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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
二章 エバーラルド・冒険者の日々
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間章二章1話 聖剣の勇者(相田宗佑)

 俺たちが魔物との初戦闘を終えて暫く経った。皆で一斉に討伐に向かったのは最初の方だけで、今では戦闘組がそれそれ6人程に分かれてチームを組んで行動している。

 初戦闘で震えて武器を振るえなかった人や、やはり帰還組みで頑張ろうという人は城に残り帰還方法を探していてくれる。だから俺たちはもっと強くなって魔王を倒し周辺国とのいざこざも解決できるようにならないとな!


「相田、ドヤ顔してないで行くぞ~」


 今日も俺たちは魔物の討伐に向うんだけど、報告によるとその数が多い、その為俺たちのチームだけでなく今俺に呼びかけて来た田嶋君のチームと合同での討伐だ。

 田嶋君のチームは帰還組みにも所属しているどっちつかずだけど、彼が言うにはどちらの組にも所属して、両方の現状が分かっている者が橋渡し的なことをしないとそれぞれの組に亀裂が生まれるってことだ。

 俺たち異世界から召喚された勇者がちゃんと連携を取れるように頑張ってくれているんだ、教室では余り喋らない物静かな田嶋君だったけど、この世界に来てからの彼は本当に皆の事を考えて積極的に動いてくれている。

 そんな彼が居なくなった高深君のことを探さなくて良い放っておけって言うのにも何か訳が有るのだろう、俺は自分にそう言い聞かせて今自分の成すべき事を全力で頑張っている。


「ドヤ顔なんてしてないよ、田嶋君、みんなの準備は大丈夫?」

「ああ、いつでも出発できる」


 田嶋君の言葉が本当なのを証明するように準備を終えた皆がやってくる。

 その中で僕と同じチームなのは……。

 藤田(フジタ)明人(アキト)、小さい頃から共に居る俺の親友だ。突然呼び出された異世界だけど、明人が居てくれて本当に心強い、この世界に来て得た称号は異界の守護者(ガーディアン)俺と一緒に前に出てチームの皆を守る頼もしい奴だ。


 宇佐美(ウサミ)涼香(スズカ)、彼女との付き合いも結構長い、腰まで届くストレートの黒髪が良く似合うお穣様なんだけど家の方針で俺たちと一緒の小学校に通っていた、当時学校に馴染めてなかった彼女に声をかけて遊んだのは良い思い出だ、俺たちと遊んでいたせいか、この世界でも俺たちと一緒に戦闘組みに参加するぐらいアグレッシブに成長した。彼女の称号は異界の氷術士、戦闘向けの能力で頑張ってくれている。


 飯本(イイモト)(リン)、クラスいや、学園内でも人気の高い彼女は、本当は違うけど俺のことを好きだというポーズを周囲に見せることで知らない生徒からの告白やアタックを回避していた。この世界に来てからも彼女は良く男性に声をかけられる、それでポーズもやり直しということでよく俺たちと一緒に居る、その流れから一緒のチームになった。彼女の称号は異界の結界術士、戦闘には向かないかと思ったけど、結界で相手の動きを封じたり攻撃を防御したり色々工夫して頑張ってくれている。


 羽切(ハキリ)(ユイ)、元の世界でも剣術道場の娘で凄腕の剣士、こっちの世界でも称号は異界の侍、純和風美人な容姿も手伝い彼女にぴったりだ、そんな彼女とは元の世界で一度、この世界に来てから何度か手合わせをした事がある。元の世界では偶然勝てたけどこの世界での彼女は本来の能力と称号から来る特殊能力で物凄く強い、俺も称号の力でごり押しして何とか勝てることがある程度だ、それでも俺のことを認めてくれている彼女は戦場で背中を預けるのになんら不安の無い良き仲間だ。


 最後に田中(タナカ)瑠璃(ルリ)、口下手で恥かしがりやな彼女は元の世界に居た頃から俺たちと一緒に居る事が多く、周囲から俺のことが好きで付き纏っているんじゃないかと噂されることが多かった。でもそんな彼女を周囲の視線や理不尽な物言いから守っていたのは明人だ、彼女も明人に守られる事を悪く思っていないようで、多分明人の事が好きなんだと思う。そんな彼女の称号は異界の鑑定士、名前や詳細を知ることが出来るだけの戦闘には全く向かない能力だけど、魔物の弱点を見抜いて俺たちに知らせたりして頑張ってくれている。

