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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
五章 異世界人・勇者
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五章19話 戦場を駆ける

 赤銅色の荒野を駆け出して数時間経った。

 チンピラドラゴンに言われて自覚したせいなのか、これだけ走っても疲れを感じていない自分が本当に人間離れしていて怖くなってくる。


「おいおい、なんか煙が上がってないか? 砂塵?」


 前方、と言っても結構遠くだけど、広範囲に渡り砂塵が舞っている。


「地平を埋め尽くすゴーレム軍って言うのは吹かしじゃ無さそうだな」


 あの砂塵がゴーレムの進軍によってできた物だとすればだが……。

 まぁ、行ってみれば分かる事だな。


 そしてまた数時間駆け続けると砂塵の発生源がゴーレム軍団で間違いないことが確認できた。

 マジで凄い数だな、時折一部のゴーレムが吹飛ばされているように見えるのは撤退中のクラスメイト共だろうか?

 で、俺が今すれ違った銀や灰色の鎧着た連中は何だ? どっかで見た事が有るような気もするんだけど……まぁ、良いか。

 そう思って走っている内に、再度ゴーレム軍団の一部が吹っ飛ぶ。

 そろそろ、撤退して来るクラスメイトたちの先頭集団に接触できそうだな。


「糞! また誰か来るぞ!」

「今度は誰だ!? シノブか!? コトネか!?」

「いや、どっちでもねぇ……男みたいだからな」


 顔見て俺だって気が付かないとか、敵軍に追われている状態で随分と混乱しているみたいだな……。それとも、俺なんてすっかり忘れ去られているのか? まぁ、俺じゃなくても、この世界で生きていくのはそれなりにキツイ物が有るだろうから、いきなり消えたクラスメイトなんかに気を使っていられないのかも知れないけど……。


「相田は?」

「今、前から来る集団には居ません!」


 俺が走り出したので姿を消したセリアの声が隣から聞こえて来る。姿は見えなくても隣には居るみたいだ。

 それは良いけど、俺を警戒して止まってしまったクラスメイト共をどうしようか? あっちが止まってしまったから俺も変に動けなくなってしまったんだが……。


「なあ! 相田はどこ行った!?」


 とりあえず、声を張り上げて問いかけてみるが……あれ? なんか怯えている奴多くないか?


「チッ、また相田かよ……厄介な奴ばっか引き付けやがって!」

「誰が相手するんだよ! 寺坂たちは後方の爆撃に割かれてるし羽切は気絶したまんまだ!」


 あいつらの中では俺と一戦やり合う心算になってるのか? おいおい、勘弁してくれ……田嶋と模擬戦をして、改めて勇者の力の厄介さは実感したんだ、こんなとこで無駄に戦っていられないぞ……。


「高深……君?」


 お、俺に気が付いた奴が居るな……怯えた目を俺に向けているのは変わらないけど、元々オドオドした奴だし田中はあれがデフォルトなんだろう、普段は藤田の影に隠れているんだけど……藤田の奴も見当たらないな、ゴーレム軍団に術攻撃を仕掛けている連中の中にも居ないみたいだし、ここに居ない相田と一緒か?


「そう言われれば……本当だ! お前高深か!」

「マジか、生きてたんだな……」

「嘘だろ、とっくにくたばってるもんだと思ってたぞ……」

「高深君、無事だったんだ」


 酷い反応だな……皆の中では、俺って既に死んだ事になってるのか?


「まぁいいや、それで……相田はどうしたんだ? 一緒じゃないのか?」

「相田の奴は藤田と一緒に魔王軍の将、クロトって奴を相手に戦ってる」


 あぁ……相田と藤田が居ない理由とか、羽切や宇佐美が気絶している理由とかがなんとなく分かった。

 で、クロトって奴は……田嶋が言っていた魔王軍の要注意人物の中に有った名前だな。あのゴーレム軍団の中でやばそうな奴と戦っているのか? 相田と藤田だけで?


