五章15話 成果
正直悪乗りし過ぎたと思う……俺にとって恩人と言ってもいい田嶋に対して、どう見てもゴキブリの素揚げにしか見えない料理を無理矢理食わせたんだからな。
「悪かった、次は味がまともなやつを食わせる」
「もう要らねぇよ!」
軽くトラウマになったか? でも本当に能力値は上がるから食っといて損は無いと思うんだけどな。
「兎に角! いや、結局か? 結局リリの話を聞いても魔王の思惑は自国の姫を攫われそうになった事への報復かって位にしか分からないが、豚王や周辺国との戦争も片付いたから俺は魔王軍との問題を片付けに行くけど、高深も来るよな?」
「ああ、この世界の文字の読めない俺じゃ帰還方法を調べるのも限界が有るからな……」
それはマギナサフィアで十分理解した。マギナサフィアの図書館の地下ダンジョンの方には捜索組みから何人か向ってくれたみたいだし……俺に出来るのは、旅で鍛えた能力と戦闘技術を振るうことぐらいか……。
「豚王を倒したって事で魔王と話し合いに持ち込めると楽なんだがな、あっちの目的が不明すぎるから下手に交渉も出来ないか、話し合いに持ち込む為の人質としてリリは?」
「私に人質としての価値なんてないよ、一蹴されて終わり」
そもそも話し合いのための人質って何だよ? 印象最悪じゃないか……あ、戦争吹っ掛けて、吹っ掛けられてる時点で印象なんて悪い方にしか行ってないか……。
「一旦ぶっ飛ばさないと話し合いも無理か……」
なんか俺の思考が脳筋な方向に行っている気がするけど……。
「ぶっ飛ばすって方向は賛成だが、相手に厄介なのがいるんだよなぁ、リリは知ってるか? クロトって名前の獅子獣人らしいが」
「あともう一人、シノブって名前の剣士が居るね。まぁ、彼女なら僕が相手にできたけど……ホントに僕は留守番で良いの?」
「おいおい、いつの間に戦った? シノブって奴とやり合ったのは羽切だった筈だろ?」
「シノちゃんとクロちゃんは魔王軍の戦力3位と1位だよ」
「げ、まだ間に一人居るのかよ……はぁ、とりあえず急いで魔法兵器が数回使用すると爆発するって事を報せに行かないとな。後、リミッターのことも、相田がリミッターを外せればクロトって奴にも勝てると思うんだけどな」
「いいから、さっさと行きましょう。そんなものが無くても私が守るから!」
大人しく会議に参加していた飯本が痺れを切らしたみたいだな。でも落ち着け、飯本の結界ってチンピラドラゴンの話じゃ弱点が有るらしいから過信できる物じゃないぞ。
「とりあえず、行きたい奴挙手」
手を上げたのは田嶋、江ノ塚、飯本の3人。それと田嶋が手を上げた事でリリもだ……。
「おいおい、高深は?」
「いや、言っておいてなんだけど、なんかぶっ飛ばしに行こうっていうのも脳筋思考かなと……」
「伊勢?」
「蒼也が、行かない……なら、行かない」
「美波?」
「精霊の問題は片付いたから、私は捜索組みに回るでもどっちでも良いわ……そうね、玲奈に合わせるで良いかしら?」
「江ノ塚は留守番だって何回言わせるんだ!」
「なんか僕八つ当たりされてない!?」
仲良いなお前ら……江ノ塚とか声を荒げるような奴じゃなかったよな?
「脳筋思考はどうかとは思うけど……まぁ、戦うぐらいしかできないんだよな」
「で、結局行くのか?」
俺、行かないとは言ってないからな。
豚王の厄介事に間に合わなかった事も有るし……ちょっとは活躍しておかないとな。
「行くんだな、ったく、最初からそう言えよ。ってことは伊勢と美波もだな。
最終的なメンバーは俺、高深、白山、飯本、伊勢、美波か……江ノ塚が抜けたとしても問題無い戦力は揃ってるだろ」
「そのメンバーで豚王を殺した規模の攻撃ができるの?」
江ノ塚が食い下がってくるな……まぁ、このまま城で留守番させられていたら面倒な王代理をしないといけないから足掻けるなら足掻きたいんだろうけど、俺たちとの賭けで負けたんだから素直に留守番していろよ。
「できるわよ、やった後気絶するけど……」
そうだな、冬子ならマギナサフィアやセントコーラルで契約した精霊を召喚すればあれ位の攻撃はできるだろうな。
俺も魔剣アンブレイクが魔力を集める時間さえ稼げれば魔剣を使った魔法剣、ブレイカーで似たような威力は出せるだろうけどな。
「蒼也も……」
俺が言わなくても玲奈が言った……。まぁ、構わないんだけど、ブレイカーが実際にあの威力に匹敵するかは分からないぞ。
「そんな訳で、残念だったな! 江ノ塚の留守番は確定事項だ!」
「はぁ、僕の扱いがどんどん雑になっていく気がするよ……分かってる? 多分僕が暴走したら止められる人この中に居ないよ」
そうだろうな。あの巨大な火柱を江ノ塚単独で軽くやってのけた訳だから、その自信も納得できる。
でも、俺でも今の江ノ塚は落ち着いている様に見える。豚王戦で白山に復讐をやらかしてたらしいから心に余裕ができてるってことか?