 以上が俺たちのチームのメンバーだ。


「相田、ドヤ顔してないで行くぞ~」

「だから! ドヤ顔なんてしてないって!」

 

 さっきと全く同じ言い回しでからかって来る田嶋君のチームは基本田嶋君と伊勢(イセ)さん、美波(ミナミ)さんの3人だ、そこに捜索組みに回った人たちから何人か入ってくることが良くある、何でも捜索組みもいざという時身を守る為にLVアップが必要だそうだ。

 今日は他のメンバーは居ない俺たち6人と田嶋君たち3人の合計9人による討伐だ。


「じゃぁ、とっと行こう、ほれ、相田号令」

「うん、それじゃぁ皆行こう!」


 今回の討伐は城から大分離れた場所だ。西の方に十数日進むと、ずいぶんと荒れた森に到達する。


「何だこれ、戦闘の跡か?」


 その荒れ方は明人の言ったように魔物が暴れたものや魔法で付けられた物、様々だがここで激しい戦闘行為が有った事が窺える。


「俺たちが来る前に誰かが魔物の群れを片付けたって事か……高深か?」

「まだ、残ってるよ」


 田嶋君が呟いた言葉、最後の方は瑠璃ちゃんの言葉でかき消された。

 瑠璃ちゃんは周囲を解析して状況を調べてくれていた。瑠璃ちゃんの言葉に従って進んで行くと魔物の群れに行き当たった。


「相田! 藤田! 行くぞ!」


 真っ先に羽切さんが斬りかかって行った、俺と明人もそれに続くように駆け出す。


「やれやれ、先ずは俺と伊勢で気付かれない内に数を減らしてからだって言わなかったか?」


 ここ数日の行程で話し合っていたことをすっかり忘れている俺たちに、ため息を付きながら田嶋君が続く、ごめん田嶋君、でも羽切さんが飛び出しちゃったから仕方ないんだ。


「はぁああああ!」

「おらぁ!」


 俺たちに気付いた魔物がどんどん押し寄せてくるけど俺たちは次々と倒していく。でも……。


「数……多い!」

「伊勢、無理すんな~俺らは飛び道具も有るんだ確実にいけ~」


 いつの間にか魔物の背後に忍び寄り短刀で切り刻む伊勢さん、田嶋君も瑠璃ちゃんが見た弱点を背後から確実に一突きして魔物を仕留めている。そして今伊勢さんは捜索組みの中で異界の鍛冶師の称号を持つ星月(ホシヅキ)君の作った手裏剣を懐から取り出して投げ出した。

 俺、明人、羽切さんはアタッカー、前に出て皆を守る、田嶋君、伊勢さんは遊撃で敵の数を減らしてくれる、瑠璃ちゃんが魔物の詳細を調べ戦いやすくしてくれる、飯本さんの結界が良いタイミングで敵の動きを止めたり俺たちを守ったりしてくれるから、今の所俺たち全員に怪我は無いそれでも敵はどんどん増えて来る、いったい何処にこれだけの数が居たんだろう? 宇佐美さんと美波さんが術で一気に魔物の数を減らしてくれるけどその倒した魔物の居た場所も直に他の魔物が押し寄せてくる。


「相田! これやばくないか!」


 田嶋君の言う通りだ、俺たちは魔物に押されてる訳じゃない、怪我もしていないだけど魔物の数が今まで戦って来た魔物の群れの非じゃない、このままじゃ俺たちの体力や魔力が尽きる方が魔物を殲滅するよりも早い……


「宗佑! これは体力のある内に一旦撤退した方が良い、俺が殿になるから皆を連れて一旦引け!」


 明人が撤退の判断を促してくる、でも明人を殿にするなら俺が! それにこの魔物を放置しては行けない!


