敵の心配とは、我も随分と舐められたな……だが、未熟な勇者共にそう見られるのは心外だ。よかろう、我もここから本気で相手になってやろう」
クロトの本気、手を抜かれているという事は分かっていたけど、それを突き付けられると今までの足掻きが無駄なものに思えてきて心を折られそうになるな。
瓦礫の中から抜け出して来るクロトはさっきよりもしっかりと立っている。俺たちの会話中に攻撃してこなかったのは身体を回復させていたって事なのかな?
「アイシクルインパクト!」
「お前! いきなり!」
行き成り高深君が巨大な氷の棘付き球体を生み出してクロトに叩き付ける。
「馬鹿、不意打ちや騙し討ちが卑怯だとか言ってて生き残れるわけないだろうが……」
そして高深君の使った魔法にはどこかで見覚えが有るんだけど、どこでだっただろうか?
『登録完了、続けて聖剣に残された過去の戦闘記録を主と同調させます。良いでしょうか?』
聖剣を十全に使用する準備というのはセリアが進めてくれていたので、俺は明人たちの方を気にしていたのだけどセリアから質問が入って来る。
戦闘記録の同調って、それをやるとどうなるのかな?
『今までに私を用いて行われた戦闘経験を全て得る事になり、聖剣の扱い方や最適な身体の動かし方、前の使用者が使った魔法や能力の知識、それらを一瞬で理解できます。最初は身体が自分の物と思えない様な感覚が有ると思いますが、ソウスケならすぐに慣れるでしょう。あの魔将と戦う為にも了承してください』
クロトと戦う為、そう言われると頷かない訳には行かない。
けど、そのクロトは高深君が不意打ち的に氷塊を叩きつけて……もしかして倒した?
「GUROOOOOO!!」
獣の咆哮と共に、クロトに叩きつけられた氷塊が砕け蒸発しながら弾け飛ぶ。
氷塊の下から出て来たクロトは傷一つ無いどころか、さっきまでの傷も癒えて……それどころじゃない、クロトの身体はふた回り程大きくなって服がはち切れて、全身を獣毛が覆っていた。顔もライオンぽく変化して爪や牙も伸び全体的に獣になっているんだけど、変わらず2本の足で立っている。
「なんだ? 人って変異するのか? 獣人だから魔物に近くてありえるとかか?」
「変異ってなんだ? それよりも獣化したって方が分かり易くないか?」
「田嶋程じゃないからそういう知識を持っているわけじゃないが……獣化か、言葉のままに獣っぽく変化するって感じか? まぁ、あれは見ればそんな感じだよな……」
あれがクロトなのは居た場所からして間違いは無いのだけど、見た目が完全に変わってしまっている。替わりに地の腕と鎧は消えてしまっているけど、多分あのクロトの変化にはその2つを補って余りある効果が有るのだろう。
「当然パワーアップしてるんだよな? で、怪我の方もリセットかよ……またく、こんな相手ばっかりだな……」
さして動揺もせずに嘆息する高深君はいままでどんな相手と戦ってきたんだろうか?
「GURURURU……はははは! この姿になるのは久々よ! 我が全力と戦う機会に見えた事を喜ぶが……」
「こっちは戦いたくて戦ってるわけじゃねぇよ! バーストスティンガー!」
高深君の剣の切先から爆発が生じてクロトを飲み込む。けど、クロトは平然とその場に立っている。
高深君のあれはどうなっているんだろう? 詠唱も無しに魔法を放っているけど、ただの無詠唱という訳でも無さそうだ。そもそも魔法陣が展開されていないから普通の魔法じゃないよね?