それが分かっているから田嶋もふざけた態度で居られるんだろう。
「能力値的には高深の方が上なんだろ?」
「能力が自己治癒だけじゃ僕には勝てないよ?」
「さっき豚王に止めを刺した攻撃に相当する攻撃を高深ができるってことを伊勢が言ってたと思うが?」
「分かりやすく表現すると魔剣を使った魔法剣だな、準備に少し時間が掛かるけど」
「それでも、リミッターを外せていないんじゃ僕にステータスで勝ってても意味無いよ、僕は外せてるからね」
「リミッターねぇ、高深、一寸俺と模擬戦やろうぜ」
どうした急に? いきなりだな。
「玲奈以外と訓練する良い機会だから断らないけど……」
「兵の訓練所は無事な筈だからそこで良いな?」
「軽い手合わせだろ? ならあそこで大丈夫だな」
全力でやるとなったら街を破壊する可能性が大きいけど……そう考えると俺も化け物染みてるな。
「ん、行く……」
「どの道、話し合いの内容が横道に逸れて行ってるからね、僕も見に行こう。代理王の代理は朝霧さんと美波さんで」
「ソウタ様の雄姿はしっかりと記憶します!」
会議を放り出して移動を始めた俺たちに玲奈と江ノ塚とリリの三人が付いて来る。
「はぁ、まぁ良いわ田嶋君たちが遊んでる間に勝手に色々決めておきましょう」
「代理王に任せれたんだから仕方ないわね、そう、仕方ないのよ……」
背後から朝霧と冬子の何か企んでいそうな声が聞こえてきたんだけど、大丈夫だよな?
不安を残しつつ、訓練所にやって来た。広さは変わっていないはずなんだけど、前に来た時よりも狭く感じるのは他のクラスメイトたちが居ないせいだろうか? それとも旅を通じて感じ方が変わったのだろうか? どうでも良いことを考えつつ訓練所の中心に向う。
「武器はどうする?」
訓練所には刃を潰した模擬剣などの訓練用の武器がある、玲奈と訓練をやる時なんかは手ごろな棒や木剣を使用して身体能力以外の使用は制限していたけど……。
「江ノ塚、魔力の回復具合は?」
「ん? なんで僕の魔力……あぁ……さっきの蜂蜜も有って訓練所に結界を張って20分ぐらい維持する程度には回復しているよ」
「話が早くて助かる。なら、制限時間は10分だ。残った魔力は回復に当ててくれ」
回復用の魔力を残して結界を張らせるってことは……。
「んで、俺らの武器は普段使っている物でいいな、相手を殺さない程度に加減はするとして……」
「結構ガチでやるのか?」
「そうだな、床を破壊した魔法剣以外も見て見たいし」
いや、模擬戦で使わせなくてもそれぐらい見せるけど?
「その方が訓練になるだろ?」
それもそうか、地力を上げるなら玲奈との訓練で十分だし、回復役に江ノ塚が居るなら致命傷さえ避ければ大丈夫か……俺の方は死ななきゃ多分勝手に回復するしな。
「わかった、お手柔らかに頼む」
「まぁ、仲間の実力を把握する為って程度だから気楽にな」
俺たちは訓練所の中心で10メートルほど距離を取り対峙する。俺の得物は愛用の剣、一応防御用に腰の鞘には魔剣アンブレイクを起動状態で納めておく。対する田嶋は両手に短剣を持った状態で姿勢を低くして構える。なんか暗殺者とか忍者っぽい。
江ノ塚たちが居る側を除き、壁ギリギリに結界が展開される、江ノ塚たちは壁際で観戦スペースを確保して、その前に結界を維持しているので観戦者や訓練所外に戦いの影響が出ることは心配しなくて良い。
それじゃ、制限時間も短い事だし、死なない程度にやるか!
