間章二章2話 クズの集団(江ノ塚航)
僕、江ノ塚航はこの世界に来れて良かったと思っていた。召喚されて力を得て、勇者として活躍するそんな自分の姿を期待してしまうのは、僕がオタクと呼ばれる人種である以上仕方が無い事だった。
でも、僕の周りは元の世界と何も変わっていなかった。
「江ノ塚、ちょっと食堂行って水貰って来てくれよ、全員分な、おら! ダッシュ!」
城での訓練中も、本来僕は術士系で申告しているにも関わらずに剣士系の訓練に無理矢理付き合わされ、こうして体よくぱしらされる。抵抗すれば数の暴力が始まる……元の世界に居た時となにも変わらない。
僕だけが召喚されれば良かったんだ、それがクラス全員纏めて召喚されるから、せっかくの異世界なのに元の世界に居た時と何も変わらない……。
僕も高深君の様に1人で城を抜け出そうか、そうすればこの煩わしさから開放される……いや、でもここは僕が強くなるのに一番適した場所だ。この辛さに耐えて行けば何時かきっと……。
「だから! 今仲間の足を引っ張っている場合じゃないだろう!」
水を貰い訓練所に戻って来ると相田の大声が聞こえて来た。相田が怒鳴りつけているのは……白山一久、僕に水を取って来いと命令したクズだ。
「あんな幸鷹の下位互換な能力しか持ってないような奴、戦わせるより、こうして使ってやった方がよっぽど役に立つだろう」
「それでも! 白山君のやってる事は間違ってる!」
その相田の言葉を皮切りに周囲の女子から白山に「サイテー」や「クズ」など、心無い言葉と共に冷たい目が向けられる。
何これ面白い、でも止めてくれないかな、どうせこの後溜まった鬱憤は全部僕に来るんだ。この場では相田の正義感が満たされるかも知れないけど、後で僕が酷い目に会うって分からないんだろうね、これだから元々恵まれている奴は嫌なんだ、当然白山たちの方がクズだと思うけど、相田みたいに最後まで助けるつもりも無く、この場だけで助けた心算になってる偽善者も大嫌いだ。
「チッ」
やばい、バツの悪くなった白山たちが相田や周囲の視線から逃げる為にこっちに来る、今会っても碌な事にならないので隠れよう……。
ハイドハイドハイド! 物陰に隠れて白山たちが通り過ぎるのを見送る。
「ふう、行ったか……」
まぁ、剣士系の訓練に参加するのも悪い事ばかりじゃない、剣士系のクラスメイトの訓練を見るのも僕が強く成るのに役に立ってるからな……。
「あれ? 白山くんたちは……」
白山たちが居なくなって暫くしてから、僕は何も知りませんといった顔で訓練所に戻った。白山たちの事なんか忘れたように訓練に励むみんなの中から相田が出て来て僕に話しかける。
白山たちは何処かに行ったから僕は術士系の訓練に戻ったらって……はぁ、あっちにも白山たちと一緒に僕を虐めている奴が居るのに……やっぱり相田も嫌いだ……。
「うん、そうするよ……」
持って来た水は皆で飲んでくれと相田に渡し僕は術士系の訓練所に向う、例え寺坂や吉本や赤井にちょっかいをかけられようとも、僕が強くなるには術士系の訓練所に居る方が都合が良い。
飯本の結界、中原の土術、宇佐美の氷術、佐藤や暁の回復、様々な能力が訓練所内で試されている、そして寺坂は僕が申請している火術の上位炎術、吉本が妨害術、赤井は闇術……赤い闇、ぷ、笑える……。
ただ、美波の精霊術は良く分からない、周りの精霊の協力が必要なようだけど、田中の解析で調べても良く分からなかった。
「なんだ江ノ塚、こっちに来たのかよ」
早速僕に気付いた寺坂たちが寄って来た、鬱陶しい事この上ない……。