「もう、殺られてるんじゃないか?」

「馬鹿なことを言わないでください! まだ、私との繋がりは切れていませんから急いでください!」


 ま、勇者補正全開の相田が居て簡単に負けるとは思ってないけど……。

 相田だって俺たちと同じ、平和な世界で暮らしていたただの学生だからな、セリアが焦るのも分かる。


「はぁ、セリアが言った作戦だと、ここで相田と合流しできるって思ってたんだけどな……」


 どうやらあの大量のゴーレム共の中に突っ込まないといけないみたいだな。

 規模こそ前に師匠と一緒に遭遇した魔物の群れより多いけど、中身はゴーレムばかり。その上、俺自身があの頃より確実に強くなっている。


「無理難題って訳じゃないか……相田の所まで行けば良いだけだしな」


 さて、術攻撃担当の奴らも近くまで来ているし、次の大きな術攻撃の後に行くか。

 愛用の剣を鞘から引き抜き、代わりに魔剣アンブレイクをポーチから出して起動状態で鞘に収める。


「まぁ頑張って逃げてくれ、砦に飯本が来てるから、そこまで逃げればゴーレムじゃ手が出せなくなる筈だ……」


 ゴーレムじゃ飯本の結界の弱点は突けないだろうからな。

 それだけ言い残して、ゴーレム軍が吹き飛んだ場所目掛けて駆け出した。


「な!?」

「早!」


 後方から聞こえる驚いた声で自信の成長振りを実感して寺坂たち術攻撃担当の奴等とすれ違う。


「おい! 今の誰だ!」

「ゴーレムたちの中飛び込んで行ったわよ!」

「高深だよ! あいつは放っておけ!」

「砦に飯本さんが来てるみたいだから俺たちはとっとと撤退しようぜ!」

「ホント!? 飯本さんが居るなら砦まで戻れば!」


 一応俺の言葉は信じてくれたみたいだな。まぁ、あれだけ大量のゴーレムに追われているんだ、このまま撤退していても本当に何とかなるのか不安は有ったのだろう、飯本の存在は不安を払拭するいい材料になったみたいだな。飯本の結界に篭るだけじゃ状況を打破できないって事には目を瞑れば、だけどな……。


「とりあえず真っ直ぐだな?」

「はい、このまま真っ直ぐです!」

「分かった……ストームブレイド!」


 正面のゴーレムに向けて魔法剣を解き放つ。これだけ数が居れば適当に撃っても当たるな。

 以前は広範囲に広げて撃った魔法剣も今回は前方に押し出すように範囲を調整する。以前魔物の群れの中で師匠が居る場所を目指した時と一緒だ。相田に合流するまでは兎に角前に突き進む。


「その魔法、なんだか嫌なものを感じるのですが……こう、身体を侵食されるような」


 あ~、聖剣に魔力を流そうとした事が有るのに勘付いたか? でも、きっちり拒まれたからな……余計な事は言わないようにしよう。


「武器に魔力を渡して魔法を発動を頼んでいるって感じの技だからな、侵食って言うのとは一寸違うと思うぞ……多分」


 魔力を込め過ぎると武器が壊れるんだが、それは言わないでおこう。下手に敵視されても困るからな。


「多分って、貴方が使っている力でしょう」

「ま、気にするな。どんどん行くぞ……バーストレイン!」


 今度も範囲を前方にしてゴーレムを蹴散らす。

 動きが魔法兵器のゴーレムと似たようなものなので攻撃を食らう事は無さそうだな。囲まれないように立ち回るのが条件だけど、前方を魔法剣で薙ぎ払って駆け抜けていれば大丈夫だろう……大丈夫だよな?

 そういうのをフラグって言うんだよ、と言う田嶋の声が聞こえたような気がした。


「人に魔法で産み出されたゴーレムでも変異種が居るのか?」


 ゴーレムの群れに何度目かの魔法剣をぶち込んだ時そのゴーレムは現れた。

 ここに来るまで魔法剣一発で盛大に吹き飛んでいたゴーレムの中に、魔法剣を喰らっても平然としている奴が居る、同じような奴を俺は師匠と一緒に遭遇した魔物の群れでも出会っている。

 今、俺の左手に着けているグローブの手甲部分に使われている魔物、変異種のリビングアーマー、魔法を弾く動く鎧と一緒だ。

 多分あのゴーレムに使われている素材が魔法を受け付けないか弾くかするんだろう。でも、あのゴーレム自体が魔法で作られている訳だから、全く効かないって訳じゃないだろう。ゴーレムの構造の穴を捜している暇は無く、準備はしているけど下手にブレイカーを撃って跳ね返されるのも厄介だから……。