「展開完了、初めて良いよ~」
江ノ塚の合図で即田嶋が動き出した。一瞬で姿を見失いそうな速度だけど、玲奈との訓練のおかげで目で追う事はできる。それに、殺傷力のある武器を使っているせいか、玲奈との訓練ほどの速さは無い。だから、背後から背中を狙って斬りかかって来た短剣に剣を合わせて弾き飛ばすぐらいはできた。
「やっぱ、見えてるのか」
「魔王軍との戦いに付いて行こうって言うんだから、手加減されてる攻撃を見えなきゃやばいよな?」
多分田嶋と玲奈は似通った能力値だ。玲奈がこの程度じゃない以上、田嶋はだいぶ手加減しているってことだろう。
「んじゃ、一寸本気出すか。時間も少ないし、とっとと魔法剣ってのも見せてくれよ」
この模擬戦が始まってからすぐに、魔法剣を行使する為の魔力は剣に込めているからいつでもいけるんだけど、玲奈との訓練のように殺傷力の無い武器を使っているならともかく……田嶋に対して撃って良いものかと考えてたんだよな。
「やばかったら江ノ塚が回復してくれるし、新見が作った回復薬も有る、気楽に撃って来い」
そう言って田嶋が短剣を片方俺の愛用の剣と同じぐらいの長さの剣と持ち替えている。
田嶋、見た感じ魔法の鞄持ってないよな? 何処から出して何処にしまったよ?
とりあえず、軽く撃って見るか……。
「それじゃあ、アクアスパイラル!」
突き出した剣の先端から放たれた水流が、螺旋を描いて田嶋に迫る。
「水か、んじゃ属性水・独奏!」
あれ? 避けると思ったんだけど……。田嶋は剣の方を前に掲げて受ける構えを見せた。
対人で魔法剣を受けられた事が無いから分からないけど……あれで受けきれるのか?
「あ、魔剣なんだね、属性を選択して障壁を展開する魔剣かぁ……豚王戦で使わなかったのは、相手の攻撃が物理攻撃ばっかりだったからかな?」
江ノ塚は俺たちの模擬戦をしっかり解析しているようだ、解析能力って解説役をやるのに便利だよな。
「魔法って言うんだからこれで防げると思ったが、成功みたいだな」
俺の放った水流は田嶋が掲げた剣の前に展開された障壁に阻まれて散った。
「ぶっつけってのはどうかと思うぞ」
俺も人のことを言える旅路は送ってないけど……。
「それじゃぁ、これならどうだ?」
ポーチから予備の剣を取り出して元々持っていた剣と合わせて魔力を込める。
「アクアスパイラル! ライトニングスティンガー!」
2属性同時これなら……。
「水に雷か……武器が有れば同時に別の魔法剣も発動できるって事か……とりあえず水属性雷属性・二重奏!」
あっさり防がれたな、複数同時に障壁を展開する事もできるのか……これは、他の予備の剣を出して属性を増やしても同じ様に防がれるかな?
「魔法剣って魔法より便利なんじゃない? あ~、武器に魔力を込める時間が要るのかな……でもそれは詠唱が必要な魔法も似たような物だし……一長一短?」
その辺は解析で確認できるんじゃないか? あ、でも江ノ塚の解析は劣化版なんだったか? 魔法剣のことは解析し切れてない?
「受けてばっかりもなんだな、こっちも行くぞ」
田嶋が視界から消えた! これは玲奈が見せたリミッター解除した時の動きと同じぐらい速いって事か? と言うことは田嶋もリミッター解除してる? あいつ模擬戦にガチ過ぎるだろ……。
「まぁ、短時間だけだしな」
また背後から!
「アクセルブレイド!」
普通に振り向いてたんじゃ間に合わない斬撃に対して、魔法剣で剣速を加速させる事でなんとか対処する。剣速が上がる分一撃の威力は軽くなるけど短剣の攻撃を弾くぐらいなら十分だった。
は~、攻撃前に声をかけられなかったらこれで終わってたぞ。
「剣戟の加速? そんな事もできるのかよ」
「魔法剣はイメージと武器との相性だからな」
最早、魔法剣を撃った後に剣に魔力を再装填するのは癖になっているから咄嗟に次の魔法剣が使えたのも助かった要因だな、旅での経験の賜物って所だろう。
「もう見失わないからな……」
「リミット解除の俺に常時付いて来るって事は、お前もリミット解除するって事だぞ?」
できるのか? って言われているのか? 正直リミット解除って感覚がよく分からないんだけどな。能力値が低かった俺に力をセーブしている余裕なんて無いだろ? さて、どうするかな……。
「田嶋君~高深君は常時リミット解除状態だよ~」
「「はぁ?」」
江ノ塚の言ったそれには俺も田嶋も驚いた。二人して手を止めて説明を求めるように江ノ塚の方を向いたからな。
「え~と、多分だけど、低い能力値から徐々に上がって自然と馴らされて行ったせいで、リミッターがかからずに高い能力値になったって所じゃないかな……僕たちよりも能力値の低いこの世界の人にはリミッターなんてかかってないからね、似たようなものじゃない?」
ちょっと待とうか、俺はリミッター解除されてる状態で田嶋や玲奈を見失ったのか? 今は能力値的には俺の方が上なんだろう?