「相田! 迷ってんな! 魔物は何回かに分けて倒せばいいし、藤田なら能力でそう簡単には傷付かない、大丈夫だ! ただ一番後ろを走るってだけだ! 飯本! 結界で出来るだけ多くの魔物の動きを止めてくれ! その間に引くぞ! いいな相田!」


 迷ってる俺に田嶋君ができるだけ安全な撤退方法を示してくれる。ありがとう頼らせてもらうよ。


「分かった! 一旦撤退しよう、飯本さんお願い!」

「うん!」


 飯本さんが俺たちの前に広範囲の結界を張る、それを合図に俺たちは……。


「え? 向こうに誰か居る!」


 駆け出そうとした俺は結界の向こうに誰か居る事に気付いてしまう、男の人だ、彼は魔物の中を剣一本で悠々と歩いている、彼に群がった魔物は等しく斬り裂かれ散って行く……。


「強い……」


 俺の隣で明人が呟く、って!


「明人! 逃げてなかったの!?」

「お前が作戦無視して殿やりそうだったからな、それぐらい想像付く」

「でもこれは予想外、強いなあの人、魔物たちが俺らのことを追うのを忘れてあの男に群がって行ってる……」


 田嶋君まで……。


「あ~他の奴らは伊勢が引っ張って行ったから大丈夫だ」


 俺たちは呆然として結界の向こうで無双する男の人の戦いを見詰め続ける。


「ん? 何だ君ら……」


 そうしている内に結界の向こうの男の人が俺たちに気付いた。


「これは……結界? 特異能力か? いや、こんな事ができる奴って……なるほど、魔物の大量発生の原因はそれか……まぁこっちは都合が良かったから良いけど……あれにも都合がいいんだよな、ったく面倒な……」


 男は何かブツブツ言っていたかと思うと直に俺たちに背中を向け再び魔物たちに向って行こうとする。


「こいつらは俺が貰う、勇者ごっこがしたいなら他の所に行くんだな……」


 そう言い捨てると、男は怒涛の勢いで魔物たちを殲滅しだした。


「勇者ごっこ? あいつ、俺らの事を知っているのか?」

「ねぇだろ、俺らの事は出来るだけ外に漏れないようにしているらしいからな、俺も面倒事に巻き込まれるのは御免だから、多少工作して情報が広がらないようにしてるからな……」


 明人と田嶋君の声が何故か遠い……。

 勇者ごっこ? 違う、俺たちは勇者として召喚された。この世界で戦う力だって得た……。

 確かに、この世界を楽しんでいるクラスメイトも居るけど、俺たちは世界を守ろうって、そして元の世界に帰ろうって……それぞれの方法で必死に戦っている。

 だから、勇者ごっこじゃない、少なくともここに居る俺たちは違うと信じてる、だから、人任せじゃない、俺が、俺が勇者として皆を守る!


「相田、そろそろ飯本が離れ過ぎて結界が解ける、俺たちも退却するぞ」

「うん、明人と田嶋君は先に逃げて、俺は彼を手伝ってから行く……」


 彼を手伝う? そんなんじゃない、言葉では取り繕おうとも、俺は勇者ごっこと言われて悔しかっただけだ。彼の獲物である魔物の群れを、俺が殲滅する!


「あ! 宗佑待て!」


 結界が解けた瞬間に俺は彼が魔物を殲滅している方とは反対側の魔物の群れに向って突っ込んでいった。


「うおおおおおおおお!!」


 とにかく早く! 能力値のおかげか、俺の攻撃は当たれば必殺だ。だからとにかく多くの魔物に攻撃を当てて数を減らしていく、敵の中に突っ込んで横薙ぎに一回転、周囲の敵は吹き飛び代わりに周りの魔物が寄って来る。


「はああああああ!」


 魔物を薙ぎ払いながら突っ込み横薙ぎに一回転、周囲に味方が居ないからこそ出来る手だけどまだ足りない、俺とは反対側の魔物を殲滅している彼は時折魔法のような物を使い俺よりも効率よく魔物を倒していく。

 どうすれば良い、やっぱり剣じゃ攻撃できる範囲が限られていてどんどん迫って来る魔物の対処に追いつかない、国に支給してもらった上等な剣だけどこれじゃ駄目だ、なにか、何か無いのか!

 いや、有る……俺の持つ特殊能力は聖剣の加護、なら聖剣が有るじゃないか!

