scene.5 魔法の豆を植えてみる
「アンナさん、ここまで着いたけど、ここから本当に空の大陸に行けるんだよね?」
僕は改めて質問をする。デンマークからノルウエーだからそんなに大変な旅をしたわけじゃない。エジプト遠征を行ったナポレオンからすればちょろい距離だ。だが、船に乗ったり、馬車を借りたりと、労力を掛けて来たのは間違いない。無駄足は納得しがたいものがある。例え本気で信じられていないにしても……。
「ああ、安心しな、行けるよ、この魔法の種があれば、空の大陸に……」
アンナはリュックから取り出した箱から卵程の大きさの豆を取り出しながら自信満々に答える。
その豆は、緑とか茶色とかではなく不思議な玉虫色をしていた。
「こ、これが魔法の豆なのか……」
妙に納得してしまう不思議さがあった。
「さてと……」
アンナはその豆を岩の窪地に置いた。
「ハンス、準備は良いかい、蔦というか木が伸び始めて、幹の太さが一メートル位になったら飛びつくんだ」
「はい? 飛びつく! そ、それ聞いてないよ!」
いきなり言われたハードな注文に僕は動揺せずにはいられない。
「ああ、言ってなかったね、ゴメン、ゴメン、流れとしては、ジャンプして樹に抱き着くんだよ!」
「へっ、ジャンプ? いや、無理、無理、無理、無理、無理! そんなの絶対無理だよ! 出来ないよ!」
ジャンプして抱き着くだなんて話は、今初めて聞いたぞ!
「仕方が無い奴だね、じゃあ、あたしが後ろから突き飛ばしてあげるから、頑張って樹にしがみ付いてごらん」
「へっ、僕、突き飛ばされるの?」
「そうなったら、もうしがみ付くしかないだろ?」
なんて強引な強制なんだ。
「………………ガチでか」
突き飛ばされて樹に抱き付くなんて芸当を本当に出来るのか僕は?
アンナは豆の上に軽く土を盛る。そして水筒の水をそこに掛けていく。僕の心の準備など全く関係がないが如くだ。
「ハンス、良いかい、一旦、10メートル位離れるよ!」
「……あ、ああ」
アンナと僕は10メートル程後ずさり、豆を置いた窪地を見詰める。
突然、豆を置いた窪地辺りから、緑色の芽がグニグニと盛り上がり出した。植物である筈なのだが、まるで太い緑色の蛇がうねるかのように螺旋を描きながら上へ上へと伸びていく。
最初は2~30センチ位の太さだったものが、段々と太くなり5~60センチ、7~80センチへと変わっていく、それに伴い細い蔦や葉も生えていく。
そして、太い緑の新芽がどんどん天空に向かって伸びていくのだ。
「うおおおおおおおっ、うおおおおおおおっ! 何だこれ、ヤバいよ、アンナさん、僕、こんなの今まで見た事がないよ!」
僕は驚きの声を上げずにはいられない。
「それはそうさね、魔法の豆だ。あたしたちは今魔法現象を見ているんだからね!」
螺旋を描く新芽の太さが1メートル程に近づき、僕達の眼前近くまでその影響を及ぼし始めていた。
「よし、ハンス! 今だ! 行け! しがみ付け! そらっ!」
どんと僕は背中を突き出された。
「えっ、おわあああああああああああああああああっ!」
僕は突き飛ばされ慌てて太い芽にしがみ付く。本気で必死にだ!
「よし、あたしも!」
僕がしがみ付いてからすぐ後にアンナも飛びついた。婆さんとは思えないぐらい身が軽い。僕の三メートル下辺りに取り付いた。
そのまま芽はどんどん伸びて行った。それに伴い僕らはどんどん上空へと運ばれていく。眼下にはスカンジナビア山脈の山容が俯瞰出来てくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ、やばい! ヤバいよ!」
僕の口からはそんな陳腐な感想しか出てこない。正直、凄い景観だとか、凄い現象だとかの感動とか驚きよりも蔦の上空に伸びるスピードと迫力にビビッてしまっての声だ。
雲を突き抜けしばらく進むと、発芽の伸びが緩やかになってきた。それに伴い眼前には上空の太陽の光照らされキラキラと輝く巨大な大地が広がっているのが見えてきた。
「うわっ、す、凄い! 凄すぎるよ、こ、これが空の上の大陸。イルミンスール大陸なのか……」
僕の口からはそんな陳腐な感想しか出てこない。だって初めての体験だ。どう表現して良いのかもよく解らない。
「ああ、そうさね、ここが且つてあたしが来たことがある人魚や魔法使いが住む不思議な世界、イルミンスール大陸だよ、別名ネバーランドともいう場所なのさ!」
アンナが下から僕を見上げながらドヤ顔で言ってくる。ほら本当にあっただろ! と言わんばかりの表情だ。
僕はとうとうイルミンスール大陸へと到達したのだった。
半信半疑だったが、空の上の大陸は本当にあったんだ。




