二章12話 帰還
蒼也がオークの変異種と戦っている頃、冒険者ラクストはドラグレッド山脈を目指し、街を出る前に借り受けた馬をひたすら駆っていた。
遠目にだが、オークの変異種が山肌に開いた穴に入って行ったのを確認していたラクストは、道中遭遇する魔物を長年愛用する魔槍で瞬殺して馬を全速力で走らせ突き進む。
「リミュール様! どうかご無事で!」
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「リミューーーーーーーーーー!」
「ちょっと! フリード様、落ち着いてください!」
エバーラルドの王子フリード率いる兵士隊と冒険者協会の会長ラルフに召集された冒険者の討伐隊は、先行した冒険者ラクストの残した目印を辿りドラグレッド山脈を可能な限りの全速力で目指して進んでいた。
そんな中、リミュールを溺愛するフリードがどうしても暴走しがちだ。
冒険者として活動ができなくなる程の怪我を負って冒険者を辞め会長の任に就いたラルフも、フリードを抑える為に討伐隊に同行していた。
「リミューーーーーーーーーー!」
ラルフの奮闘虚しく、討伐隊からはずっとフリードの叫び声が響いていた。
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折れた……田嶋から餞別として貰い、今まで愛用して来た剣が見事なまでに折れ砕けた。
どうしてだ、武器の限界以上の魔力なんて込めていないのに……。
『それ量産品の剣だろ? コイツの羽ぶった斬って、少しの間でも原形留めてただけ優秀なんじゃねぇの?』
武器としての限界か……思えば魔物に向って投げたり、大量の魔物の群れを相手に戦ったり、極めつけは竜豚との戦闘だ、今まで結構無茶な使い方してきたよな……。
「BUGO?」
「大丈夫だ、まだ予備の剣が1本だけ有る、これで魔法剣を使い過ぎなければ……街までぐらい大丈夫だ……多分」
ここがドラゴンの住む場所の真っ只中で投擲用の剣も使いきってるのが問題なんだよな、壁に刺さった剣も回収不可能そうだし、はちみつグミを与えてはいるがリミュールの魔力もまだまだ回復していない、本当に街まで戻れるか?
「とりあえず、リミュールの魔力がもう少し回復してからだな」
「むぐむぐ……っくん、そうね……ところで、そのポーチの中に飲み物は無いの?」
ひたすらグミを食うだけなのはきつかったか? 飲み物って言っても水ぐらいしかないぞ。
「それでいいわ」
ポーチからコップを出し、同じく取り出した水を注いでリミュールに差し出す。
ついでに自分の分も……。
「それ全部食って、全快まで回復しそうか?」
「全部って……そんなに入らないわ」
あー、そう言えば飯食ってすぐに攫われてこんな事になったんだったな……。ここに居る分には危険は無さそうだしのんびりしていくか。
「無理しない程度に食っとけ~」
「太らない程度にね……」
今日はかなり運動してるから大丈夫だろう、まぁ、女の子だし体重気にするのは分からなくも無い……。
「BUUUU~」
ん? 入り口の方からオークが1匹慌てた様子で入って来た。
『あん? てめぇ呼んでもねぇのに、なに俺らの領域に踏み込んでんだぁ!』
「BUBUUUU~」
チンピラドラゴンに怯えながらもなにか伝えようとするオーク、あのチンピラにすごまれても意見するオーク、根性有るな……それとも、チンピラなんて気にしていられない位の緊急事態か?
「BUGOU」
え? 人間が攻め込んで来た?
「それって、リミュールの救出に来たんじゃないか?」
「BUGO!?」
そう、竜豚……お前のせいだ。
『チッ、しゃあねぇ……ちょっと行って来るわ……』
人の姿をとったチンピラがオークと共に出て行こうとする。
「ちょっと! 殺さないわよね!?」
「あ~お嬢ちゃんの救援なんだって? だったら面倒くせぇけどここまで連れて来るだけだ。お嬢ちゃんは、もうちょい休んでな」
ドラゴンの圧倒的力が人間に向けられる訳ではないと知り、ホッと胸を撫で下ろす。さっきの会話を聞く限りじゃ、リミュールは過去のようにもう一度ドラゴンと友好的な関係を築き、エバーラルドに竜騎士を復活させたいみたいだからな、ここで関係が拗れるような事にならないようで安心したんだろう。もともと竜豚が原因なんだから問題ないと思うんだがな、あのチンピラ態度や言葉は悪いけど結構良い奴みたいだしな。
「BUGO……」
「気にすんな、もう終わった事だ……謝るなら俺の方もだしな」
申し訳無さそうにする竜豚に気にするなと声をかける、俺もコイツに不意打ちで致命傷を負わせているから、あまり偉そうに言えない。
「BUGOBUGO」
「お前も気にすんなって? そうだな、お互い様って事にしとくか」
逆に俺が竜豚にはげまされるって……笑えてくるな。
「いつの間にか普通に会話してるわね……」
「うげ、ホントだ……」
なんでか竜豚の言ってる事がなんとなく理解できる、これもチンピラドラゴンの肉喰った影響か?
