五章14話 倍率(江ノ塚航)
「むぐぐぐぐぐむもごごご!!」
ごki……いや、虫型の魔物をそのまま揚げたようなものを無理矢理口の中に押し込まれた田嶋は、何とか口の中のものを吐き出そうと暴れているけど……。
「よし、じゃぁ50回位噛んでみようか……お前が食えって顔してるけど俺はもう食ってるぞ、味が悪いだけあって能力値は他の食材より上がるって話だから……頑張れ」
そう言って田嶋を押さえつけて手で口を塞ぐ高深。うわぁ、鬼畜だ……。
と思いつつも僕は結界を維持したまま田嶋が逃げられないようにする、矛先がこっちに向いていない以上、現状に変化を与えるのは好ましくないよね?
それにしても、高深は本当に凄い成長振りだよねぇ……。前にこの城で素振りをしてた時は軽く殴っただけでも死にそうな感じだったのに……何が原因なんだろう? 能力値の上昇する魔物を材料にした料理は能力値の足しにはなるだろうけど……あの料理、解析して確かに能力値が上がるのは分かったんだけど、たいした上昇量じゃないんだよね。
いくら積み重ねた所で一桁の能力値があそこまで上がる気がしない。
「ぼおげげご!」
恨みがましそうに高深を睨みながら、逃れられないと観念した田嶋が涙目になりながら口の中のものを咀嚼する。律儀に高深の言う通りに50回噛んで無理矢理飲み込んだみたいだ。
っと、解析解析……本当だ、田嶋のSTR値がさっきより3上昇している。料理を解析した通りの上昇値だね。この効果で他の食材よりも上昇量が高いって……他のやつの上昇量は微々たる物だよね?
あの料理の効果は一度きりのようだし、魔物の種類の数とか考えても、あれを重ねた所で高深の能力値があそこまで上がるとは思えない。他に何か原因が有るんだろうか……。
「苦っ! 酸っぱ! 外はサクサクしてるのに中は弾力が有って気持ち悪りぃ! んで! 足が口内で引っかかる!」
たいして面白くも無いけど、田嶋の姿を横目に再度高深のステータスを見直す。
怪しいのは増えている称号かな? 生命の志竜ってなんだろう?
「あ、解析できた……」
ステータスの称号、生命の志竜の項目に解析をかけると詳しい内容が分かった。なんて面倒な……。
まぁいいや、で……なになに……。
生命の志竜…生命竜によって資格を与えられ、生命竜に至る課程の者が得る称号で、いずれ竜としての生を得ることができるねぇ……。
それから能力補正なんてのが有るね、生命力補正(大)、防御力補正(小)、抵抗……抗魔力補正(小)
そして最後に取得特殊能力が、自己治癒(大)とステータス解析しただけじゃ出てなかった竜の道程これも解析したら詳しく出るかな?
なになに、竜に至るまで徐々に体が変化して行き様々な能力を得る。で、現在の取得能力が自己治癒(大)ってことかな?
称号でステータスとかが変わって来るみたいだね。
これが田嶋の暗殺者だと……。
異界の暗殺者…勇者召喚に巻き込まれた者にランダムに与えられる称号で、宵闇の精霊が糧となっている。
なんだか見逃せない説明が出て来たね……巻き込まれた者って、召喚された者じゃないんだ? ってことは……本来召喚される筈だったのは、称号に勇者の付いている相田だけなのかな? まぁ、今は高深の能力の成長ぶりを考察するのが先だね。
田嶋の称号による能力補正は、全能力値50加、全能力値5倍、器用さ補正(中)、敏捷補正(大)、存在感補正(小)って最後のは何だろ? ん? 全能力値50加? 全能力値5倍?
なんか凄い事になってる、こんなのが付いてるならこの世界の人たちとの差ができて当然だね。
一応確認の為にエバーラルドのお姫さんの称号を確認しようかな。
竜国の二姫と竜の贄姫……なんか贄とか物騒なのが出て来たけど良いか……で、更に解析した内容は……どっちにも能力値の加算や何倍って補正は無い。会議に参加している他のこの世界の人たちも同じだね。
あ……そう言えば、田嶋たちがバタバタしているせいで会議が止まってるね、なんかウチの馬鹿共が申し訳ない……。
「リリ……おすわり……」
「ハイ!」
漸く落ち着いたらしい田嶋が高深からゲテモノ料理の載った皿を受け取りリリを呼び寄せる。
その皿はどうする心算かな? 僕も巻き込もうとするなら容赦はしないよ?
そう思って成り行きを見守っていると、田嶋に従って床に正座したリリの前にその凶悪な皿を置いた。
「待て……待て……よし!」
何がよしなのかな!? その子に食べさせる心算!?
「ハイ!」
って! 嬉しそうに食べ始めたよ! 大丈夫なの!?
吐きそうな顔とだらしなく緩んだ顔が混じった表情で見る見る皿の上のモノを平らげていく様子は……。
「見てる方も……気持ち……悪りぃ……」
いや、田嶋がやらせてるんだからね! 僕に被害が来る前にそのゲテモノを片付けてくれているんだから何も言わないけど!
とにかく、称号によって能力値の方向性が変わってくるみたいだから、残った高深の称号を解析してみよう。たしか、異世界人だったかな?