「高深君が特化してるのは、竜の影響かな? 生命力だよね、平均的に言えば僕たちより上の能力値だけど、魔力だけで言ったら僕のほうが上だし、敏捷、速度だけで言えば田嶋君の方が上だよ」
うん、慢心は良くない……気をつけよう。
「とりあえず残り時間も少ないし思いっきりやるか!」
「まぁ、相手の方が上って戦いはずっとやって来たんだ……」
でも今回は速さだけ、正面から対峙している以上、田嶋は隠密なんかの能力も使えないし一撃死系の能力も使えない。あの障壁を張る魔剣は厄介だけど勝ち目が無いわけじゃないはずだ。
田嶋が動く、うん、速すぎて分身しているようにも見えるけど大丈夫、本体は追えているし、しっかりと一つしかない気配は感じている。
だから、急に速度を上げて視界から消えてももう見失ったりしない。毎回背後を取られているけど……。
「今度は、上だろ? ウインドブレイク!」
気配の生じた頭上に向って風の塊を叩きつける、田嶋は魔剣で障壁を展開してダメージは防いだとは言え、風の影響で身動きの取れない空中に留まる事を余儀なくされる。
「魔法剣だと防がれるから……な!」
俺は鞘に収めたままの魔剣アンブレイクを田嶋に向かって思いっきり放り投げた。
「物理攻撃は! 対応する障壁がねぇ!」
でも無防備にくらったりしないよな? 体勢が崩れている訳じゃないんだ、寧ろ投剣が体勢を崩すための手だ、だから、俺は投げた剣を追うように田嶋に向かって飛ぶ。
丁度10分、模擬戦は終わり田嶋は江ノ塚の治療を受けている。
「安易に飛び上がるもんじゃねぇな」
「ホントにな……」
田嶋が治療を受ける隣で俺は身動きが取れずに寝転がっている。俺が動けないのをいい事に玲奈が添い寝のように寄り添っているのには誰も突っ込まないのか? まぁ、田嶋の方はリリの膝枕だが……。
「模擬戦で毒とか有りか?」
「有りだろ? 無しってルールは決めてない。それに、俺の称号は暗殺者だぞ、正面戦闘なんて本来のスタイルじゃねぇよ」
空中で投剣を弾き体勢を崩した田嶋に刃が当たらないように峰打ちを、ちゃんとした峰打ちじゃないけど叩き込んだ、それと同時に俺の腕に毒針が突き刺さっていた。
使われた毒は、もの凄い即効性の麻痺薬だったらしく、空中で身体の自由が利かなくなった俺と、俺の攻撃で完全に体勢を崩した田嶋は、そのまま地に叩きつけられてダブルKOって流れだな。
チンピラドラゴンの肉を食った影響で毒なんかからの回復も早くなっている俺でもまだ身体の自由が利かないってどれだけ強力な薬使ってるんだよ……。
「でもあれは使わなかったな、さっき話してた高威力の魔法剣」
「空中に居た田嶋は良い標的だけど、純粋な魔力の砲剣戟に対応できる障壁って有るのか? 無かったらお前消し飛ぶぞ?」
「無属性でいけるんじゃないか? どの属性にもそこそこ対応できる魔力障壁だから何とか、いけるか?」
不確定要素が多いから撃てなかったんだよ。自分が扱う力だけど、生身でブレイカーを受けるなんて俺には出来ないしやりたいとも思わない。
「結局引き分け?」
「だろう? でもまぁ、峰打ちじゃなくあのまま斬られてたら毒針刺す余裕も無かっただろうから俺の負けか?」
いや、俺が攻撃を当てるのと腕に針が刺さるのってほぼ同時だったから、峰打ちじゃなくても結果は一緒だろう? まぁ良い経験になったと思う。なんか俺にはリミッターが働いてない事も分かったしな。
「引き分けは良いんだけど、田嶋君は何がしたかったのかな?」
「いや、いくら江ノ塚が色んな奴を真似て能力を使って様々な場面に対応できるって言っても、一人の魔力量や手数には限界が有るだろ? だから魔力消費の悪いオールラウンダーが1人減っても戦力が数人増えるなら問題ないんじゃないかって事だ」
「それと俺との模擬戦に何の関係が有るんだよ?」
「関係は無い! 江ノ塚が留守番なんて決定事項だから文句は無視して高深の能力把握に時間を使っただけだ!」
「やっぱり僕の扱い酷いよね!?」
なんか、三国との話し合いの真っ最中だったり、魔王との戦争中だったりするけど、ここは平和だな……。今だけだろうけど……気楽なのは良いな。