「そりゃ、殺したドラゴンじゃなく、生きてるドラゴンの肉を喰らったんだからな、色々と違ってくるぁ、ドラゴンってのは人間なんなにゃ計り知れるもんじゃねぇんだからなぁ」
チンピラが戻ってきたが……その、猫みたいに襟首を捕まえて引きずって来ている冒険者らしき男を離してやれ。もう暴れるのも諦め、光を失った目でなすがままに引きずられている男が憐れだ。
放り投げるようにして冒険者の男を解放するチンピラは、そんなことは全く気にもせず元の姿に戻って花畑の奥、元々自分が居た場所に戻った。チンピラドラゴンが戻る前、花畑の奥に墓標のような物が見えたけど……あれって竜豚の母親オークの物か? チンピラも死んだ妻の喪に服してるって言ってたし、多分そうだな。どういった経緯かは全く興味は無いが、死んだ後も妻の眠る場所を守り続ける、チンピラは本気でそのオークを愛していたようだ。まぁ、どうでもいいけどな……。
「リミュール様! 無事でしたか!?」
正気を取り戻した冒険者がガバッと起き上がりリミュールに駆け寄る。
そして、苦笑しながら無事を伝えるリミュールから俺に視線が移される。
「あれ? お前は……」
「やっぱり、リミュールしか認識されてなかったか……俺もリミュールと一緒にここまで連れて来られたんだよ、一応冒険者だ」
無理してくっついて来たって言う方が正しいけどな。
「そ、そうなのか。じゃあお前がリミュール様を守ってくれてんだな」
「まぁ、その辺は話し合いで何とかなった……」
そう言うことにしておこう、リミュールに目を向けると俺の考えを読み取ってくれてようで話を合わせてくれた。しかし、この巣の戦闘の跡を見ていながら信じるって凄いよな、リミュールが話を合わせてくれたおかげなんだろうけど……。
「それじゃあ戻りますか? 俺が護衛しますよ」
それはありがたい、実はもう戦う余裕なんて殆ど無かったんだよな、武器も予備の剣1本しかないし。
「お願いします。
それではドラゴンさん、私たちはこれで失礼しますね」
『おう、さっきも言ったようにオーク共は大人しくさせておいてやるぁ、適当に帰れ』
「BUGOO~~~」
チンピラドラゴン、竜豚、沢山のオークに見送られ、俺たちはドラゴンの巣を後にした。
冒険者の乗って来た馬上にはリミュール、俺と冒険者は徒歩で街に向かって進む、道は冒険者がドラゴンの巣に来るまでに残して来た目印を辿っているから問題ない。
「はっ!」
道中襲ってきた魔物は冒険者がなんか凄そうな槍で一薙ぎに片付ける。
あの槍なら魔法剣も余裕で使えるだろうな、俺が使う武器としては槍だと投げちゃいそうで心配だけど……。
はぁ、でも田嶋に貰った剣、折れちゃったんだよなぁ……長く使っているしシルバーブルの城を抜け出す時に貰った餞別だから愛着有ったんだけど、まぁ今まで良く頑張ってくれたよな。
「リミューーーーー!」
暫く行くと前方から凄い勢いでフリードが駆けて来る。その後方に兵士や冒険者の集団がフリードを追いかけて駆けて来るんだけど、全く追いつけないでいる、お、フリードが跳び出して来た魔物を跳ね飛ばした、シスコン恐るべしか……。
「リミューうぶぅ!」
そのまま馬上のリミュールに飛び付きそうなフリードの顔面を掴んで止める。
「お前、フリード様になんて事を……」
「構いませんよ、兄にはそれぐらいの対応で丁度良いのです」
やっぱりリミュールのフリードに対する扱い酷いな……こんな状況だったから仕方ないかも知れないけど、つい昨日与えた罰、リミュールに暫く近付くなってのを速攻破ってるんだから手に力を込めておこう。
「あ゛ああああああ! ちょっと、ソウヤ君! 止め……あああああ!」
アイアンクローを受けて悶える、もう少し大人しくなったら解放してやろう。
「本当にいいんですか!?」
「大丈夫です。ねぇ兄様?」
「全然大丈夫だよリミュ! あああああだだだだ!」
大丈夫だって言うので更に力を込める。
「ごめん、ソウヤ君、もう無理、本当赦して!」
知らん、イケメンは潰れろ。
「ソウヤ君、その辺で止めておいてくれるかな、それでもうちの王子なんだ、不敬罪とかになるかも……」
「構いませんよ、でもそうしているといつまでも帰れませんね、ソウヤさんその辺で……」
追いついて来たラルフやリミュールに言われ俺は漸くフリードを解放した。
てか、リミュールの猫かぶりがなんか違和感有り過ぎる、出会ってすぐはこの口調だったのにな。
「とにかく無事でよかったよ、ラクスト、良くやってくれたね」
ラルフがリミュールの無事を確認して冒険者を労う。
俺たちは攫われてからの経緯を説明しながら街に戻る。
フリードが兵士を率いてドラゴンの巣に攻撃を仕掛けようと暴走しかけたが、再度アイアンクローで黙らせる、もっとも、今回フリードが率いていた兵士たちはシルバーブルとの戦場に連れて行かれなかった新兵や訳有りが大半だったので、尻込みしてフリードに続こうとしなかったから簡単に止められた。
「あだだだだ、ああああああーーーーー!」
フリードの叫び声をBGMにして街まで戻る、今度は誰もフリードを助けなかった。




