第7話 渋谷さんと一緒なら行ってもいいかな
子どもの頃から、好きなものを答えることに苦労していた。
友だちとの会話の中で「二宮さんの好きなものってなに?」と聞かれることが何度もあったけど、そのたびに答えは違っていた。
このドラマが好きとかこの音楽が好きみたいな、たまたま目にしたものを自分が好きなものとして友だちに教えていた。
だからこそ、日曜日に出かける場所を決めることが思いのほか難しかった。
「寺島さんってもし出かけるってなったらどこ行きたい?」
ざわつく昼休み、一緒にご飯を食べていた女の子に尋ねてみることにした。
ミニトマトを口に放り込んでから、物珍しそうにこちらを見てくる。
「もしかして、いま二宮に誘われてる?」
「ちがうちがう。普通に雑談で聞いてみただけ」
寺島さんと週末に出かけたことはあるけど、今のところ出かける予定はない。
渋谷さんと出かける場所を考える手助けになればと思って聞いてみたのだ。
行きたい場所はあるのか聞いてみると、寺島さんはお箸を弁当の縁に置いた。
「まあ気になる作品があるんだったら、映画館に行くかもね」
もし用がなかったら家で過ごすのが一番だと思うけど、と付け加える。
「ていうか、なんでいきなりそんな話出してきたの?」
二宮が出かける話するとか珍しくない? と質問を返されてしまった。
私と渋谷さんの関係はそれほど公にしていない。
付き合ってた話もしてないし、別れたことも誰も知らない。
「週末に友だちと出かけようって話になってて、どこに行こうかなって」
「へーそうなんだ」
少し濁して答えたけれど「その友だちって誰なの」と聞かれることはなかった。
私と寺島さんは干渉しすぎない関係だから、踏み込んだ話をすることは少ない。
だから私が誰かと出かけるとしても、特に気にしないのだろう。
「もし出かけるならどこが良いと思う?」
「スポーツとかできる場所とかあるじゃん、あそことかよさそう」
高校生はあそこ行くもんでしょ、と偏見混じりのアドバイスを授けてくれた。
私も行きたいかと聞かれるとちょっと違うけど、選択肢には入れておこう。
その後は寺島さんと一緒に買った漫画の話を聞いて時間をつぶした。
そして午後の授業も流れるように過ぎていき、あっという間に放課後になった。
いつも渋谷さんと帰るわけではないので、さっさと荷物をまとめて席を立つ。
教室の入り口に向かう傍ら、ちらと渋谷さんたちのグループを見ると、一番明るい女の子が寺島さんの好きな漫画の話をしてて、渋谷さんは相槌を打っていた。
あの漫画って意外と流行ってるんだなと思いつつ教室を出て帰路に就く。
自室に入り宿題を終えてから、週末に出かける場所をもう一度調べてみた。
検索履歴は『高校生 おでかけ』みたいな単語でいっぱいで、少し恥ずかしい。
申し訳程度に三個ほど履歴を消してから、おすすめの場所を検索してみる。
いくつか記事を斜め読みしていると、ある場所に目を引かれた。
好きな場所――というほどでもないし、一人ならたぶん行かない。
週末は家でのんびりしていたいという私の気持ちは思いのほか強い。
けれどその場所は、渋谷さんと一緒なら行ってもいいかなと思える場所だった。
直通のバスもあるし、それほど移動に時間もかからない。
渋谷さんも一度は訪れたことのあるだろうし、お互い気楽に行けるはずだ。
渋谷さんとのトーク画面を開き、フリックで入力する。
何度か読み直してから、送信ボタンをタップした。
しゅっ、と小さな音が部屋に響く。
私たちのやりとりの中に、『水族館に行こう』という短い言葉が残った。




