第6話 私とこういうことするの好き?
「さっきのゲーム、二宮さん絶対手抜いてたでしょ」
「ちょっと不調だっただけだよ」
「嘘だ。私の顔色見ながらゲームしてる感じしてたし」
そういうのじゃないじゃん、と渋谷さんは唇を尖らせる。
ゲームを数十分ほど楽しんでから、いつもの触れ合いの時間になった。
部屋に入ってから機嫌の悪い彼女を元気づけるために一勝だけ譲ってあげたのだけれど、逆にそれが良くなかったらしい。
「ごめんごめん」と謝って背中に手を回し、渋谷さんを抱きしめた。
「もうしないからさ、機嫌直してよ」
「なんか絆されてる感じしてやだ……」
そう不満を言いつつ、彼女も私の背中に手を回す。
あっという間に、私たちは抱き合う形になった。
いつもハグしていると、渋谷さんの体温や重さ、匂い、抱きしめるときの手の位置とか制服が擦れる音、呼吸のリズムみたいなものが染み込んでいる。
もし他の人とハグしたら、無意識に渋谷さんとの違いを探してしまうだろう。
もちろん、私にそんな相手はいないけれど。
「……渋谷さんってさ、他の人ともこういうことするの?」
「こういうことってハグとかってこと?」
「うん」
「こんながっつりする人いないよ」
そうなんだ、と呟いて彼女の髪を撫でる。
艶やかな髪は、私の指になめらかに吸いついた。
絡まることなく、さらさらと指の隙間を通っていく。
「……二宮さんもハグする人とかいないよね」
確認だけど、というニュアンスで渋谷さんが聞いてきた。
ほんの少しだけ、私を抱きしめる手に力がこもる。
「いないよ。私も仲いい人そんなにいないし」
「寺島さんはどうなの?」
「仲はいいけど、ハグするほどではないかな」
「……ふーん」
私の返答に満足したのか、渋谷さんの腕の力が少しだけ緩んだ。
私にも渋谷さんにもこんなことをするのはお互いだけ。
それはまるで両想いみたいに見えるけど、私たちの場合は状況が特殊だ。
――だって私たちはもうすでに別れたのだから。
まあ真面目に付き合ってたわけじゃなくて友だちの延長線上みたいな感じだったから、私としてはこういうことをすることにそれほど違和感はないけれど。
「……二宮さんは私とこういうことするの好き?」
そんなことを考えていると、渋谷さんの声でふっと意識が戻った。
「嫌いではないよ。リラックスできるし」
「でもそれって……いや、うん。そっか」
何か言い淀んでから、自分を納得させるように渋谷さんは言葉を零した。
腕をほどいてからすっと立ち上がり、渋谷さんは制服の乱れを整える。
私もなんとなく制服の乱れを整えていると、渋谷さんが口を開いた。
「私も二宮さんと出かけたいんだけど、どう?」
週末とか、と付け加えてきゅっと唇を結ぶ。
口ぶりから察するに、私が寺島さんと出かけたことを根に持っているらしい。
理解してもらえていたものだと思っていたのだけれど。
「どっちとも空いてるから、渋谷さんの都合がいい日でいいよ」
「じゃあ日曜日に行こっか」
いいね、と頷くと渋谷さんは軽く口角を上げてくれた。
「せっかくなら、二宮さんの行きたいとこに行きたいな」
「え、渋谷さんの行きたいとこに合わせるよ」
「それじゃダメだよ」
どこに行きたいかちゃんと考えてて、と鞄を掴んで、渋谷さんは部屋を出た。
しばらくして「おじゃましました」と声が響き、扉の開く音が耳に入る。
そして私の部屋は、あっという間に静かになってしまった。
「行きたいところねぇ……」
ため息を吐いてから腕を組む。
私は休日こそ家でのんびりしたいと考えているタイプだ。
だから正直に言うと行きたい場所なんてない。強いて言えば自宅だ。
でも『行きたいところ家だから、日曜日も家に来て』なんて言えないし……
どうしようかなと悩みつつ、ひとまずスマホで検索してみることにした。