「これだな」


 ポーチから一本の剣を取り出して空いている方の手に持つ。

 田嶋が俺との模擬戦で使った魔剣だ。元々田嶋が星月に頼んで俺用に作って貰ってくれていた魔剣らしい。魔剣って本来人外の力で作り出された物なんだけど、星月の能力は人の領域を超えたか……人外仲間だな。

 あの時、模擬戦で田嶋はこの魔剣を使って障壁を張っていた。俺に渡す物を俺との模擬戦で使うとか……まぁいいや。この、魔剣アンサンブルは使用者が対象となる魔法の属性を見極めて、同じ属性に設定して障壁を展開して防御する能力を持った魔剣だ。

 でも、俺が使うとなぜか魔法を斬る魔剣になる。俺が魔法剣士だからだろうか? 冬子に協力してもらって試しに氷の魔法を防ごうとした時は障壁が展開せず焦ったが、代わりに魔法が斬れる事が分かったんだよな……咄嗟だったけど、避けるって選択肢よりも剣を振ることを選んでしまった自分の脳筋振りに苦笑した。結果オーライだけどな。


「属性地・独奏(ソロ)!」


 あの魔法の効かないゴーレムをぶった斬る。

 今の、地属性に設定した魔剣アンサンブルは地属性の魔法を破壊する、あの魔法で産み出されたゴーレムも容易く斬り刻めるだろう。少なくてもゴーレムとしての機能はぶっ壊せる。


「これだけの魔物を相手にしながら駆ける速度が落ちない、凄いですね」


 鈍い動きで繰り出される拳を避けながら、その拳を繰り出した魔法の効かないゴーレムをアンサンブルで斬裂きすぐに駆け出す。後方でゴーレムが崩れる音を聞きながらセリアが感心したようなことを言って来るけど、実際に俺が相手にしているのは目の前の敵だけだ。後方や左右の敵は今の速度なら追い付いて来ないからな。一度あの森で魔物の群れと戦っているしその時よりも上がっている実力が俺に余裕を与えているだけだ。まぁ、やられるのは嫌だから油断はしないけど……。


「で、相田の居る場所はまだなのか?」

「もう少しです。前方に見える壁の辺りです」


 確かにゴーレム軍団で埋め尽くされている荒野に違和感しかない壁が有るのは見えるけど、あれってただの壁か? 壁が緩やかにカーブしているように見えるんだけど……。


「とりあえず壁は迂回だな……」


 進路を修正して引き続きゴーレムを蹴散らしながら駆ける。


「あ~やっぱりあの壁曲がってる……って言うか丸形か?」


 先程壁を見ていた地点から見て壁の端だった場所に来ても壁の形が変わらない、ただ壁に近付いた分大きくなったように見えるだけだ。


「そのようですね。そして、ソウスケの気配は壁の向こう側からします」


 …………。


「俺たちとは反対方向に移動しているって……」

「違います。もう気が付いていますよね? この壁、円形をしていて中に空間があります」


 俺の甘い考えをセリアが打ち砕く。


「入り口を捜さないといけないのか? 下手したら外周を一周しないといけないんだぞ……」

「入り口が有るとも限りませんけどね」


 …………。


「面倒だ、壊す。相田が居る場所だけは正確に教えてくれ。そこ以外を狙ってこの壁ぶっ壊す」


 魔剣アンブレイクは十分に魔力を吸収した状態で鞘の中で光り輝いている。

 魔剣アンサンブルをポーチに戻し、眩しいぐらいに光るアンブレイクを抜き放ち、セリアに聞いた方向から少しずらして魔法剣を発動する。


「ブレイカー!!」


 溜め込まれた魔力が一気に解き放たれ、魔力の奔流が渦巻きながら壁に突き刺さり壁を砕いて行く。

 どれだけの厚さが有るのか知らないけど、飯本の結界でも持って来ないとこの魔法剣には対抗できないはずだ。


「ぶち抜け……」


 魔砲剣戟、ブレイカーが壁を砕き貫通して突き抜けて行った。

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