「チッ、武器の限界ギリギリまで魔力込めたんだぞ……全然効かないとか、ドラーク戦思い出すから勘弁しろよ、強化され過ぎだろう……藤田、これ逃げた方が良いんじゃないか?」
「いや、できれば俺も逃げたいけどな、高深は逃げられると思うのか?」
「連れない事を言うな! まだまだ戦いは始まったばかりであろう! GUROOOON!」
地面を爆ぜさせる程の勢いでクロトが動く、ただ真正面から高深君に迫り握り込んだ拳を振るう。
高深君はクロトの拳を右手に持った剣で受けるが、さっきから高深君が力負けしていないのが驚きだ。
「藤田! 俺ばっかりやらせてないで戦え!」
「もう俺に手出しできるレベルじゃねぇよ! 防御能力は使っておくから上手い事俺を盾にしろ!」
クロトの攻撃は変身前と比べて速く重くなっている。
聖剣に残された過去の戦闘記録を俺に同調させるっていうのをセリアがやってくれているおかげか、クロトの動きが段々はっきり見えるようになってきているけど、あれは……さっきまでの俺じゃ受けるのも避けるのも無理だったんじゃないかな?
『同調完了しました。完全に馴染むまで少し時間が掛かりますが、続いて私、聖剣の精霊に従う精霊の使役権限を共有します』
セリアの準備も着々と進んでいる。この時間がもどかしく思うけど、戦闘経験の同調が終わった事ではっきりと認識できるようになったクロトの実力に対抗する為にも今は我慢しないと。
その間もクロトと高深君の攻防は続いている。
いつの間にか取り出した剣を空いている方の手にも持ち二刀流になっている高深君、腰の剣は使わないのかな? あの剣からなんだか凄い魔力を感じるんだけど……この魔力を感じるのも、聖剣の戦闘経験を得たからこんなに簡単に分かるんだよね。
「ふはははは! どんどん行くぞ!」
クロトがあの姿で地の腕まで使用し始めた。さっきまでと地の腕の大きさは変わっていないから、今のクロトだと同じようなサイズの腕が2本増えたような感じだ。あの地の腕はクロトの腕の動きに合わせて動くから攻撃範囲が広がったってところだろうか?
「魔法陣……魔法か!? チッ、剣の選択を間違った! その形で魔法使うとか違うだろ!」
「知らんな! 強さを求める者が使える物を使わぬ道理は無いわ!」
「そりゃそうだ……クロススラッシュ!」
「GUOOO!」
剣技なのか魔法なのか、高深君の交差するように振るわれた左右の剣から斬撃が飛び、クロトの地の腕を一つ破壊する。
「バーストブロウ!」
高深君は飛ぶ斬撃の後間隔を置かずに右手の剣を手放し握った拳をクロトに叩き込もうとするけど、クロトは残った地の腕で拳を防ぐ。でも、高深君の拳が地の腕に当たった途端にそこから爆発が生じて、残っていた地の腕は半壊。
「エリアルシュート!」
更に間髪入れずに蹴りを放つが、クロトは自身の腕を交差して防ぐ、けど、高深君の蹴りはさっきの拳と同様にクロトの防御に当たった途端に突風を生じさせてクロトを吹飛ばす。
「ふっ飛ばすだけで何手要るんだよ。これだけやって大してダメージ入って無いとか……相田! まだか!?」
手放した剣を拾い別の剣と交換しながら高深君が聞いて来るけど……。
えっと、セリアまだ?
『共有完了です。聖剣の完全解放が終わりました。後は同調した戦闘経験が馴染めばソウスケ本来の力が発揮できるはずです』
ありがとう!
「高深君、行けるよ! 明人も下がって!」
「よし! 遠慮無く下がるぞ藤田!」
「ああ、って、結局俺何もやってないな!」
さて、選手交代だ。遅れる明人の襟を高深君が引っ張りながら俺とすれ違う。そこに、丁度クロトも戻って来た。
「もう交代か? 全員でかかって来ても構わんのだぞ」
ほんとクロトは余裕そうだね。
「ハッ、お前の相手は相田だ。でも、心配するな! お前が油断してると思ったら横からブレイカーぶち込むからな! 壁越で重傷だったんだ、直でぶち当てたらどうなるだろうな!?」
いや、高深君、油断してくれている内に勝っちゃうのが理想だからね、あまり煽らないで。
「相田、後は任せた!」
うん、任されたよ。