 周囲の魔物を薙ぎ払った後、今持つ剣を鞘に収め集中する。


「宗佑! 無茶するんじゃない!」


 俺が鞘に剣を収めた為できてしまった隙を付いて飛び掛って来た魔物を、追いかけて来てくれた明人が弾き飛ばす。ごめん、ありがとう。

 でも分かる、俺には聖剣を呼ぶ力が有るんだ!


「聖剣召喚!」


 俺の手から光が溢れる。その光は魔物たちを怯ませ光が形を成すまでの時間を稼ぐ。


「おいおい、覚醒するのかよ……さすが相田としか言えねぇが、なんか釈然としないな」


 田嶋君も追いかけて来てくれたんだ……俺が皆を守るなんて考えていたけど、明人や田嶋君、他にも沢山の人に俺自身が守られている……それに報いる為にもこの力は必要だ。


『やっと呼んでくれた』


 幼い少女の声と共に、頭の中にこの聖剣の使い方が流れてくる。

 少女の声は気になるけど、今は……見せてやる、これが俺の得た勇者の力だ!


『うん、使って、私はこの時を待ってたの』


 聖剣を大上段に構える、聖剣が光を纏い徐々に輝きを増していく。

 聖剣の光が周囲に満ちた瞬間、俺は聖剣を思いっきり振り抜いた。


「『シャイニングブレイド』」


 頭に響く少女の声と俺の声が重なり聖剣から極大の光の斬撃が放たれる。

 それは前方に居る魔物を消し飛ばしながら遥か彼方まで突き抜けて行った。


「うおおおおおお!」


 この聖剣ならいける、俺は明人と田嶋君と協力し周囲の魔物の殲滅にかかった。









「はぁ、はぁ、はぁ、これで、最後!」


 明人や田嶋君、それに聖剣の力も有って俺たちは魔物たちを殲滅する事に成功していた。

 本来9人で挑んだ魔物の群れに、かなりの実力を持った男の助力が有ったとは言え、3人で終わらせたんだ、これが聖剣の力だって自信を持っても良いのかな?


「は~やっと片付いた~ 相田! お前勝手な行動するなよ! 偶々強力な力に目覚めたから結果的に良かっただけで、もしかしたら死んでたかもしれないんだぞ!」

「まぁまぁ、こうして無事だった訳だし、宗佑も反省してるだろ?」


 本気で怒っている田嶋君を明人が宥めてくれている。


「ごめん、俺、勇者ごっこなんて言われて焦ってた……」


 聖剣を送還して田嶋君に謝る。いつもみんなのことを心配して、こうして本気で怒ってくれる田嶋君が、称号で本物の勇者と呼ばれている俺なんかじゃなく、本物の勇者であるべきなのかも知れない。


「はぁ、今度からはもっと慎重に行動してくれよ、俺はこんなとこで死にたくないからな」

「そう言えば、勇者ごっこって言ったあの男は何処に行った?」


 確かに、俺たちとは反対側の魔物を殲滅していた彼の姿が、戦いの途中から確認できなくなっていた。反対側の魔物は殲滅されているし、その辺の様子を見る限りでは彼がやられてしまったと言う事は無さそうだ。何も言わずに立ち去ってしまったのだろうか?


「まぁ居ないもんを考えても仕方ない、早く戻って先に退却した奴らを安心させてやろうぜ」

「そうだね、うん、戻ろう!」


 俺たちは3人揃って心配して待っていた皆の所へ無事に戻る事ができた。

 俺は今回、新たな力を行使することができるようになった。切欠は唯悔しいって思いからだったけど、本気で皆を守りたいと思うなら力だけじゃ駄目な事も分かった。俺が先頭に立って戦うのは当たり前としても、田嶋君のようにもっと周りに目を向けて皆の事を助けていかないと……きっと俺はまた悔しい思いをする事になる。

 まだ高校生の俺は人として未熟、そんな俺が勇者として皆を助けたいと本気で思うなら、もっと頑張らないといけない……。

 決意を新に俺は皆と城への帰路に着く。


 今の俺は俺たちを勇者ごっこと言った彼に勝てるだろうか? そんなことにこだわってても良い事なんか無いと思うけど、どうしてもあの時の悔しさは忘れられそうに無い。でも、この悔しさを糧に俺は本物の勇者になろう、そして皆で元の世界に帰るんだ!

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