異世界人…勇者召喚に巻き込まれた者にランダムに与えられる称号で、無属の志精霊が糧となっている。
能力補正は……能力成長補正5倍のみだけど……
今の高深のレベルに相田のレベルが追い付いたら能力値には差が開くだろうって思ってたけど……レベルを上げれば上げる程高深は相田の能力値に追いついて追い越して行く……相田の称号に成長補正でもないと将来そうなる可能性が濃厚だね……多くの魔物と戦って経験値を得られるって意味では、高深が城を出たのは正解だったって事かな。
この称号に付いた能力なら、最低の能力値からここまで成長できるのは頷けるね。まぁでも、高深には教えない方が面白そうだから黙っていよう……なにより、無自覚な方が主人公っぽい。
「やっぱり、高深が主人公だよね……能力的に」
この勇者召喚で召喚されたのは称号に勇者って付いている相田で、同じ教室に居た僕たちは巻き込まれただけなのは称号が証明している。まぁ、相田の称号を解析して無いから絶対とは言えないけど……境遇や能力的には高深が主人公で間違いないよね……そうなると、魔王軍の方に高深を送り込まないと話しが進まないのかな?
異世界人を加えた戦線は押しているようだけど、それはクロトやシノブといった戦力が沈黙しているからなんだよね……本気の僕ならシノブは相手にできることは以前証明できているけど……リミッターすら外せていない相田たちじゃ、彼らが出て来た時点で撤退するのが一番安全だもんね……。
「よし! 全部食ったな、偉いぞリリ」
「次は江ノ塚に食わせてやろうと思ってたんだけどな……」
冗談じゃないよ……いくらステータスが上がるからって僕は食べないからね。
「まぁ、代わりにこれでも食っとくか? 上昇能力値は魔力、それと魔力の回復効果がある」
そう言って腰のポーチ? あ、魔法の鞄か……そこから取り出したのは瓶詰めの……。
「グミ?」
「おう、サイビーってバスケボールぐらいのサイズの蜂の魔物の巣を襲撃して取った蜂蜜で作ってある。あ、普通に蜂蜜も有るぞ、セインに何個か食われたけど……」
セインって誰か分からないけど、蜂蜜なら問題無いのかな?
「それって前の残り?」
エバーラルドの姫さんリミュールだったかが高深に対してさっきまでよりも砕けた口調で話しかける。
高深は魔王国以外の周辺三国を回って来たみたいだから知り合いなんだろうね、高深は多分主人公なんだから一国の姫と知り合ってても不思議じゃない、そして、高深がちゃっかりその姫を落としてても僕は不思議に思わない。だって、それでこその主人公だからね。
「いや、前のとは違うやつだな、前のやつはエバーラルドで相当使ったから補充したんだよ。よく考えたら蜂蜜なんて保存も利くし料理にも使える、この世界じゃ魔力まで回復するってことは、あって困る物じゃ無いんだよな」
「それ、教えたの冬子……」
「まぁ、そうなんだけどな……」
高深は伊勢のことも落としてるっぽいよね? でも、それは異世界に来る前からだったかな? 伊勢の態度は分かりやすいからね……高深は気付いてなかったけど、これも主人公って事でいいかな?
でもこうやって主人公っぽい所を上げていくと、高深が相田以上に勇者(笑)に思えて来るのは僕の僻みなんだろうか?
まぁいいや、僕は白山たちを破滅させられたらそれで良いんだから、僕に関係の無い所で好きにやると良いよ……だから、今後機会が有っても僕の方にゲテモノ料理は持って来ないでね。
高深の能力が成長した原因も分かったし、ゲテモノ料理もリリが全部片付けた。
普通に甘い蜂蜜グミを摘みながら会議は再開する……あぁ、ホントに魔力が回復するね、肉塊との戦闘で減り過ぎた魔力が瞑想している時のように回復していくのを感じる。解析を使いすぎて更に魔力を使って枯渇寸前だったからこれは有り難いね。
田嶋も口直し兼魔力回復として凄い勢いで食べている。
とりあえず、リミュール姫たちはシルバーブルと周辺三国の停戦を終えて同盟を結んだ後、部隊を再編して魔王軍との戦いに援軍として駆けつけてくれることになった。
僕たち残っている勇者、異世界人は希望者(捜索組みの奴等の中にも戦闘組みを手伝いに行きたいって奴が居るみたいだからね)を連れて先に魔王軍と戦っている皆の所へ向う事になった。
「江ノ塚は留守番な」
「え~……分かったよ、白山君の治療は任せて」
まだ僕を残そうとして来る田嶋に不敵な笑みを浮かべて返す。
「再起不能にする気満々じゃねぇか……治療なら捜索班に暁が居るから呼べば良いだろ?」
「澪を……ね……」
僕が白山をボロボロにした事に何か言われようと別に構わないけど……。白山が変に立ち直っても面倒……いや、何回でも潰せば良いかな。
「まぁ、良いか……」
城の方の厄介事(豚王)は片付いた事を捜索組みの人たちに知らせ、今は回復薬を飲んで自室で療養している筈の白山の所へ澪に向ってくれるようにと田嶋が手配する。
さてさて、どうなるかな……