「丁度良い、お前ちょっと術使ってみろよ、お前じゃたいしたこと無いだろうから全力な」
「え、う、うん、分かったよ」
寺坂に言われるままに手を翳し火術で軽く火を灯す。詠唱が必要ないのが勇者の能力の利点だ。当然だが込める魔力はおもいっきり抑えている。
「ぶは、それで全力かよ。まぁいい、吉本いいぞ」
「お前マジしょぼいよな、練習には丁度良いけどよ……よし、アンチマジックフィールド!」
え? 吉本、コイツ今術名をドヤ顔で叫んだぞ……。
吉本の術を受けて僕の出した火は半分以下の大きさにまで弱まった。殆ど消えている状態だ。
そんなことよりも、吉本の奴この程度の術なら何も言わずに発動できる筈なのに自慢げに術名を詠むって、勇者の利点を殺してどうするんだよ……。確かに勇者でも詠唱や術発動の為に術名を詠む必要が有る物も有るけど、この程度の術で術名を詠むって……所詮はクズか。
僕が魔力をおもいっきり抑えて出した火を殆ど消してしまっている事で自慢げにしている顔が不快で滑稽だ。
「それじゃ……」
パチンと指を鳴らす音、同時に魔術の効果が弱まる状態にある場所で消えかけている僕の出した火を、濃厚な闇が覆い消し去る。
こっちは赤井だな、当然赤井の操った闇も吉本の術で弱まっているようだけど僕よりも多大に魔力を込めて気にならなくさせているようだ、コイツもコイツで指を鳴らして術の発動の合図にするとか……はぁ、コイツらこの世界を楽しんでるよなぁ、僕になんて構わないで勝手に楽しんでいればいいのに……。
「まぁ、お前じゃこの程度だよな、たいした練習になりもしねぇや」
「でももう少し付き合ってもらうぜ、アタックカース! ディフェンスカース! スピードカース! マジックカース! マインドカース!」
吉本が僕に次々と能力低下魔術をかける、身体がだるく動きにくくなるのを自覚するが、今僕が何かする訳にはいかない。余計な事をしてコイツらの機嫌を損ねると今よりも面倒な事になる。
術の効果を確かめると称して軽く殴る蹴るされたが、無抵抗で居るとすぐに飽きたのか自分たちの訓練に戻った。まぁ所詮は術士系の勇者のステータスだ、僕の方を術で弱体化しようとも、軽く暴行されるぐらいなら耐えられる、僕には何故か被虐耐性なんて能力が有るからね、最初の時に意図的に一部の能力を申告はしていないけど……。あんな豚や腹黒ビッチに利用されるのは御免だ、僕は僕の力を僕の為に使う。
痛みで動けないポーズをとりながら訓練中の皆を観察する、訓練とは言え、自身の能力を把握する為に皆遠慮無く能力を使ってくれるから、僕も皆の実力が測れて有り難い。
「江ノ塚君、余裕そうね」
少し離れた位置から朝霧が声をかけて来た。
コイツこの言い、僕が被虐耐性のスキルを隠して演技してるのに気付いているのか?
「この世界に来て不安や期待で変わっちゃってる子も居るから、余りクラスメイト同士で争って欲しくないんだけど、江ノ塚君は……」
無理そうね、聞こえるか聞こえないかの声でそう言って朝霧は去って行った。アイツ何しに来たんだ?
クラスメイト同士の争いなんて、無くなる訳がないだろう、僕を虐めるクズ共しかり、相田の取り巻きの女共だって、相田が居るから表面上は仲良くしているが、裏では相当性質悪いぞ。そう言うものは世界が変わったって変わるもんじゃない、某アニメの映画版みたいに急に良い奴になるクズは現実には居ない。
僕は僕で強くなる努力を続ける、そして……僕の世界は僕が変える……。
帰還方法捜索組を、帰還組、探索組と表現していますが一緒です。
統一できてませんでした。
人によって、気分によって言い方が違うという事にしておいて下さい。




